沢田研二 「夜の翼」
from『JULIEⅥ ある青春』、1973
1. 朝焼けへの道
2. 胸いっぱいの悲しみ
3. 二人の肖像
4. 居酒屋ブルース
5. 悲しき船乗り
6. 船はインドへ
7. 気になるお前
8. 夕映えの海
9. よみがえる愛
10. 夜の翼
11. ある青春
12. ララバイ・フォー・ユー
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夏風邪が長引いております。
寝込むところまではいってないんですけど、もう1週間も右の喉が痛い~。
来週は仕事がたてこむので、そろそろ完治して欲しいんですけどね・・・。気候、気温の急変がまだしばらくは続くのでしょうか。みなさまもどうぞお気をつけ下さい。
さて、今日も「夏」をテーマにお題を採り上げます。
みなさまはジュリーのどのアルバムに「夏」のイメージをお持ちですか?
『S/T/R/I/P/P/E/R』『A WONDERFUL TIME』『サーモスタットな夏』・・・僕にとってはこのあたりのアルバムにも大いに夏を感じますが、断トツなのは『JULIEⅥ~ある青春』です。やっぱり、歌詞カードに載ってるジュリーの写真のインパクトのせいかな~。
いや、写真のジュリーはGジャン着てますから、絵だけで「真夏」とは言えません。
ただ、僕がこのアルバムで最も愛している大名曲「船はインドへ」が明白に真夏の歌。そして、歌詞カード掲載の中で最も好きな、船の上のジュリーの写真を僕はまるで「船はインドへ」のPVからのショットのように思っているのです。
必然、あのGジャンのジュリーが「真夏」のジュリーになってしまうという・・・あくまで個人的なイメージなのでしょうかね。
これまでこのブログで僕は何度か、『JULIEⅥ~ある青春』は、『JULIEⅡ』の物語の主人公の少年が成長した後の姿を描いたコンセプト・アルバムのように感じる、と書いてきました。
まだ若いけれど、船乗りとしてひとり立ちしいっぱしの「男」となった逞しい青年。若き情熱を纏ったような、ほど良く耳を隠した長髪、経験を積み自信を得て不敵な表情を浮かべる日焼けした顔。
それは正に『JULIEⅥ~ある青春』歌詞カードの、ジュリーのショットそのものです。
そしてそれは、ソロとして完全にひとり立ちした1973年当時の「歌手」としてのジュリーの状況、心境とも重なっているようです。
充実の1972年を経て、いよいよ「歌で大勝負」と位置づけた年。「危険なふたり」の大ヒット。
しかしジュリーはそこで満足せず「今度(次のシングル曲)は特等賞を狙う!」と公言しました。
勇躍ロンドンに乗り込み、新曲を含むニュー・アルバムをレコーディング。そう、『JULIEⅥ~ある青春』のリリース時期は、73年の夏真っ盛りだったのですね。
今日は、そんな名盤『JULIEⅥ~ある青春』から、仕事に燃える「男」を確立させた歌手ジュリーの、情熱と才気ほとばしるロック・ナンバーをお題に採り上げます。
「夜の翼」、伝授!
曲想、アレンジはモロに「真夏」!
エネルギッシュなラテン・ビートに載ったジュリーのヴォーカルには、ただ圧倒されるばかりです。
ちょっと話は逸れるようですけど、実は僕はトッポの「太陽の目の女の子」という曲(こちらの記事で曲の内容に触れています)を初めて聴いた時、「うわ、ジュリーの「夜の翼」みたいだな~」と思いました。
いや、共通しているのは、ラテン・ビート・アレンジの短調のアップテンポ・ナンバーというただそれだけなんですけど、面白いのは、ジュリーもトッポもこういう曲想になると何故かヴォーカルが一歩前に出る・・・かつての「エヴリバディー・ニーズ・サムバディ」の歌と演奏のように「とにかく魅力的に動き回る」ザ・タイガースの血が騒ぎ滾っているような感じがなんですよ。
二人とも結局根っこは同じなのかな、と・・・。ジュリーがNHK『ソングス』でザ・タイガースについて「根を生やして今も青々とある」と語っていたことがありましたけど、その「根」の部分がジュリーの「夜の翼」やトッポの「太陽の目の女の子」というラテン・ビート・ナンバーのヴォーカルに見えるように僕には思われます。
『JULIEⅥ~ある青春』でのジュリーのヴォーカルに関して言えば、ローリング・ストーンズを彷彿とさせる「気になるお前」は当然として、前半と後半で発声表現を大胆に変える「船はインドへ」、そして官能的なブラス・ロック「夜の翼」・・・これら3曲は、リズム&ブルースの泥臭さやアフター・サイケデリックの退廃美すれすれの美しさなど、「ロック」でしかあり得ない魅力を備えているわけで、この名盤が単なるアイドル・アルバムでないことを明白に裏付けるものです。
ジュリーはこれらの曲では特に、音符を正しく追おうとか、上手く聴かせようとかいった装飾の気持ちは微塵もなく(それでもメロディーは正確だし歌も上手いわけですが)、身体ごと楽曲にぶつかる「無心」を感じられてなりません。
そんな無心の境地でのレコーディングに見られる圧倒的な才のほとばしり、「あぁ、この人は普通じゃない」と凡庸な聴き手をしてそう思わせしめる「歌手」の存在感をこそ、本来「ロック・ヴォーカル」と称えるべきだと僕は考えます。
そして、これら3曲がいずれも加瀬さんの作曲作品である、ということも見逃せません。
ジュリーの持つ「普通ではない」才の開花を一番近くで見てきた加瀬さんだからこそ、ジュリーのロック性を引き出す楽曲を作ることができたのではないでしょうか。
例えば『JULIEⅥ~ある青春』にはもう1曲のブラス・ロック、森田公一さん作曲の「悲しき船乗り」が収録されていますが、ジュリーのヴォーカルは「夜の翼」の方が明らかにテンションが高いです(無論、「悲しき船乗り」も僕は大好きな曲で、「夜の翼」とはまた違った魅力があります。その点についてはまたいずれ記事を書こうと思っています)。
「夜の翼」でのジュリー・ヴォーカル最大の特徴は、語尾に吐息を加えたり、ロングトーンでうねうねと粘る官能表現でしょう(ロングトーンの方は、作曲段階から加瀬さんがそういうメロディーを用意していたのでしょうね)。
僕が一番好きな箇所は、1番の2回し目。
誰れにも じゃまされない ふたりが抱き合う時
Am F
白い肌に 赤いバラの くちづけ投げながら ♪
G Am B7 E7
まず、よく聴くとジュリーは「抱き合う時、アッ!」と、吐息で言ってますよね。
そして、「投げなが~らぅあぅあ~♪」のエロティックな粘り。この歌い方は、現在の『三年想いよ』ツアー・セットリストの1曲目「そのキスが欲しい」でも楽しむことができますね。
またこれが、Aメロの「2回し目限定」というのが良いんですよ。1番も2番も、1回し目は「夜の翼ひろげ~ぃえぃえ~」ではなく、単に「ひろげ~~♪」と母音をストレートに伸ばします。
2番の「ひろげ~~♪」は1番と比べると声にドスが効いていて、ド迫力です!
次に、安井かずみさんの作詞について。
まず「夜の翼」というタイトル。これはたぶん、ロバート・シルヴァーバーグというSF作家の同タイトルの代表作からアイデアを得ているんじゃないかなぁ。
実は山下達郎さんにも同タイトルの曲があります(名盤『ムーングロウ』1曲目に収録。作詞は達郎さん自身)。収録アルバムは違いますが達郎さんは他にも「夏への扉」というロバート・A・ハインライン作のSF小説からタイトル・アイデアを得た曲もあり(作詞は吉田美奈子さん)、高校生時からSF好きだった僕は、達郎さんのアルバム2枚を「収録曲タイトル買い」したものでした。
その後、このようなタイトル・アイデアを採り入れた曲が邦楽ロックで様々存在することを知っていきました。ジュリーの「夜の翼」もそうした1編ではないでしょうか。
1973年という安井さんの作詞時期(シルヴァーバーグの原作は1969年の作品ですが、翻訳作品『夜の翼』として日本SF文学界の権威である「星雲賞」海外翻訳長編賞を受賞したのは1972年のことです)を考えても、安井さんが「夜の翼」を読んでいた可能性は高いのでは、と考えられます。
安井さんの描いた「夜の翼」とは、昼間(多数の人前)には決して見せない、特定の異性に対する隠された愛欲の解放・・・でしょうか。
今 夜が燃える 胸を焦がすまで
A7 Dm G7 C
愛につながれて 飛びたつふたり ♪
A7 Dm Am E7 Am
愛することに対する迷い、戸惑いなどは微塵も無い疾走の一人称は、男性視点ながらいかにも女性作詞家さんらしいなぁと感じます。
フレーズ使いにはクールな面もありますが、主人公は徹底した肯定志向で、しかも唯我独尊。「奪う」愛のイメージは逆に言うと「ジュリーのような男に奪って欲しい」という女性の感性があればこそ。
で、やっぱり詞も「夏」!だと思います。変な表現になりますが、この詞を歌っているジュリーに、服を着ているイメージが沸いてこないんですよ(笑)。
さらにこの曲は、ブラス・ロックとラテン・ビートが融合した各楽器の演奏テイクも素晴らしいです。
終始グルーヴするベース。ドラムスは、ヴォーカル導入直前のフィルが「鬼」です。そこへ噛み込んでくる情熱のラテン・パーカッション。
これらリズム隊のベーシック・トラックに、左サイドからワーミーなギター・カッティング、右サイドから美しいオルガンが襲いかかります。
オルガンは、2番のサビ部が特に凄いですよ!
仕上げはホーン・セクション。トランペット2本、トロンボーン1本、サックス2本か、或いはトランペット2本、サックス3本か・・・正確に聴きとれない自分の耳がもどかしい。
情熱の詞曲に、ラテン・ビートとホーン・セクションのアレンジが一体となった「夜の翼」。その楽曲としての素晴らしさをさらに凌駕するジュリーのヴォーカル・・・アルバム『JULIEⅥ~ある青春』の中でも、指折りの完成度を誇る名曲ですね。
唯一、個人的に「惜しいな」と思うのはフェイド・アウトですかね~。こういうタイプの曲は、演奏時間の短さも含めて、ビシッ!と終わった方がゾクゾク感があると思うのですが・・・。例えば、イントロに配されたスリリングなキメのフレーズを最後にもう一度登場させる、とか。
でも、70年代前半のジュリー・ナンバーには、ホーン・セクションのキメで演奏を終える短調のブラス・ロックの印象が強いですから(「許されない愛」など)、差別化の意味でもこれで良かったのかな。最後の最後までジュリーの官能的な声が聴けますしね。
それでは、今日のオマケです!
Mママ様からお預かりしている数々の貴重なお宝資料の中から、『沢田研二がスナップしたパリ・ロンドンの町』という雑誌記事をご紹介しましょう。
僕はこの記事が何年のものなのかすら分からなかったのですが、先輩にお尋ねしたところ、「73年ですよ」と即答くださいました。
とすれば、正に『JULIEⅥ~ある青春』真っ只中のジュリー、ということになります。
言われてみれば確かにこのGジャンは・・・とは改めて思ったりしたものの、いやぁ驚きましたよ。ジュリーはこの時、ロンドンレコーディングだけでなく、パリにも足を伸ばしていたのですね。タイガース時代からずっとそうだったのでしょうが、ジュリーは一体どれほどタイトなスケジュールをこなしていたのでしょうか。
写真には加瀬さんの姿も見えます(と言うか、ほとんど恋人状態のような)。
現在病気療養中と伝えられる加瀬さんの、1日も早い回復をお祈りします・・・。
さて、次回はおそらく8月最後の更新となりますので、「夏」をテーマにしたお題シリーズの締めくくりですね。気温的には、9月に入ったらいきなり秋、とはなかなかいかないんでしょうけど。
とにかく、風邪を早く治します!
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コメント
DY様 こんばんは。
唐突に涼しくなりましたが、お風邪はいかがですか?
ZUZU特有の耽美系ジュリー全開曲ですね。
ジュリーと向き合っている自分を夢想しながら作詞するZUZU,
ジュリーの右側によりそう自分を感じながら作曲する加瀬さん。
で、そんなアブナイ情景を妄想しながら聴く私(笑)
そういや、ZUZUは昔本かなんかで
「私、よくジュリーをデートしてるのに誰もウワサにしてくれない。」と文句言ってたっけ。
ま、どちら様も脳内変換はご自由に、ということで。
9月の渋谷も「何でやねん!」な席ですが、松席と脳内変換して楽しみたいと思ってます。
投稿: nekomodoki | 2014年8月27日 (水) 22時16分
DY様
Tubeで探して、”吐息”の場所を何度聞いたことか。こ、これ?んー、あんまりわからない・・・楽器の音かと(汗)。残念な耳だわー
その代わり思わぬ副産物がありました。 吸い込む方!随所に散りばめられた若ジュリーの生々しいブレスにすっかりやられました。
歌や録音の技術を越えて ドキドキ。これだけでもご伝授頂いた甲斐がありました!
9月6日、別々に拾ったのに 母娘の席が同じ列の2人挟んだお隣。丁度いい間隔だわ。隣じゃ 照れてジュリー!と叫びづらい(笑)娘は病み上がりの母の付き添いですが 初ジュリーなので感想が今から楽しみです。
投稿: 真樹 | 2014年8月28日 (木) 11時47分
nekomodoki様
ありがとうございます!
ご心配をおかけしてしまっている夏風邪ですが…右喉の痛みが治まり1日だけ元気になったと思ったら、昨日から今度は左喉が痛くなってきまして…情けない。
加瀬さんは当然として、この頃は安井さんもレコーディングに立ち合って、その場で歌詞を煮詰めていく、という作業が行われていたようです。そのあたりについては、参考資料とともにいつか「恋は邪魔もの」の記事で書きたいと思っていますが…。
「夜の翼」なんて、完全にジュリーをそういう「相手」と捉えて作詞しているような…またジュリーが歌でそれに応えてしまうわけですから、安井さんも充実していたでしょうね~。
☆
真樹様
ありがとうございます!
すっかりお元気になられて、急遽6日の参加を決められた、と聞いていますよ~。当初は「ツアーのファイナルまでにはなんとかLIVE参加復活を」と仰っていたのに…素晴らしい!やっぱりジュリーの力は大きいですかね~。
「夜の翼」のブレス、凄いですよね。カッコつけではなく、曲が望んでいることに自然に応えている感じ。演奏が進み、後半になればなるほどジュリーの声が良いですね。
娘さんもいよいよ初ジュリーですか!
今回のセットリストは、LIVE初参加のお客さんにとても評判が良いようで、各地で感動の声が上がっているとか。きっと世代を超えて楽しめるはずですよ!
投稿: DYNAMITE | 2014年8月28日 (木) 13時48分