沢田研二 「氷づめのHONEY」
from『A WONDERFUL TIME.』、1982
1. ”おまえにチェック・イン”
2. PAPER DREAM
3. STOP WEDDING BELL
4. WHY OH WHY
5. A WONDERFUL TIME
6. WE BEGAN TO START
7. 氷づめのHONEY
8. ZOKKON
9. パフューム
10. 素肌に星を散りばめて
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あ~つ~い~で~す~な~。
首都圏はなんとか直撃はまぬがれましたが、多くの地方で大変な被害をもたらした台風が過ぎ去ると、再び暑い日々が訪れていますね。
今月初めの酷暑が続いた頃に比べればずいぶん過ごしやすいとはいえ、日によってはぐっすり眠ることさえままならない夜もあります。
今日はこの「暑い夏」をテーマに、楽しいジュリー・ナンバーを採り上げることにしました。いや、単に「暑い」というだけではなく、「涼」も考えてのお題ですよ~。
アルバム『A WONDERFUL TIME』から。
「氷づめのHONEY」、伝授です!
楽曲考察の前に、良い意味で楽しくユル~いこの曲にあやかり、まずはしょ~もないネタ、と言いますか僕の平凡な日常から少し語ってまいりましょう。
とにかく、毎日暑いですよね。
真夏ですからそりゃあ暑いのは当たり前とは言え、ここ数年は「こりゃちょっと異常なんじゃないか」と思ってしまうような、変な暑さになっている気がします。
みなさまは、夜しっかり眠れていますか?
こう暑いとなかなか難しいですよね。クーラーをかけて寝る、というのもね・・・電気料金も値上げしていますし、何より節電の意識は忘れてはいけないし、加えて僕の場合は身体がヤワですから、クーラーをつけた状態で寝ると喉をやられてしまう可能性が高いので、それはしていません。
なんとか快眠を・・・ということでみなさまも各家庭で色々と工夫していらっしゃるかと思いますが、今我が家で大活躍しているのが、ズバリ「氷嚢」です。
これ、本来は風邪などで発熱した時に使うものです。
厚手の布袋の中に氷を10個ほど投入して額を冷やすと心地よい、ということで、実は最初は僕が風邪で寝込んでいた時(たぶん2010年の『秋の大運動会~涙色の空』ツアーの神席を病欠してしまった時だと思う・・・涙)にカミさんが買ってきてくれて、その後普通に発熱対策として常備していたのでした。
で、今年の夏。当初はアイスノンを使って就寝していたんですけど、あれって時間が経つとフニャフニャの生暖かい状態になって、ふと夜中目覚めた時にちょっとガッカリ感、むしろ邪魔!って感覚もあるじゃないですか。
代わりに、ということで試しに氷嚢を使い始めてみましたら、なかなか良い感じ。意外と長時間冷たいまま持ちますしね。ただ、夜中ゴソゴソと起きて中身の氷を取り換えようとした時に「うわ、氷が足りね~!」なんて事態が起こることがあります。
そこでカミさんが開発した技が
「最初に水を入れた状態で氷嚢を凍らせておく」
というアイデア。これが素晴らしい!
例えば、水を注いだ氷嚢を冷凍庫で何か丸いモノの上にドサッと置いておくと、ゆるやかなU字状の形でカチンカチンに凍るわけです。その凍ったカーブを首筋などに当てて眠りにつきますと、まぁ~パラダイスですよ。
複数の氷嚢を用意しておけば、夜中暑くて目覚めたとしてもすぐに交換、対処できます。
ただし、極端に安値の氷嚢は買うのを避けましょう。安物は、中の氷が溶けだすと布が水びたし状態になってしまうことがあるのです。しっかりした厚手の布を使ったモノがお勧めです。
ということで、「氷づめのHONEY」にあやかった、熱帯夜の涼対策の小ネタでございました。
みなさまも是非お試しあれ!
それでは本題の楽曲考察へと移ります。
「氷づめのHONEY」・・・ジュリー自身の作詞・作曲による、能天気なポップ・ロックです。
僕には、深い愛情を込めて敢えてそう呼んでいる「バカロック」なる勝手なカテゴリーの名曲が邦洋問わずたくさんあって、それらの曲には、深く考えずにただただ盛り上がる、癒される、和む、という至福の時間を過ごさせて頂いているのですが・・・もちろんジュリー・ナンバーの中にも、いくつかそんな感じで聴いている曲があります。「俺たちは船乗りだ」「KNOCK TURN」「muda」・・・曲想様々に色々と例はありますが、今日のお題とした「氷づめのHONEY」、或いは同アルバムの「ZOKKON」あたりは僕にとって愛すべき「バカロック」と言えます。
ただ単に「軽快なロック」というのとはまた違った魅力を感じるんですよ。
『A WONDERFUL TIME』収録の2大バカロック「氷づめのHONEY」「ZOKKON」が、いずれもジュリーの作詞・作曲作品というのが興味深い点。
シングルを目指した曲ではなく、アルバム制作にあたって「自分の曲も少しは」と肩肘張らずに伸び伸びと、自分の好きなように作曲したことが、独特の能天気なムードを作り出したのでしょうか。
まぁ、「肩肘張らず」とは言っても、ジュリーの作曲作品というのはどの時代のどの曲も本当に面白い仕上がりになっているんですけどね。
まず歌詞の点でも、「氷づめのHONEY」「ZOKKON」いずれもジュリーが真夏に「あっちぃ~」とマイっていて、半分ヤケクソのように「なんとか涼しくならんものか」と考えながら作っている・・・ように聴こえてしまいます。
「氷づめのHONEY」の場合は、気温も恋も「アッチッチ」状態の主人公が、思い人をひとりじめにするのに、「氷づめ」という手管を使って・・・「こりゃあ涼もとれて一石二鳥だわい」的なジュリーの作詞過程の楽しさが想像できるようです。
その「楽しいヤケンパチ」感が良く出ているのが
気候のせいにするな 熱くなるなそんなに
C F C F
温度計みたいさ お前言うことすること ♪
C F C G F C
「気候のせいにするな」というこの不思議な言い回しが、ジュリーっぽいですよね~。
このような不思議系のフレーズを能天気なロックの自作メロディーに載せるパターンは、この先ジュリーの得意技のひとつとなったようで、最近の作品ですとジュリーwithザ・ワイルドワンズの「熱愛台風」によく似た感覚が見られます。
確信は持てませんが、ジュリーのこの曲の作詞のとっかかりには、ローリング・ストーンズの「氷のように」という曲が一役買っているんじゃないかなぁ。
ストーンズの方は「俺はこんなに熱いのに、彼女は冷たい」という歌なので全体像は異なるんですけど、「cold」と「hot」の対比、「モノにするぜ」的なシチェーションと、邦題の「氷」というフレーズ共通が気になります。
ジュリーの「氷づめのHONEY」は、彼女の温度(態度)が熱くなったり冷たくなったり目まぐるしく変化する分、より手強い感じでもあり、愉快な感じでもあり。
(ちなみにストーンズの「氷のように」は、『エモーショナル・レスキュー』というアルバムに収録されていて、これがまたいかにもジュリーが好きそうなタイプの「ズレ」感が心地よいアルバムなのです)
そして・・・これが重要なことなんですけど、「氷づめのHONEY」「ZOKKON」に共通する、こうした少しふざけたヤケンパチのようなクドキ方って、ジュリーのような「モテる」男にしか許されないと言うか、限定的なアプローチなんですよね。
もちろんジュリーの中に「俺はイイ男だから大丈夫」なんて意識は微塵も無く、等身大に作詞しているはずです。でも、例えば「二枚目なのに面白いことをする」「頭が良いのにバカなことを言う」男子って、学生時代のクラスメートとかを思い起こすと抜群にモテるタイプじゃないですか。ジュリーは歌手のキャラクターとしてデビュー当時からそうした面は確実に持っていたわけですが、30代半ばとなり遂に曲作りの分野においてもそんな才能を確立させたのです。
次に、ジュリーの作曲手法について。
ジュリーは、理屈だけでは編み出せないような斬新なコード進行による作曲を得意とする一方で、過去にプロの作曲家により提供され自らが歌ってきたナンバーで「面白いな」とジュリーなりに感じたであろうちょっとした箇所を、自然に自らの血肉とし、(おそらく無意識のうちに)後の自作曲に反映させることがあります。
「氷づめのHONEY」で言いますと
だからHONEY 氷づめ そうさHONEY ひとりじめ
F C F C
COME ON HONEY 氷づめ I LOVE YOU SO! ♪
F C G
というサビ部。
僕はここを聴くたびに、アルバム『いくつかの場面』収録の大瀧詠一さんの作品「あの娘に御用心」のメロディー、コード進行との偶然の共通を思います。
偶数小節に何度も繰り返しトニック・コード(「あの娘に御用心」の場合は「A」)に着地したり、そうかと思えばサビの最後にドミナント・コードでポ~ンとメロディーを浮上させるような感覚。良く似ているんです。
ジュリーの中に、「楽しげなイカレポンチ曲はこんな感じ」という、過去に歌った曲からの無意識の「お手本」があったのではないでしょうか。
その一方、Aメロやサビは「C」「F」「G」というハ長調のスリー・コードで構成されロック・ポップスを意識していますが、Bメロには胸キュンな展開の変化もあって
このままお前
C Em
放ってはおけないよ僕は ♪
Am Dm G
このあたりでジュリーのヴォーカルに色気が増す感覚があり、聴いていて「クセになる」病みつき度の高さを演出しているように思います。
軽快ながら、一筋縄ではいかない曲なんですよ。
イントロの捻ったコード進行や、全体のリズムがジャングル・ビート(「緑色のKiss Kiss Kiss」記事参照)になっているのは、アレンジ段階での後藤次利さんのアイデアだったのかな。
こうした16ビート感覚のグルーヴは、エキゾティクスの真骨頂ですからね。演奏もジュリーの詞曲に負けず劣らず、とても楽しげです。
あと、左サイドにミックスされている「ハニー!」というサビ部のコーラス・・・声からするとジュリーのオーバーダブではないことは確実。ということはエキゾティクスのメンバーが担当しているのでしょうが、誰なのでしょう。
柴山さん?西平さん?
建さん・・・ではないような気がする・・・。
ジュリーのヴォーカルには、このアルバムや84年リリースの『NON POLICY』で顕著な、隙間隙間でのシャウト、喘ぎ声も大いに盛り込まれ、エンディングのサビのリフレインで「COME ON」の発音をその都度変化させる(「完全に”きゃもな♪”と歌っている箇所もありますね)など、じっくり聴くと細かい部分の気づきも多く、まったく飽きのこない曲ですね。
夏の午後、冷たい飲み物などのお供のナンバーとしていかがでしょうか?
それでは、今日のオマケです!
大分の先輩からお預かりしている、超お宝ツアー・パンフレット、『A WONDERFUL TIME』から、色男・ジュリーの妖美なショットを3枚ほどどうぞ!
あの日から3年と半年が過ぎ、ジュリーの『三年想いよ』ツアーは遂に今年最初の東北ツアー会場2箇所・・・盛岡、仙台公演を迎えます。
今回のセットリストには新曲をはじめ、被災地のお客さんの心が痛むであろう曲もありますが・・・前半の「追憶」~「憎みきれないろくでなし」、後半の「危険なふたり」~「ダーリング」、そしてアンコールの3曲「ス・ト・リ・ッ・パ・-」~「勝手にしやがれ」~「ヤマトより愛をこめて」と、不朽の大ヒット・ナンバーの連なりを本当に頼もしく感じます。
ジュリーの思いが届きますように。
地元のお客さんが大いに楽しまれますように。
祈りの8月は過ぎてゆきます。
僕は今日から仕事がお盆休みに入り、近場ではありますが泊まりがけで旅行に出かける予定です。
ということで・・・次回更新は、久々の私的「旅日記」となってしまう可能性大!
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コメント
DY様 こんばんは。
「そのまま氷に閉じ込めて永遠にとっておきたい一瞬」
何度あったことでしょう。(笑)
もちろん、写真もDVDもちゃんと山ほどあるし、どのみちナマモノに手が届くわけじゃないんですが。(オイ・・・)
でもやっぱり「今」が一番、です。
タイムマシンはいりません。
ジュリーはどこまでもジュリーですよね。詞も曲も。イノセンスは永遠です。
旅日記楽しみにしています。
可愛い猫との生活の弱点は「泊りがけの旅行」がしづらいことです。
投稿: nekomodoki | 2014年8月13日 (水) 23時55分
nekomodoki様
ありがとうございます!
なるほど…ファンからすると「氷づめにして保存しておきたいのはアナタの方だよ」ということですか~。
その瞬間瞬間を氷づめにするのは無理としても、なんとかツアーDVDもしくはCDなどで今の音を残してくれませんかね~。
旅行ですが…どうも天気予報がよろしくありません。雨が降ったら台無しのトコに出かけるものですから、旅日記のネタも果たしてどうなることやら…。
投稿: DYNAMITE | 2014年8月14日 (木) 10時13分
DYさん、お邪魔します。
大好きな作品です。曲はもちろんのこと、ポップで、ちょっとだけ怖い詞が、とてもジュリーらしいと思います。「氷づめ」と「ひとりじめ」が韻を踏んでいるところは、ジュリーの面目躍如!この時期から、ジュリーは、本格的なアーティストへの道を歩み始めたのかな、と思わせるすべてにおいて、ジュリーらしい作品です!
週末の東北でのライブは、ただただ成功を心から祈っています。宮城は、3回目になるので心配はしていないのですが、岩手は、ジュリーがライブを行うこと自体が、かなり久しぶりなので、どうなるか予想できません…行かれない私は、文字通り祈る思いでレポを待つことになるでしょう。
投稿: 74年生まれ | 2014年8月14日 (木) 17時58分
74年生まれ様
ありがとうございます!
80年代に入り、作曲についてはシングルヒットも飛ばしたジュリー、このアルバムからはいよいよ自作詞への渇望が目覚めましたね。しかも曲と合わせて愉快な作品…これもまたジュリーらしさでしょうか。
僕も、今回の東北公演の大成功を願ってやみません。
地元のお客さんが楽しまれますように…。
投稿: DYNAMITE | 2014年8月15日 (金) 09時00分
読んでたら、氷づめのHONEY 今のジュリーで聴きたくなりました。
正直、曲、忘れましたが、
楽しいイカレポンチ曲、なんか好きだった、
でも、これを歌う時のジュリーの手指の動きが浮かんできます
初日、神席でしたが端っこだったので見落としあり、あと何回かで確認、楽しみます
投稿: keik | 2014年8月18日 (月) 06時49分
keik様
ありがとうございます!
>これを歌う時のジュリーの手指の動き
うわ~、生のLIVEでこの曲を体感されているのですね…うらやましい限りです。僕には、生演奏の想像すらできませんよ…。
初日の神席は端でしたか~。渋谷は割と端でも見やすい会場ですが、やっぱり角度的に見逃すシーンもありますよね。
僕もこれから神戸、フォーラムと2度参加の予定がありますから、これまで気づけていないことをしっかり観てきたいと思います!
投稿: DYNAMITE | 2014年8月19日 (火) 12時49分
この当時、FM雑誌が盛んな頃で新作のアルバムは必ずFM誌でチェックしてました。当時ジュリーの新作も例に漏れずFM誌が一番早く取り上げていたと記憶します。昨今のジュリーの作詞には賛否が取り沙汰される作品が(多くは賛ですが)多々ありますが、今はどうしてるか知らない音楽評論家の方がこの辺りの作品のジュリー作詞を「首を掻きむしりたくなる作品」と酷評してたのを記憶してます。ただ「告白(コンフェッション)」で絶賛されたのも後々嬉しかったりします…。この曲のコーラスは大澤さんです。翌年の大澤さんソロデヴューアルバムではアン・ルイスさんとコーラスに参加する曲も大好きです!
投稿: クリングル | 2014年8月30日 (土) 00時24分
クリングル様
ありがとうございます!
なるほど、あの声は大沢さんでしたか!
言われてみれば、です。目からウロコです。ありがとうございます!
大沢さんのファースト、聴いたことないんですよ。今なら色々と新たな発見もできるはず…聴いてみようかな~。
僕も少年時代から、自分の持っていない曲をラジオからせっせとカセットテープに録音する、ということを始めていましたから、よくFM誌を買ってチェックしていました。ジュリーの記事も、知らず知らずに目を通していた可能性もあります。
評論家の方々も、ただ1度聴いただけで文章を書かなければならない時もあるでしょうし大変でしょうが…「氷づめのHONEY」のような曲は、「聴けば聴くほど」のじわじわタイプですからねぇ…。
評論家さんも、やはり生き残っていくのは大局観を持つか、他を寄せ付けない強烈な個性を持つかいずれかの方々だけですね。
投稿: DYNAMITE | 2014年8月30日 (土) 10時04分