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2014年6月

2014年6月29日 (日)

沢田研二 「アテン・モワ」

from『KENJI SAWADA』、1976

Kenjisawadafrance

1. モナ・ムール・ジュ・ヴィアン・ドゥ・ブ・モンド(巴里にひとり)
2. ジュリアーナ
3. スール・アヴェク・マ・ミュージック
4. ゴー・スージー・ゴー
5. 追憶
6. 時の過ぎゆくままに
7. フ・ドゥ・トワ
8. マ・ゲイシャ・ドゥ・フランス
9. いづみ
10. ラン・ウィズ・ザ・デビル
11. アテン・モワ
12. 白い部屋

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引き続き、『三年想いよ』全国ツアーに向けて”恒例・全然当たらないセットリスト予想”シリーズのお題でお届けいたします。
第2回の今日も、渋い曲で攻めますよ~。

採り上げるのは「アテン・モワ」。
この曲が収録されている『KENJI SAWADA』は、日本でのリリースが企画盤的なイメージを持たれているのか、ジュリーファンの間でアルバムとして語られることこそ少ないですが・・・名盤ですよね!
日本語、英語そしてフランス語と、若きジュリーの驚くべき「歌」の表現力が3つの言語でそれぞれ独特に発揮され、リスナーはそんなジュリーの変化に病みつきになる・・・正に珠玉のヴォーカル・アルバムです。特にフランス語のナンバーで魅せるジュリーの美しさ、あどけなさ、色っぽさはため息モノ。
そんな中、本日お題の「アテン・モワ」は楽曲としても完成度の高い素晴らしいフランス語ナンバーの名曲。
是非一度は生のLIVEで、とこのヒヨッコは切望しております。伝授!

実は今回「アテン・モワ」を採り上げるにあたり、願ってもないおフランス・ジュリー関連資料をピーファンの先輩(もちろん、ジュリーファンでもいらっしゃいます)から、先日のさくらホールにてお預かりしました。
例えばこれ。

Copains753

フランスの雑誌にジュリー登場!
1975年に現地で発行された雑誌のようで・・・こんなお宝を実際に手にとって鑑賞できるなんて、本当に貴重な時間を体験させて頂いています。

他にもありますので、それらは記事の最後のオマケコーナーにてご紹介しますが、先輩は数々の資料とは別に、いくつかのカラーコピーもご持参くださいました。その中には、こんなジャケ写もありました。

Attendsmoi

『アテン・モワ』フランス・シングル盤ですね!
B面は「ジュリアーナ」だったのか~。いやぁ、素晴らしい組み合わせの入魂シングルだ!

ジュリー本格堕ち間もない頃の僕は、ジュリーのフランスでのシングル・リリースが数作あることすら知らず(『巴里にひとり』だけだと思っていました恥)、『アテン・モワ』のシングルについてもこのブログのコメントにてJ先輩に教えて頂いたほどですが・・・それから数年、遂にジャケット・デザインをしみじみ眺めることができ、改めて感動しているところです。
(それはそうと、「エル」とか「ジュリー・ラヴ」とか、何とかCDにならないかなぁ・・・)

それでは、僕が「アテン・モワ」を今年のツアー・セットリスト予想に挙げた理由から語っていきましょう。

僕は『ジュリー祭り』で本格的にジュリー堕ちした新規ファンですから当然後追いで知ったことなのですが、「アテン・モワ」は意外や比較的近年のツアー(とは言ってももう15年以上前になりますけど)、1998年『ROCKAN' TOUR』で歌われているんですよね。しかもいきなりのオープニング、しかもしかも、日本語の新たな解釈を持つナンバーとして(この日本語詞のヴァージョンは、この時が初公開だったのしょうか・・・僕にはその辺りがよく分かっていません)。
これは、後追いでジュリ勉をしているとよくある「えっ?」と感じる意外な選曲の一例です。まぁ、タイムリーでツアーに参加し続けていらっしゃる先輩方にとっては、毎年毎年のツアーがキチンとして整合性のあるものと映ってはおられるでしょうが・・・。

1998年と言えば、アルバム『第六感』リリースの年。
無論、ツアーは同アルバム収録曲を引っさげてのものです。
僕はこの『第六感』を、ジュリーの大きなターニング・ポイントとなった作品であると捉えています。当然「50歳」という年齢的な区切りもあるとして、それ以外の「歌による発信」の部分でね・・・。

より「歌」を自分の気持ちに引きつける、という意志から勇躍開始されたセルフ・プロデュースのアルバム・リリース。第1弾の「sur←」から数年が経ち、「生身の人間・ジュリー」がいよいよ『第六感』でハッキリしてきました。
前作『サーモスタットな夏』まではどちらかというとジュリーの生活感や音楽観を投影した感じに仕上げられていましたが、『第六感』では突如、ジュリーの「命」「精神」といったスピリチャルな面が露になっていると感じます。「僕はどういう男なのか」「どういう生き方をしていくのか」という、せり立つ「誠」を抑えることなく思い切りぶつけてきた・・・そんなアルバムだと思うのです。
話が逸れているようですが、今年のツアー、『第六感』収録曲から複数のセットリスト入りも可能性大と僕は予想しています(特に「グランドクロス」「永遠に」「君にだけの感情(第六感)」の3曲を強めにマーク!)。

そんなわけで、『第六感』を擁した1998年の『ROCKAN' TOUR』は、これからジュリーがどういう志で歌を歌っていくのか、を明示した最初のツアーとなったのではないかと僕は考えます。
そこでジュリーが「アテン・モワ」という(世間的には)地味な70年代のフランス語ヴォーカル曲を(日本語詞を加えて)セットリスト1曲目に採り上げられたことに、特別な意味がありはしないのでしょうか・・・?

感じ方が違う
与え方が違う
許し方が違う♪

2014年・・・今年の『三年想いよ』全国ツアーもまた、ジュリーにとってひとつの大きな節目となり、「これからのジュリー」を明示する第一歩のツアー、セットリストが用意されるのでは、と僕は考えます。
確かに、東日本大震災をテーマに歌い始めての3年目ということももちろんあるでしょうが、やっぱり昨年のザ・タイガース再結成実現があり、ジュリーの中でひとつの大きな区切りがついたと思うのです。

昨年だったでしょうか・・・ジュリーは「タイガースが終わったらもうやることがない。徐々にフェイド・アウトする」と語ったんですよね?
ただそれはあくまで「芸能界的に」「世間的に」ということだと思います。タイガースの大きな舞台が実現し、これから先はもうわざわざ表には出ていかない(今後再びタイガース活動の可能性、というのは別にして)・・・つまり、「残りの歌人生、自分の思いが込められる歌を歌っていくだけ」という意味の言葉ではないでしょうか。
それだけに、節目の新たなスタートとして、今年のセットリストには注目。『ROCKAN' TOUR』で歌われた「アテン・モワ」に僕が着目したのは、そういう理由なのです。

1998年のツアーでの「アテン・モワ」に意味があったとすれば、「自分なりの愛の歌をこの先歌ってゆく」という気持ちの象徴だったとも考えられます。ただ、今年もしこの曲が採り上げられたとすれば、もちろん1998年と同じ思いもあるでしょうが、「傷ついた心に寄り添う」ことをジュリーはまず考えて歌うような気がします。

「アテン・モワ」は悲しい歌なんですよね。
愛する人と離れて暮らすことになった・・・そんな主人公の気持ちを綴ったバラードです。

Dans l'avion qui me romene chaz moi
G                                             Em

J'ai des larmes plein les yeux
                     Am

Et de te savoir si loin deja
               D

Ju suis malheueux ♪
                   G

「あなたと過ごした日々を忘れない」という歌。
僕は大学の第二外国語でフランス語を選択していたにも関わらず、今ではもう勉強した内容も遥か記憶の彼方。辛うじて「じゅ・すい」「ちゅ・え」「ぬ・ざぼ~ん」とか覚えてるだけのレベル(泣)。
しかしアルバム『KENJI SAWADA』の歌詞カードには訳詞が付記されています。有り難い!
(余談ですが、ここ2年での老眼進行がハンパなく・・・日本語や英語は大丈夫なのですが、今回のフランス語のように普段馴染みがなくスペルの勘が働かない歌詞をPCに書き写す、という作業が非常に辛くなってきております涙。メガネ外してスペル確認、メガネかけ直してキーボードを叩き、途中で「あれ?」と再確認でまたメガネ外して歌詞カードを・・・という面倒の繰り返し。ちょっと早いような気もしますが、そろそろ遠近両用が必要ですかね・・・)

大きな悲しみを正直に晒す冒頭から始まり、曲が進むに連れて主人公の気持ちが溢れてきます。
「毎日あなたに手紙を書くよ」「あなたは僕の太陽」・・・そんなフレーズは、今ジュリーが歌いたい、伝えたい気持ちとリンクしているように思えるのですが、いかがでしょうか。

フランスで「巴里にひとり」がセールス的にも大成功したことを受けて、第2弾シングル「アテン・モワ」の歌詞は「巴里にひとり」のその後の物語を狙って作られたようですね。
「巴里にひとり」は、遠い東洋の日本からパリにやってきた青年が熱い恋に落ちる物語(ジュリー曰く「ナンパかましてる歌」らしいですけど)・・・山上さん作詞の日本語ヴァージョンではシチュエーションが全然違う(主人公は日本に恋人を残してパリに来ている)のが面白いわけですが、「アテン・モワ」では、巴里で運命的に出逢った恋人を残して日本に帰ってきている、という日本版「巴里にひとり」的な主人公の状況を思わせます。なんだかややこしいですね(笑)。

ただ、今ジュリーがそんな状況を歌ったら、意味はグッと深くなると思います。悲しい愛の歌であるのは当然としても、それが若い青年の恋物語にとどまらず、家族愛、人間愛をも伝える、聴く者が言葉を失うほどの入魂のヴォーカルとなるに違いありません。

元々、ジュリーのフランス語ナンバーは総じて(少なくとも『KENJI SAWADA』収録の7曲については)「ヴォーカル絶対主義」の楽曲構成となっています。お気づきのかたも多いかもしれませんが、演奏陣の見せ場たるいわゆる「ギター・ソロ」や「ピアノ・ソロ」などの楽器パートのミドル・エイトというものが無いんですね。
曲が始まってジュリーが歌い出すと、もう最後までジュリーがずっとそこにいる、聴き手はジュリーの声にひとたび吸い込まれると、そのまま身を委ね続けて曲が終わる、という仕上がりになっているのです。
日本が誇る色男・ジュリーの官能を思い知れ!と言わんばかりのこのアイデアは、推測ですが加瀬さんが仕組んだような気がするなぁ。よほどジュリーの資質に信頼、思い入れが無いと出てこないアイデアだと思いますから。
現地の打ち合わせで、「間奏はいらないんだ!」と熱弁する加瀬さんの姿を勝手に想像してしまいます。

また、「アテン・モワ」はストレート、ド直球の長調バラードで、調号の変化が無いことが大きな特徴(『KENJI SAWADA』収録の他フランス語ナンバーは、短調の「いづみ」を除いた長調5曲に、必ず同パターンの転調展開部が登場します)。
それだけヴォーカルにかかる比重も大きいわけで、ジュリーの声を聴いていると、サラリと美しく歌っているその奥に深い悲しみまで込められているようで・・・普段馴染みの無い外国語曲でここまでの表現を(意識せずとも)できてしまうジュリーは本当に凄い、としか言いようがありません。

そんな凄いヴォーカルがさらに凄くなる・・・僕が予想するくらいですからセットリスト入りの可能性は低いですが、是非今のジュリーLIVEで体感してみたい1曲です。


では、今回のオマケです!
まず、Mママ様からお預かりしている『プレイファイヴ』の特集『パリのひとり旅』から2枚。

Pari206

Pari204

この特集、コートを着て寒そうなジュリーのショットが多いのですが、今回はシャツ姿のショットを選びました。


そして〆は文中でも触れた、ピーファンの先輩からお借りしているフランスの雑誌から4枚。
これはどうやら、「日本と言えばジュードーとサドー!」という企画のようですね~。

7541


現地のモデルか女優のお姉さん(?)にブン投げられ寝技に持ち込まれて恍惚状態のジュリー・・・。

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と思いきや、少年時代の経験者としての血が騒いだのか、柔道ではなくビシ~ッ!とカラテ・ポーズも。

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7544


最後は普通に、美女を隣に余裕のショット。
日本人にもこんなカッコイイ男がいるのだ!とフランスの読者に見せつけてくれたジュリーなのでした。


それでは、次回も”恒例・全然当たらないセットリスト予想”シリーズが続きます。
なんとかあと2曲書いておきたい・・・頑張ります!

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2014年6月25日 (水)

沢田研二 「ベンチャー・サーフ」

from『耒タルベキ素敵』、2000

Kitarubeki

disc-1
1. A・C・B
2. ねじれた祈り
3. 世紀の片恋
4. アルシオネ
5. ベンチャー・サーフ
6. ブルーバード ブルーバード
7. 月からの秋波
8. 遠い夜明け
9. 猛毒の蜜
10. 確信
11. マッサラ
12. 無事でありますよう
disc-2
1. 君のキレイのために
2. everyday Joe
3. キューバな女
4. 凡庸がいいな
5. あなたでよかった
6. ゼロになれ
7. 孤高のピアニスト
8. 生きてる実感
9. この空を見てたら
10. 海に還るべき・だろう
11. 耒タルベキ素敵

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まずは!
ジュリー、66歳のお誕生日おめでとうございます!

301

今年は6千人と言わず、6万人でお祝いしましょう!


ジュリーも遂に66(ロックンロール)な御年になってしまいました。いや、「遂に」とか「なってしまいました」などと言うのは失礼千万。だってジュリー66歳、一層元気に、一層のロックンロールな魂を以って、僕らを変わらず楽しませてくれるのですからね。
めでたきこの日、ジュリーはどう過ごされるのでしょうか。って、言うまでもありませんね。おそらく・・・朝4時頃に起きてテレビの前にスタンバイ。その後、「よっしゃ!」とか「アカン!」とか、大いに声を上げていらっしゃったのではないかと。
試合の結果は残念でしたけどね・・・。

ともあれ。
66歳のジュリー、これからのジュリーを、末席のヒヨッコファンも本当に楽しみにしております!


☆    ☆    ☆

さてみなさま、『三年想いよ』ツアー7月分のチケットは無事受け取られましたか?
我が家にも先週土曜日に届きました。カミさんと行く渋谷初日は天空の端席でしたが、YOKO君と行く大宮は13列目を頂きました。
僕のツアー参加は、大宮の次は9月の神戸遠征までお預け、というスケジュールです。まずはツアー序盤、7月のこの2公演に向けて精神集中!
チケットを手にし、これでもう完全に僕は『三年想いよ』ツアー・モードとなりました。

ということで拙ブログでは、来たる全国ツアーに向けいよいよ今回から”恒例・全然当たらないセットリスト予想”シリーズを開始いたします!
第1回の本日、6月25日は、ジュリーのお誕生日更新にふさわしいお題にてスタートです。

これは、僕が『ジュリー祭り』で完全ジュリー堕ちを果たしてからの数ヶ月間・・・あまりに部屋が散らかり過ぎていて(汗)、数年前に購入したまましっかり聴くこともせずにいた(恥)『耒タルベキ素敵』CDをなかなか発掘できずに泣いていた時、「見つかるまでコレ聴いとき!」と音源を焼いてくださったJ友さんから、記事のリクエストを頂いていた曲でもあります(ずいぶんお待たせしてしまいました)。
「ベンチャー・サーフ」、伝授!

え?
この曲のどのあたりが「セットリスト予想として採り上げる根拠」で、どのあたりが「ジュリーのお誕生日にふさわしいお題なのか」、ですと?

ご尤もでございます。
軽く説明いたしましょう。まずセットリスト予想にこの曲を挙げた、ヒヨッコなりの薄弱な根拠とは・・・

・アルバム『耒タルベキ素敵』収録曲は、いつどの曲がセトリ入りするか、本当に油断ならないというのが『ジュリー祭り』以降の個人的な印象。ツアー前にはアルバム全曲について「ドンと来い!」の準備が必要と考えます。
・今年も猛暑・酷暑の気配。長い夏を乗り越えてゆくツアーに向け、ジュリーは「夏」のリズムで走り回る曲を1曲採り上げるような気がします。お馴染みなのは「サーモスタットな夏」「時計/夏がいく」といったあたりですが、今年はこの「ベンチャー・サーフ」で爽快に駆け回るジュリーに期待します!

という感じ。
まぁ、希望的観測ではありましょう。でも、セトリ予想の狙いとしては渋いトコ突いてるんじゃないかな~。

で、「誕生日にふさわしい」という件ですけど・・・これは楽曲のアレンジ考察と関連しているのです。
ジュリーの2000年前後のパワー・アルバムの名作群・・・特に『耒タルベキ素敵』で前面に押し出されている、白井良明さんの広い引き出しから味つけされた、洋楽のアレンジ・オマージュ。明快なところですと、「アルシオネ」がデヴィッド・ボウイの「スターマン」、「無事でありますよう」がエルトン・ジョンの「僕の歌は君の歌」、「everyday Joe」がジミ・ヘンドリックスの「パープル・ヘイズ」だったりするわけですが・・・じゃあこの「ベンチャー・サーフ」は何かと言うと、たぶんコレじゃないかと。

タイトルもズバリ、「バースディ」!
リンクした映像は、比較的最近のポール・マッカートニーのソロツアーのものですが(今年の来日公演ではこの曲をやってくれるのでは?と期待していました・・・涙)、原曲は、かつてジュリーもビートルズのアルバムの中で特に好きだと語っていた『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』レコードC面1曲目収録の、痛快なロックンロール・ナンバーです。
ギター・リフをフィーチャーしたアレンジが、「ベンチャー・サーフ」を思わせますでしょ?
今年のジュリーの「バースディ」更新ではこの曲をお題に・・・ということは、ポールの来日を待ち焦がれていた時期から心に決めていたのでした。

ちなみに「バースディ」と「ベンチャー・サーフ」はキーも同じ(イ長調)です。
「バースディ」のギター・リフはイ長調のトニックである「A」のコード・トーンから編み出されたもの。「ベンチャー・サーフ」については、堯之さんの作曲段階からギター・リフのアイデアはあったかもしれませんが、白井さんがここぞとばかりにジョージ・ハリスンばりのコード・トーン・リフを遠慮なく炸裂させていますし、リフを追いかけるドラムの頭拍4つ打ちフレーズのアレンジも併せ、これは白井さん、もう明らかに「分かる人は分かってくれ!」と狙っていますね。
僕としては「everyday Joe」並にストレートなオマージュだと思っていますが、いかがでしょうか。

あと、これはオマージュではありませんが、間奏のギター・ソロ部だけ転調する構成も、白井さんのアレンジ段階でのアイデアのような気がします。

さて、『耒タルベキ素敵』は19世紀の沢田研二・メモリアル・アルバムというコンセプトもあり、かつてジュリーに素晴らしい名曲を提供したビッグ・ネームの作家陣がズラリと並びますが、中でも井上堯之さんはこの時、ジュリー作品で本当に久々のクレジットだったのですね。
メロディー自体が明るく、GRACE姉さんの独特の歌詞もありどこかユーモラスな印象を受ける「ベンチャー・サーフ」。しかし堯之さんの作曲手法は、PYG時代を彷彿させるストイックなブルース進行が採り入れられていて、いかにもギター職人の作品だと思います。
「沢田、この曲でROCKしろよ!」という堯之さんのメッセージが込められているのでしょうか。

まずはAメジャーのワン・コードで押し、ドミナント(E)→サブ・ドミナント(D7)と経由してトニックに帰還するブルース進行。その途中にメロディアスな展開が組み込まれているのが堯之さんが持つ「ジュリーのイメージ」を表しているのかな。それが


使い捨てのカタログみたい
E                                F#m

スタイルだけボードにのる
E

情報のサーファーだ ♪
D7   E                A

「カタログみたい♪」の語尾での「F#m」の採用ですね。
70年代ジュリーの「ブルース進行のロック」解釈に、堯之さんは加瀬さん作曲の「気になるお前」に代表されるような「一瞬のマイナーコードでキャッチーに」というイメージを持っていて(「気になるお前」で言うと「渡さないで♪」の語尾の箇所)、それを「ベンチャー・サーフ」に盛り込んだのではないでしょうか。
その一方で、キメの「情報のサーファーだ♪」には泥臭いブルース特有のメロディーも登場。ジュリー・ヴォーカルの表情の変化が楽しめる曲です。このあたりはジュリーと堯之さん、お互いがお互いのポイントを心得ている、という感じでしょうか。

そんな堯之さんの曲想からすると、GRACE姉さんの詞は少し意表を突いた感じなのかな。
でもこれが「2000年代のジュリー」なわけです。何となく、「ベンチャー・サーフ」がジュリー自身の作詞作品だと思っているファンも多いような気がする・・・語呂合わせの展開や、「ドットコム♪」のあたりの語感に、ジュリーとのシンクロ度の高さを感じさせる作詞ですね。
ちょっとユーモラスな言葉遣いの中に、その時代の社会に対する風刺を盛り込むアプローチは、ジュリーの作詞作品で言うと「NAPOLITAIN」に近いかなぁと僕は思います。

歌メロの最後に登場するジュリーのルーズなファルセットもカッコ良いこの曲・・・明快なギター・リフを擁するロックンロール・ナンバーですから、LIVE向きであることは間違いありません。
遅れてきたジュリーファンとしては、是非一度は生で体感したいと願っている曲ですが、果たして今年の『三年想いよ』ツアーでその希望は叶えられるでしょうか・・・?
『耒タルベキ素敵』収録曲では他に、「月からの秋波」「猛毒の蜜」「君のキレイのために」「キューバな女」「ゼロになれ」「生きてる実感」といったあたりが個人的にマーク強めです。
みなさまはいかがですか?


それでは、今回のオマケです!
以前、P様がお貸しくださった貴重なお宝切り抜き集の中から・・・何と今から遡ること46年前、若虎時代のジュリー20歳のバースディ・ショットをどうぞ~(冒頭に添付したショットもその一部です)。



Julie202

Julie203

Julie204

(1番下のショットだけ、掲載誌或いは掲載号が異なるものと思われます)

今年もまたジュリーにとって良き1年となりますよう・・・66歳のツアー無事成功と併せて祈ります!


では、次回更新お題も引き続き”恒例・全然当たらないセットリスト予想”シリーズです。
こちらも呆れずおつき合いのほどを・・・。

そうそう、みなさまは万事ぬかりはないでしょうが、27日のビバリー昼ズもお忘れなく!
(僕は仕事ですので聴けませぬ涙)

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2014年6月19日 (木)

2014.6.13渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール『瞳みのる&二十二世紀バンド エンタテイメント2014 歌うぞ!叩くぞ!奏でるぞ!』セットリスト&完全レポ

はじめに。
この記事はネタバレ全開です!
これから先、ツアー各会場へご参加予定で、参加当日までセットリストなどのネタバレはしたくない、とお考えのみなさまは、うっかり目を通してしまわないようお気をつけください。

また、そんなみなさまにひとつアドバイスもございます。
会場では、パンフレット(1,500円)の販売がありますが、その中にピー先生自らによる演奏曲目解説が掲載されています(全曲ではありませんが)。僕はたまたまLIVEが終わってから読んだのですが、開演前にパンフを読むと、セットリストの半分以上ネタバレをしてしまいます。こちらもお気をつけくださいませ。

それでは、ネタバレ我慢中のみなさまとは、ここでいったんお別れです。グッと堪えてブラウザを閉じてください。
無事ツアーご参加の暁には、是非またいらしてくださいね!

☆    ☆    ☆

註:執筆途中で一旦upし、その後少しずつ加筆してまいりましたが、本日6月19日、無事に完全レポートとして完成させることができました(更新日付を、記事完成の本日に移動させて頂きました)。何とか週末の京都公演の前に書き終えられて良かった・・・。
細切れの更新に長々とおつき合い下さったみなさま、ありがとうございました。そして、京都以降のツアー各会場にご参加のみなさまのご来訪、ピーと二十二世紀バンドのその後の進化の様子、各公演のご感想のコメントなど、首を長くしてお待ちしております!

☆    ☆    ☆

いやぁ、予想以上に楽しいライヴでした。
二十二世紀バンド・・・若いメンバーですが素晴らしいバンドです。完璧に息が合ってます。出来立てホヤホヤのバンドをツアー初日にここまでの状態に持ってくるには、相当の稽古量が積み重ねられているはずです。ブラボー!
若いメンバーに囲まれたピー先生も絶好調です。御本人によれば「まだまだ梅雨の季節ですが、ひと足早くキンチョーの夏です」とのことでしたが・・・いやいやメチャクチャ元気でした。

さて、畏れ多いことにこの初日、僕はオフィス二十二世紀さんより何と最前列のお席を頂きました。
とは言っても下手側の端でしたから角度があり、ステージ全体を見る、ということは叶わない位置でしたが・・・まぁ、そんなことを言うのは贅沢ですけどね。
開演前には、ピーファン、タイガースファンの先輩方がお声をかけてくださいました。ありがとうございます!

入場すると、早速パンフレットを購入して着席。
さくらホールは、ピーファンの先輩から事前に伺っていた通り、渋谷公会堂をひと回り小さくした感じの会場でした。ちょうど僕の目の前やや左にスピーカーがあり、演奏開始後しばらくは左耳だけにベース音が飛び込んでくるような偏った感覚もありましたが、次第に慣れました。
奥行きは勾配がかなり急傾斜な感じ。ただ、前から10列くらいまではフラットでしたから、最前列の僕は立つわけにはいかないな、と腹を決めました。ジュリーLIVE以上に女性率が高く、身長の低いお客さんも近くに多く見かけたのです。

ステージの見え方として残念だったのは、ピーの顔が完全にシンバル(タムの前の低い位置にセッティングされてるやつ)に覆い隠され、ドラムセットに着いている時には、その表情が全く見えなかったこと・・・。
でも、右腕と右足は細かい動きまでバッチリ見えました。
右腕の振り下ろしは豪快で、「ピー先生、あんなに腕が逞しかったっけ?」と思いました。積み重ねた稽古で、ドラマー復帰直後と比べて筋肉がついたのかもしれません。
右足は、演奏で言いますとキック担当です。バスンバスンと踏み込むモーションは大きく、ピーが上半身だけでなく足の動きについても「身体が小さいので、大きなアクションを心がけた」と語っていたタイガース時代のスタイルを今も継続しているんだなぁ、と感じさせました。

僕などは、還暦を越えて今も元気に走り回っているジュリーのステージをいつも見ていますから、ピーの溌剌としたステージもふとそれが当然のように思えてしまいがちですが、よく考えればこれは普通ではあり得ない奇跡的なことなんですよね。
しかもピーの場合は、40年ものブランクがあり、なおかつバンドの中で最も体力勝負となるドラマーというポジションで、進化し続けている・・・ピーは「ステージで倒れたら本望」なんて冗談めかして言っているくらいですけど、本当にそのくらいの気持ちで立ち向かわなければできないことなんじゃないか、と思います。サラッと凄いことをやってのけているのです。

そして、素晴らしいのは二十二世紀バンドも同じです。想像以上に素敵なバンドでした。
まずフロントマンのピーへのリスペクトがあり、その上でどのように演奏すべきか、ということを本当に時間をかけて打ち合わせ、練り込んでツアーを迎えているんだなぁと実感できました。
具体的にどういう点でそれを感じたか・・・それはレポ本編で追々触れていきますが、ここではまず、初日のステージから受けた二十二世紀バンド各メンバーの印象を書いておきますね。

22centuryband


↑ パンフレット表紙より

JEFFさん(ベース、ヴォーカル)・・・立ち位置は下手側センター寄り。もう、ハッキリとバンマス!若いメンバーを束ねる、頼り甲斐のある兄貴、といった感じです。
ヴァイオリン・ベースをピックで弾くスタイル。そう、ポール・マッカートニーやサリーと同じです。特にブリティッシュ・ビート系が得意とお見受けしました。
何より、復活後のピーとサリーの”ザ・タイガースのリズム隊”を身近に観ている人ですから、サリーのベースに最大のリスペクトを持って臨んでいることが大きいですよね。
ピー先生からの信頼も厚いようで、MCでは時にピーとの楽しげなやりとりもあります。

NELOさん(ギター、ヴォーカル)・・・上手側センター寄り。小柄ですが立ち姿には安定感があり、バンド・アンサンブルのバランサーを担う職人タイプのリード・ギタリストです。
僕の席からは角度があって、フレット使いなど細かい点は確認できませんでしたが、バリバリ、ゴリゴリ系のカッコイイ音を出してくれます。キュートにしてパンキッシュ、という個性も感じます。

なおこさん(キーボード、ヴォーカル)・・・上手端からセンターを向くセッティング。
残念ながらキーボード演奏の細かい動きはまったく見えませんでしたが、とにかく歌が上手い!
後世に歌い継がれるべき名曲をキチンと歌う「歌のお姉さん」という感じです。”誰もが知るジュリーの大ヒット曲”をセットリストに採り上げるにあたっては、なおこさんの存在が不可欠だったのでは、と思います。
MCでは、お茶目な一面も見せてくれます。

Ichirohさん(ドラムス、パーカッション、ヴォーカル)・・・下手端から心持ちセンター向きのセッティングで、完璧なドラムス・サポートを魅せてくれる達人です。
静かに闘志、情熱を燃やすタイプであると同時に、ピー先生への気遣いは並々ならぬものがあります。ピーのドラムスが少し走ったりつまずいたりすると、すぐにピーの手元を確認し、ピーが一番気持ち良いテンポで演奏できるように、そっとペースを上げたり、JEFFさんとピーの演奏の間をとりもったりします。
位置的にはちょうど僕の席の正面でしたから、バンドメンバーの中で一番細かいところまで観ることができたのもIchirohさんでした。
ちなみにIchirohさん、かなりのイケメンです!

ALICEさん(キーボード、パーカッション、ヴォーカル)・・・センターのピーのドラムスの前、やや上手寄り。
メンバーの中では最も若いとのことで、ルックスはいかにもいまどきの可愛い女の子、といった感じですが、元気な中に大人びた落ち着きも感じました。しっかりとバンドとお客さんの呼吸を計り、確かな音感、リズム感で機転をきかせてくれます。
常に「今ステージで起きていること」に心を配り、笑顔を絶やさず、お客さんの手拍子をリードするなど二十二世紀バンドの雰囲気作りを一手に担っています。
若い個性のまま自然にピーの世界に溶けこんでいるのが素晴らしいと思います。

といったところで・・・。
さぁそれでは、記念すべき瞳みのる&二十二世紀バンドの初ステージの様子を、演奏曲順にレポートしていきましょう。
開演です!


~オープニング~

”瞳みのる&二十二世紀バンド”初ステージは、数分間に及ぶピーのドラム・ソロからスタート!
ノッケからいきなりの”鬼神ロール””左右シンバル鬼連打””X攻撃”など、ザ・タイガースというトップ・アイドル・グループにあって”魅せるドラマー”を宿命づけられていたピーが編み出した数々の必殺技を、惜しげもなく繰り出すオープニングとなりました。

パッと場内が暗くなってからピーのドラムスが聴こえるまで、そう時間はかかっていないと思います。
最前列だったのに、メンバー入場の気配もハッキリとは感じませんでした。僕の方が少し緊張していたのかな。

ピンスポットを浴び熱演するピー。
この時点では周囲のバンドメンバーはまだその姿を客席から観ることはできません。完全なるドラマー・ピーの、挨拶代わりのソロ・タイムです。
この日満員のさくらホールを埋めつくしたすべてのお客さんが、「あぁ、これから始まるLIVEはこの人が主役なんだな」と分かる・・・そんな導入部、渾身のドラム・ソロでしたね。

1曲目「ロック・アラウンド・ザ・クロック」

Peelive1

刺激的なドラム・ソロから引き続いて、まずは「ロックンロールのルーツ」とピー先生から後のMCでも紹介のあった、基本中の基本となるスタンダード・ナンバーが本編1曲目を飾ります。
激しいリズムと共にステージ全体に照明が当たり、いよいよ二十二世紀バンド、見参!

ピーが新聞記事で語っていた「僕にしかできないことを」・・・その言葉とも併せ、「瞳みのるの音楽的歴史探求」というテーマが、今回のツアー・コンセプトには盛り込まれているようです。
ここから始まる本編セットリストは、表現者であると共に研究者でもあるピーらしい構成。
「ロックンロールからポップス、民謡、唱歌」・・・その”普遍なる大衆音楽”を一緒に楽しみながら勉強していきましょう、という2時間に及ぶピー先生のスペシャル・レクチャーが、いよいよ幕を開けました!

(ちなみにピーは「ドラマー」としてだけでなく、「先生」としても2014年4月に復帰を果たしていたようです。凄いバイタリティーですね・・・。詳しくは、パンフ記載のプロフィールをチェック!)

ピーのリード・ヴォーカルは太く、気合がほとばしっています。そしてドラムスも絶好調。「これは稽古充分だ!」と思わせる演奏で、観ていて本当に嬉しくなります。
「歌いながら叩く」状況に多少のハンデを感じさせた2012年のタローとのジョイント・コンサート(中野サンプラザホール)と比べ、何という進歩でしょうか!

2曲目「ルーキー・ルーキー

Soundsincolosseum

2011~12年のジュリーのツアー(ピー、サリー、タローがゲストで参加)、そして2013年のザ・タイガース再結成時・・・ピーのヴォーカル担当曲として多くのピーファンのみなさま同様に僕も期待していたナンバー。
2014年、ようやく聴けた!
それがファン共通の思いでしょう。しかも、予想に反してドラム叩き語りのスタイル。素晴らしい!
この日全体を通して感じたことは、声量、音程共にピーはバラードよりもロックンロールやポップスの方が安定していたなぁ、と。ヴォーカルもドラムスもとても良かった・・・歌につられてリズムが走るようなシーンも無かったですしね。

タイガース・ヴァージョンではサリーが歌うあの印象的なコーラス・パートは、Ichirohさんが担当。JEFFさんの指差しを受けつつ、陽気なコーラス・パートを歌いながらスティックをクルクル回してくれます。

この後、短いMCが入りました。
最初の2曲の紹介などしてくれたんですが、ひっきりなしのお客さんの嬌声が凄かったです。
「ルーキー・ルーキー」については
「タイガースの頃よく歌ってたんですけど、すっかり忘れていて、今回はまた1から覚えたという感じ」
だそうです。いやいや、完璧でしたよ!
それにしてもこの曲、タイガース時代にピーが「ドラム叩きながら歌う」ことってあったんですか?

3曲目「ツイスト・アンド・シャウト」

Peelive2

演奏は完全なビートルズ・ヴァージョン。加えて6人体制の二十二世紀バンドならでは、のコーラスの楽しさを押し出したメンバー全員が歌って攻めてくる感じのアレンジとなっています。
そういえば、この曲はザ・タイガース再結成のセットリストとして最後まで候補に挙がっていながら、ドタン場で演奏が見送られたのでしたね。

JEFFさんのヴォーカルが、ジョンのドスとポールの高音を合わせたような独特のブリティッシュ系です。僕はとても好みの声ですね~。
ヴォーカルやベース、ファッションのスタイルから想像すると、たぶんJEFFさんはモッズ・サウンドが好きなんじゃないかな。普段ベスパとか乗ってそうな感じ!
NELOさんのリード・ギターも素晴らしかったです。もちろんピーのドラムスもね!

4曲目「朝日のあたる家」

Peelive3

代わってリード・ヴォーカルはNELOさん。ハスキーで甘い声です。ハードな短調で、歌詞もとても暗い内容のトラディショナル・フォークなんですけど、タローとスーパースターの遠山さんによく似たNELOさんの声質が、曲想にピタリと合って
います。
この日NELOさんがメイン・ヴォーカルを務めた2曲(もう1曲は「僕のマリー」)は共に、その声質を生かす短調のナンバーでした。

アレンジは当然アニマルズのヴァージョンです。タイガースも当時よく歌われていたんでしたっけ?

5曲目「あの素晴しい愛をもう一度」

Peelive4

これは意外な選曲でした。
フォーク・クルセダーズ不朽の名曲。でも思い返してみると、復帰後のピーはこれまで何度かフォークルについて語ったり、書いたりしてくれていたんですよね(タイガースの5人で出演した『オールナイトニッポン・ゴールド』など)。
デビュー当時のザ・タイガースの思い出と彼等の存在とは、ピーの中で強くリンクしているのでしょうか。

リード・ヴォーカルはALICEさんだった・・・と思うけど、なおこさんだったかも。ピーも交代で歌ったようにも・・・。ハッキリ覚えていなくてごめんなさい。
あの有名なサビ部はステージ上のメンバー全員で押し出すようにして歌っていました。

6曲目「月が証しよ」

歌う前にピー先生の短いMCがありました。
会場に入る際に配られた”歌唱指導用中国語歌詞”(そう書いてあります)があるんですけど
「お手元にB4サイズの紙が配られていると思いますが・・・いや、A4か。B4で
はないな!
と一人でオチをつけるあたり、「あぁ、ピー先生の授業ってこんな感じだったのかなぁ」と思いました。入場者全員の手元に配られた「月が証しよ」の歌詞は、さしずめ”授業プリント”といったところでしょう。

(後註:タイガース・ファンの先輩から「ピーは最初、A3と言い間違えたんじゃなかったかしら?」とご指摘頂きました。そうだったかも・・・と言うか、話としてはその方が全然面白いですし、おそらくそうだったと思います。確かにA3のプリントはナイな!もしそんな先生がいたらイヤだ・・・笑)

ピーはドラムセットから離れ、センターステージ最前まで来てスタンドマイクで歌ってくれました。この日初めてピーの顔がハッキリ見えた曲です。ちなみにピー先生も生徒(?)と一緒にプリントを見ながらの熱唱でした。

二胡のチェン・ミンさんの「月亮心」というタイトルを知っていますが、この曲も「月亮」のフレーズが原タイトルに登場します(「月亮代表我的心」)。スタンダードの同じ曲なのかな?


7曲目「寂しい季節」

「月が証しよ」に続き、中国のポップス・ナンバー。
この中国ポップス・コーナー2曲にはピーの日本語訳詞パートと原語パートがあり、ピー、なおこさん、ALICEさんの三人がリード・ヴォーカルを分担していたんじゃないかな。記憶が・・・。

前曲「月が証しよ」と違い、この曲ではピーはドラムを叩いていたように記憶していますが・・・これまた自信がありません。情けない・・・。

8曲目「マイ・ボニー」

Peelive5

この曲の前に、JEFFさんのMCがありました。ピー先生とのやりとりも楽しい、和気藹々の雰囲気です。
最後にピー先生が「次の曲も民謡ですね。今度はイギリスの民謡」とつけくわえるとJEFFさんは、「昔、ビートルズもやったことがある曲ですね」と紹介してくれました。

始まった曲は「マイ・ボニー」。
ファンでないとなかなか知らないことですが、これは純粋な意味でビートルズのレコード・デビュー曲です。町のレコード屋さんだったブライアン・エプスタイン(ビートルズの初代マネージャー。タイガースにとっての中井さんのような存在です)は、女の子のお客さんがこのレコードを求めに店を訪ねてきたのに自分が「ビートルズ」というグループをまったく知らなかったのが悔しくて・・・というところから、ブライアンの献身的な売り込みによるビートルズのメジャー・デビューへと繋がっていったわけです。

JEFFさんのスマートなフレーズの流れが素晴らしく、今回のセットリストの中で二十二世紀バンドのイメージに特に合った選曲かな、と思いました。

9曲目「ジャスティン」

Live201112

颯爽とドラムセットを離れ、スタンドマイクをセッティングするピー先生。この日はスタッフさんがスタンドマイクの配置換えで登場するシーンもあれば、ピー自ら行うシーンもありました。
自らセッティングする際には、きまって駆け足でぴょんぴょん飛び跳ねるようにマイクスタンドを運ぶピー。そんな仕草もまた、ドラムを叩く時と同じようにモーションが大きい!魅せてくれます・・・本当に元気な67歳のアイドルなのです。

ということで、さすがにこの曲は「ルーキー・ルーキー」のようにドラム叩き語りとはいきませんでしたが、2011~12年のジュリーと一緒のツアー、2012年タローとのジョイントと同様、ピー先生がスタンディングでオチャメにロックする「ジャスティン」がセットリスト前半の〆に採り上げられました。
不思議な”クネクネ・ピー・ダンス”も健在。でも、お馴染みのコール&レスポンスは無かった・・・初日だったからかな。この先の各会場ではどうでしょうか。

あと、バンド・メンバーそれぞれのソロがあります。
Ichirohさんのソロは凝ってましたね・・・リズム感に劣る僕などは、途中で手拍子の表裏を見失ってしまうほどの複雑なアドリヴ演奏でしたが、ALICEさんがちゃんと先導してくれるのでお客さんも安心です。
また、JEFFさんのソロはビートルズの「タックスマン」のようなカッコイイ16ビートのフレーズでした。こういうフレージングはロックンロール・ベースの醍醐味です!

~休憩~

「ジャスティン」の余韻の中、15分間の休憩があります。
僕はこの時間を利用して、ロックを語れる年長の友人でもあり、ザ・タイガースの男性ファンとしてリスペクトする大先輩でもあるYOUさんご夫妻の元へご挨拶に伺いました。さくらホールの車椅子席は高い位置にありとても見やすそうでした。良かった良かった!

開演前、そしてこの休憩時間には、洋楽のBGMが場内に流れていました。おそらく「タイガースでカバーしたことのある曲」というコンセプトで選曲されていたのではないでしょうか。
ビートルズの「今日の誓い」、ローリング・ストーンズの「テル・ミー」などがかけられていたのですが、音量は小さめ。僕はスピーカーの真ん前だからよく聴こえたけど、後方席のお客さんはどうだったのかな・・・。

10曲目「Long Good-by」(インストゥルメンタル)

Rocknrollmarch

セットリスト後半は静かにスタートしました。

会場のほとんどのお客さんが、この曲が演奏された意味をご存知のはず。
メインの旋律は、キーボードのなおこさんが奏でます。インストですのでオリジナルより全体の尺は短く、ピーもここではまだ登場しません。
ステージ後半のイントロダクションとして、また次曲「道」への伏線として、お客さんに「ピーが音楽界に、タイガースに戻ってきたきっかけとなった曲」を静かに提示する、という趣向のようです。

そんな中、エンディングのNELOさんのリード・ギターがかなり「ロックして」いましたね。

11曲目「

Theroad

「Long Good-by」が流れている間、ほとんどのお客さんが次曲「道」を予想し、ピーが入場してくるシーンまで頭に描けたと思います。進行は正にその通り・・・「道」のイントロが始まると、スーツに着替えたピーがステージ下手からゆっくりと登場しました。

「初日ならではのシーン」という貴重さも含めて、個人的にはこの日最も印象に残った曲。いやぁ感動しました。
と言うのも・・・「キンチョーの夏」状態のピー先生、思いいれのある曲だけに・・・というのもあったでしょう。歌詞や譜割の間違いがあったんです。ところが、その瞬間瞬間での、二十二世紀バンドの対応の素晴らしさよ!とにかくこの日の「道」はその点抜きには語れません。

まずはメンバーの中、ピーのリード・ヴォーカルに字ハモのコーラスをとるシーンの多いALICEさん。
ピーが歌いながら「あっ、歌詞間違った!」と微妙に動揺した瞬間、ピーが歌っている誤ったヴァースの歌詞にコーラスを合わせたのです。ピー先生、どれほど心強かったことでしょう。

また、曲の最後の最後、一瞬歌詞が出てこなくて焦ったのか・・・ピーは遅れて出てきた歌詞のタイミングで歌ってしまい、オリジナルとは1小節ズレた譜割となってしまいました。
すかさずALICEさんがJEFFさんに目で合図。JEFFさんは「合点承知!」とばかりに即興で譜割を組み替え、何とバンドメンバー全員が難なくそれに合わせたのです。
これは本当に凄い!だって、何度も稽古している曲の譜割を、全員が瞬時にその場で組み替えたんですよ。逆に言えば、稽古を積み重ねてバンドメンバーに阿吽の呼吸が生まれているからこそ、それができたということなのです。
その切り替えはあまりにもなめらかで自然で、背中に電気が走りました。もしかするとピーは、自分のヴォーカルが譜割を崩したことすらまったく気づかず「道」を歌い終えたかもしれません。

これがジュリーと鉄人バンドの場合ですと、ジュリーが歌詞や譜割を間違った際には、バンドはあくまで正しい進行を崩さず、ジュリーが何処かのタイミングで正規箇所、歌詞に舞い戻ってくるのを待つ、という決め事があるようです。ですから、例えばジュリーのヴォーカルと柴山さん達のコーラスの歌詞が違ったまま曲が進む、というシーンをこれまで何度か僕も体感してきました。

しかし、ヴォーカリストとしては経験の浅いピーに磐石のフォローをすべく、二十二世紀バンドの場合は、すべてをピーに合わせるのです。充分な稽古とバンドの一体感が無ければできないことで、「道」で彼等はそれを証明したと言えます。
この日の打ち上げの席でJEFFさん達が
「ヒヤッとしたけど、うまくいったね!」
と語り合っているのが目に浮かぶようです。

そんな素晴らしいバンドに支えられ、ピーの歌う「道」は本当に胸に沁みました。やっぱりこれは、単に上手くソツなく歌う、というのでは意味が無い・・・曲のテーマに向き合って、ピー自身が歌ってこそ意義のある名曲なのです。
「友よ♪」でトニックに戻る、手作り感溢れる斬新なコード進行にも改めて感動させられました。


12曲目「晩秋」(原曲「旅愁」)
13曲目「同学」(原曲「仰げば尊し」)
14曲目「浮雲」(原曲「埴生の宿」)

「道」の後に、なおこさんのMCがありました。
これから歌われる唱歌3曲の原題、ピーがその曲にどのような解釈を加えていったのか・・・丁寧に説明してくれたのですが、どのタイミングだったでしょうか、ひとしきり真面目にお話された言葉の最後に「・・・という、なおこです!」と自己紹介オチをつけたものですから、メンバーが「なにそれ!」と総ツッコミ。JEFFさん達が次々に便乗して「JEFFです!」「ALICEで~す!」と自己紹介を始めてしまい、場内は大爆笑でした。
これ、ひょっとしたらこの部分のMCのお約束なのかもしれません。でもそこは初日ならでは。愉快なハプニング、といった感じの和やかなワンシーンでしたね。

さて・・・この唱歌3曲については、纏めての記述となってしまいごめんなさい。
白状しますと、僕はピーの『道/老虎再来』『一枚の写真/楽しいときは歌おうよ』のCDは購入しましたが、『晩秋/同学』は購入していないのです。この日歌われた「浮雲」がそのCDに収録されているのがどうかも分かりません。LIVE終演後、まずはこの3曲のタイトルを調べるところから、このレポートの下書き作業が始まったほどでした(すぐにピーファンの先輩が「パンフに載ってるよ!」と教えてくださいました)。
ただ、CDを聴いていなかったが故に「LIVE会場で初めて体感する曲」の贅沢感があり、新鮮でした。

当然、3曲すべて原曲は知っています。
あの曲がこんなふうになるのか!と、そのアレンジに驚きの連続。特に「仰げば尊し」をモータウン・ビートに変貌させた「同学」は、演奏も素晴らしかったです。


15曲目「一枚の写真

Apictureofmymother

この日、セットリスト中盤のこのあたりから、さすがのピー先生にも若干の疲労の色が見えました。MCでも息が上がり、「キンチョーの夏」だけではない、明らかに体力消耗の気配。
当たり前のことなのです。67歳にして初めての、完全に自らが主を張る全国ツアーの初日。長丁場のセットリストの中で、手を緩めることなくドラムを叩き続け、歌を歌う・・・これを涼しい顔でずっとこなしていたなら、それはもうこの世の人じゃない・・・。
心配になりましたが、結論から言うと、セットリスト後半でピーは見事に体力を巻き返してきました。この中盤は、マラソンで言う折り返し地点を過ぎてしばらくした頃の状態。一番苦しい時間帯だったのでしょう。

疲れに勇躍立ち向かい、ここで披露された名曲こそ「一枚の写真」。2012年の中野サンプラザ公演と大きく違うのは、この入魂のバラードをピーがドラムを叩きながら歌った、ということです。
LIVE後、いつもお世話になっているピーファンの先輩が「この曲でピーのドラムスが聴けないの?と思った曲が2曲ありました」と仰っていました。ザ・タイガースの名曲「シー・シー・シー」と「ラヴ・ラヴ・ラヴ」のことで間違いないでしょう。それはもちろん僕も同感。
でも僕はこうお返事しました。
「その代わり、この曲をドラム叩きながら歌うのか!と驚かせてくれた曲が2曲あったじゃないですか」
と。
「ルーキー・ルーキー」と、そしてこの「一枚の写真」のことです。中野の時は、ハンドマイクで歌い、歌い終わると「ハンカチを用意してきたんですけど」とおどけるシーンもあった「一枚の写真」。今回はドラマー・瞳みのるとして亡きお母さんにこの歌を捧げたのでした。

まぁ、「歌詞を覚えるのが本当に苦手で」と語るように、ピーとしてはこの大切な曲の歌詞を、ドラムセットでカンペ見ながら完璧に・・・という考えもあったのかもしれません。ドラムを叩きつつ、左横の紙を見ながら歌うシーンがこの曲では何度も見られました。その紙に歌詞が書いてあったのかどうかまでは見えませんでしたが、たぶんそうだったんじゃないかなぁ。

疲れからか、または歌に集中していたせいか、2度ほどオカズが突っ込むシーンもありました。右手の振り下ろしの後、左手の溜めが効かずに「ダダッ」と両手連続でタムを打つような感じになっていたのです。それでもピーは、テンポそのものを乱すことはありませんでした。

そんな時、Ichirohさんがブラシでスネアを優しくポン、ポン、と叩いてリズムをサポートします。Ichrohさんの視線はピーの一挙手一投足に鋭く注がれ、どんな不測の事態が起こっても自分がサポートするんだ、という静かな気合に満ちているようでした。
この日はそんな事態が起こることはありませんでしたが、長いツアーの中で、ひょっとしたら今後ピーのドラムスにも大きなミスが出ないとは限りません。しかし、Ichirohさんがいれば大丈夫!と、初日のステージを観ていて僕は確信したのでした。


16曲目「花の首飾り」(中国語Ver.)

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ピーの疲労が見えたシーンは、この曲まで続きます。
「一枚の写真」が終わると、誰もが知るあのアルペジオ・イントロが鳴り響きました。
ドラムセットを離れ、急いでステージ前方へ駆けてくるピーですが、マイクのセッティングもあり、歌い出しにギリギリ間に合いません。「おっとっと!」という感じの苦笑を浮かべながら、ピーが中国語で歌う「花の首飾り」が始まったのですが・・・。
うまく声が出ません。
慣れないリード・ヴォーカル、妥協をせずここまで全開で歌ってきたピー。これまでにない喉の酷使。
アマチュアの僕にも経験があります。LIVEの途中でいきなり声帯がおかしくなる感じ。思いっきり声を出す激しい曲は平気なのに、抑えた声でバラードを歌おうとすると喉が言う事を聞かず、音程を合わせようとすればするほど声がガサガサと掠れて音を失っていくあの事態が、この「花の首飾り」でピーにも訪れてしまったようでした。

ピーは気力を振り絞り歌いました。その姿は、むしろ上手く歌うよりも感動的だったのではないでしょうか。
サビでは、ALICEさんがオクターブ上の高音で主メロをサポート。ALICEさんはとても美しい3度、5度のハーモニーをここまで聴かせてくれていましたから、オクターブとはいえユニゾンのコーラスには良い意味で意表を突かれました。
もしかしたら、本当はアルトでハモる予定だったパートを、ピーの喉の異変を察知して急遽オクターブの歌メロに切り替えたのかもしれません。というのは、この曲の直後、ピーがALICEさんを振り返って照れ笑いのような表情を投げかけたのです。ALICEさんはニッコリ笑ってそれに応えていました。
そんな2人の雰囲気から、僕はこの曲中でALICEさんの何かしらの機転があったのでは、と推測したのですが・・・。

また、喉の疲労以外に、ピーには特にこの曲では大きな緊張があった、とも考えられます。
後から先輩に伺ったお話では、この日客席にすぎやまこういちさんの姿があったのだそうですね。そりゃ緊張もしますよ!「歌」について、かつてザ・タイガースをしごいてくれた先生なのですからね・・・。

(後註:このレポを読んでくださったピーファンの先輩が、すぎやま先生だけでなく橋本淳さんも同席していらした、と教えてくださいました。この曲でのピーの緊張には、かつての恩師お2人が観にきてくれたことへの感動と、若干の照れくささもあったのかもしれませんね)

17曲目「シー・シー・シー

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実は、「花の首飾り」とこの「シー・シー・シー」の曲順にいまひとつ自信が持てません。前後逆だったようにも思えるし・・・。でも、「花の首飾り」のイントロで「おっ、ようやくタイガースの曲来た!」と自分が思った記憶があるので、この順序で書きました。もし間違っていたら、ごめんなさい。

(後註:この曲順で正しいようです!)

「シー・シー・シー」の前には、ALICEさんのMCがありました。客席に語りかけるように
「みなさん!次の曲では・・・」
と言った後、唇にひとさし指を当てて
「し~~~~~っ」
囁くやいなや、間髪入れず鳴り出すベース。
おおっ、正調・ザ・タイガースの「シー・シー・シー」の音だ。サリーの音だ!と感激。
同じ音階をアップテンポのエイト・ビートで弾くというシンプルなベース・ラインであるだけに、あの独特の「ヴァイオリン・ベースをピックでタテノリに弾く」音が際立つのです。例えば、ジュリー1994年のLIVE『ZU ZU SONGS』で吉田建さんが弾いたこの曲のイントロは、サリーのイメージではありません(もちろん、それが悪いわけではありませんが)。でもこのJEFFさんの「シー・シー・シー」は、タイガースの音に限りなく近いです!

リード・ヴォーカルは、スタンドマイクでピーが担当。
「シー・シー・シー」は、タイガース・ナンバーとしてピーのドラムスが重要な曲のひとつです。
2011~12年のジュリーとのツアーで魅せてくれた、ブレイク部のあのお茶目なフレージング・・・残念ながら再結成のステージでは「シー・シー・シー」自体がセットリストから外れたことで、今回のセトリ入りへの期待がファンの間で大きくなっていた曲かと思いますが、ピーはドラムを叩かずヴォーカルに専念する方法を選びました。
確かに、この曲でピーのドラムスが聴けないというのは僕も残念です。
でも・・・イイですよ!ピー先生がアクションを交えて歌う「シー・シー・シー」。
喉の変調も、こうしたアップテンポで声を張り上げる曲想ならば大丈夫。

「I'm so high♪」で万歳!(とは言っても、腕を真上に突き上げるのではなく、「君の魅力にマイッタ!」的な万歳です。「お手上げポーズみたいな感じ」と言って伝わるでしょうか・・・)
「I'm so down♪」では肩をすぼめて両手を下に。
「I'm so blue♪」では、イヤイヤをするように胸に手を当て、「ブルーな気分」を面白おかしく表現してくれたピー。これには、訪れたすべてのファンが目を奪われたと思います。
この先の会場にご参加のみなさまも、キュートなピー先生のアクションに心してヤラれちゃって下さい!

18曲目「時の過ぎゆくままに」

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この初日を迎えるにあたって僕は、「本家タイガースではジュリーが歌う曲を、ピー或いはバンドメンバーが歌うことになるだろう」という心構えをしてきました。
僕はそれを楽しめる自信がありましたし、むしろ「せっかくだからアッと驚くマニアックなタイガース・ナンバーをやってくれないかな~」と期待していたほどです。

ただ、まさかソロになってからのジュリー・ナンバーが飛び出すとは、まったく考えもしていませんでした。
しかも、「超」がつく大ヒット曲ですからね。イントロの瞬間はもうビックリ仰天。
予想していなかったことだけに、もしもこの曲をピーまたはバンドの男性陣が歌っていたら、果たして普通に受け入れられていたかどうか・・・僕自身分かりません。

でも、意外や女性のなおこさんが歌い始めて、「あぁ、良い感じだな・・・」と。
先に、なおこさんの印象について「歌のお姉さん」と書きました。古今東西、後々にまで歌い継がれていくであろうあらゆるジャンルの名曲の数々。それを、メロディーに忠実にハキハキと、しかも情感を以て素直に歌う、ということ・・・それは、資質に恵まれた女性こそが適任なのです。
今回ピーが「時の過ぎゆくままに」を採り上げるにあたって、なおこさんの存在は天恵だったと思います。

ジュリーファンも少なからず訪れるであろう、今回の全国ツアー各会場。この曲を歌うなおこさんには、とんでもなく大きなプレッシャーがのしかかっているかもしれません。でも、初日のような歌声を聴かせてくれたらきっと大丈夫。僕はそう感じました。
頑張って欲しいです。ツアー参加はこの初日が最初で最後となる僕ですが、この先も自然体で「時の過ぎゆくままに」を丁寧な情感を込めて歌っていくなおこさんを応援します。

さて、そんな今回の「時の過ぎゆくままに」・・・何と言っても一番の見所は、ピーのドラムスですよ!
基本的にバンド・アンサンブルは原曲レコーディング音源の忠実なカバー。もちろんピー先生もそうなのですが、各パーツへの打点、強調箇所が、井上バンドとも鉄人バンドとも楽曲解釈が変わってくるのです。こういうところが、ピーのドラムスの魔力です。

この曲はやはり、イントロ、1番と2番の繋ぎ目、そしてアウトロに登場する、堯之さん考案のあのギター・リフのフレーズが強く印象に残りますよね?
これからツアーご参加のみなさまは、正にそのギター・リフの箇所でのピーのハイハット(客席から向かって右端にセッティングされている、二重になっている小ぶりのシンバル)を叩く様子に是非是非注目して下さい。ギターのワンフレーズごとに、「しゃしゃしゃしゃ!」とスネアやタムよりも遥かに強いアクセントで、ハーフ・オープンにしたハイハットを打つシーンがあります。
これまで何度も「時の過ぎゆくままに」はジュリーのLIVEで聴いてきた、と仰る方も多いと思いますが、ピーのドラムスに括目すれば、これまでにない新しい感覚で聴けるはずですよ。
個人的に、今回のセットリストの中でピーのドラムスの一番の見せ場はこの曲だと思っています。

ちなみにこの曲の後ピーのMCがありましたが(最初、ゼ~ハ~しながら「・・・諸々、聴いて頂きました」と身も蓋もないことを言って笑わせてくれました)、「なんとか沢田研二のこの曲を広めたい」とのことでした。
なんでも、「時の過ぎゆくままに」は中国でも台湾でも現地の歌手が歌って有名な曲なのに
「沢田研二があまり知られていないのが私は悔しい!」
のだそうです。
「本家は違うんだよ」と教えてあげたいんだとか。


勝手な思い込みかもしれませんが、今回この曲が採り上げられたことで、ちょっとピーの意外な面を見た気がしました。先生時代、ジュリーのソロ活動には全く興味が無かったのかな、と思っていましたから。
少なくとも
「沢田が歌って大ヒットした曲です」
ということは、当時から知っていたようですね!


そしてMCは
「それでは、ここからはザ・タイガースのヒット曲の数々をお送りします!」
と続いたのでした。


19曲目「僕のマリー

Tigersred

この「僕のマリー」から「都会」までの4曲は、いわゆる「メドレーサイズ」の演奏形態で披露されました。それぞれの曲の前後で音が完全に繋がっているわけではありませんが、フルサイズの演奏ではなく、短めにアレンジされているのです。
タイガース当時も、そんな形で数曲を一気に演奏する「タイガース・オリジナル・メドレー」のコーナーがあったのでしたね。ここからの4曲は、それを踏襲したセットリストだったのでしょう。

まずはザ・タイガースのデビュー曲「僕のマリー」。リード・ヴォーカルはNELOさんです。
甘やかで、それでいて男性らしい艶のある声。違和感はありません。今回のセットリストの二十二世紀バンドのヴォーカル分担は、本当によく考えられ割り当てられていると思います。

イントロから登場する印象的な「ずっ、ちゃ~ん、どこどこどこ♪」というドラムスのキメ部は、ピーとIchirohさんが同時に叩きました。これ、呼吸を合わせるのは相当難しいんじゃないかなぁ・・・ピタリと揃ったのは、積み重ねた稽古の成果ですね。

20曲目「モナリザの微笑

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リード・ヴォーカルはALICEさん。
いやぁ、女性が歌う「モナリザの微笑」って、独特の雰囲気が生まれて良いですね。Aメロの歌詞で「僕は・・・♪」と男性1人称で歌うじゃないですか。それが女性のあどけない声に、意外と合うんですよ。

この日ようやくここで登場したのが、ピーの得意技”トップシンバル剣舞”。Ichirohさんと2人揃っての6つ打ちヴァージョンでした。

21曲目「落葉の物語

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リード・ヴォーカルは代わってIchirohさん。
Ichirohさんが全編リード・ヴォーカルを担当するのはこの1曲だけのようですが、いやいやこんな美声を隠し持っていらしたとは。「コートに、包んだ♪」なかなかの「ショコラテ」なヴォーカルでしたよ。

「ふたりで、見つけた♪」からの横揺れも、スタンディング3人のメンバーで。
オリジナルではトッポが歌う追っかけコーラス・パートは、ALICEさんがよく通る声で再現してくれました。
ピーのドラムスのメリハリも、2011年の復帰後ずっと変わらず素晴らしい演奏です。

22曲目「都会

Tigersblue

リード・ヴォカールはなおこさん・・・だったと思いますが自信がありません。とにかくこの曲で僕は、ずっとピーのドラムスを観ていました。
まずイントロで「おおっ!」と。これは多くのファンも同様だったのではないでしょうか。ここまでのタイガース・ナンバーは「想定内」の選曲ばかりでしたからね。
僕は「意外な選曲」として「あわて者のサンタ」あたりを予想していたんですけど(今になって考えますと、それはさすがに季節感無さすぎですか・・・恥)、「都会」とは渋い!
いや、ピーにとっては自然な選択だったのかな。タイガース最後の半年間の思い出の1曲、音楽に復帰した今、もう一度やっておかねばならない曲・・・そんな曲だったのでは。

タイムリーなタイガース・ファンの先輩方に、解散に向かっていった当時のタイガースのお話を伺っていると、「大好きな曲なのに、悲しい気持ちがとりついている」曲としてよく挙げられるのが、「誓いの明日」「散りゆく青春」、そして「都会」の3曲です。
「誓いの明日」「散りゆく青春」2曲は、2011~12年ジュリーとのツアーで採り上げられ、ピーが笑顔でドラムを叩いたこともあり、ファンの悲しみはある程度洗い流されたようです(特に「誓いの明日」)。
そんな中、微妙なスタンスで置き去りにされていた曲が「都会」。『サウンズ・イン・コロシアム』で、ドラムセットに就いて「ドスン!」と一打してから始まるあの頃のピーの「都会」の演奏は、今聴くとどうしてもその胸に秘めた「悲壮な決意」を感じさせ、荒んだ心をそのまま音に映しているかのようです。

しかしこの日は・・・「さぁ叩くぞ!」という「陽」のパワーをピーのドラムスに感じました。
フレージング自体は、ここぞという時に”鬼神ロール”が炸裂するなど、『サウンズ・イン・コロシアム』とそれほど大きな違いは無いのです。それでも、聴こえてくる音は全然違う、と思ったんですよ。もちろんそれは、後追いながらタイガースの歴史を知っているが故の自分の受け取り方、気持ちの問題もあるのでしょうが・・・。
メドレー・サイズの4曲の締めくくりとして、ピー初のソロ・ツアーにふさわしい選曲だったと思います。

23曲目「美しき愛の掟

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この曲の前にMCがあったと思うのですが・・・これも
よく覚えていません。ごめんなさい。
ここから先のタイガース・ナンバーは、オリジナル通りのフルサイズでの演奏となりました。

お馴染み、ピーのハイハット→オープン・ハイハットの2打によるシンプルながら鋭いフィルから始まったのは、「美しき愛の掟」。イントロのNELOさんのリード・ギターもイカしてましたね。

歌が始まって、「お、この曲はJEFFさんが歌うのか~」と思ったその瞬間
「え?ちょっと待てよ・・・」
と、固まりましたよ僕は。
「こ、この曲をベーシストが歌うの?!」

まだまだ記憶に新しい、2011~12年のツアー、そして再結成の『THE TIGERS 2013』ツアー。サリーが激しく体躯を揺らし魅せてくれた、狂乱・情熱の16ビート・・・「本物」を体感してしまった以上、「美しき愛の掟」はあのベース・フレーズ抜きでは成立しない、という域にまで耳に馴染んでいます。
あの手数、あのフレット移動を、歌いながら弾くことができるのだろうか・・・そもそも「やってやろう!」と心決められるものだろうか・・・それともJEFFさんは、難易度の高いその2番のフレーズを、1番の繰り返しでシンプルなフレーズ演奏に変えて切り抜けるつもりなのだろうか。
でも、それは僕としては受け入れられない!

などと失礼千万が過ぎる思考を素人の僕がめぐらせてしまっているうち、曲はあっという間に進行して、さぁ問題の箇所・・・2番Aメロへ。
JEFFさん、凄かった!
あのフレーズを、まったくフレットを見ずに演奏しながら歌ったのです!

すぐ後に続く展開部は、シンプルなルート・トーンの下降フレーズに切り替わるのですが、JEFFさん、そこではフレットをチラッと確認しながら弾くんです。
つまり、曲中最も難易度の高い箇所だけをソラで弾いてしまうという状況・・・これは、「歌も演奏も妥協せずに必ずやり遂げる!」というJEFFさんの、想像を絶する反復個人練習の証に他なりません。素晴らしい!

この曲はピーのドラムスも相変わらず凄くて、”鬼神ロール”も連発されていたけど・・・僕はJEFFさんの熱演・熱唱からずっと目を離すことはできませんでした。
これぞ本気のプロフェッショナル。JEFFさんはじめ二十二世紀バンドのメンバーが、どれほどの志で今回のツアーに臨んでいるか・・・それを象徴するような「美しき愛の掟」でした。

24曲目「シーサイド・バウンド

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ピー先生の
「ここで、ジュリーならこう言うでしょう・・・もうひと盛り上がりするぞ~!」
のシャウトから、いよいよ「シーサイド・バウンド」。
イントロが始まってふとセンターブロックを見ると、お客さんは1列目から総立ちとなっています。

リード・ヴォーカルが誰だったか、これがまたよく覚えていないんですよ(泣)。ほぼ全員歌っていたような記憶があります・・・。
ピーも歌っていましたが、どちらかと言うとシャウト部に全力を注いでいた感じでした。ドラム叩きながら、途中でマイクを口元に近づけたりなんかして。「ひゃっは~!」みたいなシャウトもあったような・・・。

間奏のステップも、スタンディング3人のメンバーは全員がやってくれました。特に動きがしなやかだったのはNELOさん。リード・ギター弾きながらも余裕のステップです。
ティンバレスのパートは、Ichirohさんが小ぶりのタムを叩いてくれます。「シーサイド・バウンド」用に、チューニングが高い音に設定されていたようですね。


25曲目「君だけに愛を

Tigersred

続けざまにこれ!
イントロでテンポアップするまでのドラムスのフィルは、ピーの単独演奏です。この曲のドラムスをピーが叩く、となれば一番の見せ場ですからね。

リード・ヴォーカルはJEFFさん。
この曲も「美しき愛の掟」同様、ベース弾きながら歌うのは相当凄いことなんですよ~。一番大変なのは、「僕の胸のつぶやきを♪」のところ。ここもJEFFさん、勝手に指が動く状態にまでバッチリ仕上げてきています。
そして「あたたかいハートに♪」で、じりじりと上昇するベースライン、痺れました!

この曲に欠かせない指差しアクションは・・・さすがのピーもドラム叩きながらでは無理、ということでALICEさんが元気に頑張っていましたが(僕の席からは確認できませんでしたが、アレンジから判断するとなおこさんもやってくれていたのでは、と思います。いかがでしたか?)、ふと見ると控え目ながらIchirohさんの”スティックごと指差し”が炸裂しまくっていました。
確かIchirohさんはこの曲で、タンバリンをスティックで打っていたんじゃなかったかな。とすれば、ドラムスはほとんどピー単独で曲全編を担っている、ということでもあります。
で、Ichirohさんの指差しはそっと差し出すような感じだっただけに、指す方角はその都度変えていたけど、距離的に近いお客さんに狙いが集中していました。最前列でしかもIchirohさんの真ん前の席にいた僕は、2度ほどジャストで狙い撃たれたのでありました。ありがとうございますありがとうございます!


26曲目「悲しき叫び~蛍の光」

Peelive6

次曲「ラヴ・ラヴ・ラヴ」との繋がりなどから考えれば、タイガース的に「アイ・アンダスタンド」と書いた方が通りが良さそうですが、ヴァージョンが明らかに違うため、「蛍の光」と表記しました。
「悲しき叫び」との合体ヴァージョン元については、パンフにピー先生の解説が掲載されています。そこで少しだけ触れられているように、「悲しき叫び」は、ビートルズ解散後、それぞれがソロになってからのジョン・レノンとポール・マッカートニーが二人ともカバーで採り上げた、という珍しい曲でもあります。

『THE TIGERS 2013』の時の進行と同様、曲の途中でピー先生からの挨拶並びにバンドメンバー紹介がありました。
二十二世紀バンドの紹介順は、ALICEさんから始まってなおこさんがトリでした。ふと「年齢順なのかな?」と考えてしまった僕は、とても失礼な奴です。レディー・ファーストに始まり、最後もレディーで締めくくるというジェントルマン・ピー先生の気遣いでしょう。きっと!

そして曲が終わると同時に、会場誰しもが予想した通り、ピーがあの名曲のフィルを力強く叩きました。

27曲目「ラヴ・ラヴ・ラヴ

Tigersblue

イントロのフィルを叩いたピーはサッとスティックを置き、そこから先のドラムスはIchirohさんに任せて、ステージ最前のスタンドマイクに駆けてきました。
後半「僕のマリー」以降の怒涛のタイガース・コーナーで、ずっとヴォーカルをバンドメンバーに託していましたからね。それに、この曲が来たということはどう考えてもこれでセットリスト本編は幕となりましょう。あの素晴らしいピーのドラムスが聴けないのは寂しいけれど(特に、エンディングの”鬼のキック288連打”)、最後に主役のピー自らがフロントで歌う構成は必然と言えます。

「愛の世界♪」の箇所、ジュリーと同じタイミングでLの字を作るピー先生。サビはもちろん、ステージ、場内が一体となっての「L」揺れとなります。
NELOさんのギター・ソロが躍動する間、ピーはマイクから少し下がった位置で”クネクネ・ピー・ダンス”まで披露。このダンス、ワルツにも応用可能なのか・・・(笑)。

ピーがドラムスを叩いていない分、エンディングは先の再結成ステージと比べると尺が短めとなっています。それでも、最後の最後まで力いっぱい高音を張り上げて熱唱するピーの姿に、「ラヴ・ラヴ・ラヴ」の真髄はしかと見てとれました。

演奏が終わると全員でお客さんの声援に応え、メンバーは一度退場。やはりこの曲の余韻を以って、セットリスト本編は締めくくりとなったのでした。

~アンコール~

28曲目「老虎再来

Theroad

大きな拍手に迎えられて、6人が再登場。
最高の雰囲気に乗ってか、ここまでのステージの手応えあってか、全力疾走で駆けてきたメンバーも。

アンコールに残された曲は、ファンならばこの時点で容易く想像できたことでしょう。
まずは「老虎再来」です!

さて、今となってはどのタイミングだったか忘れましたが、ピーはセットリスト後半に着替えてきたスーツの上着を脱ぎ、さらに数曲後にはサスペンダーも肩から外して「完全大暴れモード」になっていました。
このアンコール部は、その状態のままでの登場。
で、この「老虎再来」ではとにかくピーがステージ狭しと動き回ってくれた(アンコール2曲とも、ドラムはIchirohさんに任せてリード・ヴォーカルに専念)のですが、ちょうど下手側(目の前!)から上手側へと移動する後姿が・・・何とも言えずキュートでした。外したサスペンダーがちょうどお尻のあたりに張り付いている感じなんですよ。その状態で、ジリッ、ジリッと歩を進めていくピー先生・・・ちょっとみなさまも想像してみてください。萌えてきませんか?

最後の1回しでは、ピーが「何所までも天(そら)の果て、行ってみよう海の果て♪」と歌うヴァースに、JEFFさん達が「ろ~こ、ろ~こ、ろこさいらい、再来!再来!老虎再来♪」のメロディーを重ねての対位法コーラスも導入され、大盛り上がり。
やっぱりこの曲はLIVE向きだ、と思いましたし、若いメンバー全力のコーラスが、曲に大きな力を加えるのです。ピーはこの曲を中井さんの打診もあり「新生タイガースのキャッチ・ナンバー」として作曲したわけですが、今は”瞳みのる&二十二世紀バンド”の看板ナンバーとしてさらなる高みに到達したのかもしれない、と感じさせました。
「老虎再来」、名演でしたよ。この先の全国ツアー各会場でも、盛り上がること間違いなし!

29曲目「楽しいときは歌おうよ

Apictureofmymother

いよいよ大トリです。
初日から全開、ステージ上の全員が持てる力を尽くし、考えうる限りのレパートリーを惜しみなくつぎ込んだセットリスト・・・オープニングのドラム・ソロを加えれば、何と全30曲。
ここまでの素晴らしい時間、その感動に包まれながら、会場はこのラスト・ナンバーに大団円を感じとり高揚したことでしょう。ほとんどのお客さんが立ち上がってのフィナーレとなりました。

「最後のひと暴れ!」とばかりにピーは激しいアクションを繰り出し動き回ります。
作曲当時、盟友タローに「この曲、何かが足りないよ」とアドバイスされ、仕上げ段階で考案したというキャッチ・コーラス・・・ピーはその「ランラン、ランラン、ラランラン♪」のパートを歌いながら掌をグッと手前に引き寄せるポーズで、「みんなも一緒に来いよ!」の合図。もちろん心得たお客さんは、声を合わせて歌います。

最後のコーラス・リフレインで、ハンドマイクのピーが踊りながら僕の正面まで進出してきました。
その場でクルリと背中を向けたので「えっ?」と思ったら、ピーは背中を伸ばし、持っていたマイクをタムの上からIchirohさんに向けました。Ichirohさんはちょっと照れくさそうにしながらも、ドラムを叩きながら首を前に出してコーラスに参加。声、バッチリ拾えてましたよ!


☆    ☆    ☆

こうして、記念すべきピーの全国ツアー初日のステージは、大成功に終わりました。

ピーとメンバーが別れを惜しみ退場した後、再度の拍手に応えてピーが1人で最後の挨拶に登場。
その際も、2012年日本武道館にてジュリーが思わず命名した「瞳オチャメ」なキャラが炸裂・・・1度引っ込むと見せかけて「おっと、大事なことを忘れてた!」といった感じでステージ中央に舞い戻り、お馴染み”片膝つきの投げキッス”でめでたく〆となったのでした。

とても良かった、とにかく楽しかった・・・もう、すべてが「予想以上」のステージでした。
贅沢なセットリスト、お客さんの雰囲気、ピー先生の人柄が滲む構成・・・色々ありますが、良い意味で予想を裏切られ最も感銘を受けたのは、やっぱりコーラス・ワークや個々のリード・ヴォーカルも含めた「バンド・サウンド」の魅力でしたね。

「ピーが若いメンバーとバンドを結成して全国ツアーをやるらしい」ということは、ジュリーが今年のお正月LIVE『ひとりぼっちのバラード』のMCで教えてくれました。
正直僕はその時、「年代の離れたバンドとうまくいくのかなぁ」と心配したものです。
まったくの杞憂でした。
考えてみれば、ピーはこれまで長年、先生として様々なタイプの若者と共に学を志し過ごしてきたのです。
今回の二十二世紀バンドの若いメンバーの集結は、それぞれ個性の違う若者たちと時代ごとに身近に接してきたピーだからこそ編み出し、為しえたアイデアであり英断だったのだ、と思えます。

ピーは今、「優れた音楽を次の世代に残す」ことを考えているようです。
自ら作り上げてきたタイガースの名曲群にとどまらず、各国の民謡、唱歌、中国のポップス、そして昭和の大ヒットした日本の歌謡曲(「時の過ぎゆくままに」)・・・それを、この先の新しい音楽を作っていく、担っていく世代のメンバーと共に表現し、ステージに立つということは、ピーにとって自然な発想だったのではないでしょうか。

若者の貪欲な向上心、情熱は大きなエネルギーとなりピーを一層奮い立たせ、また若いメンバーはピーから得難い経験、伝達力を吸収する・・・ピー理想の音楽観がここにあります。
その明快な相乗効果。結成間もないバンドが初めてのステージでここまでの一体感を見せるには、並々ならぬ努力、稽古、意志疎通があったはずです。そして、それをやり遂げるだけの体力も。

僕としては「初日ならでは」のバンドのハプニングなどがあっても、それはそれとして楽しもうと考え臨みましたが、二十二世紀バンドの演奏については、何とほぼノーミス!熟練のバンドですら見受けられる、ツアー初日特有のぎこちなさや手探り感は、一切感じることがありませんでした。
しかもその上で、遥か年長のピーの緊張を完璧にサポート。本当に素晴らしいバンドですよ。
これから長いツアーが続く中で、疲労が溜まってくる時期もあると思います。でも、この初日に見せてくれた情熱、気遣い、チームワークをもってすれば、必ず乗り越えられると思います。
これからの各会場にご参加のみなさまは、バンドメンバーにも大きな声援、拍手を送り続けて欲しいです。それが大きければ大きいほど、今回のピーのツアーはますます素晴らしいものになります!

僕はこんな初日のステージを特等の席で観ることができ、身に余る光栄でした。
おぼろげな記憶を辿りながら書いたレポートですが、この日のピーと二十二世紀バンドの素晴らしさが少しでもみなさまに伝えられていれば幸いです。
拙ブログ恒例の大長文レポにおつき合い頂き、ありがとうございました~。

20140613


☆    ☆    ☆

さて!
僕はずっと前から、「ピーの初日が終わったら、そのひと月後にはジュリーのツアーが開幕だ!」と思って日常を過ごしてきました。
いよいよ次回更新からは、『三年想いよ』全国ツアーに向けて、”恒例・全然当たらないセットリスト予想”シリーズを開始いたします。

毎度のことですが、一応僕としては「当てに行って」ます。先輩方からしますと「それはナイでしょ~」みたいな曲も採り上げるかもしれませんが・・・渋谷公会堂の初日までに、3、4曲ほどの楽曲考察記事を書けたら良いな、と考えております。
よろしくお願い申し上げます!

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2014年6月12日 (木)

ネタバレ予定のお知らせ

またまた更新間隔が空いてしまいました。

今週は、LIVE盤レコードでしか聴けないジュリー・ナンバー(つまり、僕は正式な形で音源を持てていない曲)・・・マニアックかつ大変な名曲をお題に、ちょっと特殊なスタイルの記事を下書きしていたんですけど、思うところありその記事は秋になってから仕上げることにしました。
おかげで、吉田Qさんのデビュー・アルバム『幸せの黄色いジャケット』の「なんとなくでは済まないライナーノーツ」が、1週間以上ブログのトップに鎮座することになったわけですが・・・記事を読んでアルバムを購入してくださった数人のジュリー・ファンの先輩方の反応は上々!
大長文を書いた甲斐があり、嬉しいことです。


さて、そうこうしているうちに、明日からいよいよピー先生の全国ツアー(瞳みのる&二十二世紀バンド『エンタテイメント2014』)が開幕しますね~。
ピー先生のファン、ザ・タイガースのファンはもちろん、ジュリーファンのみなさまも、参加される方は多いでしょう。先日の読売新聞夕刊記事には、「自分にしかできないことを」とのピー先生の言葉があり、斬新なステージが期待できそうです。
ピー先生がどんな趣向を凝らしてくれるのか・・・若いバンド・メンバーの演奏も楽しみです。

僕は明日初日の渋谷公演に参加いたします。
実は、先輩方に怒られてしまいそうな素晴らしいお席を頂いております。オフィス二十二世紀さんでのLIVEチケット購入は今回が初めてでしたので、これはいわゆるビギナーズ・ラックということでしょうか。
さくらホールは初めて訪れる会場で、どんなふうにステージが見えるのかは全然予想がついていないんですけど、ピー先生や各メンバーの細かい表情や動きもよく見えるのでは、と胸躍らせているところです。

もちろんレポを書きますが、side-Bではなくこちら本館の方に執筆します
ツアー開始早々いきなりのネタバレとなりますので、初日以降の各会場にご参加予定で、セットリストなどのステージ内容を参加当日まで知らずにいたい、と仰るみなさまは、うっかり読んでしまわないよう充分お気をつけくださいませ。


では・・・久々の更新がお知らせだけでは寂しいので。
ピーファンの先輩からお借りしている貴重なお宝本、『スクリーン』(1968年発行のタイガース特集号)から、若虎ショットをいくつかご紹介いたします!

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それでは、次回更新はピー先生のLIVEレポートです。
頑張ります!

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2014年6月 4日 (水)

吉田Q 『幸せの黄色いジャケット』

Yellowjacket

1. QQQQ
2. 夜桜デート
3. 焼肉食べちゃうよ
4. 雨とサンシャイン
5. 女は女でつらいのよ
6. 黄昏の僕ら
7. 夕陽のエレジー
8. 横浜ブギ
9. 涙がこぼれちゃう

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さぁ今日は満を持して、2014年4月、遂にリリースされた吉田Qさんのファースト・アルバム『幸せの黄色いジャケット』をご紹介いたします。ジュリーwithザ・ワイルドワンズの「涙がこぼれちゃう」「いつかの”熱視線ギャル”」作詞作曲者としてお馴染み、あの吉田Qさんのデビュー・アルバムですよ~。
ジュリーファンのみなさまにも是非聴いて頂きたい、素晴らしい作品です。

全9曲。正直、多作なQさんのデビュー・アルバムとしては収録曲が少ないかなぁとも思いましたが、そのぶん一気に聴けますし、今回収録が見送られた名曲の数々が今後に控えていると考えれば、先の楽しみもあろうというもの。
まずはこの選りすぐりの9曲について語れば、記事としても許容範囲の長さに纏められるでしょう。

さて、どんなスタイルで書いていこうか・・・発売当時から色々考えていたのですが、ここは一発「ライナーノーツ」風で行こう、と決めました。
というのは・・・。

今回のQさんのデビュー・アルバム、とても豪華なんです。まずプロデューサーが、あの木崎賢治さんですよ!
鈴木雅之さんの推薦文も掲載されています。ご存知のかたも多いでしょうが、鈴木さんはこれまでに、Qさん作詞作曲の「ラスト・ラヴ」(「はなまるマーケット」エンディング・テーマ)、「プロポーズ・アゲイン」(イオングループ『ハッピー・バレンタイン』タイアップ)、「恋はくじけず~You can't worry love」(アブラ×ラッツのバック・トゥ・80's・コラボレーション)の3曲をリリースしています。

広告的には、カラオケ大手の『JOY SOUND』とのコラボにより配信も実現。
あとは、何と言ってもブツの形状がね・・・通常のCDプラケースではなく紙ジャケで、しかも巨大!
何処にどうやって収納したものか迷うほどですが、そこはほら、ジュリーファンならそんなサイズの作品にも慣れていますでしょ?
みなさまに本作のだいたいの大きさを知って頂くには、このように並べてみれば分かり易いはず。


Qq01


こうして見ると、かわいいモンではないですか!

歌詞カードも、大きな紙に全曲分がドド~ン!と記載され、折りたたんであります。
(ジュリーで言うと『BEAUTIFUL WORLD』の歌詞カードに近い感じでしょうか)
プロフィールあり、アホみたいにデッカイQさんの写真あり・・・と贅沢極まりない中、敢えて今回足りないコンテンツを挙げるとするなら、第3者執筆による「ライナーノーツ」だと思ったんです。

いや、ライナーノーツっておそらくアーティスト本人にとっては無用の長物なんだろうとは思います。あくまでリスナーの立場からの解説文ですから、どんなに名のある評論家が書いたとしても、アーティスト自身やプロデューサー、レコーディング・スタッフさんしか知りえない真実とは乖離が生じることもあるのかなぁとも考えます。
ただ、ライナーを読みながら音楽を聴いていると、そこからそれぞれの曲を好きになる「ヒント」を得ることがあります。これは、ライナーが絶対的に正しいことを書いているからということではなくて、聴き手が個人的に曲の魅力の「気づき」に至るきっかけとなる・・・そういう意味での「ヒント」です。例えば僕にも、渋谷陽一さんのライナーが無かったら好きになるのがかなり遅れただろうな、と思えるビートルズ・ナンバーがたくさんあります。

まぁ僕の場合は一般人のド素人ですから、大したことは書けません。しかしささやかながらではありますが2010年にLIVEでお会いして以来、Qさんとの交流も続いていますし、作曲段階の構想や過去のデモ・レコーディング作品の逸話をチラホラと個人的に伺ったこともあります。そんなエピソードを僕の知る限り文章に練りこんでいけば、みなさまの「気づき」のきっかけくらいは作れるかもしれません。
元来音楽について深読みが過ぎるタイプの僕なので、邪推妄想の類が大半を占めることは平にご容赦頂くとしまして・・・「ちょっとワケ分からんぞ」とお感じの際には、Qさんご本人による真の曲目解説をご参照くださいませ。さらにワケ分からなくなること請け合いです。

それでは、いざ・・・伝授です!


☆    ☆    ☆

1.「QQQQ」

アルバム『幸せの黄色いジャケット』は、全9曲トータルで1本のコンサート・セットリストを体感できるような収録曲配置となっている。実際、この「QQQQ」は、最近のQさんのLIVEオープニング・ナンバーとして定着しているようだ。

古き良き時代の歌謡曲、ポップスへのQさんのリスペクトと愛情が集約されたこのオープニング・イントロダクション・・・「ようこそここへ・・・QQQQ♪」と始まる歌い出しの歌詞は、言うまでもなく桜田淳子さんの名曲「わたしの青い鳥」へのオマージュである。
リズミカルなラップ調(でもしっかりとメロディーに載っているのがQさんならでは)でQさんが身の上話を歌い始め、聴き手はいきなりエキセントリックな独特の世界に引き込まれる。かと思いきや、サビでは「いつか何処かで聴いたような」と誰しもが胸をくすぐられる王道メロディーが炸裂。それぞれのヴァースによってQさんの歌い方が変化しているのが凄い。

Qさんは基本的にオーヴァーダブでコーラス・パートも自ら担当する。が、この「QQQQ」には加えて収録曲中唯一のゲスト・コーラス・クレジットがある。どの部分での参加だろうか。「QQQQ」はコーラス・ワークもとても素敵な曲なのだ。
サビの追っかけコーラスはその中でも秀逸。特に「きっと誰もが・・・Ah~Ah~♪」のパートは、そのメロディー自体からして歌メロにも匹敵する素晴らしさだ。また、強烈な歌詞を耳で追っていて購入当初は聴き逃していたが、2番Aメロの1回し目にはドゥ・ワップ風のバス・コーラスが登場し、陽気にひとはしゃぎしている。

サビの最後に登場する3連符の歌メロは、かつてQさんが作曲しそのままお蔵入りとなっていた「ため息でちゃう」というナンバーのサビのキメ部を踏襲、進化させたものである。
「ため息でちゃう」は熱心なQさんのフォロワーでなければ知り得ない曲だが、知っている人達の間ではとても人気があった(ビートルズの「涙の乗車券」を思わせるギター・リフ・アレンジに「イエスタデイ」のコード進行によるメロディーが載っていて、ビートルズ・ファンの僕としても大好きな曲だった)。
しかしQさんは思うところあってかこの曲を一旦封印、こうして新たな曲のパーツとして組み込む道を選んだようだ。Qさんは大変な多作家だが、それぞれの曲をこうして極限にまで突き詰める形で、今回のデビューアルバムのラインナップに取り組んだのだろう。

近いうちに、この「QQQQ」で始まるLIVEを是非生で観たいものだ。Qさんが関東で歌ってくれるのは、いつの日だろうか。
そもそもQさんは来年1月でいよいよ三十路。「30手前の半人前だもの♪」と歌うこの曲をLIVEのオープニングとして採り上げる期間はもう残り少なくなってきているのかもしれない。1日も早い関東圏でのステージ実現を望むばかりである。

2.「夜桜デート」

問答無用、完璧な名曲。
最高にポップなメロディーと胸キュンな歌詞、抜群に抜けの良いヴォーカルを擁したこの名曲は、当然アルバムの目玉と位置づけられ、『JOY SOUND』とのタイアップによるMVも制作された。

Qさん自身が主人公を演じるこのMVで展開するストーリーは、曲の歌詞で綴られる「最高にウマくいっている若い恋人同士」の物語とは少しばかり時間差がある。二人が運命的に出逢った当初の状況をモチーフとしているようだ。
Qさんと彼女以外のMV登場人物では、会社のスケベ上司役のオッサンが素晴らしくイイ味を出している。スケベカクテルを飲んだオッサンと、Qカクテルを飲んだQさんの対決は、オッサンの秒殺圧勝。Qビーム、発射のアクションが派手な割にはビックリするほど弱い。
しかし一度は地に伏したQさん、”JOY SOUNDマイク”を手に「夜桜デート」を歌うことで遂に彼女を口説くことに成功。Qカクテルを飲んで衣装を派手に変身しただけでは、ビクともオトせなかった彼女である。真に力を発揮する男の心意気というのは格好や見てくれではない、という世の真理がここにあろう。
あと、ダンスが得意な会社同僚役の男子が、いかにも女の子にウケそうな感じのルックスだ。QさんがJOY SOUNDで歌を歌わなければ、最終的に彼女のハートを射止めていたのは彼だったのではないか。
「JOY SOUNDは、モテない男の味方です」というメッセージが、このMVには込められているに違いない。

さて、曲想は軽快なモータウン・ビートだ。
イントロのギターとキーボードのユニゾン、入れ替わり立ち代わりでヴォーカルをサポートする裏メロのバッキング・アレンジ、躍動する打ち込みのフィル、ハンドクラップ・・・ミックスは徹底的に練られ、一切の妥協も無い。
またこの曲も、練り上げられたコーラス・ワークが重要な聴かせどころだ。その美しいメロディーばかりでなく、狙いすました合いの手のシャウトもQさん自身がこなす。世の若いシンガー・ソングライターやヴォーカリスト・・・新たな才能は数多く現れてはいるが、自作曲のコーラス・セルフ・プロデュース能力をも併せ持つヴォーカリストは本当に稀。Qさんにはそれがあるのだ。

完全無欠にポップな歌メロは開放的で伸びやか。一度聴けばスッと頭に入ってくる。しかしBメロやピアノ・ソロ間奏のコード進行には一瞬雰囲気を変えるフックがあったり、アコースティック・ギターは弦も切れよとばかりの凄まじいテンションのストローク。決して安全パイを振ってなどいない。これこそ良質なポップ・ソングというものだ。
よく聴き込むと、2番左サイドでホイッスルのような不思議な音色が跳ね回っている。2番の歌詞は「つき合い始めた二人」の距離がグッと接近するシーンを描いていて、否応なく幸せな気持ちにさせられるのだが、このさりげない音色がそんな楽しげな歌詞を盛り上げるのに一役買っている。聴き手がたとえ意識していなくとも、必ずその耳には飛び込んでいる・・・そんな音だ。素晴らしいアレンジである。

Qさんの曲には、時に底抜けにハッピーでハートウォームな歌詞が見られる(「いつかの”熱視線ギャル”」や「プロポーズ・アゲイン」などが挙げられる)。「夜桜デート」は現時点でその最高峰か。
歌詞中登場する「山手通り」から、僕は渋谷の旧山手通りをどうしても連想してしまう。Qさんがここで歌う「山手通り」が果たして渋谷或いは東京のそれなのか、或いは神戸なのか群馬なのか(いや、さすがにそれはナイか)は定かではないにせよ(註:更新直前、Qさんに教えて頂きました。中目黒だそうです。好きだった女優さんの熱愛夜桜デートが報じられた現場なんですって・・・。学生時代に1人で桑田佳祐さんの家を見に行った時の風景を思い出しながら詞を作ったんだとか)、関西人のQさんの歌詞に東京や横浜の風景が多く登場するのは、関東で過ごした大学生時代(桑田さんの後輩だそうだ。Qさんはサザンオールスターズの大ファン)によほど素敵な恋をしたのだろう。
ただ、7曲目「夕陽のエレジー」や大トリ「涙がこぼれちゃう」などの曲を聴くと、その後の切ない別れもあったのかな、と勘ぐってしまうのだが・・・持って生まれた才能で想像の世界を描いているのかもしれない。

それにしても、MVの冒頭でQさんが彼女にひと目惚れするシーンでは、凄まじい強風が吹いている。偶然なのか演出で風を吹かせたのかは不明だが(あんなに桜がカメラの前を偶然舞い飛ぶとは考えにくいので、「たぶん吹かせている」に1票)、強い風に髪を流麗にかき上げられる可愛らしい彼女と、バッサバッサと髪を乱されメガネをかけ直しながら起きぬけの目をゴシゴシとこすり、彼女に見とれる冴えないサラリーマン役のQさんとの対比が神がかり。個人的に「夜桜デート」のMVで一番好きなのは、最初のこのシーンである。
(もっと細かいところまで言うと、酔い潰れてダウンしたオッサンを見て、同僚男子二人が「あ~あ」と顔を見合わせているシーンも、何故だかとても好きである)

こうして花吹雪の中出逢った二人は、やがて「過ぎる電車を眺めながら話しこむ」ことで遂に結ばれる夜を迎える(朝まで見つめていたいけど、明日も仕事で早い、嫌になるね♪)。
最初にこの曲を聴いた時、僕はそんなストーリー展開にふと、浜田省吾さんの「君に会うまでは」の歌詞を重ねた。最終電車を初めてやり過ごした夜の恋人同士の歌だ。これは聴き手の勝手な連想なのだが、そういえばQさんは確か浜田さんのファンだったはず、と思ったりしたものだ。

3.「焼肉食べちゃうよ」

大阪のLIVEで初めてこの曲が披露された夜、参加していたケンケンジ姐さんからの現地速報で曲タイトルを聞いた時には、一体どんな内容の曲なのかサッパリ想像がつかなかった。
ひと言で表すと、「高嶺の花に恋した凡人が、ちょっと調子に乗って夢を見る」歌だろうか。「たまには豪勢に焼肉食べちゃうよ」という、慎ましき貧乏男子が一瞬の夢に昂ぶる姿を描いているのだと思う。一見オフザケで人を食ったようなフレーズの中に、淡い恋心の奇跡的な高揚が優しく注入されているのは、Qさんの得意技のひとつでありQミュージックの真髄なのだ。
とにかく、ポップなメロディーに載るフレーズひとつひとつの語感が素晴らしい。ファンキーに叩き込んでくるQさんのヴォーカルを追いかけながら、夢中になって本のページをめくっていくような感覚で聴ける曲である。

アレンジの肝はシンセ・ホーンのアンサンブルとエレキ・ギターのカッティング。特にBメロからサビにかけてのカッティングはヴァースの移行に応じパターンも複雑で、素晴らしく渋い。
ホーンは、鍵盤の高いキーで奏でられたトランペットがソロ・パートで大活躍だが、ここぞという箇所ではガツン!複数のホーン・セクションで攻めてくる。凝った旋律を奏でる重厚な低音担当パートが右サイドに振られているミックスも効果的だ。

ところで、Qさんをして「本気で惚れた」と歌わせしめた人気女優とは、複数の女優さんの集合体のイメージなのだそうだ。「お酒のCMやってる人さ♪」とは壇れいさんのことらしい。
Qさんが「惚れた」と公言する女優さん、女性アナウンサーはあまりにその数が多すぎるので把握することも大変だが、「美しいのに面白い性格(キャラ)♪」というのが最も重要なキーワードなのかもしれない。

4.「雨とサンシャイン」
(以前執筆した楽曲考察記事はこちら

僕だけでなく、Qさんをデビュー前から応援してきたファンにとっては特に思い出深いナンバーだろう。
ジュリーwithザ・ワイルドワンズへの楽曲提供で一躍その名を広めた2010年、Qさんは『ASAHI SUPER DRY THE LIVE』(千葉ポートパークで開催された夏の音楽フェス)の一般公募枠にエントリーした。公募枠には8組が名を連ねており、ネットで配信された演奏映像を対象に視聴者投票が行われ、獲得票数の上位4組が名だたるプロのバンド、アーティストと共に1万人の前でステージに立てる、という仕組みだった。そこでQさんが勇躍エントリー映像に抜擢した曲こそ、この「雨とサンシャイン」だ。
ジュリーファンが一丸となり応援したこともあって、Qさんは見事一般公募枠を得票第2位で通過、千葉ポートパークのステージに立った。「雨とサンシャイン」はもちろんそこでセットリスト入りを果たしている。

ちなみにその時の一般公募枠で得票1位通過したバンド、Sissyはその後間もなくメジャー・デビューを飾っている。「次こそQさんの番だ!」と期待してから今年のCDデビューまでには意外と待たされた感があるが、その時間は無駄ではなかった。Qさんの”代表作”と言ってもいい「雨とサンシャイン」は、時を経て現在の30才手前のQさんの作品として伝えられる方がしっくりくる。
レコーディング作品のリメイクとしても、かつての非売品CDヴァージョンと比較して最も受ける印象が変化しているのがQさんのヴォーカルだ。巧みな語呂合わせも、単にトリッキーなだけではない・・・「雨とサンシャイン」を作った当時のQさんの思いや拘りそれ自体が進化しているように思う。歌詞に登場する、Qさんが大学時代を過ごした神奈川の地名ひとつひとつに、時が経つほど愛着が沸いてきているのではないだろうか。

演奏では、左サイドのエレキ・ギターのバッキングが出色。美しいヴォーカル・メロディーの隙間隙間を繋ぎ合わせるような単音を駆使してのバッキングで、アレンジの要となっている。歌詞カード・クレジットにある通り、プロの達人ギタリストが招聘されているようだ。

5.「女は女でつらいのよ」

前述の『ASAHI SUPER DRY THE LIVE』でオープニングを飾ったナンバーとして、こちらもファンにとっては思い出深い1曲。軽く35度は超えているか、という酷暑の野外ステージで、見るからに暑そうな黒のスーツを身に纏ったQさんがいきなりのトップギアで汗を飛ばしながら熱唱したシーンは、「初めて生でQさんを観た」記憶と直結し今でも脳裏に焼きついている。

『ASAHI SUPER DRY THE LIVE』でのオープニング曲について、Qさんは「さよならラヴ」(非売品CD『さよならラヴ』のタイトルチューン。カップリングは「二人の胸にも」「雨とサンシャイン」)とこの「女は女でつらいのよ」のどちらを採り上げるか最後まで悩んだそうだ。
「さよならラヴ」も素晴らしいナンバーだが、結果として「女は女でつらいのよ」を選んだのは大正解だったと思う。「歌謡曲復権」の雰囲気を強く持つこの曲は、この日Qさんのそんな個性を広く訴え知らしめることに成功した。このフェスで共演したプロのバンド”GOING UNDER GROUND”のメンバーが、閉演後に一般公募枠出演者の印象を尋ねられた際にQさんの名前を挙げ、「昭和な魅力を感じる」と語っていたのは、「女は女でつらいのよ」のインパクトを受けての言葉だったと考えられる。

さて、実はQさんは、メロディーやアレンジの細かい部分を絶賛するとものすごく喜んでくれるのだが、歌詞については手放しで褒めてもイマイチ反応が薄いことが多い。照れているのだろうか・・・それとも邪推が過ぎるのか、はたまたQさん自身にとってあまりにリアルな世界なので、他者の感想が入り込む余地が無いのか。
確かにQさんの曲はまず「良いメロディー」が作られることが前提、絶対条件として生まれると聞く。どの曲も、キャッチーなAメロ、胸躍る展開部、明確なサビがあり、時にはそれが入れ替わり配置される。その組み立てこそがQさんの曲作りの肝であり、最も心砕かれている作業だ(ほとんどの作品が「メロ先」なのだそうである)。しかし僕も含め多くのQさんのファンは、その詞の素晴らしさにシビれ、Qさんの大きな魅力として捉えている・・・それもまた事実。

そしてQさんの歌詞には、自身の体験をトコトンまで追い込んで、なおかつ客観的に描くパターンもあれば、独特のイマジネーションから生み出される物語形式の作品もある。例えば、この「女は女でつらいのよ」の歌詞は完全に女性視点。しかも「帰る家のある」男性に恋してしまった女性の独白スタイルである。
ところが
「名前さえも知らない街中のすべての人達に あなたとのこと言いふらしたい♪」
「違う人になりすましたい そしてもう一度逢いたい♪」
など、その語り口は徹底的にリアル。
何故若い男性のQさんにこうした特殊なシチュエーションの女性の心境が描けるのか。もちろん才能もあるだろうが、やはり普段からQさんが愛聴する古き良き昭和の歌謡曲や演歌の名曲群から自然に学び、身につけたのではないだろうか。

加えて親しみ易いメロディーとアレンジ。「女は女でつらいのよ」での「テーマ」とも言うべきイントロのシンセ・ブラスのメロディーは、デモ・テイク当時から変わっていない。
今回のレコーディングで新たに工夫されている点としては、まず間奏が挙げられる。トランペット、サックス、トロンボーンの3種の音色が短い間に代わる代わるソロをとるのだが、それぞれアドリヴ感を狙ったフレージングになっているのだ。3番手のトロンボーンなどはとにかく「陽気」の極みで、よくこんな際どい音階のフレーズをうまいことはめ込めたものだなぁ、と驚くばかりだ。
また、2番の終わり、間奏への繋ぎの部分では「テケテケ」ギターが聴ける。ちょっとしたアレンジの味つけではあるが、聴いていてなんだか嬉しくなる。「いざ間奏!」へと繰り出されるQさんのシャウトもイカしている。

短調の、しかも主人公の女性のドロドロの状況を描いた作品がこうも楽しげであることもまたQさんの個性であり、優れたポップス解釈。これまたQさんの代表曲のひとつと言えよう。
ちなみに曲タイトルは「寅さんの女性版があったら面白いだろうな」という着想から導かれたものだという。「女もつらいよ」ということだ。凡人にはなかなか思いつかない発想で、やはり天才的と言う他ない。

6.「黄昏の僕ら」

Qさんには数年間、大手プロダクションの育成アーティストとして修行していた時期があるのだそうだ。
ジュリーwithザ・ワイルドワンズへの楽曲提供もその頃のことだったようだが、もちろん楽曲提供にしても、ジュリワンのように見事採用され世に出された例ばかり、というわけではない。惜しくも提供選考から漏れた楽曲も当然あったわけだ。
この「黄昏の僕ら」は元々「Radio」というタイトルで、国民的な某アイドル・グループへの提供曲としてデモ・テイクも作られている曲だ。残念ながら選考からは漏れたが曲の良さは確かで、今回のデビュー・アルバムで晴れてQさん自身のナンバーとしてリメイク収録されることとなった。
デモ・テイクの段階では、16ビートを強調しJ-POP寄りの仕上がりとなっていたものが、今回は落ち着いた雰囲気の、メロディーの良さを前面に押し出したソウルフルなヴォーカル・ナンバーへと変貌した。Qさん自身の好みであると同時に、今のQさんの趣味性、志にグッと引き寄せたヴォーカル・テイクと見て良いだろう。サビにさりげなく「Ah~♪」とコーラスを加えたアイデアも成功している。

アコースティック・ギターのストローク・パターンやイントロのオルガンのフレーズなど、アレンジはデモ・テイクをほぼ引き継いでおり、ベースのファンキーなフレーズが歌メロのグルーヴ感をさらに増している。
Qさんの声域は広く、しかも高音、低音とも音のブレがまったく無い。「黄昏の僕ら」Aメロで登場する艶っぽい低音の素晴らしさ・・・このメロディー音域の広さは、他アーティストへの楽曲提供という点で皮肉にも仇となってしまった可能性すら考えてしまうほどだ。

「B→D#m→G#m→F#m7→B7」のコード進行、「F#m7→B7」の部分や、サビに登場する「Em」に最高の”ねじれポップ感”がある。聴けば明解、演ずれば難解・・・「黄昏の僕ら」は、「飽きのこないポップ・ソング」の条件を満たして余りある。
詞も「黄昏の僕ら」→「真夜中の僕ら」→「あの頃の僕ら」のフレーズ展開が心地よい。次曲「夕陽のエレジー」と併せ、「実際にお会いしてみると真面目で礼儀正しいQさん」の本質がよく表れた名曲で、Qさんがキャリアを重ねた将来にベスト盤をリリースすることになったら、最後の最後にファン投票で収録を勝ち取る・・・そんな1曲ではないだろうか。

7.「夕陽のエレジー」

個人的には今回のデビュー・アルバムで、アレンジやヴォーカルの完成度としては「夜桜デート」と並ぶ二大看板作品だと思っている。Qさん入魂の傑作バラードだ。
この曲はQさんの最初の非売品CD『涙の京都駅』に収録されていた(3曲入りのCDで、「涙の京都駅」「夕陽のエレジー」「口唇慕情」を収録)。2009年頃のLIVEでは「涙がこぼれちゃう」と共にセットリストの定番だったようだが、最近しばらくは歌われない時期が続いていた。それがここへきてLIVEのセットリストに再度採り上げられるようになり、『幸せの黄色いジャケット』での再レコーディングも実現。「遅れてきたQファン」にとっては嬉しい限りである。

アレンジも新たな「夕陽のエレジー」は、期待に違わぬ名テイクとして甦った。
スネアの音色選択がまずドンピシャ。イントロのライド・シンバルはもしかすると後録りの手打ちかもしれない、と思わせるほど魂が込められていて、グッとくる。と言うより「これ本当に打ち込みか?」と疑ってかかりたくなるほどグルーヴ感のあるドラムス・トラックなのだ。要所要所で16分音符に跳ねるキックも素晴らしい。「何を歌っているか」も含めた楽曲解釈がしっかりできていなければこうはならないはず。ひょっとすると、Qさん自身のプログラミングなのだろうか。
ベースには2番Aメロに叙情的な仕掛けがある。サビで優しく刻まれるキラキラ系のキーボード、優しく曲を包み込むピアノ・コードの突き放し、トラックの長さを感じさせない完璧な曲展開とアレンジ・・・すべてが素晴らしい中で、やはり最大の聴きどころはQさんのヴォーカルだろう。淡々と歌っているようでいて、込められた情感は収録曲中MAXだと思わずにはいられない。
エキセントリックな言動が魅力のQさんだが、ここにあるのは真剣の直球で歌に対峙する若きシンガー・ソングライターの、てらいのない素ッ裸の姿である。生真面目かつ普遍的なバラードも、紛れもなく「吉田Q」の真髄だ。

そしてこの曲も歌詞がたまらなく良いのだ。
別れた恋人への未練を断ち切れないまま、ひょんなことでその人と再会した時、そして彼女にはもう新しい恋の相手がいると分かっている時、自分へ向けられる冷めた顔さえ素敵に思えてしまった時・・・男はどういう態度で彼女に接するべきなのか。
「そっと涙こらえたなら、思い出はあなたと寄り添える♪」とQさんは歌う。これは男女が逆のシチュエーションでも同じだろう。このQさんの切なくも優しい朴訥な詞は、性別年齢を問わず聴き手の共感を広く呼ぶものと確信する。
愛を以っていさぎよく身を退く、とする、歌い手ならではのQさんの凛々しい決意がここにある。間違っても、いつまでも未練タラタラに彼女に電話をかけたりなどしてはいけないのだ。って、あれ?

「道ゆく男女達(ひとたち)が、やけに楽しそうに映る♪」
そんな寂しい心境は誰しも経験があるだろう。僕は、どうしても仕事の都合がつかず参加できなかった2011年のジュリーの正月コンサートの初日、夕刻ひとりで渋谷の街を彷徨っている時に、この歌詞部が頭を流れた。
ただ、Qさん自身はその歌詞部について、「今は楽しそうなその人も、同じように淋しく歩いている場面があるんだろうな」と語っている。深い。こういう卓越した感性が無ければ、こんな傑作を生み出すことはできないのだろう。
恋愛に限ったことではない・・・人が生きていく中でまま訪れる「寂しさ」「切なさ」をまったくの他人同士が自然に共有し得る名バラード、それが「夕陽のエレジー」である。

8.「横浜ブギ」

これは「QQQQ」ほどではないにせよ、比較的最近になって作られた曲なのだが、まるで「夕陽のエレジー」と「涙がこぼれちゃう」の2曲を収録順に時系列で繋ぐような内容の重要なナンバーとなっている。
ひょんなことで再会した彼女の前では「そっと涙こらえた」はずのQさんが(「夕陽のエレジー」)、一人の夜に涙をこぼし枕を濡らし、とうとう彼女に電話をかけてしまう(「涙がこぼれちゃう」)までの心の動きを描いているかのようだ。
それは
「あくまで現実(ほんとう)のことは下世話になりがちで だけど歌の中じゃ素敵な思い出と共に♪」
「せつなくてBoogie また涙がこぼれちゃう♪」
の部分を聴いていて僕が勝手に発想してしまったことなのだが。

詞も曲も全体的に明るく破天荒に突き抜けているのが逆に「せつなさ」のポイント。酔っ払っていたのかどうかはともかく、まずはハイな気分に自分を持っていくこと、そこから始まる彼女への再アタックなのだろうと解釈できる。たとえその先に待っているのが哀しい現実だったとしても。

曲想は楽しいスカ・ビートだ。Qさんの曲ではこういったリズム解釈でのアレンジが意外と目立ち、アルバム中「女は女でつらいのよ」にも同様の後ノリのグルーヴ(ピアノやギターの裏打ちカッティング)が見られる。
スカ・ビートとQさんのヴォーカルの相性は抜群で、字ハモの登場箇所が多いだけに、ふと単独のリード・ヴォーカル部になった時のQさんの声の艶、ドキドキ感もこの曲の魅力のひとつ。

2番Aメロだけに登場する、ひらひらと下降するようなキーボード・アレンジのアイデアが素晴らしい。Qさん自身が語っている「チャイナ歌謡のイメージ」を象徴する箇所だ。
僕としてはそのメロディー・フレーズから「琴」の音色を連想するが、実際はエレクトリック・ピアノだろうか。或いは「ガムラン」あたりの音色を高い方で弾いているのか。
間奏のエフェクトを効かせた2トラック・アンサンブルのリード・ギターも、Qさん自身の演奏と思われる。歌メロのハーモニー・パートを旋律に採用したフレージングと凝ったエフェクト設定が斬新。あくまで楽しげに開放的に、良い意味で軽く、気どらないギター・ソロを狙っているようだ。

こうした明るく人を食ったようなポップスのそのひとつ奥に切ない恋物語が隠れていることもまた、Qさんの「お調子」系ナンバーの特性であり、健全な毒性でもあろう。収録曲中「横浜ブギ」を最も好むタイプの聴き手は、もう「吉田Q」というアーティストの魅力から逃れることはできない。

9.「涙がこぼれちゃう」

ジュリーファンにとってはお馴染みのナンバー。待望のQヴァージョン公式リリースが遂に実現した。
歌詞カードには、エーベックス・エンターテイメントの(C)が付記されている。そして、『KUNIHIKO KASE MUSIC OFFICE』の文字もある(老眼進行のせいか、今回この記事を書くまで気づけずにいた)。
ジュリーとワイルドワンズのコラボに際し加瀬さんがQさんの作品採用を決断した瞬間から、今回のQさんのアルバム・デビューまで・・・確実に1本の線で繋がっているわけだ。

ジュリーwithザ・ワイルドワンズがきっかけでQさんを知った頃、Qさんのブログを遡り、「やむにやまれぬ事情で『涙がこぼれちゃう』をLIVEで歌うことができなくなった」と書かれてある過去記事を読んだことがあった。その頃のセットリストを見ると、「涙がこぼれちゃう」はよくセットリストの大トリで歌われていて、「いい感じ」だとQさん自身もこの曲を歌うことがとても楽しかったようだ。
ジュリーwithザ・ワイルドワンズへの提供が実現し、もちろんそれはQさんにとっては良いことではあったが、しばしQさんはこの曲と離れなければならなくなった。どんな気持ちだったのだろうか。
Qさんは、天下のジュリーが全編に渡りリード・ヴォーカルをとった「涙がこぼれちゃう」のジュリワンのレコーディングに立ち合った時のことを、「心を込めて歌う、ということがどんなことなのか思い知らされた」と回想していた。また、楽曲提供者としていち早く正規完成音源を手にした際には「大汗かきながら何度も何度も聴いた」とも。
「涙がこぼれちゃう」が自分の手を離れ大きくなってゆくのを、頼もしく感じていたに違いない。

数年が経ち、昨年のLIVE活動再開時から、いよいよQさん自身が歌う「涙がこぼれちゃう」が解禁された。もちろん今でも引き続き歌われている。
LIVEセットリストとしてだけではなく、デビュー・アルバムの大トリを飾る「代表曲」として、「涙がこぼれちゃう」はすっかり大きくなってQさんの元に帰ってきた。

巷では普通、他アーティストへの提供曲を遅れて自身がリリースする場合、アレンジや楽曲構成を大胆に変えたり練り直したりして差別化を狙うことが多い。しかしQさんは純粋にこの名曲のありのままの姿を最小限の伴奏でセルフカバーする方法を選んだ。演奏はアルバム収録曲中最もシンプルに仕上げられている。「曲の良さ」を信じて真っ直ぐに「歌」に臨んだのだ。
何と言ってもジュリーが歌った「涙がこぼれちゃう」があまりに素晴らし過ぎる。自作曲であるにも関わらず、Qさんとしてはリスペクトするアーティストが作った大好きな曲をカバーするような感覚すらあったのではないだろうか。
丁寧に、大切に歌わなきゃ、ということだろう。

ジュリーのヴォーカル・ヴァージョンとQさん自身のヴァージョン・・・聴き手からするとその比較はすこぶる楽しい。
ジュリーが歌うと、色気が凄い一方で、元々この曲が含んでいた「下心」の部分が消え去ってしまう。主人公の年齢がグッと時空を飛び、良い意味で完全に還暦世代の歌だ。青春時代に恋した相手との逢瀬、会話にはぎこちなさも無く、「落ち込むことがあったら電話しなよ」とサラリと言える・・・達観の境地にある、心通じ合う大人の男女2人の姿が頭に浮かぶ。
一方Qさんが歌う「涙がこぼれちゃう」は、いかにも若い青年らしい恋の歌である。ジュリワンのヴァージョンがリリースされた頃には考えもしなかったが、ひょっとしたら「電話しなよ」というのは、彼女への未練を断ち切れない自分自身の背中を押しているフレーズではないか、とすら今は思えてしまう。
Qさんの曲は本当に不思議だ。どちらの側の歌としても成立し、解釈の幅が広い。これはジュリーwithザ・ワイルドワンズに限らず、鈴木雅之さんへの提供曲でも同じ現象が起こっている。

また、2010年の千葉フェスのステージ後に少しだけお話した際、Qさんは転調ブリッジ部の「Come on baby♪」の部分について、「メロディーを変えて歌ってくれているんですよ!」と嬉しそうに語ってくれた。ジュリワン・ヴァージョンの「涙がこぼれちゃう」では、Qさん提供のデモを聴いたジュリーが、ジュリーなりのメロディー・アレンジを施しヴォーカル・テイクを完成させたようだ。

そんなこんながあって、再びQさん自身で歌われることになった「涙がこぼれちゃう」。
先に、電話をかけるのは是か非か、といったことを面白おかしく書いたのだが、実際のところそんな話はもうナンセンスなのである。「涙がこぼれちゃう」は普遍的なラヴ・ソングとなった。
もしQさんの中に具体的にこの歌詞に沿うような体験があっても、そんなことは全然無くても、昔なつかしい人達に向かって「CD出したよ。寂しくてやりきれない夜には聴いてみなよ」と今は言えるのではないか。

たまに優しい言葉をかけてくれたなら
それだけで人はきっと生きてゆけるのさ
だから寂しくてやりきれぬ夜は
ためらわず電話しなよ 涙がこぼれちゃう ♪

初めてジュリーwithザ・ワイルドワンズでこの曲を聴いた時、「冒頭からいきなり、なんて説得力のある、泣かせる詞とメロディーなんだ」と思った。聴き始めの一瞬で、冒頭のこのヴァースがサビなんだ、とすぐに分かった。
そう言えば、ジュリワンがNHK『SONGS』に出演しこの曲が歌われた夜、ファンではない一般の視聴者がたまたまテレビを見ていて気持ちを抑えきれなくなり、別れた彼女に電話をかけた、なんて話もネット上であったっけ・・・。

ジュリワン・ヴァージョンを聴いた時の衝撃、その後の逸話も含め、これぞ真に名曲である。これから先も変わらず、ジュリーの声でもQさんの声でも、僕らはこの曲に癒され続けていくだろう。

☆    ☆    ☆

といったところで・・・いかがでしょうか?
ちょっと聴きたくなってきたなぁ、というかたがいらっしゃったら、今すぐこちらをポチ!

完全にリスナー目線で書いておりますので、御本人にとって事実無根の深読み記述が多々あるかと思います。それらの点については、ほどなくダメ出しが入るでしょう。

Qさんには、他にまだまだ多くの名曲があります。
個人的には、「ゆきずりの女(ひと)」はファーストに収録されると思ったんだけどなぁ、とか、あんな曲、こんな曲・・・今回収録のどの曲ともタイプの異なる曲、いっぱいあるんです。
そもそも、2010年の時点ではありますが、Qさん自身が「自分の中での自信度第1位と第2位」に挙げていた曲が2曲とも収録から外れています。まだまだこの次、またその次がある、ということですね。
これからも拙ブログでは、吉田Qを応援し続けます。
みなさまも、是非!


では次回更新は、再度ジュリー・ナンバーのお題に戻る予定ですが、ピー先生のツアー初日に向けて仕事の移動BGMをタイガース・モードにしようと思っているので、ひょっとしたらそこからタイガース・ナンバーの記事構想が浮かぶかもしれません。

早くも猛暑が襲ってきたりして、気候の変化についていくのが大変な季節ですね。
みなさま、どうかお身体に気をつけてお過ごしください。

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