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2013年7月

2013年7月30日 (火)

加橋かつみ 『青春の残像』

Seisyunnozanzo1

1. ひとり
2. 水色の世界
3. 太陽の目の女の子
4. 夕陽の空
5. 愛は突然に
6. あの愛をもう一度
7. 貴女がいなくなった
8. 雨上がりと僕
9. つばさ
10. 夕陽を探して
11. 朝に見た夢
12. 花の世界

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『Pray』セットリスト、拙ブログでのネタバレ解禁の和光市公演まで、あとわずかです。
ネタバレ禁止期間に書いて参りました、ジュリーをとりまくプロフェッショナル・・・様々な作品をお題にしての更新、今回はそのラスト。
採り上げるのは、2年前からずっと探し続け今年に入ってようやく購入できたトッポの名盤『青春の残像』です。

僕はトッポのソロ・アルバムを1枚通して聴いたのはこの作品が初めてで、まだまだ楽曲背景についても分からないことだらけ、しかも収録曲それぞれの純粋なオリジナル・テイクとの細かい相違点なども把握しきれていないのですが・・・この『青春の残像』という作品は本当に気に入っておりますので、新規タイガース・ファンの素直な感想として今日は書かせて頂きます!
(不勉強にて、至らぬ記述もあるかと思います。ごめんなさい)

『青春の残像』は、トッポがザ・タイガースを離れて矢継ぎ早にリリースした三部作に収載されていた名曲の数々を、何と”マスター音源に手を加える”という手法で新たに世に問うた、特殊な形式のベスト盤です。

僕がこの貴重なCDを探し求めるようになったのは、2年前のこと。
ちょうど老虎ツアーを前に、タイガース・ナンバーの記事を書きまくっていた頃(ツアーへのトッポ参加の夢も捨てきれていませんでした・・・)に、たまたまYou Tubeで聴いた「ひとり」という曲にとても感動し、たとえこの1曲のためだけにでも何とか正規音源が欲しい、と考えたのでした。
「ひとり」は、タイガースのメンバーの作品の中では著しくジュリー・ナンバーに興味が偏っている僕をしても、トッポ独特の危うさ、脆さ、そして美しさの魅力が深く身体に入り込んでくるような戦慄にも似た感覚を抱かせ、「これは久々に、これまで見逃していた物凄い邦楽作品に出逢ったかもしれない」と興奮したものでした。

その時僕が聴いた「ひとり」は、『青春の残像』収録の、深町純さんアレンジのヴァージョン。
すぐ後に先輩方の指南で、オリジナル・リリース時のヴァージョンも聴いたのですが・・・聴き比べても、何故だか僕の心に強く響くのは深町さんアレンジ・テイクの方なのでした。タイムリーなファンでないが故のことなのでしょうか・・・。

ともあれ、僕は深町さんアレンジの「ひとり」の音源を求め、すぐさま「在庫あり」とされていたショップさんで『青春の残像』CDをネット注文するも、長期間待たされた挙句に結局「メーカー品切れにより発送できません」との連絡を受ける始末。
どうやら基本的に廃盤扱いの作品のようで、その後も中古ショップで何度か見かけたりもしましたが、ちょっと手の出ない高値がついていたりして・・・。

こういうのも運命だし、僕には縁が無かったのかも・・・とあきらめかけていた矢先、たまたまアルバム・タイトルで検索をかけたらアマゾンさんのページがヒット。何と、少し前までは確かに「現在取り扱いできません」の表示が出ていたはずなのに、いきなりの「在庫あり」・・・しかも中古ではなく新品の定価で!
何かの間違いなのかも・・・と半信半疑で注文したところ、キチンとした新品のCDがすぐに届いたのでした。

2012年1月24日の日本武道館で、有言実行の男・ジュリーが宣言した「近い将来」が遂に現実となった2013年にして、僕はとうとうこのトッポの名盤を入手・・・これもまた不思議な縁を感じずにはいられません。
『青春の残像』では1曲目に配された「ひとり」は、改めて聴いても素晴らしい大名曲でした。

ただ僕は、トッポの作品知識が乏しかったこともあり、アルバムを通して鑑賞することによって、「ひとり」という曲に”特殊”なスタンスを今回見出すに至りました。2年前に何とはなしに感じていた”戦慄”が、実体となってモロに身体にブチ当たってきたかのようでした。
そして、「ひとり」はこれだけの大名曲だけれども、ザ・タイガース再結成が実現しようとしている今、トッポ個人としてはもう封印してしまいたい曲なのかな、と・・・ヒヨッコなりに考えるに至ったのです。
まったくの検討外れな考察かもしれませんが、今日は、及ばずながらその辺りについて僕が考えたことを詳しく語りたいと思っています。

それでは、新規ファンの僕が何故「ひとり」を”封印されし名曲”だと改めて受け取ったのか・・・それについては、他収録曲(僕はやはり「ひとり」が圧倒的に好きですが、アルバムには他にも素晴らしい曲がたくさん収録されていました)の考察を先に述べる必要がありますので、まずはそちらから書いてまいりましょう。


Seisyunnozanzo2


↑ 歌詞カードより。トッポ、カッコイイじゃないですか~!

クレジットで目を惹くのは、トッポの作詞作品が非常に多いということです。いくつかの例外はあれど、『青春の残像』は”加橋かつみ作詞傑作選”的な意味合いもあったのではないでしょうか。
そして、僕が個人的に特に好きな曲も、トッポの自作詞曲に集中しています。

トッポの詞は、哲学的でありながらも難解なフレーズはまったく無く(だからこそ逆にトッポの”内なる声”の激しさが伝わってきます)、明快です。
愛されることの歓びと、愛が終わることの悲しみ・・・その後ふりかかる言いようのない孤独。
多くの曲でトッポはこの二面性を描きます。
基本的にハッピーエンド・ストーリーではありません。でも僕は、そんなトッポの歌詞には不思議と波長が合うようです。「泣き喚く」という感じではなく、「闇の中から俯瞰する」ようなアプローチが、アフターサイケの洋楽ナンバーを思わせるからかもしれません。
まばゆい愛が、そのまばゆさ故に主人公の元を離れていく・・・トッポの作詞作品では、そんな心象が淡々と綴られているのです。

例えば、収録曲中唯一のアップテンポ・ナンバーであり、ソウルフルなブラス・アレンジに載せて「ロッカー・加橋かつみ、ここにあり!」と思わせてくれるヴォーカルが炸裂する、3曲目「太陽の目の女の子」。
サビ部にカッコイイ変拍子が採り入れられていたり・・・個人的には「ひとり」の次に好きな曲です。

激しいラテン寄りの16ビート。タイトルや曲想だけで判断すると、「太陽の目」を持つ女の子に捧げる燃え滾るような愛の賛歌・・・であるべきです。
いや、もちろん歌詞冒頭の段階ではそれはその通りで

目の中に太陽が光る女の子
僕は夢中になってあとを追いかけ ♪

この辺りはノーマルと言うか、タイトルのイメージ通りの導入部。ただ、1番が終わる頃にはすでにストーリーの雲行きが怪しくなっていきます。

あぁ、誰か知らないけど
貴女の呼ぶ声が聞きたくない ひとりでいたい ♪

”貴女”の、ある意味天真爛漫な振る舞いに苦しむ主人公・・・でしょうか。

そして曲の最後には

今あなたは あの赤いまぶしい太陽
僕は深い海の底に沈んだ ♪

ここで「あなた」が平仮名になるということは、それまでの”貴女”と”あなた”は別人なのでしょうか?
いずれにしても、愛する人と僅かな光に包まれながら海の奥底でとどまっていたかった主人公の願いは霧散し、「太陽の目の女の子」という曲は、そのタイトルから想起するイメージとは真逆の、暗い海底の闇に置き去りにされて終わるのです。

続いて、ユーミン作曲の出世作として名高い5曲目「愛は突然に」。これも名曲です。
緻密なメロディーと壮大なアレンジを擁するバラード・ナンバーで、こちらも曲想とタイトルだけでイメージすると、突然訪れた至高の愛の歓びをテーマにしたものかと思ってしまいますが、歌詞の流れは「太陽の目の女の子」と同じく

初めて貴女を見たあの時

心が光に包まれ
驚きに何も見えずに
その日から愛が生まれた ♪

と、タイトルイメージ通りに導入しながらも、曲が進むと実はこの曲のタイトルは、”突然の愛の終わり”を示していることが分かってきます。

愛はある日突然に
私の胸の中で 悲しい音立てた ♪

続いて「世界はくらやみに包まれ♪」と、やはりここでも失意、深い絶望の淵に佇んでいる主人公のつぶやきを示唆する歌詞で曲がしめくくられます。
エンディングでの長尺のギター・ソロがまた情念溢れる素晴らしい演奏で、長調の壮大なバラードが最後の最後に深い悲しみを訴える・・・この構成は、トッポのヴォーカルと歌詞がもたらしたものでしょう。歌詞カードに演奏クレジットが無いのが残念。リード・ギターはどなたの演奏なのでしょうか・・・?

さらに7曲目「貴女がいなくなった」。
作曲の堀内麻九(護)さんについてはつい最近、体調不良を乗り越えて9月にニューアルバムのリリースが決定、というニュースが届けられたそうで、アルバムにはトッポは当然として、先日たまたま記事で採り上げた鈴木雅之さんも参加されているとか・・・要チェックですね。

2曲目「水色の世界」同様に、麻九さんの曲は僕にとってドノヴァンのような「サイケデリック・フォーク」といった印象があるのですが、メロディーだけ抜き出しますと、その瑞々しさ、美しさにドキリとさせられます。
「貴女がいなくなった」の場合は、サビがたった1度しか登場しない構成が斬新で、逆にそのサビメロの美しさが一層際立ちます。

空よ 花よ 僕の願いを
風にのせてゆけ ♪

瑞々しいメロディーにトッポ特有の高音で歌われる美しいサビ・・・トッポの詞もここでは”希望”を感じさせるのですが、やはり曲のしめくくりは

今 すべて昔のこと
愛は消えて むなしさだけ
後に残り 僕は一人 ♪

孤独に沈む主人公の姿が浮かびあがります。

そして8曲目、一見穏やかな小品のように感じられる中に、内なる孤独をぶつけるかのような激しいアコースティック・ギターのストロークがトッポの心情を投影している名曲「雨上がりと僕」。

雨が上がって陽が射し、白い花と水のにおい・・・普通に考えればそれは、すがすがしく明るい光景のはずです。
ところが

水に映る僕の顔
まえと違う 眼の中を誰も知らない ♪

今ここに貴女がいれば
僕は何もほしくないのに
あの日は 涙で眼のまえがくもり
今は何も話したくない ♪

水たまりに映った自分の表情に、自分しか知りえない暗さを見とって心を閉じる主人公。
いっそのこと、ずっと雨が降り続いてくれていた方が、そんな自分の顔を見なくても済むのに・・・という果てない苦悩が感じとれます。

と・・・ここまで『青春の残像』収録曲の中から、「ひとり」以外に僕が個人的に好きになった4曲を紹介させて頂きました。
それらすべてが、トッポの作詞作品です。
(他の人の作詞作品では、山上路夫さん作詞、村井邦彦さん作曲の「つばさ」が好きかな・・・。キレイな”「枯葉」進行”の3連バラードです)
先述の通りトッポの詞はシンプルなフレーズが多いだけに、それぞれの曲の共通点がすぐに明らかになってきます。
それは

「愛の終わり」を強烈に体験した後の、主人公の孤独。
そして、二人称「貴女(あなた)」の存在。

トッポが描く「貴女」は、世界の片隅にうずくまっていた主人公を、その気高さとまばゆさでもって、光の中に引き上げてくれる女性のようです。
しかし、そのまばゆさ故に(と僕には受け取れるのですが)破綻する愛。
後に残された主人公は、「貴女」と出逢う以前とは比較にならないほどの、いっそうの闇の中に沈み込む・・・それが僕の挙げた4曲に共通するシチュエーションと言えます。

そこで、僕が最も好きなナンバー「ひとり」です。
この歌詞もまた、何らかの「終わり」を体験した主人公が時を経ても身を置き続けている「闇」を歌った曲であると思われます。
ただし、先の4曲とは決定的に異なる点があります。二人称が「おまえ」なのです。

昨日のよう 泣き出しそうな
おまえは歩いて 明日に向って 一人で ♪

これはどうしたことでしょう。
「おまえ」とは、変わらず一人称で登場する「僕」の思い人である他曲の二人称「貴女」とはまったくの別人のような人物のことを歌っているのでしょうか。
改めて、Aメロの歌詞を紐解いてみます。

風が窓を通りすぎ 人の波に 流されて
夢のように日が過ぎ 喜び 悲しみ
後には 僕だけ 一人 ♪

先の4曲に比べ、この曲では”終わり”の日から少しばかり年月が経過しているようです。
「夢のように日が過ぎ」とは、主人公の虚無の中を、現実感もなくただ経過していく時間。「喜び」や「悲しみ」が通り過ぎた後には、感情すら失って佇む「僕」がひとり。
正に「ひとり」の状況を感じさせます。

とすれば・・・「おまえ」というのは「僕」の過去の姿、とは考えられないでしょうか。何か・・・放り出され、ひとりで歩くことを決め歩を進め始めた過去の主人公の姿。
「明日に向って」懸命にもがき歩く過去の自分を、自ら「おまえ」と呼び突き放すその儚さこそが、トッポの異端の才の表れのように僕には思えてくるのですが・・・いかがでしょうか。

そう考えていくと、『THE TIGERS 1982』に収録された「時が窓をあけて」が何と奇跡的に「光」を感じさせるシチュエーションを描いた名曲であるか、ということも改めて分かってきます。きっとあの同窓会はトッポにとって、とても素敵な時間だったのですよ・・・。
この「時が窓をあけて」については是非、年末の武道館前に考察記事を書いておきたいと思っています。

また、「ひとり」については作曲のタローについても書いておかねばなりません。本当にトッポにピッタリの素晴らしいメロディーなんですよね・・・。
ちょうどこの頃のタローは自らの音楽活動に「作曲」というアイディンティティーを確立させていた時期。自信に満ち溢れながらも、歌い手の特性をキチンと配慮した奥深さがあり・・・タロー幾多の名曲群にあって、「ひとり」もひときわ輝きを放つ傑作だと思います。

考えてみるとタローは、タイガース・オリジナル・メンバーの他の4人全員と、「作詞と作曲」のタッグを組んだ経験があるんですよね。これはザ・タイガースのメンバーそれぞれの関係を語る上でも特筆すべきことです。
2年前にも書いたことがありますが、もしも・・・もしもタイガースが新譜を作る、という話になったら、体調のすぐれないシローには作詞提供という形で参加してもらって、是非タローに曲をつけて欲しい・・・と、僕はそんな夢のようなことを考えたりもしているのです。

さて、いよいよトッポも加えた真・タイガース・・・オリジナル・メンバーによる奇跡の再結成が年末に実現します。
2人で和解の盃を交わした際、「結局どんなふうにタイガースをやりたいの?」というジュリーの問いに、後日トッポが箇条書きにしてきたという答・・・その1行目に
「友達に戻ること」
と書かれていたそうです。
ジュリーはその1行だけで、「それだけで、かつみの望んでいたことが分かった」と。

後追いファンと言えど、僕もトッポがタイガースを離れた様々な経緯について、今ではある程度の認識はしています。
ジュリーの謝意に涙まで見せたというトッポが、今回の再結成に臨んでまずしたためたその1行に
「もう、”ひとり”はイヤなんだ。タイガースをやるのなら、あの楽しかった時間に戻りたい」
という思いが込められているように僕には感じられます。

ジュリーは「友達に戻る」というトッポの意を汲み、冗談めかしながらも、トッポがジュリーや他メンバーとそれこそ昔の友達感覚で楽しげにタイガースの準備に取り組んでいる・・・そんな様子がうかがえるエピソードを、ソロツアーのMCで少しずつファンに話してくれているようです。
僕の次参加となる週末の和光市公演でも、トッポにまつわる話が聞けるのでしょうか。

ジュリーとトッポ・・・本当に、何とも表現しきれない不思議な関係の二人です。
ただ、ひとつ殻を破って考えれば、トッポはジュリーの歌手としての本質をいち早く見抜いていた数少ない人物だと僕は思っています。
先輩からお預かりしているお宝・・・1973年に発行された『沢田研二新聞』という冊子に、タローや加瀬さん、堯之さん達ジュリーの周囲の著名な音楽家が、「ジュリーとは・・・」と様々な”沢田研二論”を寄せているコーナーがあります。

そこで抜きん出て目を惹くのが、他でもないトッポの言葉・・・これは以前、2012年の武道館公演のレポート記事でも紹介させて頂いたことがあるんですけど、この機に今一度転載しておきますね。


(『沢田研二新聞 Vol.1』より)
彼の最高の武器---それはなんと言ってもあの美しさ、可憐さ、弱さだ。あんなにステージで、弱さ、色気を出せる歌手が他にいるかい?誰でもキレイなものは見たいもんね。
でも、彼に「いい顔してるね!」なんて言うと、馬鹿にされているととるんじゃないかな。と言うのも、彼自身は外見よりそのハート(胸の内)を見てほしいと思っている筈だから---。みんな美しい顔ばかりに見とれて、心を知ろうとしないからね。
反面、ステージなんかで、ウワー!とエキサイトした時のゆがんだ表情も、人間の強さ、あわれさ、なんとも言えないヒューマニティが感じられて、いいネ。そして、それが終わって、ふっと気を抜いて、ため息をつくようなところも大好きだ。
弱さ、はかなさを表現させたら抜群の彼も、人間的にはとても強い男だ。日本人特有の腹にグーッと押さえ込むような力を持っている。
タイガース時代、一番ケンカもした仲だけど、今から思うと、一番考え方が似ていたのではないかな。違い過ぎればケンカはしないでしょうから。昔の仲間というより、一人の芸人として見て、とても好きな人です。
---加橋かつみ(歌手)


1973年の時点で、「ジュリーはその容姿で語られることが多いけど、彼の本質はそこじゃないよ」とハッキリ語っているのは、この冊子にジュリーへの言葉を寄せた豪華メンバーの中で、唯一トッポだけなんです。これは本当に凄い・・・いやむしろ、微妙な距離を保っている、それでいてとても近い感覚すらあるこの二人の関係でしか出てこない”ジュリー論”だったのかもしれません。

そして・・・トッポが絶賛するジュリーの「弱さ、はかなさを表現させたら抜群」という才能は、他でもないトッポ自身の大きな武器であり魅力であることに、『青春の残像』を聴くと改めて気づかされます。
この、自身の稀有の才をトッポは自覚しているのでしょうか、それとも・・・?

僕は今から、年末のタイガース再結成のステージで確実に歌われるであろう、トッポの「花の首飾り」が楽しみでなりません。
2年前に生で聴いたジュリーの歌と、どのように違って響くのか・・・僕はジュリーの「花の首飾り」に白鳥の希望の歌を見たけれど、この曲の本質は実はそこではないのだ、と考えていて、それこそ「弱さ、はかなさを表現させたら抜群」の、ジュリーですら敵わないトッポのヴォーカルが今年遂にこの後追いのファンにも味わえるのではないか、と予想するからです。

ですから僕は2年前から言っているように、「花の首飾り」の考察記事は、実際にトッポのヴォーカルを生で聴くまでは書きません。
そして、その時が来ることはもう約束されています。本当に、奇跡ですね・・・。


それでは、次回更新はいよいよセットリストのネタバレ解禁、『Pray』和光市公演のLIVEレポートです。
頂いたお席がお席なだけに、どのようなレポートになるのか自分でもまったく予想がつきませんが・・・あと数日というところまできて、相当に気持ちが昂ぶってまいりました。
鉄人バンドの演奏含め、しっかり目に焼きつけてきたいと思っています。頑張って書きます!

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2013年7月24日 (水)

鈴木雅之 「恋はくじけず ~You can't worry love~」

from『Open Sesame』、2013

Open_sesame

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ジュリーの『Pray』ツアー・セットリストのネタバレ禁止期間、もうちょっとだけ続きます(8・3和光市公演のレポートから解禁予定)。
その間、ちょっと目先を変えた特別編のお題にて更新が続いておりますが、今日はみなさまご存知、シャネルズ(=ラッツ&スター)のリード・ヴォーカリストとして有名な鈴木雅之さん(=マーチン)のナンバーを採り上げたいと思います。

まずは・・・今回の記事は、鈴木さん関連の検索などで初めてこのブログに訪れてくださった方々もいらしゃると思いますので、ご挨拶から。

「恋はくじけず~You can't worry love~」の楽曲タイトルや、鈴木雅之さんのお名前の検索でこちらにお越しのマーチンファンのみなさま、はじめまして。こんにちは!


拙ブログは沢田研二さん(=ジュリー)のファンブログで、主にジュリーの曲やLIVEについて、40代後半にさしかかった男性管理人が暑苦しい長文を書き綴っている、辺境のブログでございます。
では何故そんなブログが今回、鈴木さんのニュー・アルバムからこの「恋はくじけず~You can't worry love~」を記事のお題に採り上げたのか、ということの説明から書かせて頂きますね。
(今回の記事は、いつもブログを読んでくださっているジュリーファンの方々にとっては周知の事柄も改めて書くことになりますが、どうか御了承くださいませ)


実は、「恋はくじけず~You can't worry love~」・・・この名曲を作詞・作曲されている若きシンガーソングライター・吉田Qさんは、一般の知名度はまだまだこれからというところなのですが、ジュリーファンにとってはとても馴染みの深い、思い入れのあるアーティストなのです。

1960年代後半から70年代初頭にかけて一世を風靡したグループ・サウンズ(GS)ムーヴメントはみなさまご存知でしょう。
そのGSの覇者として君臨していたバンド、ザ・タイガース(今年の12月に、いよいよ夢の再結成が実現します!)のヴォーカリストであった沢田研二さんが、こちらもGSのトップ・グループで、先輩格のバンドであったザ・ワイルドワンズのメンバーと2010年に突如合体し、ジュリーwithザ・ワイルドワンズという期間限定のコラボレーション・バンドを結成しました。
(ワイルドワンズのリーダーである加瀬邦彦さんは、「危険なふたり」「TOKIO」などの大ヒット曲をジュリーに作曲提供したことでも広くそのお名前を知られています)


ジュリーwithザ・ワイルドワンズはその2010年、加瀬さんや木崎賢治さんのプロデュースや人脈により書き下ろされた全10曲入りのフルアルバム『JULIE WITH THE WILD ONES』をリリース、アルバムを引っさげて約半年に渡る全国ツアー『僕たちほとんどいいんじゃあない』を見事成功させ、ジュリーファンやワイルドワンズ・ファンを大いに楽しませてくれました。
そのアルバム収録曲の中で、当時ほぼ無名であった新人ソングライターの吉田Qさんが大抜擢され、なんと2曲もの作詞・作曲作品を提供したのです。
曲のタイトルは、「涙がこぼれちゃう」と「いつかの”熱視線ギャル”」。

いずれもポップ・センス溢れる名曲ですが、特にアルバム1曲目に配された「涙がこぼれちゃう」は全収録曲の中でも広い支持を得て、ジュリーファンの間に「吉田Q」という名前がしっかりと刻み込まれたのでした。

1985年生まれという気鋭の吉田Qさんの曲作りは、その若さからは考えられないほどに「古き良き昭和のポップス」のセンスに満ちていて、僕らを驚かせました。
ジュリーwithザ・ワイルドワンズの活動期間が終わっても、幾多のジュリーファンが吉田Qさんの活動を継続して応援するようになったのは、彼の曲作りの素晴らしさ
(と、ツッコミどころ満載の面白過ぎるキャラクター)を考えると、当然の流れだったかもしれません。僕もその一人です。

そしてその後吉田Qさんは、これまたビッグ・ネームのアーティスト・・・「ラブソングの帝王」と言われる鈴木雅之さんの楽曲提供者として抜擢されます。
その類稀なるポップ・センスをして「ラヴソング」をコンセプトに突き詰めるスタイルの吉田Qさんの曲作りは、鈴木さんのヴォーカルとの相性は抜群でした。『はなまるマーケット』のエンディング・テーマとなった「ラスト・ラヴ」。イオン・グループのバレンタイン・キャンペーンのCMソング「プロポーズ・アゲイン」。
いずれもターゲットは熟年層。若くして「古き良き時代」を匂わせる吉田Qさんの作品は、大ベテランの超・実力派シンガーである鈴木さんに歌われることによって、驚異の相乗効果をもたらしていました。


ただ・・・残念ながら現時点では「ラスト・ラヴ」「プロポーズ・アゲイン」の2曲は配信楽曲に留まり、CD化はされていません。
吉田Qさんを応援するジュリーファンとしては、「なんとかQさん提供のマーチン・ナンバーがCD発売され、広く世に流通しないものだろうか」と焦れる思いもしてきました・・・しかし。
今年2013年に入って、鈴木さんのニュー・アルバムのリリースが告知され、その中に吉田Qさんのクレジットが!
僕は狂喜し、すぐにソニーのショップさんでアルバムを先行予約したのでした。


発売日に届けられたCDには、巨大な梱包にくるまれたマーチンの特大ポスターが初回先行予約特典としてついてきました~。

早速、じっくりとヘッドフォンで聴きました。
吉田Qさんの曲が今回のCD購入のきっかけでしたが・・・これはもう、アルバム全体として力作、傑作!
僕はQさん絡みで鈴木さんの活動についても機会あるごとに情報を収集していましたから、あの東日本大震災を機に鈴木さんが、それまで進行中だったプロジェクトを一度白紙に戻し、新たな思いを持ってまた1から作品創作活動に取り組んでいたことは知っていました。じっくり時間をかけて、想いを込めて、いよいよ形になったのがこのアルバム・・・素晴らしい名盤が誕生しましたね。


さて、「恋ははくじけず~You can't woory love」について鈴木さんはNACK5のラジオ番組で
「今回のアルバム・コンセプトである”コラボレーション”という意味では一番盛り上がったと思う」
と語っていました。これぞ「バック・トゥ・80s」と・・・。
アルバム制作のずっと以前から、武内享さんとは「何か面白いことやろうよ」とお話されていたのだとか・・・それが最高の形で実現した、ということなのでしょうね。
番組での鈴木さんは感慨深く昔を思い出すように
「だって・・・シャネルズとチェッカーズのコラボなんて、当時は考えられなかったわけじゃない?」
とも。


そう、「恋はくじけず~You can't woory love」は、武内さん率いるa-bra:z(元チェッカーズのギター・武内さん、ベース・大土井裕二さん、サックス・藤井尚之さんが参加)に加え、元シャネルズ(=ラッツ&スター)の低音ヴォーカル・佐藤善雄さん、トランペット・桑野信義さんという錚々たるメンバーとのコラボレーション・ナンバー。
いわゆる”『ザ・ベストテン』世代”の僕にとっては、これはもう懐かしさもあり贅沢感もあり・・・正に夢の競演です。
シャネルズもチェッカーズも、ちょうど僕の少年時代、トップ中のトップ・グループでしたからね。


シャネルズについては、一昨年に吉田Qさんが「ラスト・ラヴ」「プロポーズ・アゲイン」を鈴木さんに提供したのを機に、懐かしさもあってベスト盤CD『BACK TO THE BASIC』を購入。「ランナウェイ」はじめ誰もが知る大ヒット曲の数々が、とてつもなくプロフェッショナルでハイレベルな曲であったことに今さらながら驚愕(少年時代には、そこまで理解できていませんでした)しました。
何といっても鈴木さんのヴォーカルが凄いです。鈴木さんは声質が太くていかにも男っぽい声でソウルフルに歌うので逆に見逃していたのですが、実はとんでもない高音域のメロディーを軽々と歌っているのですね。
(今回ご紹介している吉田Qさんも男声としては相当なハイトーンの持ち主なのですが、Qさんがホ長調で作曲したという「プロポーズ・アゲイン」を、鈴木さんはさらに半音高いヘ長調でレコーディングしています)


ベスト盤の中では僕は特に「ハリケーン」のヴォーカル、詞曲、アレンジ、演奏、コーラス一体の完成度が凄いと感じました。
(ちなみに、吉田Qさんは「Miss You」が特にお気に入りの曲だと聞いております)


一方チェッカーズは、僕自身高校時代にバンドを組んでいたりしたこともあって、”憧れのお兄さん達”という感覚で当時から見ていましたね。
”不良少年のイノセンス”にキュートな魅力を兼ね備えてデビューした彼らが、そのアイドル性を保ちつつもみるみるうちに演奏、バンド・コンセプトを進化させ音楽性を高め、メンバー・オリジナルの曲でヒットをカッ飛ばし始めるまでの流れ・・・ずっとテレビで見ていました。
a-bra:zのメンバーで言えば、武内さんが「ONE NIGHT GIGOLO」、大土井さんが「I Love You、SAYONARA」、尚之さんが「NANA」と、シングル・ヒットの代表曲で作曲を担当・・・いずれもカッコ良いロック・ポップ・ナンバーでした。改めて、凄いキャリアの3人なのです。
(ちなみにチェッカーズのメンバーでは、尚之さんが「言葉にできない僕の気持ち」「ミネラル・ランチ」の2曲、鶴久政治さんが「僕は泣く」の1曲と、過去に沢田研二さんへの作曲提供があります)


そんな胸躍るコラボレーション・・・「恋はくじけず~You can't woory love」は、まずイントロから”ザ・ベストテン世代”の琴線にいきなりのジャスト・フィット。
桑野さんのトランペットと尚之さんのテナー・サックスによる贅沢な二重奏で幕を開けます。
歌メロに入って


夕暮れに赤めく街並    は
G                   F#m7-5     B7

季節の終わり の影
       Em  Dm7  G7 Cmaj7

掴みは最高・・・吉田Qさん、相変わらず出だしから惹きつけるイイ曲を作りますね~。「Dm7→G7」のトコ、メチャクチャ良いです!
キャッチーなメロディーに、ちょっとキュンとするような恋の物語の歌詞を載せるのが、Qさん作曲の王道なんですよね・・・。
明快なAメロ、Bメロ、サビのハッキリした構成もQさんは得意中の得意。これだけ良いメロディーが隙無く散りばめられていても、才能がある人が作る曲というのはやっぱりサビが一番良くて・・・


花でさえ涙する
G

明るい恋のメロディーよ
Bm             E7

シュビドゥビドゥダンダン
C                        Bm

明日も くじけずにやりましょう
       Am  Cm                     G


いかにもQさんらしいフレーズとメロディー展開。「明るい恋のメロディー」というコンセプトを歌として形にするなら、やっぱりこの曲のような純朴なポップスが最適だったのでしょう。
切なさを凌駕する恋の楽しさ、力強さを歌ったサビ・・・そこに加味された鈴木さんのソウルフルな「シュビドゥビドゥダンダン♪」が、吉田Qさんのはじける情熱をグッとアダルトに引き締めています。いやぁ渋い!


間奏ではイントロとは一転、桑野さんのトランペットを尚之さんのサックスが別のフレーズで追いかけるパターンで、それぞれの「ソロ」といった感じのアレンジになっています。これまた演奏面での懐かしくも新鮮な聴きどころのひとつ。

そして・・・やはりこの曲を聴いていて一番の楽しみは、コラボレーション・ゲストメンバーによるドゥーワップ・コーラスですね~。
佐藤善雄さんの低音、シャネルズ時代とまったく変わりませんね!
副題フレーズである「You can't woory love♪」が、佐藤さんの低音ヴォーカルでズシンと響いてきます。
不勉強な僕は佐藤さん以外の声はメンバー特定で聴き分けられないんですけど、2番Aメロ限定の「tu、tu・・・♪」というハスキーなコーラス・ワークが最高。あと、鈴木さんの歌メロを要所要所でキレイな高音でハモっているのは、武内さんなのかなぁ。


このように、ちょっと切なくもある恋物語のワンシーンを「大丈夫!」と元気づけてくれる鈴木さんのヴォーカルと豪華ゲスト陣のコーラスは、そのまま若い吉田Qさんの作った”明るい恋の歌”というコンセプトを、グイグイと熟年層の”永遠の愛の歌”にまで引き上げています。
Qさん作曲の時点では、「若き青年が綴った現在進行形の恋物語」だったかもしれない曲が、鈴木さんが歌うと一瞬でそのストーリーが時空を超え、苦楽共にしてきた夫婦、或いは長年の恋人同士が確かめ合う、大人の愛情の物語へと昇華してしまう・・・これは、先に触れたジュリーwithザ・ワイルドワンズにQさんが提供した2曲についても同じようなマジックがかかっていて・・・要は、吉田Qさんの曲には常にそうした不思議な力がある、ということなのですね。


最後に・・・今回拙ブログでは、日頃応援している吉田Qさんのカテゴリーとして「恋はくじけず~You can't woory love」をお題に採り上げたわけですが、鈴木さんの『Open sesame』はアルバム通して本当に名盤で、他収録曲も素晴らしいナンバーが目白押しです。
その中で特に1曲・・・と言われたら僕は、さだまさしさん作詞・作曲の「十三夜」を挙げたいと思います。


沢田研二さんが今年リリースしたマキシ・シングルの中に「Deep Love」という曲があって僕はとても感銘を受けましたが、鈴木さんが歌う「十三夜」に、「Deep Love」ととてもよく似たアーティストの「思い」を感じてしまうのです。

別れも言わず去りゆく君の胸の
苦しみに気づかずに
自分を悲しむだけの僕の
幼さが切なくて


もちろん、さださんの紡いだシチュエーションはおそらく「Deep Love」とは全然違って、歌詞の受け取り方としては僕の深読みと言えばそうなんですが・・・さだまさしさんのこの詞とメロディーは、半端な思いを持つ者、半端な歌唱力しか持たぬ者が歌うことは決して許されない・・・そんな気がするのです。
その点、鈴木さんのヴォーカルの素晴らしさよ!
鈴木さんはジュリーとはタイプが違うけれど、やっぱり一流のヴォーカリストは凄いなぁ、と圧倒される思いです・・・。
『Open Sesame』・・・機会がありましたら、ジュリーファンのみなさまもこのアルバムを聴いてみてくださいね!


また、吉田Qさんは今、地道なライヴや創作活動を頑張っています(現在のところライヴ活動は大阪方面限定のようで、関東在住の僕はなかなか参加の機会に恵まれていないのですが・・・)。
Qさん自身がライヴで歌うオリジナル・ソングもまた、とても素晴らしい。一見コミカルなタイトルの曲が多いんですが、懐かしい昭和の雰囲気を持つ不思議な魅力の名曲ばかりです。

マーチンファンのみなさまも、是非一度吉田Qさんのライヴに参加なさってみてはいかがでしょうか・・・?

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2013年7月18日 (木)

瞳みのる 「楽しいときは歌おうよ」

from『一枚の写真/楽しいときは歌おうよ』、2012

Apictureofmymother

1. 一枚の写真
2. 楽しいときは歌おうよ

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つい先日、ポール・マッカトニー11年振りの来日公演が決定し、「一体今年はどれだけ贅沢な年になるんだ!」と、ますますの節約に励むこととなったDYNAMITEです。
このところの酷暑と仕事の忙しさで体調を崩してしまう一方で、畏れ多いお席を頂いてしまったジュリー和光市公演が近づいてきたり、待ちに待ったポールの来日が決定したり・・・心躍る日々を過ごさせて頂いております。

拙ブログでは現在、ジュリーの『Pray』ツアー・セットリストのネタバレ禁止期間となっております(初日・東京国際フォーラム公演のレポートはside-Bにてどうぞ!)。
8月の和光市公演レポートでのネタバレ解禁までの間、ジュリーのツアーとは関係の無いお題でいくつかの記事を更新させて頂く予定で・・・今回採り上げるのは、昨年リリースされたピー先生のソロ新譜2曲のうち未執筆のままお待たせしておりましたカップリング曲、「楽しいときは歌おうよ」。

ピーのストレートな詞曲に、タローがザ・タイガースのエッセンスを積極的に踏襲した”友情アレンジ”を注入・・・言わばピー&タローによる”竹馬の友・ロックンロール”といった趣の爽快なナンバーです。
畏れながら、伝授~!

何と言ってもこの曲は、ピーのドラム・ソロからスタートするイントロが一番の聴き所ですよね~。
ドラム・ソロ最後の”突っ込む”スネア連打がいかにもピーらしい演奏で、2011~2012老虎ツアーでピーがガツンと魅せてくれた「ドゥ・ユー・ラヴ・ミー」のフィル・インを思い出します。ピーもあの曲での自身の演奏をかなり意識して「楽しいときは歌おうよ」のドラムス・レコーディングに臨んだと思いますよ。
肩を張って歯をくいしばり、大きなモーションでスティックを打ち下ろすピーの姿が、この曲のイントロを聴くだけで目に浮かんでくるようです。

曲調は、ブルーノートの登場しないキャッチーなスリーコードの循環が進行の基本となっています。
スリーコード・ロックンロールは通常、メロディーも尖ったブルーノートを採り入れて味付けするパターンが多いです(「シーサイド・バウンド」「イエロー・キャッツ」など)。ところがタイガース・ナンバーの場合それらとは別に、例え作曲者がそれぞれ違ったとしても、素直で明るいメロディーと尖ったブルーノートの演奏(特にリード・ギターとベース)が同居合体するアレンジの楽曲(「シー・シー・シー」「素晴しい旅行」など)も多く見られます。
しかし「楽しいときは歌おうよ」では、メロディー、演奏共にブルーノートが登場しません。スリーコード・ロックンロールでありながらこのアレンジは、「ハードなイメージよりもメロディーの素直さ、明るさを強調」せんとするタローの狙いでしょうか。

そんな特性もあってか、僕が初めてこの曲を聴いた時に想起したのは、ジョージ・ハリスンがカバーしシングル・ヒットとなった「セット・オン・ユー」という曲。タローはビートルズが好きですからこの曲も知っていたはずです。「楽しいときは歌おうよ」のアレンジ作業のとっかかりとして頭の中にこの曲があったかもしれないなぁ・・・というのは僕の勝手な個人的憶測ですが。

ともあれ、『道/老虎再来』に引き続き、ピーのソロ作品として今回も欠かせないのが盟友・タローによる”友情注入アレンジ”。強い個人主張で楽曲を自分の色に染める、といった手法ではなく、ピーの作った歌詞・メロディーが求めている音で自然に曲を包んでいく・・・ピーとタローの関係でなければあり得ないアレンジ手法を、僕は以前から”友情注入アレンジ”と呼んでいるのです。
何より、暖かい・・・そのひと言に尽きます。

その、ピーとタローの共同作業・・・「楽しいときは歌おうよ」については、曲作りを詰めていく段階の”制作秘話”が、昨年の中野サンプラザでのジョイントライヴにて、ピー先生ご自身のMCで語られました。

僕は元々、「この曲は誰がどんなアイデアを出してこうなった」みたいな逸話が大好きなのです。ただ、楽曲制作の裏話って、アーティスト自身の口から語られることはなかなか少ないんですよね。
その点ピーはサービス精神旺盛と言いますか、やっぱり先生肌なんですねぇ・・・「」「老虎再来」「一枚の写真」「楽しいときは歌おうよ」と、すべてのソロ・オリジナル曲について「こんなふうにして、こんなことを考えて作った」というひとことをCDの歌詞カードに付してくれています。
「楽しいときは歌おうよ」では、ハッキリ日付まで添えて、北京での夜中の散歩中に曲想を得たこと、そしてその後、あの震災の日を境に陰りがちとなった日本の世相にこの曲をもって一灯とせん、と願うようになったことなどを記してくれていました。

それに加え、中野サンプラザ公演でピーから明かされた制作秘話によりますと・・・。
この曲、ひとまずの作曲完成の時点では、あの印象的なハミング・リフレインが存在しなかったのだそうです。

♪ ランランランラン ララーラン
  A                      E

  ララララララーラン
  A                 B

  ランランランラン ララーラン
  A                      E

  ララララララーラン ♪
  A        B      E

冒頭から登場する、このハミングですね。
中野公演では、演奏前のMCでこの部分だけを取り出して歌ってみせてくれて
「こういうメロディーだから、一緒に歌ってね」
と、ピー先生直々の歌唱指導もありましたね!

このハミング部、サビ部後半と同じコード進行になっています。これもタローのアイデアでしょう。
ピーがまず「楽しいときは歌おうよ」のラフ・テイクをタローにアレンジ依頼した際、タローは曲を聴いてすぐさま
「この曲・・・何かが足りないよ」
と、核心を突いたのだそうです。
足りないものとは何なのか・・・ピーはタローの課題を持ち帰り思案して、あのキャッチーなハミング部を考案。それによりタローも手応えを得て、「いざ!」と曲を仕上げていったとのこと。中野公演でのピーのMCで僕が一番嬉しかったのは、そんないきさつがピー自身の口から聞けたことでした。
大げさかもしれませんが、ピーは自らの中にある現在進行形の真実・真理をファンと共有する能力と実践力をもって、芸能界復帰後のライフワークとしているように僕には思えます。これからも機会あるたび、貴重なお話を聞かせてくれることでしょう。

ピーの作曲手法は、楽器を持たずに純粋に脳に浮かんだメロディーをボイスコーダーに記録する、というもの。つまり、剥き出しのメロディーの周囲で何かしら盛り付ける、囃し立てる、といった感じの服飾音がピーの頭の中では鳴っていて、それを和音に当てはめることで形にするのが、盟友・タローの役目になります。
違うメロディー部を同じ和音進行に載せてヴァース同士に関連性を持たせたり、まったく同じメロディーを、箇所によって違う和音に当てはめて起伏を作ったり・・・シンプルな曲であるが故に、タローの細かい工夫も分かり易く、そこにファンは爽快な二人の友情を感じることができるのです。

例えば、先程「サビ部後半」と書きましたが、じゃあ「サビ部前半」はどうなのかというと、ピーの作ったサビのメロディーは、3行に渡って何ら変わりない同じ音階移動のリフレインがあり、最後の1行で「結び」のメロディーで締めくくられる、という構成です。ピーの作曲の時点では、サビ部はいわば「起→承→承→結」の状態だったのです。
しかしタローはそこに、シンプルになり過ぎるきらいを感じたのでしょうね。

♪ いつでもどこでも歌おうよ
  A          E         A       B

  喜び悲しみ共にして
  A    E       F#      B

  何があっても怖くない
  A    E          A      B

  僕らは互いに離れはしない ♪
  A       E        A       B    E

2行目に登場する「F#」(ファ#・ラ#・ド#)の和音がタローの工夫。この曲はホ長調(ロックンロール王道のキーです)で、トニックの「E」(ミ・ソ#・シ」)から「F#」への進行というのは、和音構成音が丸々1音ぶん跳ね上がる、という仕組みです。同じ旋律のリフレインに1箇所フックを作り、起伏を持たせているのですね。これによりサビ部は見事に「起→転→承→結」の構成に早変わりします。
ピーのヴォーカルにも、伴奏和音の「転」の変化を感じとったかのような「張り切ってる」雰囲気が一瞬出てるんですよね。そうしたことも、タローの友情アレンジ効果の一端ではないでしょうか。


この曲はアップテンポですから、タローとスーパースターの堅実な演奏の中で、ピーのヤンチャなエイト・ビートのドラムスが炸裂する・・・そんな相乗効果もまた楽しいです。
演奏トラックをすべて書き出してみますと

(左サイド)
・エレキギター

(センター近辺)
・ドラムス
・ベース
・エレキギター(リードギター)
・タンバリン
・ハンドクラップ

(右サイド)
・ピアノ
・エレキギター

となっています。
最初僕は、もう1種キーボードを使っているように聞こえていたのですが・・・じっくり聴くと、PANの左右振分けの効果含めアレンジに厚みを出しているのは、後録りのコーラス・トラックでした。
この辺りは「さすがタローとスーパースター」と言うべきでしょう。昨年の中野公演でも、その卓越したコーラス・ワークを随所で味わうことができました。

タローとスーパースターのメンバーの演奏は的確で渋い!中でも僕が最も惹かれるのは、小気味よいタンバリンです。これは村田さんの演奏でしょうか。
冒頭のピーのドラム・ソロ途中から噛んでくる、というのが良いんです。タンバリンがサ~ッと入ってきて、間髪入れずピーがスネア連打のフィルになだれ込む感じ。それこそタンバリンの最初の登場音が、タイガース時代のジュリーのシャウトと同じように、「ヘイ、ピー!」と合図を送っているような・・・。

速水さんのリード・ギターも、シンプルなフレーズですが味わい深いですね。フレーズについては、「カラッと明るい感じにしたいから、ブルーノートは避けて」というタローからのサジェスチョンがあったのかもしれません。
音色は、ジュリー・ナンバーで言うと「午前三時のエレベーター」や「夢見る時間が過ぎたら」のリード・ギターに近いエフェクト設定です。派手ではありませんが、まず曲想を大事にした音作りだと思います。

そして・・・タローにとってピーの曲のアレンジに取り組むことは、イコール「自らのタイガース愛を解き放つ」という一面をも持っているのかもしれません。
それを踏まえて是非注目したいのが、演奏トラック中のハンドクラップ(手拍子)音です。
多くのみなさまがもうお気づきのことと思いますが・・・このハンドクラップは、「シー・シー・シー」のそれとまったく同じリズムなんですよね。

うん・たた・ん・たた!

というリズムです。
ちょっと特殊な手拍子ですから、先の老虎ツアーでもジュリーが「こうやるんだよ!」という感じで歌いながらお手本を見せてくれていました。会場のお客さんに向けて、その独特のリズムをリードしてくれたのですね。
そんな手拍子が、そのまま「楽しいときは歌おうよ」のアレンジに採り入れられました。
タロー会心の、”ザ・タイガース・オマージュ”と言えるのではないでしょうか。

さて・・・ピーのヴォーカルですが、これは1曲目「一枚の写真」同様の、ダブル・トラック・レコーディングによるもの(ピーのダブル・トラック・ヴォーカルについては「一枚の写真」の記事をご参照くださいませ)ですが、大きな違いもあります。

「一枚の写真」のヴォーカルは、メロディー音域の広さなどの理由からピーの2トラックそれぞれの声の伸ばし方、切り方がまちまちで、そのズレがいかにもダブル・トラックならでは、いった趣きでした。
一方「楽しいときは歌おうよ」では、ピー自身の作曲作品ということもあるのでしょう・・・2度歌ったヴォーカル・テイクに極端なズレはなく、まるで60年代洋楽ビート・ポップスのようなキレイなダブルトラックに仕上がっています。
敢えて”ズレの魅力”を見出すとすれば

♪ 挫けたときは歌おうよ
  E        A      B       E

  昨日の歌を思い出し ♪
  E        A    E  B    E

という2番Aメロでの、「思い出し♪」の抑揚や、「歌おうよ♪」のピー独特の語尾の跳ね上がるタッチに、テイクごとの違いがあるようです。

「一枚の写真」の記事でも書いたように、是非ピーにはこうしたソロ・シングルCDを継続してリリースして欲しいです。僕は、過去の作品への思い入れや自分なりの評価を持ちつつも、新たな曲の創作活動に常に取り組む姿勢を持つアーティストが好きなんですよね(まずジュリーがそうですし、冒頭で触れた大御所・ポール・マッカートニーもその一人です)。
定期的な新曲レコーディングを重ねていけば、ドラムスのみならずピーのヴォーカルも、きっとどんどん進化していくはずですよ!稽古好きなピーのことですから、年齢の壁などまだまだ感じていないでしょう。

最後に。
ピーのCDはジュリーの近年のそれとは対照的に、カラーの撮り下ろしアーティスト・ショットが満載なんですけど、歌詞カードを拡げた時にちょうど「楽しいときは歌おうよ」歌詞ページの裏面となる、座って微笑むピーのショット・・・この背景の、ドーム型の奇妙な造形物が僕は何だかとても気になります。
これ、撮影場所は何処だろう・・・そもそも日本なのかな?
日本にこんな建物がありましたっけ・・・。

それでは次回更新は・・・ジュリーwithザ・ワイルドワンズへの楽曲提供を機にずっと応援を続けている若きシンガーソングライター・吉田Qさんが、今年リリースされた鈴木雅之さんの最新アルバムに、「恋はくじけず~You can't woory love」という素晴らしいポップ・ナンバーを提供していて、この機会に楽曲考察記事のお題に採り上げてみようと考えています。

マーチン(=鈴木さん)の今回の新譜は、それぞれの収録曲でビッグネームのゲスト・アーティストとのコラボレーションが楽しめる、という構成になっています。吉田Qさん作詞・作曲の「恋はくじけず~You can't worry love」は、マーチン曰く「バック・トゥ・80's」をコンセプトに、僕の世代にとってはとても懐かしい、シャネルズ(=ラッツ&スター)やチェッカーズのメンバーとのコラボレーション・ナンバーとしてリリースされました。
ジュリーwithザ・ワイルドワンズの「涙がこぼれちゃう」「いつかの”熱視線ギャル”」の時にも感じましたが、1985年生まれという若いQさんをして、何故ここまで古き良き時代の雰囲気に満ち満ちた名曲を作ることができるのでしょうか。本当に稀有な才能だと思います。
「恋はくじけず~You can't woory love」・・・名曲ですよ!よろしくおつき合いくださいませ~。

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2013年7月15日 (月)

大野克夫 『太陽にほえろ!オリジナル・サウンドトラック 80's ベスト』

Taiyou01


ご無沙汰でございます。
ジュリーの『Pray』ツアーが始まりまして、拙ブログでは、僕の次回参加となる和光市公演のレポート(大変なお席を頂いてしまいましたので、普段よりも一層暑苦しい酷暑のようなレポになるかと思われます)まで、セットリストのネタバレ禁止期間とさせて頂いております。

その間、いくつかジュリーとは直接の関係がないお題にてのんびりと更新して参ります。
今日はその第1弾。手馴らしの短い気軽な記事になりますが・・・採り上げるのは、誰もが知る刑事ドラマの大名作『太陽にほえろ!』のサウンドトラックです。
伝授~!

『太陽にほえろ!』のサントラにつきましては、以前にも1度記事を書いたことがあります。その時採り上げたのは、井上堯之バンド名義のCDでした。
今回の『80's ベスト』は、井上バンド解散以降(1980年~1986年)リリースのサントラ音源集。

名義としては2つのバンドに分かれます。
まずは、神田正輝さん演じるドック刑事登場編からのクレジットとなる、フリーウェイズ。DYNAMITEが一時、オールウェイズと混同していたバンドですね。まぁ実際、メンバーは2人かぶってるんです(←言い訳にもなりませんが)。
1978年大野さんがリリースしたソロ・アルバムのタイトルがバンド名の由来であることは、ジュリーファンのみなさまならば明らかなところでしょう。

そして、渡辺徹さん演じるラガー刑事登場編以降の、大野克夫バンド。その後演奏メンバーや楽器編成は時代を追って変遷していきますが、名義としてはずっとこの”大野克夫バンド”で最終回まで通されることになります。

『太陽にほえろ!』はドラマも音楽も、どちらかと言うと井上バンド時代の70年代の方が人気があります。それは無論僕も同感な部分はあって、我ながら驚きだなぁと思うのは、世の刑事ドラマ挿入歌で一番好きな「青春のテーマ」・・・子供の頃から憧れ続けてきたその曲でベースを弾いていたのがザ・タイガースのサリーだ、と知ったのがほんの数年前という・・・。
やっぱり井上バンドの演奏は、刑事ドラマ挿入歌であってもジュリーのバンドであっても、変わらずにロック!なんですよ。

一方、『太陽にほえろ!』のドラマ自体にも変化が表れてきた80年代。
挿入歌においても、フリーウェイズ、大野克夫バンド共にロック色は確かに薄れました。しかし、大野さんの作曲はより緻密に計算されたものになり、区画整理されたような隙の無いアレンジと楽器構成は、新たに登場する刑事のキャラクターとのシンクロ度を深め、音楽としてより深く、磨きがかかってきます。
つまりは、80年代の『太陽にほえろ!』挿入歌だって名曲揃い!ということです。

また、僕はこれらの音源をそれこそ少年時代から知っているのですが、ジュリーファンとして覚醒したここ数年で思うことは、子供の頃に愛したその音楽に、自分がジュリーファンとなる要素が、念入りなまでに多く仕込まれていたんだなぁ、と。
例えば、演奏クレジットだけをとってみても・・・。

Taiyou02

冒頭のフリーウェイズから、沢健一さんはじめジュリー絡みで知ったお名前がズラリと並びます。
また、ジュリー堕ち間もない頃に書いた「憎みきれないろくでなし」のお題で、「こんなに情熱的にカウベルを叩く人を初めて見ました。この打楽器奏者はどなたですか?」と記事中でみなさまにお尋ねしたところ、増岡正さんのお名前を先輩より教えて頂いたことがありました。増岡さん・・・このCDでも大野克夫バンド・メンバーとしてパーカッション・クレジットがありますね。
そして、昨年中野サンプラザでのピーとタローのジョイント・ライヴにて初めて生でその音を聴く機会に恵まれた、速水清司さんなど・・・挙げればキリがありません。

このCDの中で僕が最も好きなのは、07:「ラガーの青春」。ラガー刑事には04:「ラガー刑事のテーマ」がメインとしてあって、こちらはサブ・テーマの扱いなんですけど、ツイン・リードのギター(展開部のソロが速水さんの演奏のように僕には聴こえます)や、切れ味鋭い田中清司さんのドラムスなどはメインを凌ぐ勢いがあって、パワーを感じます。
他にも、佐々木隆典さんの”溜めるビート感”が劇中でのカーチェイス・シーンを盛り上げる02:「ドック刑事のテーマⅡ」や、故・地井武男さんを思うとすぐに脳内に流れる、キャッチーなメロディーが最高にカッコイイ12:「トシさんのテーマ」、豪快なホーン・セクションを織り込んだ17:「デューク刑事のテーマ」など・・・井上バンド時代とは違った良さを持つ名曲がたくさん収録されています。

僕はドラマとしても、
80年代の『太陽にほえろ!』も70年代同様に好きで、活躍期間は短かったですが、沖縄ロケで復帰した沖雅也さん演じるスコッチ刑事(復帰前と違い、キャララクターにコミカルな面が味つけされているのは、その間に『俺たちは天使だ!』を演じたことが関係しているのでは、と個人的に考えています)には特に思い入れがありますし、当時世間でアイドル的な人気が高かったと言われる”かわせみカルテット”時代(神田さん、渡辺さん、世良公則さん(ボギー刑事)、三田村邦彦さん(ジプシー刑事)の若手刑事4人の頭文字をとったもの)はもちろん、その後登場した金田賢一さん演じるデューク刑事も好きなキャラクターの一人です。

そして、これは人によるのかもしれませんが・・・僕の場合は、勇ましい刑事ドラマの挿入歌を聴くと元気が沸き、テンションがグッと上がります。
体調も崩しがちなここ最近の酷暑の中、8月末まで厳しい仕事が続く予定なんですけど、ジュリー・ナンバーと刑事ドラマ挿入歌の2本立てBGMで、何とか精神を鼓舞し頑張っていこうと思っているところなのです・・・。

さて、次回は楽曲考察記事に戻り、我らがピー先生の「楽しいときは歌おうよ」を採り上げる予定です。
もう数ケ月後にまで迫ったザ・タイガースの再結成。タローのアレンジ的にもタイガースとの関連性が濃いこの曲について書くことは、僕自身とても楽しみなことです。
頑張ります!

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