沢田研二 「遥かなるラグタイム」「now here man」
from『いくつかの場面』、1975
1. 時の過ぎゆくままに
2. 外は吹雪
3. 燃えつきた二人
4. 人待ち顔
5. 遥かなるラグタイム
6. U. F. O.
7. めぐり逢う日のために
8. 黄昏のなかで
9. あの娘に御用心
10. 流転
11. いくつかの場面
from『俺たち最高』、2006
1. 涙のhappy new year
2. 俺たち最高
3. Caress
4. 勇気凛々
5. 桜舞う
6. weeping swallow
7. 遠い夏
8. now here man
9. Aurora
10. 未来地図
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今回は、急遽執筆の記事にて更新です。
先日upしました、ジュリーの新譜『Pray』楽曲内容予想記事に関して、いつもお世話になっている先輩から、ご質問を頂きました。
ご質問は記事本文の記述についてではなくて、頂いたコメントへの僕のお返事の文章の一節。
それは、僕が下山さん作曲の「Uncle Donald」の曲想を
「ハッキリしたラグタイムではないか、とも考えています」
と、個人的な予想をつけ加えたものでした。
先輩はこう仰るのです。
「”ラグタイム”というジャンル(?)がよく分かりません。アルバム『いくつかの場面』に「遥かなるラグタイム」というジュリーの曲もあって、少し気になりました。機会があれば教えてください」
と。
い~~~い質問ですねぇ~~~!
な~んて、大げさなことでもないんですが、「よくぞお尋ねくださった!」と思いました。
あの『Pray』の内容予想記事は1日でバ~ッと書いたものですから、あれこれ色々と考えたことをすべて書けていないのです。そして
「Uncle Donald」=ラグタイム
と、僕がそのタイトルから連想するに至ったある楽曲の存在があったことも、書けずじまいでした(勘の良いかたは「あれかな」と既に思っていらっしゃるかな?)。まぁ、大したことでもないと考えて書かなかっただけなのですが・・・。
先輩のご質問に単にお応えするだけでは寂しいですから、その先輩からのリクエストという形で、今日は僕が常々「これぞジュリー版ラグタイム!」と捉えている2曲をお題に採り上げつつ、その辺りを書いてみましょう。
(2曲同時のお題記事というスタイルは、2009年の超ヒヨッコ・モード全開期に書いた「あのままだよ」「Long Good-by」以来のことになります。懐かしいなぁ・・・)
まず1曲は言うまでもなく、アルバム『いくつかの場面』から「遥かなるラグタイム」。
もう1曲は、アルバム『俺たち最高』から「now here man」。
伝授!・・・と言うほどの深い記事ではありませんが、お楽しみくださいませ~。
さて、特別な音楽知識はなくとも、今日のお題のこの2曲が「なんとなく似てるな~」と日頃からお考えの方々は多いのではないでしょうか。
いやいや、改めてパッと続けてお聴き頂ければ歴然のはずです。この2曲、ハッキリ言って「似てる」どころではありません。瓜2つです。
もちろんこれは違う作曲者による偶然の類似で、一般的に「ラグタイムっぽい曲」という狙いを持って作られた結果、そうなってしまっただけのことです。
にしても・・・似てます。
ちょっと両曲のAメロのコードを検証してみましょうか。
まずは、「遥かなるラグタイム」。
♪ 窓辺遥かに 陽が落ちると
B♭ D7 Gm B♭7
ああ流れくる あの遥かなラグタイム ♪
E♭ Edim B♭ G7 C7 F7
変ロ長調のラグタイム王道進行です。
一方の「now here man」。こちらはハ長調です。
♪ 不意打ちで 鞄 から
C E7 Am C7
飛び出したポートレイ ト ♪
F F#dim Em7-5 A7
これまたラグタイム王道。
試しに、比較しやすいよう「now here man」の方を「遥かなるラグタイム」と同じ変ロ長調に移調して表記しますと
♪ 不意 打ちで 鞄 から
B♭ D7 Gm B♭7
飛び出したポートレイ ト ♪
E♭ Edim Dm7-5 G7
となります。最後の2小節以外、まったく同じ進行をしていることが分かりますね。
いずれも、ウキウキと楽しげな佳曲に仕上がっています。この”ウキウキ感”がラグタイム・ナンバーの魅力のひとつでもあります。
そもそも、ラグタイムとはどんなジャンルなのか。
僕自身、さほど深い知識があるわけではないので、ここで『ラグタイム・ピアノ・コレクション』というスコアの序文を抜粋しましょう。
①1980年代に、アメリカのミズーリ州シダリアの黒人ピアノ奏者スコット・ジョプリンやトム・タービン達によって作られたピアノ音楽をラグタイムと呼びます。黒人特有のリズム感覚が出たシンコペーションのリズムが特色です。楽譜通りに演奏され、即興演奏の要素はありません。が、後年「ジャズの誕生」の1要素となりました。
②「古き良きアメリカ音楽」には、様々な作曲家達がいました。本書では、代表的な作家、ジョージ・ガーシュインとスティーブン・コリンズ・フォスターに焦点をあて、彼らの作品でも珍しいピアノ・ソロ小品を収載しました(・・・以下略)。
ということで、、有名な作曲家が何人か列記されています。
大して深く彼等を知らずとも・・・例えばスコット・ジョプリンの「エンターテイナー」は、曲を聴けば誰もが「あぁ、これ聴いたことある!」という感じでしょう。
大きな特徴は、裏拍を強調したリズムで、「跳ねる」感覚があるのです。これはジャズも同じで、ラグタイムがジャズのルーツとされる1要素と言われているようです。
僕は映画『陽のあたる教室』でジョージ・ガーシュインの「アイ・ガット・リズム」という曲を覚え、当時は無知故にそのリズム感から「ガーシュインはジャズなんだな」と勝手に認識してしまっていたものでした。基本的には、即興性の有無によってジャズと区別されているのだそうです。
1990年代後半だったと記憶していますが、それまで作曲家単体の曲集として自由な出版が厳しい状況だったジョージ・ガーシュインの版権が使いやすくなり、楽譜業界という狭い世界ながら、ちょっとした”ガーシュイン・ブーム”が起きたことがあります。
その流れで、ガーシュインに限らず「ラグタイム」という音楽ジャンルのスコア普及が脚光を浴びることとなり、様々な作曲家の様々なラグタイム・ナンバーのオムニバス・スコアが量産される時期がありました。
そのおかげで僕も当時、遅まきながらようやく数々のラグタイムの名曲達を初めて知ることとなり、その後、昔ながらのスタンダード曲や他ジャンルの名曲をラグタイム風にアレンジする編曲の面白さなどについても学んでいったのですが・・・。
その中に、こんなスコアがあったのでした。
↑ 『楽しいラグタイム・ピアノ連弾曲集』目次より抜粋
このスコアは、1曲目「エンターテイナー」以外は元々ラグタイム・ナンバーではなく、ラグタイム・アレンジに適した有名な曲を寺島尚彦先生がラグタイム風に編曲なさったものですが・・・目次だけでみなさまもうお分かりでしょう。注目は2曲目のタイトルです。
マクドナルドじいさん。
いや、これは誰もが知るメチャクチャ有名な曲ですよ。
「Old McDonald」・・・ここでは「マクドナルドじいさん」の邦題となっていますが、日本語詞が載った「ゆかいなまきば」と言えばみなさまもピンと来るでしょう。この方がタイトルもよく知られていますからね。
原曲はアメリカ民謡なのですが、曲の持つ愛らしい雰囲気、ウキウキする裏拍のアクセント・・・これで跳ねる感覚を強調すれば、正にラグタイム・ナンバー。
僕の中で「かなりラグタイムっぽい有名曲」と以前からインプットされていた曲で・・・解禁情報が二転三転した『Pray』収録2曲目のタイトルが「Uncle Donald」だと分かった瞬間、脳裏にパッと浮かんだ曲がこれだったんです。
「オールド・マクドナルド」から「アンクル・ドナルド」への連想。安易ですかね?
でも僕が「Uncle Donald」=「ドナルドおじさん」のタイトルから、ウキウキなラグタイム調の曲を想像してしまったのは、このためでした。
予想が当たるか当たらないかは新譜リリースまでお預けとして・・・4曲すべてが震災をテーマにした組曲・第2弾と判明した今、愛らしく楽しげなリズムで、その上でジュリーがシリアスなテーマに向かう曲、というのを今年は聴いてみたい、と・・・これは個人的な願望でもあります。
40年以上も歌手人生を歩んでいるジュリーのことですから、当然「Old McDonald」という原曲タイトルは知っているでしょう。その楽しげな曲調が、下山さんの作ったラグタイム風のメロディー、リズムに取り組んだ作詞作業の過程で浮かんできて、語感からの連想もあり、「ドナルド(キーン)おじさん」のことを歌いたくなった・・・それが今の僕の予想です。
全然外れるかもしれませんけど。
今回は肝心の楽曲考察が浅くなり恐縮ですが、お題の2曲について少し。
「遥かなるラグタイム」「now here man」・・・いずれも僕としては、アルバムの中で抜きん出て好きな曲、というわけではありません(もちろん、この2曲がアルバムの中で特に好き、というファンのみなさまもいらっしゃるでしょうが)が、「この曲が無ければアルバムの流れが成立しない」重要なナンバーだと感じています。
特に「遥かなるラグタイム」は、B面の「あの娘に御用心」と共に、寂寥感、孤独感に満ちたアルバム『いくつかの場面』収録曲の流れの中にあって、ホッと息を整えるような何とも言えない安心感があります。「人待ち顔」「U.F.O.」という僕の大好物2曲の間に配置されているのも個人的には大きなポイントで、絶対に飛ばして聴くことはできない、無くてはならない曲だと思います。
これはおそらく詞先なのかな。詞の中では「古き良き、懐かしきもの」の象徴として「ラグタイム」というフレーズが使われ、それを受けて東海林修さんが、ズバリ!な曲調をあてがったのではないでしょうか。
ジュリーのどこか力の抜けた飄々とした歌い方は、やはり「ラグタイム」を意識したものでしょう。「気軽に踊れる曲」という狙いかな。
このヴォーカル・スタイルはジュリー自身の判断だったのか、それともスタッフからのサジェスチョンがあったのか・・・興味深いところです。
「now here man」の方も素敵な曲です。
ただ僕の場合は、こういう曲想だとどうしてもランニングのベースラインが恋しくなってしまうなぁ・・・。でも、白井さんがアレンジでウクレレを採り入れたことにより、曲のウキウキ感が増していますね。
ちなみにこの「now here man」というタイトルは、ジュリーも歌ったことがあるビートルズの名曲、「ひとりぼっちのあいつ」(=「Nowhere Man」)とかけてあるんじゃないかと思うんですけど・・・どうでしょうか。
どちらの曲も今後のLIVEで聴くことは難しいかもしれませんが、今年「Uncle Donald」という新たなラグタイム・ナンバーが生まれることを期待しつつ・・・予想大外れの可能性を承知で、今日はこの記事を書かせて頂きました。
とにもかくにも、新譜が楽しみで仕方ない毎日なのです。
今年はどうか発売日到着を・・・頼むよアマゾンさん!
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