沢田研二 「朝焼けへの道」
from『JULIEⅥ ある青春』、1973
1. 朝焼けへの道
2. 胸いっぱいの悲しみ
3. 二人の肖像
4. 居酒屋ブルース
5. 悲しき船乗り
6. 船はインドへ
7. 気になるお前
8. 夕映えの海
9. よみがえる愛
10. 夜の翼
11. ある青春
12. ララバイ・フォー・ユー
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『3月8日の雲~カガヤケイノチ』ツアー前半が終わりました。
たとえ同じセットリストのLIVEに何度足を運んだとしても、その季節ごとに聴き手に染み入る曲が違ってくるのもジュリーの魅力のひとつ。
ツアー後半は、だんだんと空気が涼しくなっていく中で、また新たな盛り上がりを見せる曲も出てくるのではないでしょうか。
今ツアーのセットリストは説得力充分ですが、僕が予想していたものとは全然違いました。
それもまたジュリーファンとしての歓びではありますが・・・1曲だけ。今年のツアーと絡めて拙ブログのお題に是非採り上げておきたかった曲がセットリストから外れ、執筆の機会を逸したままになっています。
今日はその、僕だけでなく多くのジュリーファンのみなさまが事前にセットリスト入りを切望していたナンバーについて、短めの記事を書いておこうと思います。
アルバム『JULIEⅥ~ある青春』から。
「朝焼けへの道」、伝授です!
隠れた名曲・・・と言っていいのかな?
先輩方の人気も相当高い曲のようですね。
「朝焼けへの道」で始まり「ララバイ・フォー・ユー」で終わる・・・大名盤『JULIEⅥ~ある青春』を、『JULIEⅡ』ほど明確ではないにせよ、コンセプト・アルバムとして印象づけているのは、山上路夫さん=森田公一さんコンビによるこの2曲の存在が大きいです。
なだらかな言葉が、なだらかなメロディーに載っている、これぞシンプルに”名曲”。
で、手元にはスコアもあったりするわけですが・・・。
ショイン・ミュージックさん発行の『沢田研二のすべて』。
この本、収録曲からしても素晴らしく貴重(「鳥になった男」とかタイガースの「青春」とか入ってます)なスコアですが、一部、曲によっては表記通りに演奏すると雰囲気台無しになってしまうような超適当な採譜が為されているのが玉にキズなんですよね~。
まぁ、そういう曲については、却って正解を求めて探究心をかきたてられますから、僕のようなスコアフェチにとっては大いに楽しめたりもするのですが・・・普通の読者さんは「?」マークのやり場も無いほどにワケ分からない表記になっている曲があるのもまた事実・・・。
そして、「朝焼けへの道」がそんな採譜曲のひとつです。
数か所、さすがに放置するに忍びない表記があって・・・このスコアをお持ちのみなさま、ここはひとつ、「あまりにも」な部分だけでも修正をしておいて下さいませ。
ちなみにオリジナル音源の「朝焼けへの道」はヘ長調ですが、このスコアでは演奏を易しくするために、ハ長調に移調してあります。
以下、僕もそれに倣い、ハ長調採譜のコード表記で説明をさせて頂きます。
Aメロからいきなりワンパターンの採譜。「は?」という表記の連発です。まぁ合わせて歌えるならばまだ良いとして、問題なのは「くらいよるのなかを♪」のトコ・・・。
この表記通り(F→C)に弾くと「暗い夜どころか真っ昼間かい!」ってくらい、朗らかな伴奏になってしまいます。
ここはマイナーコードに移行してキュンと来る、楽曲全体から見てもとても大事な大事な箇所。
表記は「Am→Em」に直しておきましょう。
サビ部・・・4小節目以降は「えっ?」というコードが振ってある箇所目白押しですが、まぁ一応歌えなくもないかな・・・。
ただ1箇所、いかにも「青春時代」な森田さんらしい、この曲の一番オイシイ盛り上がり部、「あさやけをみろ♪」の「ろ」のトコ。ここの表記が「G7」ってのは・・・これまたヤケに明るい、と言うかコミカルな雰囲気になってしまいます(涙)。
ここだけでも、「E7」に直しておきましょう。
と・・・こうして作業をしてみて気づいたことがあります。
このスコアの「朝焼けへの道」で修正をかけた箇所のコード採譜は、実際よりもより明るい曲調として和音解釈が為されている、ということです。
確かに、表記通りに演奏すると(移調を元に戻したとしても)レコード音源とは隔たりのある採譜ではあります。しかし、「朝焼けへの道」が採譜者によってここまで”陽”のイメージで拡大解釈されていることに、この曲の本質を見出すことができそうです。
僕は震災のことがあってやっと、それを学んだようなのです・・・。
僕は元々、名曲居並ぶアルバム『JULIEⅥ~ある青春』の中で「船はインドへ」と、この「朝焼けへの道」が特に大好きな曲でした。
しかし今になって、僕はこれまでずっとこの曲に「切ないメロディーと泣ける歌詞」という表面的な感動しか味わえていなかったのではないか、と考えているところです。
そして・・・「震災がテーマとなる」と予測された今ツアーを前に、「朝焼けへの道」が多くのジュリーファンの方々に語られ始めた時、僕はようやく曲の持つ”希望”の道すじを感じ取れたように思うのです。
♪ 君よ うつむいてる顔をあげ
Dm Am7
紅い朝焼けを見ろ
Dm A7
君の頬をぬらす涙 燃えて虹になる ♪
B♭ C Gm7 B♭ C F
(註:こちらは、オリジナル音源と同じヘ長調で採譜しています)
昔から、そして今も、「朝焼けへの道」の歌詞で最も好きな箇所は、このサビ部。
おそらく多くのみなさまもそうでしょう。
でも少し前までの僕はそれを、「物語のように美しい詞だなぁ」と考えていたのです。
今聴くと、「物語」とはとても思えない・・・何とリアルで、力強いメッセージであることか。「涙が燃えて虹になる」・・・そうであって欲しい、と強く思い、傷ついた人々に向けて祈る日常があります。
もちろん山上さんの作詞に物語性が盛り込まれていることは明らかなのですが、40年近くも経って、「朝焼けへの道」はファンの心を昔とはまったく違う形で揺さぶっているのではないでしょうか。
「朝焼けへの道」を今ツアーで、という願いは叶いませんでした。
まぁ、期待が薄いということはジュリーファンなら何となくは覚悟していたでしょうし、僕としても「さすがに無かったか」くらいの感じでしたけどね・・・。
でもジュリーは、よく似たテーマであり、より現実感の強い「明日は晴れる」を採り上げ、それぞれの土地、それぞれの人々に必ず訪れる”日常”を、希望を込めて歌ってくれました。
多くのファンが「朝焼けへの道」に重ねて被災地の方々に馳せていた思いについては、少し違う形ではあったけれど、ジュリーがステージで叶えてくれたような気がしています。
生きる望みを失くし、いくら朝焼けを見ても、涙を燃やして虹に・・・と簡単にはいかない人々がまだまだたくさんいらっしゃる。それは現実。
そう考えると、安易にこの曲に重ねて綺麗な収束を求めていた自分が恥ずかしくもなったりしますが・・・。きっと僕自身が、「朝焼けへの道」に救われようとしていたのでしょう。
今はただ、「朝焼けへの道」が今も昔も変わらず素晴らしい名曲であることを、改めて噛みしめたいです。
それにしても、ソロデビューを果たして以降のジュリーの加速度的なヴォーカルの進歩は、凄いですね~。
僕は『JULIEⅡ』のヴォーカルがとても好きなんですけど、その時点ではまだジュリーに「歌わされている感」みたいなものが感じられます(それが逆にてらいの無さ、無垢な少年のような表現に昇華しているのが好みなのですが・・・)。
『JULIEⅥ~ある青春』のリリースは『JULIEⅡ』から僅か1年半後に過ぎないというのに、情感、声質の幅は格段に増しています。
身近のレコーディング・スタッフが一番それを感じていたでしょう。音源トラック全体的に『JULIEⅡ』と酷似したアプローチのレコーディングにも関わらず、『JULIEⅥ~ある青春』では、最終ミックスが明らかに”ヴォーカリストありき”の手法へと変わってきているからです。
それはさながら、『JULIEⅡ』の物語で悲運の愛に別れを告げた少年が、この『JULIEⅥ~ある青春』では、かつての憧れだった”海の男”へと成長し、大人の男として歌を歌っている・・・そんなふうにも感じます。
僅か1年半の時間に、その何倍の年輪分もの成長を魅せてくれる、若きジュリー。
そんな人が、還暦を越えてなおまだまだ元気に走り回って歌っている・・・大げさでもなんでもなく、奇跡としか言えませんよね・・・。
さて。
次回記事では、「祝・柴山さん還暦記念」として、久々に鉄人バンドのインストをお題に採り上げようと思っています。
一応キャンドルを灯しての執筆覚悟ではいますが・・・あのパターンは、まずアイデアと気力が沸いてこなければどうしようもありません。果たして思惑通りに筆が進みますかどうか。
あまり期待せずお待ち頂ければ、と思います~。
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コメント
DYさまへ
はじめまして。毎日こちらへおじゃまするのが日課です。長い中抜けのあとTUBEでジュリーに再会してそれから怒涛のTUBEとブログ巡り。。ライブにまた行きたいと思ったのはDYさんの熱い愛のこもった記事を読んだからです。1曲1曲の丁寧な解説と感想。。。ジュリーはなんて幸せなんだろうと感激の思いでいっぱいです。過去記事もコメントもすべて読ませていただいてます。長文の解説大歓迎です。他の大好きなブログさん宅にドキドキしながらはじめてコメントして感激していつかDYさんにもと思ってました。
今回の記事を読んでいてもたってもいられずにです。これからも熱い記事を楽しみにしてます。
投稿: れいこ | 2012年8月23日 (木) 02時54分
れいこ様
はじめまして~。
ようこそいらして下さいました!
いやいや、拙ブログをすべて読破中の方は、さすがに数えるほどしかいらっしゃらないかと…『ジュリー祭り』からしばらくの期間の過去記事は無知丸出しで、自分で読み返すと恥ずかしさもありますが、とても嬉しいです。励みになります!
僕はジュリーから、言い尽くせないほどの幸せを貰っています。その気持ちをずっと忘れずに、出来るだけたくさんの曲について書いていきたいです。
是非またコメント下さいね。
これからもどうぞよろしくお願い申し上げます!
投稿: DYNAMITE | 2012年8月23日 (木) 12時24分
ちょっと、事情があって、乳がんの定期検査にいってきました。今年もなんとか
検査で終わり。あちこちに、ポリープや、子宮筋腫のある私は、ちょっと、まいっています。
投稿: hiromi | 2012年8月23日 (木) 13時58分
DY様
ほぼ一年ぶり、二度目におじゃまします
今回は地元金沢とお隣富山だけ参加です
すばらしいライヴでしたねえ すごいエネルギーに圧倒されました 今日は「鳥になった男」のタイトルを見かけて 思わずコメしてます
(もちろん 朝焼けへの道 も大好き)
TGの頃からずっとファンで ソロからは「アルバムを聞いてライヴに行く」を中抜けなく繰り返してきました。
これまでもジュリー祭り 日比谷野音 比叡山 と、いろいろ忘れられないライヴはあったのですが「鳥になった男」を歌った時のライヴは特別です!
地元だけでなく各地で何度も見たナァ・・ 若かったナァ・・ 青春だったナァ・・
すみません ついどっぷり
一曲だけなのにまるでオペラのようで あの時の空気感とドキドキ感を今でも鮮明に思い出せます。
久しぶりにJULIEⅢ 日生劇場のライヴLP聞きました 声が若ーい!映像見たーい!
と言いつつ今のJulieが一番
これからも 新旧とりまぜた伝授 楽しみにしてます。
投稿: M | 2012年8月23日 (木) 14時10分
hiromi様
大変ですね…。
検査は、大事なこととは分かっていても、心に大きな負担となるものなのでしょうね。
とにかく定期的な検診が一番大事…。
僕も数年前に胆石が発見され、以来、年に一度の健康診断では腹部エコーに時間をかけて診てもらっています。
胆石について、お医者さんからは食事に注意するように言われています。油っこうものを食べたことがきっかけとなって突然痛みが襲ってくる可能性があるとのことで…。
油断せず、時々は身体の言い分も聞きながら、日々過ごしていきたいものです。
☆
M様
ありがとうございます!
「鳥になった男」を生で聴いたことがある、というだけで僕にとっては夢のようなお話です。
本当に壮大な曲ですよね。ジュリーの語る、歌う物語と、シンプルなのに不思議な雰囲気を持つコード感…そして「エピタフ」にも似た緊張感溢れる素晴らしいアレンジ、正に大作です。
「今日と同じ明日。明日と同じ明後日…この世は牢獄だ。出してくれ!」
ジュリーの叫びは、天性のものなのでしょう…切実に響きます。本当に、何という語り、何というヴォーカルでしょうね…。
でも僕は音でしかそれを知りません。
M様は、音を聴けばその時の映像が甦ってくるのでしょうね…。
なんともうらやましい限りです。
だいぶ遅れましたが、僕もせめて、今後のすべてのジュリーLIVEをしっかりと目に焼き付けたいと思います~。
投稿: DYNAMITE | 2012年8月23日 (木) 22時24分
DY様 こんばんは
「朝焼けへの道」聴きたかったですねー。
当時はもう行きたいライブには自分の都合でいけるようになっていました。
この頃は色んなミュージシャンの歌もよく聴いていてオリコンベスト100全部知っていたくらいでしたが、ジュリーは特別になってました。
何となく心のどこかに、この人の歌をこの先ずっと求め続けるんだろうな、と根拠のない確信が生まれてた気がします。
「鳥になった男」
リサイタルで聴きました。中野サンプラザだったかな?ライブアルバムにもなっていたかと。(行方不明で確認できず)
ジュリーは中野ブロードウェイマンションに住んでいてMCで「ここ(中野サンプラザ)まで徒歩1分(笑)」とか言ってたっけ。
投稿: nekomodoki | 2012年8月23日 (木) 22時49分
nekomodoki様
ありがとうございます!
「朝焼けへの道」でジュリーに歌って欲しかった思いは、今ツアー、「約束の地」と「明日は晴れる」で味わえたように僕としては考えています。
でも…聴きたかったですねぇ~。
「鳥になった男」については、僕は考えを改めねばありません。
初めて聴いた時、アレンジや楽曲構成などから「これはさすがに高度過ぎて、当時あまりファン受け入れられなかったのでは?」と想像してしまいました。
はからずもこの記事で、「鳥になった男」への当時の先輩方の熱い思いを知り、これはいつか気合を入れてお題に採り上げなければ、と身を引き締めた次第です~。
投稿: DYNAMITE | 2012年8月25日 (土) 21時50分