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2011年11月

2011年11月25日 (金)

瞳みのる 「老虎再来」

from『道/老虎再来』、2011

Peejacket


1. 
2. 老虎再来
3. 道(カラオケ)
4. 老虎再来(カラオケ)

-------------------------

本題の前に、まずはご報告からです。
実は来年1月の鹿児島公演の前日、計ったわけではないのですがカミさんの学生時代の友人とお会いするために、福岡に1泊する予定を立てていました。
鹿児島公演の前日、福岡で何が行われるか・・・考えるな、という方が無理ですわな~。

ということで、カミさんと「さすがに贅沢かなぁ」と話し合いながらも福岡公演のチケットを探し、結果、二人とも参加できることになりました。

今、老虎ツアーは早くも後半に突入していますが、僕は残すところ横浜、福岡、鹿児島、そして武道館と、4公演分もの幸福な時間を体感できるということになります。
本当に贅沢です。感謝そして日常の倹約を粛々と・・・それ以外ありませんね・・・。

それでは本題。
今回採り上げるお題は、ピーの新曲「老虎再来」です。
40年の時を超えて帰ってきたピーが、タイガース時代には見せなかった”ソロ音源の制作”という新たな刀を抜いた、2011年。

タイガースのメンバーとしての伝説だけに頼らず、教師への転身、そして音楽への帰還・・・常にポジティヴに新しい分野へ挑戦するピーの意気というものは、今ツアーでのブランクに負けないドラム演奏と同じくらいに、決然たる男の魅力を感じます。
ピーの新たな挑戦は、自身作詞・作曲・歌唱による、オリジナル楽曲のリリース。
後追いファンということもあり、僕はとにかく楽曲あってこそ、のスタンスでいましたから、やっぱり”新曲”というのは嬉しい・・・それに僕は元々、常に新しい曲に向かうアーティストの姿勢を好むのです。
特に今年は特殊な年で、ジュリーの新譜が制作されなかったこともあり(タイガースへの準備、そしてツアーという1年でしたからね)、僕はその分まで、今年リリースとなったピーの新曲2曲に大いに肩入れしています。

「道」とはまた違った素晴らしさを持つ「老虎再来」、今回も本気モードで暑苦しく語りますよ~。
僭越ながら、伝授です!

「道」の記事で触れましたが、この「老虎再来」の考察にあたって、僕は今ツアーのセットリストについて個人的に考えていたことがあります。
まずはそのお話から。

ツアーを前に行われたトークショーでジュリーは、初めて4人揃ってリハーサルした時のことを語ってくれたそうです。
曰く
「立て続けに27曲演奏した」
と。

考えの浅い僕は、すっかりこの”27曲”がそのままセットリストに反映されるものと思い込み、初日の「ラヴ・ラヴ・ラヴ」が終わった後でも必死に拍手を送りながら
「まだあと3曲ある!」
と待ち構えていたという・・・(恥)。
冷静に後から振り返ると、それは無茶な話でしたね。

で、初日が終わりしばらく経って
「ジュリーが言っていた”27曲”の、セットリスト以外の残りの3曲は何だったのかなぁ」
と、楽しく推測を始めました。

僕の結論(あくまでも個人的な推測ですよ!)は

・「廃虚の鳩」
・「タイガースのテーマ」
・「老虎再来」

というものです。
廃虚の鳩」は、ジュリーが「一応練習する」と発言していたこともあり、間違いないでしょう。リハーサルでの仮歌は、ジュリーが歌ったのかなぁ・・・。
「タイガースのテーマ」は、以前に「嘆き」の記事で書いたように、京都でのピーの講演会にて坂田委員長が、ピーの3連符ドラムスについてお話されていたことから推察しました。

そして「老虎再来」です。
これも以前少し書いたことがあるのですが、僕はこの曲のピーのドラム・アレンジが、「叩きながら歌うことを前提にしている」ように思われてなりません。
ただ、ピーが歌うと言っても、歌唱へのベクトルは「道」とはかなり異なっているように感じます。
純粋なリード・ヴォーカルと言うより、ピーを含めたタイガース全員のヴォーカル、という狙いを含んでいるように思うのです。

「道」という楽曲はピーのプライヴェートな印象が強く、タイガースのメンバーに向けてピーが個人として歌い、それを選ばれしタイガースファンが分かち合うというもの。
一方「老虎再来」は、ピー自らもタイガースのメンバーも、そしてすべてのファンに対しても、「僕と一緒に歌おうよ!」というコンセプトが根幹になっているのではないでしょうか。

僕(ピー)は太鼓を叩きながら歌う。
(註:ピーがドラムのことを”太鼓”と表現するのがとてもイイ感じで好きです!)
仲間(タイガースのメンバー)も、それぞれのポジションでそれぞれに歌う。
みんな(ファン)も客席から一緒に歌う。

それが、「老虎再来」というナンバー。
ピーのオフィシャルサイトに

♪ 嬉しい時は 歌おうよ
  楽しい歌を 歌おうよ ♪

という詩が紹介されていますが、「老虎再来」のコンセプトを、この詩の一節がそのまま言い表しているように思えます。
再会の、歓喜の歌。
シンプルに、歓びを歌う歌。

「老虎再来」は、元々別の形でピーが構想をあたためていた曲を、中井國ニさんからの
「タイガースのキャッチっぽいものを」
という打診を受けて新たに歌詞を練り直したもの、とピー自身が解説してくれています。
正に「タイガース再び!」という歓びの曲なのです。

そしてピーは歌詞カードの解説で、この曲を「中井さんに捧げる」として締めくくっています。
ならば、ピーをはじめタイガースのメンバー、そして武道館に駆けつけたすべてのファンが一体となってこの曲を歌うシーンを、天国の中井さんに観てもらいたい・・・そんなふうに考えてしまいます。
セットリストにピーの新曲が採りあげられるとしたら、「道」よりもこちらだ、と僕はどうやら(漠然と)そう予想していたみたいで・・・。
そして、セットリストが判明した段階で改めて、「この曲は一応リハまではやっていたんじゃないかなぁ」と、思いを巡らせたわけです。

今回のツアーを生で体感して、ピーのドラム・スタイルは手数の多い、楽曲のコンセプトに応じた凝ったフレーズを好むことが分かりましたが、それにひきかえ「老虎再来」の演奏は、極端なまでにシンプルなエイト・ビートに徹しています。
イントロとエンディングを除き、オカズもスネアドラムの「たかたか♪」というフレーズ以外登場しません。
これは先述のように、ピー自身が歌いながらの演奏を念頭に置いているのと同時に

”難しいことは必要ない。これは、誰にでも歌える楽しい歌なんだ”

というコンセプトに合致した演奏、ということでもあるでしょう。
ピーのドラムスには、常に「歌心」があるのです。「老虎再来」のドラミングは、ピーの正直な気持ちが反映されているのだと思います。

歌詞もメロディーも、いたってシンプル。
何回か音源を聴き、「老虎再来」というキャッチフレーズを覚えてさえいれば、誰しもがいきなりのサビ大合唱に参加できます。ピーの作曲の狙いは、まさにそこではないでしょうか。

僕は『道/老虎再来』を購入し、まずは両曲ともに、PVを観賞しながら味わいました。
意識はしていなかったんですけど、聴き終わった後で考えると、1曲目「道」の映像には、ピーの笑顔がありませんでした。
それなりに年齢を重ねたピーの現在の姿を、まず「道」で僕は初めて確認したわけです。
これが今のピーなんだ、帰ってきたピーなんだ、と。

でも僕は、昔のピーを知らないからなぁ・・・。

そんな思いを抱きながら、次曲「老虎再来」へと気持ちを進めていったのかな、僕は・・・。

そして目にした、「老虎再来」の映像。
上着を脱いで肩に引っかける、という、現代の男性ではちょっとあり得ないキメポーズに引き続いて、森林を駆ける一頭の虎の両目から怪光線が発射されるというシーンに至るまでの段階では、不肖DYNAMITEが
「さすがにどうしたものか」
一瞬たじろいだことは否定いたしません(汗)。

しかし次の瞬間、虎の発した怪光線が、ドラムセットに忽然と現れた一人の男の影の両目部分へと乗り移り、躍動するイントロでエイトビートを叩くピーの姿が鮮やかに浮かびあがります。
観る側としては、(おそらく誰しもが)息を飲み

「あっ、ピーがドラムスを叩いている!」

と脳認識するまでの、ほんのわずか数秒を待つようにして炸裂するのが、ピーの笑顔です!

オイシイ!
オイシ過ぎるぞ、この笑顔のタイミングは!

このあたりは、天性のアイドル感覚なのでしょうか。
ピーがドラム演奏で炸裂させるのは、何も”左右シンバル鬼連打”や、”鬼神ロール”ばかりではないんだ。ピーの最大の武器・・・40年前、たくさんのファンを虜にしていたのは、やっぱりこの笑顔だったんだなぁ・・・。

後追いの僕ですら、「老虎再来」PVのイントロのピーを観て、そう思えました。
ピーファンのみなさまの感想をあちこちで拝見しますと、このシーンはきっと当時のままのピーの笑顔、表情だったということなのでしょうね。

ピーがファンの前から姿を消して40年後の今年、老虎ツアーも折り返しに入った今まさに
「ピーが終始笑顔で演奏していた」
という多くの方々の感想を目にします。
初日と比べると、笑顔の演奏シーンが格段に増えてきているのだそうです。
僕はまだ現時点では、ピーの細かい表情を見ることができる席での老虎ツアー参加はありませんが、横浜や鹿児島では、「老虎再来」PVのようなピーの最高の笑顔を、肉眼で見られるのかなぁ・・・。

そう、ここまで述べたことはそのまま、この「老虎再来」という楽曲は音源だけを聴くよりも、DVD収録の映像と合わせて聴いた方が数倍素晴らしい、ということでもあります。
笑顔でドラムスを演奏するピー・・・PV映像の威力としては「道」以上ですね。

それでは、「老虎再来」の演奏やアレンジ、ピーの魅力をDVD映像に沿った形で考察していきましょう。

まずはイントロです。
ピーの作ったメロディーとは別のコード進行に載せたシンセサイザーの”テーマ”で幕開け。

♪ ラソファミレミファラ、ソファミレドレミソ
  ファミレドシ♭ドレファ、ミレド#シラシド#ミ ♪

と表記すればお分かりのように「下がって上がって」という、うねるようなフレーズが4回。1小節ごとに少しずつ下降していきます。
コード進行は「Dm→C→B♭→A7」。
これも「道」のイントロと同じくらいに耳馴染みの良い、タローらしい王道の進行。ピーの作った歌メロ部には登場しない進行、というのも「道」と同様です。
タローがアレンジ考案したコード進行に、シンセのメロディーを載せたのでしょう。

「老虎再来」でのピーの作曲は短調になっていて、イケイケのGS直系エイトビート風味は作曲段階から確定していたでしょうが、タローの工夫により、どこか80年代を思わせる味つけも加えられていますね。
つまり、同窓会期タイガースのニュアンスをも聴き手に感じさせてくれるのです。

シンセの”テーマ”が
4小節、続いて「Dm→C→Dm→C」の進行に載せたリードギターが4小節。
「4+4」の8小節という収まりの良い譜割りでイントロとし、直後に歌に入るのが通常の手法ですが、タローはこの8小節の後に2小節のタメを追加しました。
これは、オリジナル曲のリード・ヴォーカル・レコーディングが初めてということもあり、決して流暢にテイクを重ねるとはいかないピーが、アップテンポのアレンジで「スパ~ン!」と歌メロ(いきなりのサビ、という構成です)小節の頭からジャストで声出ししやすいように、優しきタローが配慮したのではないでしょうか。
とすれば、正に友情注入アレンジ!

話が前後しますが、「あの日の道♪」から始まるAメロ部の直前にも、丁寧な「だだだだ!」というキメのフレーズが用意されていて、ピーはサビもAメロも、とても歌い出しやすかったのではないでしょうか。

サビ前2小節のタメ部ではピアノがフィーチャーされ、「ラ・レ・ファ」というDmの展開系で最高音を「ファ」→「ミ」→「ソ」→「ファ」と移動させて盛り上げます。
このイントロの、シンセサイザー→リードギター→ピアノのリレーは、本当に流れるようにバトンタッチされていますよね。

イントロの話が長くなっていますが、ピーの(笑顔炸裂)ドラムスにも触れないわけにはいきません。
ここでのエイトビートは、1小節8つの連打をハイハット(向かって右側の二重のシンバル)ではなくトップ・シンバル(向かって左側。キンキンキン・・・という音色)で打ちます。
実はこれもドラム演奏としては王道で、歌メロ部でハイハット、演奏部でトップ・シンバル、という使い分けはエイトビート・ナンバーの基本中の基本。

で、ピーの場合、トップシンバルのエイトビートを演奏する際に、両手を広げた姿勢になっている時がとてもキュートに見える、というのが特徴ではないでしょうか。
きっとタイガース時代もそうだったのでしょうねぇ・・・。
僕がツアーでこれまで観てきた感じだと、ピーはこういう時に少しだけトップシンバルとは逆方向に身体を倒しているようです。それで、右手がピン!と伸びて見えるのがカッコイイんですよね。
この奏法は今回のツアー・セットリスト中、「誓いの明日」で堪能することができますよ!

歌メロに入ると、ピーのエイトビートの刻みはトップシンバルからハイハットへ。
ハイハットのエイトビートは、”歌うドラマー”にとって、最も居心地の良い演奏パターンです。軽く首を振りながら歌うピーがイイですね~。

先に述べたようにこの曲は、「老虎老虎老虎・・・♪」の部分をサビとすると、「あの日の道♪」からがAメロということになると思いますが(「何処までも♪」からがBメロ)、Aメロ直前の2箇所の演奏部は、長調の進行になっています。
これもおそらくタローのアイデアでしょう。

「老虎再来」は短調ながら楽しい曲ですが、その中にあってこの短い長調部は、さらにウキウキとするような明るさがあり、楽曲全体のメリハリをつける役割も果たしているようです。
映像では、演奏シーンにはさみこまれるようにして、ピーの歌入れシーンが所々に登場します。
長調へと変わる演奏部ではピーが
「おっ、ノってきた!」
といった感じで、スイッチを入れているようにも見えます。右手の激しい動きがポイントでしょうか。
ピーは今ツアーの「ジャスティン」でも、同様のアクションを見せてくれてますよね。

ちなみに、PVの演奏シーンは完全に別録りですけど、ピーの歌入れシーンについては、ひょっとしたら本番レコーディング・テイクの横でカメラが回っていたのかも・・・。

エンディングでは、トップシンバルのエイトビートに続いて

「たかたかどこどこどこどこどこどこしゃ~ん♪」

と、見事音源の
ドラムス通りに「ビシッ!」と合わせて演奏を終えるピー。
映像収録にどのくらいのテイク数を重ねたのか分かりませんが、ラストのフレーズを叩き終え、スティックを握りしめたままカメラ目線での余韻シーンでは、まるでピーが
「今のはオッケ~テイク撮れたでしょ!」
と言っているかのような表情です。
ピー流の「どや顔」といったところなのかな~?

あと、ちょっとした発見などをひとつ。
これまでの記述から、改めて言うまでもないことなのですが、ピーの新曲2曲のDVD映像は、当然いずれもPVという位置づけです。「老虎再来」で演奏映像があると言っても、撮りながら音まで同時に録っているわけではありません。
まず音源を制作した後、それに合わせて演奏映像を撮っているのです。

PVのヴォーカルシーンの歌い出しでおもむろにマイクを構える人を僕は初めて観ましたが(これは「道」の映像です)・・・まぁそこがピーの良さですよね。
カッコイイとこはひたすらにカッコ良く、その一方で愛すべき天然性も抜群という・・・。

発見と言うのは、音源と映像が別録りの演奏シーンならでは、というもの。

「老虎再来」のドラムスは、シンプルなエイトビートに「たかたか♪」というスネアドラムのオカズが何度も絡んでくる構成です。
「たかたか♪」は、それこそひっきりなしに噛んできます。ピーも、自分で叩いたテイクとは言え、すべてのタイミングを後から正確になぞっていかなければならない演奏映像撮影には、さぞ神経を砕いたことでしょう。
そして出来上がった作品では、ほぼ完璧な撮影でした。
ただ1箇所だけ・・・音は「たかたか♪」と鳴っているのに映像のピーは普通にエイトビートのまま、というシーンがあります。

2分54秒くらいの

♪ 行ってみよう 海の果て ♪
  C7               F       A7

の直後です。
しかしさすがはピー先生、動揺の色など微塵も見せませんね。

細かく観ていくと、さらにこの後のエンディング近くで、鳴っているのはハイハットなのに叩いているのはトップシンバルかなぁ、というシーンも出現しますが、その辺りになるともう正確なテイク通りの再現よりも、ピー自身が曲の世界にどっぷり入り込んで、完全に”今演奏をしているドラマー”へと昇華し、カメラのことを忘れるくらいの境地に達しているように見受けられます。

いや、これは決してアラ探しというものではなく、ロック・ミュージックのPVを観る際の楽しみ方のひとつなのです。
高校時代によく友人とMTVなどを観ながら、PVのバックに鳴っている音で映像再現できていない音はどれか?などと、競い合って探したものです。
その点ドラムスは楽器の性質上特に、再現難度が高いですからね。探すのが楽しいんですよ~。

ともあれ。
「廃虚の鳩」「タイガースのテーマ」、そして本日採り上げた「老虎再来」。
ジュリー達がこの3曲を練習していたかも、という僕の推測が当たっているかどうかはともかくとして、来年の1・24武道館でこれらの曲が追加で歌われたら、最高のツアー・フィナーレだと思ったりもするのですが・・・。
まぁ、あまり贅沢を言うのも・・・ね。

実は僕、ツアー前には、今回のお客さんはタイガースファンが主流ということで、もっとステージと一緒になってみなさまが歌うシーンがあるのかなぁ、と考えていました。
意外とそうではなかったですね。やっぱり、ジュリーがMCで「みなさんも一緒に」と言ったりしない限り、なかなかおいそれとは・・・というところでしょうか。

ただ万が一、本当に万が一ですけど、武道館で「老虎再来」が追加でセットリストに組み込まれたとすれば、ジュリーがおどけながらMCで
「(この曲を)ご存知の方も、ご存知でない方も、どうかご一緒に歌ってください」
と言ってくれるような気がします。今のジュリーがよもや「一緒に歌って」と言うとしたら、その曲は「老虎再来」だと思うんですよね。

「ご存知の方」になっておいた方が、絶対に楽しいですから・・・。万が一をお考えのみなさま、是非この曲を覚えて武道館に臨まれては・・・?

さて。
月末に用事が入り(YOKO君の音源でベースを弾く)、仕事も色々と・・・。日常が忙しくなってまいりまして、なかなか更新ペースが上がりそうにありません。申し訳ないです・・・。

次回更新は12月3日、ドーム記念日ということで『ジュリー祭り』セットリストからお題を採り上げ、続いてぴょんた様より頂いております100万アクセス・ニアピン記念リクエストの曲へと続く、という流れを今の段階では予定しております。

横浜のレポートまでは、従来の拙ブログのスタイルである、ジュリー・ナンバー考察記事で攻勢をかけますよ~。
併せて、老虎ツアー・四国シリーズなどのご感想もお待ちしております!

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2011年11月20日 (日)

ザ・タイガース 「割れた地球」

from『ヒューマン・ルネッサンス』、1968

Human


1. 光ある世界
2. 生命のカンタータ
3. 730日目の朝
4. 青い鳥
5. 緑の丘
6. リラの祭り
7. 帆のない小舟
8. 朝に別れのほほえみを
9. 忘れかけた子守唄
10. 雨のレクイエム
11. 割れた地球
12. 廃虚の鳩

--------------------------

岡山→京都と、また素晴らしいステージが続いたようですね。
特に京都・・・実はカミさんが仕事と帰省を兼ねて参加していたのですが、普段はLIVE後も割と冷静なタイプのカミさんから、「激良かった!」というメールが来たほどで・・・。
普段仲良くさせて頂いている関東のJ先輩やJ友さんも大勢遠征していらしたんですけど、その反応は今ツアーで一番の盛り上がりと言ってよいくらいです。
いいなぁ、京都組・・・。

特に、多くの方々がセットリストの目玉として挙げている「割れた地球」→「怒りの鐘を鳴らせ」→「美しき愛の掟」の流れは、さぞかし鳥肌モノだったことでしょう。

今日は、その3曲の中から、まだ楽曲考察記事として拙ブログで執筆していなかった、「割れた地球」を採りあげます。

武道館後に”セットリストを振り返るコーナー”で書くのでは遅い!
この曲ならではのバンド演奏の見所を、ツアー後半に向けて今書いておかねば、という思いでいます。
僭越ながら、伝授!

「割れた地球」は『ヒューマン・ルネッサンス』収録曲の中でも、ストリングスなどの装飾アレンジや楽器のオーヴァーダビングを排し、純粋にメンバーのみの「一人一音体制」を徹底させているという点において、「朝に別れのほほえみを」と並び、当時のタイガースの演奏をより身近に伝えてくれるナンバーだと言えます。

トラック内訳は

・ヴォーカル(ジュリー=中央)
・ドラムス(ピー=右サイド)
・ベース(サリー=中央)
・リードギター(トッポ=右サイド)
・サイドギター(タロー=左サイド)

といった感じでミックスされています。
各トラックの演奏に、本当に語るところが多い曲です!

まずはピーのドラムスから。
何と言っても「ピーと言えばこれ!」という”鬼神ロール”を、容赦なく次々に炸裂させているのが素晴らしい。

この”鬼神ロール”はオリジナル音源でも曲中に10回以上(!)登場します。
その中でも僕が格段にシビれるのは、2箇所。

ひとつは、間奏直前(「逃げまどう人たち♪」の後、1'50"くらいのところ)。
ダブルロールみたいな感じで、尺が長いんです。これは、今ツアーの10・2フォーラムで見事に再現されました。

もうひとつは、間奏が終わって1度リフ部が来て、リフの最後にロールが来るかな、と待ち構えていたらそこではスカし、何と「真二つに~♪」というジュリーのヴォーカルに重ねるようにして、歌メロの小節の頭でロールを炸裂→クラッシュシンバルと大暴れする箇所(2'23"くらいのところ)。
この、リード・ヴォーカルにかぶせて暴れる、というのは、当時のスタジオ・ミュージシャンではあり得ない演奏、アレンジですよね。
この箇所も、すでに何処かの会場で再現されているのではないでしょうか。何と言っても、演奏していて最高に気持ち良いはずですから。僕もひょっとしたら、これまでの参加会場で興奮のあまり聴き落としているかもしれません。
ツアー後半の今後、ピーのドラムスについて一番の要チェック箇所だと考えています。

さて、”鬼神ロール”以外に注目して欲しいのは、ピーがスネアドラムを打つタイミングです。
通常スネアドラムというのは、2拍目と4拍目にアクセントとして打つものなのです。例えばエイトビートで言うとこうなります。

つつつ、つつ

(註:「た」がスネアドラムの音)

こうすることで、聴き手も自然に4拍子のリズムに身体を委ねてノることができますから。
しかし「割れた地球」では多くの割合で

つつつ、つつつ

というスネアドラムのアクセントが登場するのです。最後の「た」は4拍目の裏拍ということになります。
つんのめるような、危ういバランスを表現。これは間違いなく「割れた地球」という楽曲のコンセプトを踏まえての演奏です。
しかも「割れた地球」のドラムスはエイトビートではなく、16分音符で跳ねまくるスタイル。
ピー、大忙しの大暴れなのです。

これは、僕の好む「楽曲の内容に合致した演奏」ということでもあり、さらに言えば、僕が今ツアーでピーのドラムスに魅了された要因のひとつが、オリジナル音源の段階からしっかりと刻まれていたということでもあります。

今回のツアーでは、この裏拍打ちがオリジナルよりも高い頻度で登場しています。
ツアーに参加したみなさまがこの曲で、4拍子のノリに合わせて身体を動かしながらも何となく違和感を覚えるとすれば、それはピーのスネアドラムに幻惑されている証拠です。
もっともっと、幻惑されましょう!

続いて、ベースとリード・ギター。
イントロをはじめ、曲中何度も登場する

♪ ソレソファ~、レドソシ♭~ ♪

という印象的なリフは、ベースとリードギターのユニゾンです。この辺りは明らかにジミヘンを意識したアレンジ、演奏ですけどね。
しかも、歌メロに入るとギターよりもベースの方が全然音数が多いという。
僕が今ツアーのサリーのベースで一番「カッコイイ!」と感じるのは、この「割れた地球」の歌メロ部で

♪ ソソ、レ~、ソソ、レ~、ソソレレ、ファ~ファ# ♪

の「ソソ、レ~♪」のうねりです。
LIVEレポートでは「ぼんぼん、ぎゅ~♪」と擬音表記したのですが、伝わったかなぁ。
「ファ」→「ファ#」という、次の小節の頭の「ソ」へ向かって突き上がる経過音もカッコイイですしね。

一方、リフの音階で言うと「シ♭」の音が重要です。
「割れた地球」のキーは、ト長調。つまりトニックのコードは「G」(=「ソ・シ・レ」)であるのに、「Gm」(=「ソ・シ♭・レ」)の構成音である「シ♭」が登場し、短調の持つハードな雰囲気が加わります。

間奏のリードギターは、粗削りなガレージ感溢れるトッポの真骨頂。
僕がこれまでいくつか聴いてきた、前期タイガースのライヴ音源でのトッポの演奏と合致する音です。
余談ですが、以前「美しき愛の掟」の記事を執筆した際に、僕はリリース時期に囚われて、間奏のギターをタローの演奏と書いてしまったことがありますが、あれはトッポの音なのでしょうね。ガレージ感がありますから。
『サウンズ・イン・コロシアム』を聴きこむと、タローのリードギターには、激しいフレーズにも丁寧な"きちんと
感”があって、トッポのガレージ音とはかなり違うように思います。

残念ながらトッポ不参加となった今回のツアーで、「割れた地球」のリードギターを担当するのは、鉄人バンドの柴山さん。
真赤な照明を全身に浴びて弾きまくる姿には、”帰ってきたタイガース・ファン”の先輩方の中でも、釘づけにされた方が少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

そして、サイドギター(リズムギター)。
ミックスではかなり音量設定も大きく、ピーのスネアドラム・アクセントが変則的であることを受けて、ということでしょうか・・・こちらはしっかりと2拍目、4拍目でカッティングを刻み続けています。
暴れまわるドラムスとベースに代わり、リズムの土台を作っているのはこのタローのサイドギターということになりますね。

レコード音源、最初のタッチ・コードは「G7」。
音から判断すると、フォームは

・3フレット=セーハ
・4フレット=3弦
・5フレット=5弦

という基本形のようです。
しかし、今回のツアーでは、もっと尖った音でカッティング音が鳴っているように聴こえます。
今ツアーでのカッティング・サイドギターの担当がタローなのか下山さんなのかまだ判別できていませんが、採用されているフォームは下記2つのうちいずれかではないか、と考えられます。

まずひとつ目は、7th音をより強調したフォーム。
先述に倣って「割れた地球」のトニック・コードである「G7」を例にすると

・3フレット=セーハ
・4フレット=3弦
・5フレット=5弦
・6フレット=2弦

このフォームは以前、ジュリーがギターを弾いているショットを記事中に添付したことがあります。
これです。

File06332

小指で2弦を押さえて、高い7thをダメ押しするのがポイント。
ここでジュリーが押さえているコードは、6フレット・セーハの「B♭7」ですが、このフォームをそのまま3フレット・セーハにずらせば「G7」になります。

2つ目のフォーム候補は「G7」ではなく「G7+9」というコード。
これはズバリ、ロック界において「ジミヘン・コード」と呼ばれるもので

・9フレット=4弦
・10フレット=3弦、5弦
・11フレット=2弦
(1弦と6弦はミュート)

メジャー音とマイナー音が同居する、独特のハードな響きを持つフォームです。
僭越ながら我が身を晒しますと

Sn3901112

ご覧のように、ポジションが根元に近くなります。
ですから、タロー、或いは下山さんが2つフォーム候補のうちいずれを弾いているかは、ハッキリ見えずともフレットに注意していれば判別できそうです。
これまで僕はフレットすら見えない席での参加が続いておりましたので、タローが見やすい席を頂いた横浜では、是非確認してきたいと思っているところです。

あとは、ジュリーのヴォーカルにも触れておかねば。

ヴォーカルという点については、僕は「割れた地球」のオリジナル音源をナメていたかもしれません。
少年のような声質を迫力不足と捉え、ジュリーの”パッション”を見過ごしていたように思います。
ツアーでこの曲を体感し、改めてCDで聴き直してみると、やはりジュリーのヴォーカルは素晴らしい。
特に

♪ 真二つに割れたのさ
  G7

の箇所で、最後の「さ」に短調の感覚を持たせるようにフラットさせることや

♪ 真赤な  さけ目
  B♭ C    B♭ C

の箇所で、演奏からコンマ数秒遅れて引き摺るように歌う感覚は、天性のものでしょう。

ただ、「割れた地球」のヴォーカルに関しては、今ツアーでのジュリー・ヴォーカルの方が、オリジナル音源と比べて聴き手に訴える力が強いのではないでしょうか。
以前にも書いたように僕は、今年という特殊な年に敢行されることになったツアーにおいて、まさかセットリストに「割れた地球」が組み込まれることなど全く予想していませんでした。
『ヒューマン・ルネッサンス』収録曲からは、命あることへのエールを込めて「生命のカンタータ」、或いは、再生への祈りを込めて「光ある世界」が選ばれるだろうと考えていたのです。

しかしジュリーは、そんな新規ファンの考えの遥か上を行っていました。
敢えて「割れた地球」を採り上げ、次曲「怒りの鐘を鳴らせ」に繋げることで重要な意味づけを持たせ、さらには「美しき愛の掟」を続けて配置し、聴く者を圧倒的に高揚させる流れを作り出す、という離れ業。

タイガース時代から現在のジュリーのヴォーカルへの経緯で決定的に飛躍しているのは、声質もそうですが、歌詞解釈の進化ということでしょう。
毎日お邪魔している仙台のじゅり風呂さんの記事によりますと、フォーラム初日と仙台公演とでは、「割れた地球」の歌詞の聴こえ方がまるで違って感じられたそうです。仙台では、やはり詞の内容が生々しく迫ってきたようなのです。
もちろんジュリーには、それが分かっているはず。
ジュリーの強靭な精神力と決意を証明するようなセットリストだと思います。ジュリーでなければ、今回の試みが通用したかどうか・・・。

ところで、今回のツアーがいつものようなジュリーのソロではなく、ゲストにサリー、ピー、タローを迎えての全曲タイガース・ナンバーという構成だったこともあり、この数か月で、タイガースに思い入れを持つ多くの方が突発的に拙ブログにアクセスしてくださっているようです。

そんな中、詩人・吉岡実の研究家でいらっしゃる小林一郎氏のサイト『吉岡実の詩の世界』の編集後記コンテンツで、これまで2度にわたり拙ブログへのリンク紹介を頂いていました。
僕自身、大学時代に鈴木志郎康氏の講義を受けたことを機に現代詩にどっぷりと浸かっていた時期があり、当然吉岡作品も読んでいましたので、小林氏のリンクには驚き、身に余る光栄だったのですが・・・。

小林氏は編集後記において何度かタイガースの音楽性に触れ、特にアルバム『ヒューマン・ルネッサンス』についての深い思い入れを綴っていらっしゃいます。
”『ヒューマン・ルネッサンス』の瞳みのるのすべてのドラム・フレーズを覚え込んでいる”と仰っておられるほどです。
そして、これはツアーが始まる前に氏が編集後記で書かれていた内容なのですが、まず「割れた地球」の変則的なスネア・ドラムに触れ、さらに”瞳みのるのベストテイクは「怒りの鐘を鳴らせ」ではないか、と述べていらっしゃいます。

新規ファンの僕とまったく同じ考えであることに驚き、嬉しく思うと共に、タイガースにはやっぱりロックに造詣の深い男性ファンが当時からしっかりとついていて、ピーのドラムスやサリーのベースを正当に評価していたんだ、ということを実感しました。

そして僕には、氏の記述で初めて知ったことがありました。
それは、ピーが好きなドラマーとしてジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのミッチ・ミッチェルを挙げていた、ということです。

これで少しピーの演奏の謎が解けたような気がします。
ミッチ・ミッチェルと言えば、激しいアタックとパワフルなスティックさばきが真骨頂ですが、いわゆるアトノリの重厚なタイプではなく、”ジャズ”というキーワードもあります。
ピーのスティックの握り方はジャズ・スタイルに近く、僕はそれをローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツと重ねて考察していましたが、本命はミッチ・ミッチェルとすべきかもしれません。
また、ミッチ・ミッチェルは役者でもあったそうで、ピーのキャラクターやイメージと重なる点も多いように思われます。

このように、まだまだピーのドラム・スタイルについて、僕の知らないことはたくさんありそうですね・・・。

最後に。
”ジミヘンっぽい曲”ということで、タイガース「割れた地球」と共にジュリー2000年リリースのソロ・アルバム『
耒タルベキ素敵』収録の「everyday Joe」を想起するジュリーファンは多いでしょう。
まぁこの2曲については、”ジミヘンっぽい”と言うか”パープル・ヘイズっぽい”ということになるのでしょうが・・・。

僕の場合、”ジミヘンっぽい”と考えた時に思い浮かべるジュリー・ナンバーが、もう1曲あります。
『JULIEⅣ』収録、「怒りの捨て場」。

作詞・作曲もジュリー。
演奏はもちろん、サリー在籍時の井上バンド(表記的にはPYG)です。
これは正にジミヘンのアレンジを下地にしたような演奏で、特にギター・リフとサリーのベースラインの絡みが素晴らし過ぎます。オルガンも渋い!
さらに、ジュリーのヴォーカル・・・所々に「ウッ!」などのシャウトを噛み込ませるあたり、ジュリーにとってはタイガース時代の「割れた地球」の流れを汲むスタイルだと言えそうです。

この曲には偶然ながら「怒り」というキーワードもあり、来年のジュリーのソロ・ツアーでのセットリスト・サプライズとして要注意、なんて考えているのですが・・・いかがでしょうか。

それでは次回、「老虎再来」の記事にて。
頑張って書きます~。

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