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2011年4月

2011年4月28日 (木)

ザ・タイガース 「銀河旅行」

from『ザ・タイガース ゴールデン☆ベスト』
original released on single、1983


Tigersgolden

1. 僕のマリー
2. シーサイド・バウンド
3. モナリザの微笑
4. 君だけに愛を
5. 銀河のロマンス
6. 花の首飾り
7. シー・シー・シー
8. 廃虚の鳩
9. 青い鳥
10. 美しき愛の掟
11. 嘆き
12. スマイル・フォー・ミー
13. 君を許す
14. 都会
15. 素晴しい旅行
16. 誓いの明日
17. 十年ロマンス
18. 色つきの女でいてくれよ
19. 銀河旅行
20. ラヴ・ラヴ・ラヴ

-----------------------------------

あの震災の直後、何をどう発信してよいか分からずに悩み続けた10日間。
みなさまに逆に励まされるようにして、拙ブログは「無事でありますよう」の記事で再スタートしました。

執筆にあたっての心構えは、以前とは大きく変わりました。
まずは、こうして無事に日常を送れることへの感謝・・・それがあります。
そして
「こちらは元気です。相変わらずでやっています。いつもより少しだけ頑張ってます」
”微力”と言うことすらおこがましいような局地的なブログですが、そういう気持ちで書いていこうと思いました。

こんな内容ですけど・・・「自分はこれをするべきだ」というものを見出すことができた僕は幸運だったと思います。
周囲には、「こんな時に、自分が何をすれば良いのかが分からない」と悩んでいる人が多いものですから・・・。

いつしか、”3日に1曲”のペースを定着させました。
そのペースを守りたい、と強く思うようになりました。

1ケ月半ほどでしょうか、そんな感じで更新してまいりましたが・・・本当に申し訳ありません。大型連休の間、少し記事執筆から離れます。
いや、何か事情があるというわけではなく・・・友人に会ったり、カミさんの実家に出かけがてら、関西を散策したりして過ごします。
執筆から遠ざかるとは言っても、連休が終わったらすぐに戻ってきますし(その頃じゅり風呂界はトークショーの話題で持ちきりかな?)、頂いたコメントには随時お返事できますから、大げさに言うほどのことでもないのですが、このところの”3日に1曲”のペースが定着してきて「今日は更新の日」なんて待ち構えていらしゃる読者の方々が、万が一にもいらしゃらないとも限りませんから・・・。

要は、連休中はあちこちで遊んでいます!ということです(滝汗)。

しばしのお別れ・・・その節目となる今日のお題は、タイガース!
と言っても同窓会タイガースですが。

問答無用の80年代ポップチューン。素晴らしい完成度を誇るシングルナンバーですが・・・僕はこの名曲の存在をつい昨年までまったく知らなかったという(汗)。
「銀河旅行」、伝授です!

・・・いや、今回は「伝授」ではないなぁ(恥)。
みなさまにどうしても教えて頂きたいことがひとつありますから・・・でも、それは最後にしましょう。

まずは、少し前に執筆した「青い鳥」の記事で書きそこねていたことなのですが。
記事中で僕は、「青い鳥」は「花の首飾り」と共に一般認知度の非常に高いタイガース・ナンバーだと書きました。幼い頃の僕が普通に知っていたくらいですからね。
つまり、”タイガース=青い鳥”というのは、ある程度普遍的なイメージだと思うのです。

「銀河旅行」の作詞を担った大御所・湯川れい子さん。
タイガースの詞、それもシングル曲ということで大いに張り切っていらしゃったのかなぁと思いますが、しっかり歌詞中に「青い鳥」というフレーズを組み込んできていますね。

♪ 銀河目指し飛ぶ
青い鳥の ♪
     G#7                        C#m

このセンスはさすが!と思うと同時に、湯川さんにとってもやっぱりタイガースって特別な存在なのかなぁ、とも考えてしまいます。
単にお仕事の作詞だったら、「青い鳥」という表現は出てこなかったんじゃないかなぁ・・・。
みなさまはどう思われますか?

さて。
僕はこの「銀河旅行」・・・J先輩がレコードから落としてくださった音源のみをかろうじて所有しているという状況。
タイガース同窓会リリースの楽曲で、僕が一番好きなナンバーは実はこの「銀河旅行」。そして「朝焼けのカンタータ」、「色つきの女でいてくれよ」、「生きてることは素敵さ」と続くわけですが、お気づきのように好きな曲の上位をシングル曲が占めています。

しばらく前まで、これらシングル曲はタイガース単位でのCD音源は無いものと思いこんでいました。
入手するなら『歌謡ヒットパレード』的なオムニバスの企画盤しかないのかなぁ、と。
でも、『ゴールデン・ベスト』なんてのがあったんですね。
まだ買ってないけど(汗)。

てなことで僕は、同窓会タイガースのシングルについては現時点で”音源のみ所有、歌詞カード無し”という状態です。
「色つきの女でいてくれよ」は古い譜面の資料を発掘したから歌詞も判明していて、問題なのは「銀河旅行」なんですけど・・・。
これが、なかなか詞の聴き取りが難儀なのよ。

いえいえ、みなさまに教えて頂きたい、というのは歌詞のことではありません。キチンとしたCD音源が出ているのですから、いずれそちらを購入して自力で解決します。
ただここでは、僕のあまりのセンスの無さ・・・つまり、現時点でとても滑稽に聴きとってしまっている歌詞部を紹介いたしまして、みなさまに「バッカだなぁ~」と笑って頂こうかな、とそういう趣旨でございますれば。

まず、いきなりの冒頭部分から、正しく聴き取れていないことは明白。
僕にはこう聴こえます。

♪ ジャスト・ワン・ミニッツ!
     E

  恋せよ
乙女ごよ~ ♪
                         G#7

絶対違うよね・・・。

「乙女ご」って、一体何だよ・・・?
「乙女子」で「若き女性のみなさま!」という呼びかけ?
いや、「乙女児」か?

まぁ発音それ自体は、なんとなくもぜ感じでイカしてますけどね。
あ、「もぜ」って分からないですか・・・。これは鹿児島弁で「かわいらしい」という意味です。
ちなみにちょっと年齢が上がってキレイな女性を指す場合は「みごて」。イケメン男性については「よかにせ」と言います。
日本は、狭いようで広いのです。

続いてAメロ

イヤな星降る 今宵は世界が手にとれる ♪
         E        G#7  F#m7                    B7

「今宵は世界が手にとれる」とは湯川さん、さすがの素晴らしい導入部でございます。この素敵な気持ちの躍動、そこに「イヤな」なんて枕は・・・これまた100パーセント聴き取り間違いなのでしょうが。
本当に見当もつかない、まったく分からないです、ココ。

さらに曲は進み、Bメロ。
(ちなみに、それではこの曲のサビはどれなのかというと、冒頭の「ジャスト・ザ・ミニッツ♪」から始まる一節です。いきなりサビ押し!というタイアップ向きの作りですね)

♪ 100 万 年 お前となら 100  万 年
     C#m B  A  A    B7  E   C#m B  A

  血迷ってみたくなるよ 
Still I Love~
     A                  B7

ここも・・・たぶん違うと思う(汗)。
ジュリーなら「LOVE」のロングトーンはきっと
「ら~~~~~
♪」
って感じで、「ぶ」の発音を最後に足すと思うんですよね。

日本語ではなく英語なのは確かだと思うのですが、僕の英語の聴き取りって・・・ほら、「FRIENDSHIP」の時にボロが出てるでしょ~?
でも
、これ以外に思いつかないんですよね・・・。

そうそう、Bメロは2番の詞もずっと勘違いしておりまして、

♪ しなる身体 
泣けばギャラクティカ~ ♪
    A               F#m7                    G#7

何で泣かにゃイカンのだろう・・・という。
ここは記事を書いていくうちにハタと正解が分かりました。
「抱けば」ですね。

つまり、僕はジュリーの発音する「だ」を「な」と聴き違えていたと・・・?
情けない話です。
こんな調子では、「ダーリング」や「酒場でDABADA」でのジュリーの素晴らしい速射砲ヴォーカルに、顔向けができないではないですか!

とまぁ、ここまで述べてまいりました、あまりにセンスに欠けた歌詞の聴き取り間違いについてはですね、自力でCD音源を購入し歌詞カードにて確認したいと思っております。
みなさま、この点はDYNAMITEを甘やかしてはダメですよ!

え~と、こんな恥をさらしてばかりで記事を終えては面目が立ちませんので、少しばかり楽曲構成にまつわる一考を。

「銀河旅行」ではサビにもAメロにも、一般に「日本人がグッときやすい」とされる和音進行が採用されています。
先程も書きましたがもう一度。

♪ ジャスト・ワン・ミニッツ 恋せよ乙女ご
よ ♪
     E                                                G#7


いや、絶対に「乙女ご」ではないのですがここではちょっとソレは置いといて。
この「E→G#7」という進行ね。これが、日本人泣かせで知られる必殺の胸キュンパターンなんですよ。
音階で言うと「ミ・ソ#・シ」→「ソ#・ド・レ#・ファ#」となります。
ハ長調に移調して表記しますと「ド・ミ・ソ」→「ミ・ソ#・シ・レ」の「C→E7」。

もちろん洋楽にもこのパターンはありますが、日本のロックやポピュラー・ミュージックは、もう「伝家の宝刀」的な使われ方をする曲が本当に多い。

ちょっとジュリー・ナンバーで例を挙げてみましょうか。
分かりやすいように、すべて「銀河旅行」と同じホ長調に移調して表記してみましょう。
きっと多くのみなさまが

「そう、その曲のソコの部分が何故かグッとくる、って思ってた~!」
と、納得してくださるはず。

一番有名なのはまず、大野さんのこれでしょう。

♪ 時の過ぎゆくままに ♪
        E            G#7
  
(「時の過ぎゆくままに」より)

でも、渋いトコでまだまだありますからね。
例えば・・・加瀬さんですと

♪ 今黙って そばにいる ♪
        E        G#7
  
(「明日では遅すぎる」より)

白井良明さんだと

♪ この天空駆けて また出逢う魂 ♪
     E                     G#7
  
(「不死鳥の調べ」より)

樋口了一さんは

♪ 逢いたくて 触れたくて ♪
     E             G#7
  
(「愛は痛い」より)

最近だと、吉田Qさんも

♪ Ah~ 柔肌を ♪
     E             G#7
  
(「いつかの”熱視線ギャル”」より)

そしてジュリー自身だって

♪ ZOKKON なんだよね~ ♪
    E                        G#7
  
(「ZOKKON」より)

これらすべて同じ理屈のコード進行。
あまりに使い過ぎると飽きられてしまいますから、アルバムに1、2曲放り込んでおくとメチャクチャ光りますし、本当に良い詞やヴォーカルと合体した時はスーパーヒット・シングルにもなります。

・・・って、あれ~おかしいなぁ。
「銀河旅行」はさほどヒットしなかったんでしたっけ・・・?

さてさてそれでは、僕に課せられた「正規音源のCD購入」ということについてなのですが・・・。
最後にいよいよ、「教えてください」事項へと筆を進めてまいります。

今回「銀河旅行」の記事執筆にあたり音源収録作品を検索していて、「確かkeinatumeg様が以前この曲について書いていらっしゃったはず」と思い出し、早速おじゃまいたしますと。
おぉ~、詳しい!
で、これまでまったくノーマークだったベスト盤の存在に気がついたのですよ~。

これです。


Tigersbest20

さらにあちこち調べてみますと、このベスト盤、タイガースのメンバーが選曲をしたという記述も見つかりました。
う~む、興味深い。
当然82年のアルバムからも多く収録されていますが、僕にとっては結構意外な選曲があったりして・・・。

keinatumeg様が書いていらっしゃった
「僕と1分しない?」
というフレーズがまた、ちょっと大人になった同窓会時のタイガースにピッタリですねぇ~。
そう、「銀河旅行」というナンバーは”1分でできあがるカップラーメン”のCMタイアップ曲だったようですね。
僕、まったく記憶に残っていませんよ・・・情けない。

なるほどそれで「ジャスト・ワン・ミニッツ♪」かぁ・・・。湯川さんの詞も、まずはタイアップありき、で作られたということですか。
後追いの僕にとっては、こんなことすらとてつもなく深い。

で、このレコードなんですけどね。
調べても出てこなかったので、ナイとは思うのですが・・・CD化とかされてたりはしないのでしょうか?

僕が今回先輩方に逆伝授して頂きたいのは、まさにこの1点なのです。

もしもCDがあるのなら、僕はそちらを何とか探し求めて購入したい。
CD化されていないのであればスッパリあきらめ、「ゴールデン・ベスト」の方を購入いたします。
迷えるヒヨッコに、どうか正しい指南を。
よろしくお願い申しあげます~!



追伸にて、お知らせがございます。

拙ブログでもリンクさせて頂いております「石海ブギウギ」の管理人・いわみ先輩ですが、この度、地元の町会議員に立候補し、見事当選を果たされました。
さすがに詳しい町名などまでお伝えするわけにはいかないのですが・・・。

長い間ブログの更新が途絶え、おそらく議員さんでいる間は再開なさることもないでしょうが、いわみ先輩がお元気でいらっしゃるのか心配なさっている方も多いようですので・・・僭越ながら不肖DYNAMITEより、ジュリーファンのみなさまにこの快挙をご報告申しあげます。
ただ、いわみ先輩のブログの方にお祝いのコメントを頂いてもお返事はできない状況のようですので(ま、ヤバいってのもあるんでしょうな笑)、その旨御了承くださいますよう・・・とのことでございます。

「議員になってもジュリーは聴き続けます!」

今朝、御本人から頂いたメッセージです。
本当に、おめでとうございます!

この半年間、大変だったことでしょう。
でも、きっとそのおかげでかなりスマートになられたのではないでしょうかね~。

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2011年4月25日 (月)

沢田研二 「Hot!Spring」

from『明日は晴れる』、2003

Asuhahareru

1. 明日は晴れる
2. 違いのわかる男
3. 睡蓮
4. Rock 黄 Wind
5. 甘い印象
6. Silence Love
7. Hot!Spring
8. ひぃ・ふぅ・みぃ・よ
9. 100倍の愛しさ
10. 夢見る時間が過ぎたら

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前回「麗人」の記事では、みなさまから頂いたコメントへのお返事がずいぶん遅れてしまい申し訳ありませんでした。
先週は久しぶりに風邪で寝込んでしまいましてね・・・。今はもう全然大丈夫なのですが。

そのような事情でしたので、本日の新たな更新記事には下書きの時間がなく・・・1日ですべてを書くという状況になっております。
そこで今日は。
いつもとは内容の趣向を変えて、僕の故郷の話を少しだけ語らせて頂きたいと思います。

BGMは・・・アルバム『明日は晴れる』から。
「Hot!Spring」、お届けいたします~!

『明日は晴れる』収録曲だと、僕が特別に好きなのは「違いのわかる男」と「夢見る時間が過ぎたら」の2曲。
「Hot!Spring」はまぁ、なんとなく流して聴く感じでいる曲なんだけど、それでもちょっとくすぐったい、懐かしい引っかかりのあるナンバーではあります。
僕の故郷のことを歌った曲なのですから。

♪ 広い空   仰      ぎ 
    C  C(onB) C(onB♭) A7

  香る熱い    春
     Dm  Dm(onC) Dm(onB) G7

  灰が吹き上げる Cherry Island ♪
  C Em     Am7 A7      B♭  C

Cherry Island=桜島。
ご存知の方も多いとは思いますが、常に灰色の帽子をかぶったこの活火山に何故「桜」と名がつけられているのかというと・・・。

元々この火山は、錦江湾(薩摩半島と大隈半島の間の湾)に浮かぶ独立した島だったんです。
ですから、「山」ではなく「島」というわけ。
大正3年にすさまじい噴火があり、流れ出た溶岩、土砂によって大隈半島と陸続きになってしまいました。それが現在の地形です。

僕の実家がある場所は、ちょうど錦江湾の付け根の位置にある海沿いの町、隼人町というところです。
今は近隣の市町村を大合併し、「霧島市」の一角となっています。

この合併により一応、鹿児島県内では、県庁所在地である鹿児島市に次ぐ人口を誇る近代都市になった・・・とされているわけですが、国分・隼人のテクノポリス・エリア以外の地域は、深刻な過疎化が進んでいるという現状もあります。
僕の故郷・隼人にしても、めざましく発展しているのはほんの僅かな区域に過ぎず、実家のある駅前を中心に、母校の宮内小学校・隼人中学校へと続く風景は、何十年経っても近代化には至らず、古くからある商店が跡継ぎの夢断たれ軒並みシャッターを下ろす状態が、今なお進行しています。

僕がよくお邪魔させて頂いているJ一郎様のブログ『新しい想い出』さんには、時々僕の故郷の現在の姿を映した素晴らしい写真がupされています。
過去には、今にも僕の実家が映りこんでしまいそうな場所のショットもあったんですよ~。
J一郎様は、霧島を挟んで向こう側の宮崎県にお住まいでいらっしゃいますが、山を越えてよく鹿児島県内に足を延ばしてくださっています。
温泉がお好きなんですね。

僕の故郷・隼人町ですと、日当山温泉が有名です。
タヌキが徘徊するという山里に囲まれた宿で、ぬるめの温泉につかるのです。
ちなみに真偽定かではありませんが、子供の頃には「誰それの家では昨夜タヌキ汁だったらしい」とよく噂になったりしていましたね・・・。

ところで、大正の大噴火の時は、それは大変な混乱だったそうですよ。
当時、町の青年団のような組織にいた曾祖父は、家族に「無事に戻ってこれるかどうか分からない」と言い残して、錦江湾に救助の船を出したそうです。
祖父から聞いた話です。

♪ 壊れたバラバラの身体は
           G7                  C         

  H   o           t           Spring
  C C(onB) C(onA)  G7

その祖父のちょっとした振る舞いにつまらない理由で反抗した僕は、高校生の時に一度だけ家出をしています。
1日でお金が尽きて、戻ってきちゃったんですけどね。
隼人駅は日豊本線という路線上にあるんですけど、それとは別に、肥薩本線なる超ローカルな線への分岐点でもあります。
家出したDYNAMITE少年は、メジャーな日豊本線に乗る気にはなれず、淋しい肥薩本線を選んで、少ない本数の列車を乗り継ぎ、北へ、北へ・・・。

結局、熊本県の人吉というところまでやってきました。
何のあてもないまま、見知らぬ公園のベンチに腰を下ろし、菓子パンとコーヒー牛乳の夕食。

♪ 一人 あま   りに 
    D     D(onC#) Bm Bm(onA)

  遠く      来過ぎた ♪
    G  Em7        A7

おっと・・・すみません。
突然、まったく別のジュリーナンバーがBGMにかかってしまいました。
しかも出だしの歌詞が微妙に違うし!

というわけで、僕は「遠い旅」を聴くと、無性にこの時のことを思い出すんですよね・・・。

当時僕はクラスメートと組んでいたバンドメンバーの家に泊まりに行くことがままあったりしましたから、心金折れて翌日コソコソと帰宅した際も、家族は誰も家出していたとは思わなかったようです。
今にして、余計な心配をかけずに済んで良かったなぁ、と胸を撫で下ろす次第でございます。

ジュリーは、穏やかな下山さんのメロディーにどのように触発されて「Hot!Spring」の詞を書いたのでしょうか。

  H   o           t           Spring
  C C(onB) C(onA)  G7

  アイブノヨウニしみる
        G7            C

  痺れにも  翼生えたみたい ♪
     G7          C    Fm          A♭
 
こりゃ、まさしく温泉ですよね。
こんな詞がついて、下山さんもビックリした・・・かな?

全体の詞を通して考えると、「Hot Spring」という曲は、連れ添うと決めた人と一緒に、熱い春の地に住む、心通う友人に会いに行くという歌だ、と僕なりに解釈しています。

僕は大学入学と同時に故郷を離れ、そのまま都会で暮らしていますけど・・・鹿児島に帰れば懐かしい友がたくさん待っている、という感覚は未だに持っています。
帰省した時、例え会えなくとも、アイツらはこの地で普通に生活しているんだなぁ、という思いが大きな安心を呼んでくれます。
故郷とは、僕にとってはそういうもの。
それが「Hot!Spring」な鹿児島というわけです。

ところで。
鹿児島県北西部、薩摩川内(さつませんだい)市という町には、巨大な人造の建物・・・いや化け物かな・・・が稼動しています。
もしも、今福島県で起こっているようなことが鹿児島でも起きたら・・・間違いなく僕の懐かしい友人達は、今住んでいる場所を離れなければならなくなるでしょう。

信じられないことです。
受け入れ難いことです。
今、そんなことが現実に起こってしまっている土地があるのか、と思わずにはいられません。
そして、その範囲や、”離れているけど危険な場所”は、思わぬ遠方にまでこれから及んでくるかもしれません。

何処かに故郷を持つ人。
故郷をずっと離れずに、今でもそこで平穏に暮らしている人。

♪ 素直な   気持ち         は
     C   C(onB)  C(onB♭) A7

  ねじれから     逃           れ
        Dm  Dm(onC) Dm(onB) G7

  つなぎ止めた愛    と 君に逢いに行こう ♪
  C    Em  Am7 A7  B♭  C    B♭     C

友に、いつまでもその場所にいてほしい。
そこに帰れば会える、といつも思わせていてほしい。

すべての人の故郷に、平穏あれ。

最後になりましたが。
今回初めて「Hot!Spring」をギターで音をとって実際に弾いてみて分かったのが・・・この曲は元々、かなりサイケデリックな進行の、アコースティック・バラードとして作られていたのだ、ということ。
いかにも2000年代初期のジュリーのアルバムらしいパワーポップ的なアレンジが施されているので、純粋に下山さんの作曲アプローチの本質については、これまで気づかずにいました。

アレンジ次第では、「Beloved」のような雰囲気のナンバーになった可能性もありますね。
アコースティック・ギターとメロディーに耳を集中してお聴きになれば、みなさまにもその辺り納得して頂けるかと思いますよ。

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2011年4月22日 (金)

沢田研二 「麗人」

from『ROYAL STRAIGHT FLUSH Vol.3』

Royal3

1. どん底
2. きめてやる今夜
3. 晴れのちBLUE BOY
4. 背中まで45分
5. 6番目のユ・ウ・ウ・ツ
6. ”おまえにチェック・イン”
7. 麗人
8. ス・ト・リ・ッ・パ・-
9. TOKIO
10. サムライ
11. 勝手にしやがれ
12. あなたへの愛

original released on single、1982

Reijin

1. 麗人
2. 月曜日までお元気で

-------------------------

さて、おもに関東近辺で多くの方々が探偵モードになっていらっしゃるかと推察したしますが。
拙ブログでは、『ジュリー祭り』セットリスト・ナンバー執筆の上半期を終えまして、今回からまた様々な任意の時代を飛び回りながら、膨大なジュリーナンバーに立ち向かっていこうと思います。

そこで今日は・・・。
反応の薄いマイナー楽曲の執筆にこそ闘志を燃やしていた僕がいきなり
「この機に書いておかねば!」
と思い立ったスーパーヒット・シングルを、お題に選ばせて頂きました。

ズバリ、「麗人」。伝授です!

何故いきなりこの曲を「書きたい」と思ったのか。
それは、先日saba様がブログで紹介してくださった、「麗人」作詞者・阿久さんのネタバレ発言に萌えまくったからです。

これ、詞が先だったのか~!!

作曲がジュリーですからね。特に「麗人」は、80年代のジュリーがハードな短調の曲作りを好んでいたのではないか、と推測する最強の根拠となる素晴らしい作品で、どんな風に作ったんだろうとずっと気になっていたんです。
詞が先か曲が先か・・・僕にとってはそれがハッキリ分かるだけでも、ずいぶんと考察の深みが違ってくるんですよ~。

ジュリーは「作曲家」としてはかなりストイックな人だなぁ、という印象があります。
完全に「無から有を生み出す」ことを目指しているような・・・。

特別に曲作りの勉強をしていたわけでもないでしょう。
特に初期は、奔放なコード進行の作品が多いですね。浮かんだメロディーに、覚えたてのコードを試しにどんどんはめこんでいって、「おっ、面白い」と感じたヴァースを繋ぎ合わせていく・・・そんな手法から作曲活動をスタートさせたのではないでしょうか。

ジュリーの作曲スタンスに「普通は、こう」という観念はおそらく無いです。
作曲をはじめてみよう、と考えた人がまず試みることは(不肖DYNAMITEもそうでしたが)、自分の好きな既成の曲に似せよう、ということです。
手本とする楽曲があり、自分の創作をそれに近づけていく・・・そんな感じです。
ところがジュリーの作曲には、あまりそういった匂いがしないんですよねぇ。
どちらかと言うと、最後に演奏やアレンジで携わった人が、ジュリーの作った楽曲を、洋楽をオマージュにして仕上げていく、といったところでしょうか。
ジュリーの作曲の時点では、本当に純粋な生まれたての子供のような作品があるだけなのでしょう。

それは逆に言えば、アレンジャー冥利に尽きる、ということ。
各分野のエキスパートがいくらジュリーにトコトン惚れこんで、「僕がこれやってあげる」と躍起になったとしても、ジュリーにとっての最終結論は常に
「自分で全部やれるなら、それにこしたことはない」
という、ツレないもの(なんだと思う)。
ところがその唯一の例外が、「編曲」なんだなぁ。

歌、プロデュース、作詞作曲、プロモート・・・。
ジュリーには「できれば自分ですべてをこなしたい」という渇望があったことが、長年の歴史を経て徐々に明らかになり実現されてきたわけですけど、そんなジュリーがただ1点持ち合わせていない資質、信頼できる人材を常に探し求めている対象・・・それが、アレンジメントなのです。
そう考えると、最近作『涙色の空』で収録曲のアレンジをそれぞれのナンバーを作曲した鉄人バンドのメンバーが担ったことは、途方も無く意義深い。
遂にジュリーは、自分に最も近い人材から、唯一自分に足りなかったものを補うに至ったのですから・・・。

あ、脱線しました。ジュリーの作曲の話でした。

ジュリーはこの頃、短調のハードなナンバーの作曲路線に開眼していたんだと思います。
「麗人」→「ロマンティックはご一緒に」→「裏切り者と朝食を」→「灰とダイヤモンド」と、脈々と繋がっていくんですよね。
「麗人」からさらに以前に遡ってみても、「二人なら翔べるのに」(『JULIE CM SONG COLLECTION』)
、さらには「怒りの捨て場」(『JULIEⅣ~今僕は倖せです』)なども同路線と言えますが、ジュリーが完全にこの手のナンバーの作曲手法について何かを掴んだ、とハッキリ言えるのは、やはりこの「麗人」が最初ではないでしょうか。
良い意味で、歌謡曲の範疇を逸脱していない作風になっていることが、逆にジュリーの開眼・成長を証明しているように思えるのです。

さて、saba様がupしてくださった資料の中で、阿久さんが「(自分の詞は)作曲家を挑発している」と発言しています。
この部分がAメロでここがサビで、という概念にとらわれない、奔放な書き方を敢えてしていたらしいのです。要は、
「この詞に曲がつけられるもんならつけてみろ!」
ということなのでしょう。それが「挑発」だと。

大野さんがその挑発にガチンコで応えたことにより、阿久さんの書くジュリーナンバーも次々にエスカレートしていったわけですが、「麗人」についてはさほどハチャメチャな詞にはなっていません。
てことは、最初からジュリーが作曲することが決まっていて、手心が加えられたりしたのかな・・・?

しかしながら曲を度外視して冷静に「麗人」の詞だけ読むと、「さぁどこまでがAメロでどこからがサビだ?」という感じは受けます。
この詞に曲をつける作業はそう簡単ではありませんよ~。

ジュリーの解釈は本当に見事。
まずAメロ。

♪ 結婚という言葉はタブーにしよう
    F#m                  C#m

  小さなジェラシーも束縛       も ♪
     Bm                    G#m7-5  C#7

阿久さんらしいノッケからの突飛なフレーズ導入部を、クールなエイトビートで王道の短調メロディーに載せます。
そして第1のポイント。

♪ 気ままな夢を    ひろげる自由を ♪
    E7            F#m  E7               F#m

ジュリーはこの部分以降をBメロとし、メロディーを伸ばすように一語一語うねらせて歌い、必然的に曲のテンポを落とすのです。
ジュリーがテンポの変化をメロディーに持ち込むアイデアは、古くソロデビュー・シングル「君をのせて」のB面、自作曲である「恋から愛へ」の時点ですでに採用していますよね。天性のものでしょう。

素晴らしいのは、Bメロパターンを普通に終えたら次がサビメロ、という作りを避け、一度Aメロの変化形を挿入している点です。
「唇が乾いたら♪」のトコですね。
詞だけ読むと、阿久さんはこの部分のフレーズを冒頭のそれと呼応させているようには思えません。ジュリーが作曲段階でビシッと揃えてきているのです。

そして第2のポイントは、サビ部。

♪ 恋はもともとそういうもの ♪
    F#m

この「もの♪」の「も」は「ソ#」の音を出すんですけど、まぁ男声としては高い高い。
しかも「F#m」(ファ#・ラ・ド#)の構成和音には無い音なんです。理屈で言うと9thの音ということになります。
おかげでエキゾティクスの演奏がサビではなんだか不思議なアンサンブルになっていますが、普通に1つのコードを続けて弾いて作曲していて、この音はなかなか出てきません。

ギターを使った作曲には、コードを鳴らしてその響きからメロディーを得る方法と、浮かんだメロディーにコードをあてはめていく、という方法とがあります。
ジュリーが得意としているのは、後者ではないでしょうか。このことは以前に、いわみ先輩も『JULIEⅣ~今僕は倖せです』の解説で書いていらっしゃいました。
「麗人」のサビのメロディーを聴くと、その推測を大いに裏付けているように感じます。
続く

♪ 心ばかりか 身体までも ♪
        E

この「でも♪」のメロディーが先の「もの♪」と一緒。しかしこの部分のコードは「E」(=ミ・ソ#・シ)。和音の中に存在する音なのです。
ですから聴き手は、「もの♪」では不穏な感じを受け、「でも」では流麗な感じを受けるのです。
本当に計算され尽くした職業作曲家の作品のように思えますが、ジュリーは計算などしていないでしょう。
とすればこれは、天賦の才と言わずして・・・。
無論、ヴォーカルの素晴らしさがメロディーに拍車をかけている、という要素も見逃せませんけどね。

ところで、僕は「麗人」の市販譜面を見たことがありません。
あの時代のヒット曲ですから、探せば何処かにあるとは思うのですが・・・。
悔しいのは、自分の勤務先にそれが存在していたのかいなかったのか、分からなくなってしまっていることです。

今僕の手元には、勤務先から出版された、昭和55年発行の1冊の譜面集があります。

File0607

この表紙、某所の鴨居で以前に見てくださった方もいらっしゃるかな?
譜面の形態はピアノ弾き語りスコアですが、歌メロもコードも収載されていますから、楽曲考察の参考資料としては申し分ない本です。

目次ページを見ると

File0608


File0609

このように、昭和55年3月の発行ということで、収載曲で最も新しい曲は「カサブランカ・ダンディ」となっています。
で、お気づきかと思います。目次には何やら書き込みがしてありますね。
これは会社に資料用として残っているたった1冊の本で、書き込みは、当時の編集スタッフが次の商品改訂に向けて構成をチェックしていたものと思われます。
それを踏まえ、目次2ページ目の左上をご覧ください。

一番上の行です。見え辛いかなぁ・・・。
これはね。

れい人

と書いてあります!

先輩編集者には敬意を持たなければなりませんが、「麗」くらい漢字で書けんかったんかい!というツッコミはさておいて。
とにかくこのジュリーのピアノスコア、1982年早々に改訂企画があり、「麗人」を含めた収録曲の検討が成されていたことは明白なのです。

その企画が実現したのかどうか・・・会社の先輩方は誰ひとり覚えていません。資料もありません。
非常に気になっております・・・。

余談ながら当時の編集スタッフは、改訂版を制作の暁には「白い部屋」と「コバルトの季節の中で」の2曲をオミットしようと考えていたようですね。
目次の楽曲タイトル頭にバッテンがしてあります。まったく、とんでもない話です
(←当事者でないので何とでも言える汗)

さてさて最後になりますが。
僕は以前、J先輩に「ジュリーの容姿で好きな時代は?」と尋ねられて

テレビで「麗人」を歌っていた頃

と即答しました。
将来ジュリーについてこんなにも熱心に語ることになろうとは知る由もない、中学生時代のDYNAMITEが、『ザ・ベストテン』などで流れる「麗人」の映像には、単純にその容姿のカッコ良さに惹かれていたのですよ~。
ただ、多くのジュリーファンのお姉さま方とは、容姿に関する感想がちょっと違っていて。
僕は、当時のジュリーの容姿を

女性っぽい麗装をすればするほど、逆に獣のような「男」が解き放たれ、際立つ!

と感じています。
特別にファンではなかったその頃から、僕はジュリーに「理想の男の姿」を見とっていたということは言えそうです。

DVD『快傑ジュリーの冒険』の中でも、僕は「麗人」の映像が一番好きです。
すっとジュリーを中心に追っていた映像が、最後の最後にバ~ン!とエキゾティクスを視界にとりこむカメラワークも、大好き。
あとね、これも中学時代からそうだったのですが、CDでは聴けないサビ直後の

アァア!

という、TVで歌われる際に繰り出されるシャウト・・・これ、メチャクチャにカッコ良いな、と感じていました。
ただ、記憶は曖昧なのですが、『ザ・ベストテン』などで「麗人」の登場回数が重なるにしたがって徐々にこの部分が
「アァァ!」
ではなく
「は~~っ!」
と吐息を吐くような感じになっていきませんでしたっけ?

最近「アァア」をやってくれなくなって残念、なんてTVを観ながら考えていたおぼろげな記憶があるのですが・・・。
実際のところ、どうだったのでしょうか~?

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2011年4月19日 (火)

ザ・タイガース 「青い鳥」

from 『ヒューマン・ルネッサンス』、1968

Human


1. 光ある世界
2. 生命のカンタータ
3. 730日目の朝
4. 青い鳥
5. 緑の丘
6. リラの祭り
7. 帆のない小舟
8. 朝に別れのほほえみを
9. 忘れかけた子守唄
10. 雨のレクイエム
11. 割れた地球
12. 廃虚の鳩

from『THE TIGERS SINGLE COLLECTION』
original released on single、1968

Tigerssingle


disc-1
1. 僕のマリー
2. こっちを向いて
3. シーサイド・バウンド
4. 星のプリンス
5. モナリザの微笑
6. 真赤なジャケット
7. 君だけに愛を
8. 落葉の物語
9. 銀河のロマンス
10. 花の首飾り
11. シー・シー・シー
12. 白夜の騎士
13. 廃虚の鳩
14. 光ある世界
15. 青い鳥
16. ジンジン・バンバン
disc-2
1. 美しき愛の掟
2. 風は知らない
3. 嘆き
4. はだしで
5. スマイル・フォー・ミー
6. 淋しい雨
7. ラヴ・ラヴ・ラヴ
8. 君を許す
9. 都会
10. 怒りの鐘を鳴らせ
11. 素晴しい旅行
12. 散りゆく青春
13. 誓いの明日
14. 出発のほかに何がある

---------------------------

『ジュリー祭り』セットリストからのお題シリーズ。
これで今年執筆した『ジュリー祭り』セットリストのナンバーは6曲。年に10曲ずつ書いて、ジュリー70越えまでにすべてのセットリストについての記事を網羅しようという目標に向け、今年はここまでなかなか順調過ぎるペースで執筆が進んでいます。
とりあえず今日のお題にてひと息つけさせて頂き、また秋になったら残り4曲を下半期執筆、どのナンバーにするか考えていこうと思っています。

それにしましても・・・拙ブログの記事閲覧ランキングをたまにチェックしますと、未だに『ジュリー祭り』東京ドームのレポは多くの方々がお読みになってくださっているみたいです。
とても嬉しいのですが・・・最近は、恥ずかしい気持ちの方が大きいなぁ。
無知丸出しで、ほとんどLIVEに参加した勢いだけで書いていますからね・・・特にタイガースについては、「コイツ、本当に何も知らんな!」というのが我ながらハッキリ見てとれるし。

とりあえず『ジュリー祭り』セットリスト・シリーズ2011年執筆・上半期のシメ・・・お題はタイガースです。

タイガースと言えば、再結成の話はどうなっているのでしょうね・・・。
ここまできたらいつまででも待ちます!って思いなのですが、みなさまはいかがでしょう。いずれにしましても、やはりメンバー全員揃っての復活が観たいですね。

今日のお題は、タイガースが再びステージに立つことがあったら、必ず演奏されるであろう名曲にして、彼等の代表曲。
「青い鳥」、伝授!

冒頭では、2枚のCDを紹介させて頂きました。みなさまご承知の通り、「青い鳥」には2つのヴァージョンがありますね。
まず、歴史的名盤『ヒューマン・ルネッサンス』に収録された、サビのリード・ヴォーカルを作詞・作曲者であるタローが担ったオリジナル・ヴァージョン。
そして、「曲の出来が良かったため」
(←『ザ・タイガース/シングル・コレクション』ライナーより)急遽、サビのリードヴォーカルをジュリーに譲って新たにレコーディングされた、シングル・ヴァージョンです。

2つのヴァージョンで最も大きく印象が異なるのはやはりそのリード・ヴォーカルのパートでしょう。
こうしてみるとジュリーはさすがに声の艶が圧倒的だなぁ、とも思う一方、僕は『ヒューマン・ルネッサンス』収録のタローのソロが聴けるテイクもとても好きですね。
朴訥で、優しい。「青い鳥」の世界観によく合っています。

あと、ヴォーカル以外の違いでは。
まず演奏面ですと、僕が注目したいのはシングルヴァージョンで追加されたアコースティック・ギターです。
イントロの左サイドから聴こえてきますよ。
コードを「ぼろり~ん♪」と弾くだけなんですけど、パッと『ヒューマン・ルネッサンス』ヴァージョンを聴いただけでは普通に「Am」で耳コピしてしまいそうなコード部が、実は「Am6」であることが分かります。「ファ#」の音がつけ加えられているのですね。

そして、ミックス。これは全然違います。
各楽器の音量バランスもそうですが、一番大きく違うのは、コーラス部のPAN配置です。
おそらくシングルヴァージョンでは、「サリーのパートが目立つように」という狙いで配置が練り直されたのではないかと思います。
いずれのヴァージョンも、右サイド=タロー、左サイド=ジュリーというのは変わりませんが、Bメロから加わるトッポとサリーのパートは、『ヒューマン・ルネッサンス』では中央に、シングルではサリーが右サイド、トッポが左サイドに、と分かれているのです。
『ヒューマン・ルネッサンス』のヴァージョンは、トッポの豊かな声圧におされ、サリーの声が聴き取りにくい・・・。
それがシングルヴァージョンになると、4人のパートすべてが見事に融合されていますね~。左が高い声チーム、右が低い声チーム、といった按配です。

さて、「青い鳥」は大変有名な曲ですから、僕の手元だけでも多くの譜面があります。
2冊ほど取り出してみますと・・・。


Aoitori1

↑深夜放送ファン・別冊『沢田研二のすばらしい世界』

Aoitori2

↑ドレミ楽譜出版社『グループサウンズ・コレクション』

実はちょっと、どちらの採譜にも不満があったりして・・・。
それは、Aメロの表記。

♪ 小  さなしあわせを ♪
    D7 G      C      B7

から始まるBメロ→サビについては、きちんと和音表記されているのですが・・・ジュリーとタローの二人、その美しいハーモニーが聴けるAメロは、いずれの譜面も主旋律しか記載されてないんですよねぇ。
つまり

♪ 青い鳥を見つけたよ 美しい島で ♪
        Em          D7           Em     B7

の部分が、音階表記では

♪ シラソ、ソラシ、ドレレ~、ドシラ
  ソラシ~シ、ドシラソファ#~ ♪

としか採譜されていません。
これは、シングルヴァージョン、『ヒューマン・ルネッサンス』ヴァージョン共に、左サイドにミックスされているジュリーのパートなんですよね。

みなさんは、「青い鳥」のAメロはやっぱりジュリーのパートを耳で追いますか?
ジュリーの声を追い求めているとそうなるでしょうが、自然に楽曲を聴いてる状況の時も、そうですか?
僕は違うんです。右サイドで低い方のパートを歌う、タローの朴訥なメロディーに聴き入ってしまいます。

♪ ソファ#ミ、ミファ#ソ、ラシシ~、ラソファ#
  ミファ#ソ~ソ、ラソファ#ミレ#~ ♪

おそらくタローは、Aメロをジュリーのパートのメロディーで作曲したものと思います。そうすると、『ヒューマン・ルネッサンス』レコーディングの時点ですでに、自分の考案したものとは違うメロディーでヴォーカルをとっている(主旋律をジュリーに譲っている)という形になるわけで、「青い鳥」についてはプロデューススタッフも、他収録曲のトッポやサリーの場合とは違い、タローの独壇場ヴォーカルのアイデアは持っていなかったのでしょうね。
ただ一箇所

♪ 青   い鳥    青   い鳥 ♪
    Bm  A   F#   Bm  A   F#

のサビの一部のみ、タローのソロが採用されます。
そして楽曲のクオリティーの高さからシングル化の運びとなった際には、録り直し作業と共に、タローはサビのヴォーカルをもジュリーに譲ることになってしまいます。
こういった(他メンバーの場合であればちょっと微妙な)経緯が、タローだとまったくメンバー間の軋轢を取り沙汰されるには至らない・・・それこそが、タローという人がタイガースで果たした役割、ファンの支持を得るところだったのではないでしょうか。

僕は今になって、どうやら亡き母がトッポを好きだったんじゃないか、という考えに至っていますが、ジュリーやピー、或いはトッポの影に隠れ、人気の中心とは言えなかったタローにも固定ファンはいたわけで。
おそらくタローのファンは、”一歩引いたところにいて、静かに自分の立ち位置を確かめている”・・・そんなキャラクターに惹かれていたんじゃないかなぁ。

「青い鳥」、『ジュリー祭り』では当然、シングルヴァージョンを踏襲という形だったわけなんですけど・・・タイガース復活の暁には、僕は『ヒューマン・ルネッサンス』のヴァージョンでこの曲を聴きたいなぁ。
やはりこの曲は、純粋にタイガースの代表曲として一度聴いてみたいのです。

♪ い~かないで~ ♪
  G       A     B

のトコ、最高音コーラスパートがトッポでなければ淋しいような気がしますし。
せっかくタイガースが生で観られるなら、「奇跡のようにバラエティーに富んだ声の持ち主が一同に会した」という彼等最大の魅力を、後追いの僕も味わってみたいですよ・・・。

何とか実現して欲しいです!

タローの素晴らしい作曲についても、書いておかなければ。
今書きました「いかないで♪」の部分は和音が「ソ・シ・レ」→「ラ・ド#ミ」→「シ・レ#・ファ#」とちょうど1音ずつ上昇しているのですが・・・。
これは、サビの転調部が元の調に舞い戻っていくために構築された進行なのです。

そう、「青い鳥」はホ短調の曲ですが、サビだけ一瞬ロ短調に転調しているのです。
なかなか気がつきにくいんですよね。これはギター・コードの手クセのような転調で、なかなか斬新。タロー・オリジナルと言っていいでしょう。

後にこのパターンのタローの作曲手法は、「出発のほかに何がある」のBメロ部でも一段進化して受け継がれています。
「いかないで♪」の和音進行がG→A→Bmであれば普通にロ短調への着地になるところ、最後の和音をホ短調のドミナント・コードであるBに差し替えることによって、なめらかに飛翔するようにAメロへと回帰していくわけです。
まさに「青い鳥」。
このような作曲センスを考えれば、タローがタイガース解散後に作曲家を志したのは自然な流れと言えるでしょう。
(さんご様がupしてくださった漫画では、タローが「僕は作曲をやっていくつもりだ」とする描写がありましたね!かな~り怪しい作品ながらとても楽しませて頂きました。貴重な資料のおすそ分けをありがとうございます~)

最後に。
後追いの視点で思うことなのですが、「青い鳥」は「花の首飾り」と並んで、ファン以外の一般認知度がズバ抜けて高いタイガースナンバーだと考えられます。
僕も少年時代、「君だけに愛を」や「シーサイド・バウンド」は知らなかったですけど、上記2曲は一応タイトルもメロディーも何となくは知っていましたし・・・。
何処で覚えたのかまったく不明なのですが。

バンド関係の友人の実家には、「青い鳥」のシングルレコードが今もあるそうです。
お母さんが買ったものらしいですね。
「もう聴いてないなら、くれ」と言いかけましたが、思い直しました。
その友人のお母さんにとって、大切な青春の、思い出の1枚なのでしょうからね・・・。

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2011年4月16日 (土)

沢田研二 「greenboy」

from『greenboy』、2005

Greenboy


1. greenboy
2. atom power
3. Snow Blind
4. 永遠系
5. 笑う動物
6. ふたりの橋
7. GO-READY-GO
8. リアリズム
9. MENOPAUSE
10. 君の笑顔が最高

----------------------------

先日、読売新聞の夕刊に『哀しきチェイサー』の記事が掲載され、素敵な笑顔の写真とともに、ジュリーの言葉が聞けましたね。
日本は今大変だけど、自分はいつもと同じように舞台に上がり、元気に務めることで役に立ちたい・・・自らが変わりなくあることで矜持を示したジュリー。

僕も何とか頑張って、今まで以上にペースを上げ、これまで通りの発信を続けていますが、やっぱり胸がざわめき、つまずく思いをすることがあります。
こうして更新を重ねている間にも、時おり北の方から悲鳴が聞こえてくる・・・。
何と言葉をおかけすればよいのか、それが僕には分からない。

そんな時、今回のジュリーの記事、発言を読んで励まされました。
やっぱりジュリーは、男にとって偉大な手本です。遠く及ばぬまでも、何とかその矜持に近づきたい。

僕はずっとこのブログを続けます。
こんなブログだけれど、ここにいらしてくだされば僕はいつでも、ジュリーや、下山さん、柴山さん、泰輝さん、GRACE姉さん、そしてジュリーの楽曲に関わった多くのアーティストやミュージシャンについて、相変わらずの長文で語っていますから・・・。
今は、ただその志だけをお伝えしたいです。

それでは。
今回、そしてさらにもう1曲の予定で、『ジュリー祭り』セットリストからのお題シリーズが続きます。

最近、多くのジュリーナンバーで「今になってみて聴くと、こういう意味合いにもとれる」とか、「こんな頃からジュリーはこんなふうに考えていたのか」と改めて噛みしめさせられることが、ままあります。
特にジュリー自身の作詞作品については、新たな発見が多くあり驚くほどです。
「突飛なフレーズを使うんだなぁ」と軽く考えていた歌詞が、様々なきっかけで突然重々しい意味を放ち、胸に突き刺さる・・・やっぱりジュリーは一筋縄ではいかない、凄いクリエイターですよ!

今日は、そんな思いを抱かせてくれた多くのナンバーの中でも、とりわけ重厚な曲を・・・。
アルバム『greenboy』から、タイトルチューンのパワー・ハード・ポップ「greenboy」、伝授!

『ジュリー祭り』からほどなく、世間の”ロック”評価に大きく期待して購入したアルバム『greenboy』でしたが、僕がこのアルバムの良さに気がつくまでには、『奇跡元年』直後まで時間を要しました。
最初は「うわ~、爆音過ぎるんじゃないの~」と。
元々僕は洋楽においても、レッド・ツェッペリン以外のハードロックの音作りはあまり受けつけなかったのです。

あと、これは今は完全に克服・・・と言うか乗り越えたんですけど、アルバムの核になるナンバーと言ってもよい「Snow Blind」の「マジ、アイラヴユ~♪」の「マジ」がどうにもこうにも引っかかってしまい、苦労しました。
どのように乗り越えたか、についてはいずれ記事で長々と語りたいと思っています。
そう・・・「Snow Blind」も『ジュリー祭り』セットリストのナンバーでしたね。
あと7年以内には必ず書きます!

で。
突然アルバム『greenboy
』ヘビロテ期間が到来したのは、『奇跡元年』で聴いた「MENOPAUSE」がきっかけ。
あの素晴らしいステージで「MENOPAUSE」のイントロが流れた時、一瞬「愛まで待てない」だと勘違いしたのが、悔しくてね・・・。
今でこそ、セットリストは全曲知っていて、イントロの瞬間に反応するのが当然!という意気込みでLIVEに参加していますが、当時はまだまだそんな域ではなく。
復習の方が大変だったのです。

『奇跡元年』翌日、「MENOPAUSE」復習がてら通勤中に『greenboy』を聴いてたら・・・見事にアルバム通してハマった!
結果、僕が『greenboy』収録曲で一番好きになったのは「GO-READY-GO」。次が今日のお題、タイトルチューンの「greenboy」でしょうか。

吉田光さんの激しさと美しさを兼ねそなえた曲作りや、白井さんのアレンジはすぐに大好きになりました。
ただ、歌詞についてはこれまで深い考察までには至っていませんでした。割と普通な、ジュリーらしい感じかな、と考えた程度で・・・。

「greenboy」は、年を重ねたジュリー(でも「老人」と自ら言うのはさすがにこの時期、まだ早いと思うんだけどね~)が、”少年ジュリー”を見つめている詞、というのはまぁなんとなく解釈できていました。
もしかすると、他に特定の人物のことを歌ったものかもしれないけれど、作詞にあたっての「少年」の描写それ自体は、自己投影から言葉を選んでいるに違いないと思います。

今回「greenboy」の記事を書こうと決めたのは、歌詞の中にあるいくつかのフレーズが、ジュリーの人物像、歴史、矜持を考える上でのヒントが散りばめられているように思えたからです。

まずは、前回執筆した「」の記事に関連することなのですが・・・。
僕は後追いファンだからでしょうか、若き日のジュリーが「泣く」ということを、想像できなかったわけです。
まぁ、幻想の一種でしょうね。
小学生の頃、「きのうのプロレス(テレビですな)で、猪木が泣いてた」というとんでもないことを言ってきた友人がいたので、やっきになって「猪木は絶対泣かない!」と言い張っていたあの感覚と同じ・・・なのかな?

しかし、長年のジュリーファンの方々の多くが、「涙」というジュリー作詞・作曲のナンバーを、「ジュリーが自分に向けて歌った曲」と捉えていらっしゃることが、頂いたコメントで分かりました。
これはもう、後追いDYNAMITEとしては目からウロコの感想で・・・。
そうかぁ、みなさまにとって、若きジュリーが「泣く」というシーンは自然に想像できてしまうものなんだな・・・と。

「でも、ジュリーほどの男、いくら少年時代といっても、きっとそう簡単に泣いたりはしないよ!」
な~んて、最初は思ってたんです。

そんな中、次の執筆お題をあれこれと探し求めながら本当に偶然聴いた「greenboy」の歌詞に、ハッとなりました。

♪ greenboy 泣き虫だった
           G    D       Em       B7

  星を見上げた 少年がいた ♪
              C        B7    Em       D

自分で、「泣き虫だった」とキッパリ言ってる~!
ここに及んでようやく僕の脳内にも、”泣きながら空を見上げるジュリー少年”の映像がインプットされたのでありました。

そうして改めて「greenboy」を聴くと、今までとは全然感じ方が違うのです。
「自分の言葉でノリノリにカマしてくれる曲」という感想はそのまま持ちつつも、何だか胸がキュンとなる、哀愁のある極上のパワーポップに聴こえてくる・・・。
深いなぁ、と思った次第。
「greenboy」リリース時点で、そんな境地で聴いていらっしゃったファンの方々は多いはずですね。
やっぱり、ジュリーファンの先輩方には敵わない・・・。

それと。
「greenboy」にはもう1箇所、僕が今回改めて気がつき、注目したいと考えた歌詞があります。
先程と同じくサビ部になります。

♪ greenboy 荒れ狂う海
           G    D         Em    B7

  放り出されて 少年がいた ♪
              C      B7     Em       D

これは言わば、音楽業界・・・ちょうどその、これから旅立つ長い航海の出発点に立っているジュリー少年を僕には思わせるのですが、いかがでしょうか。

「運命」という大きな船に乗り込んだgreenboy。
そう、僕は「FRIENDSHIP」へと見事に繋がったジュリーの作詞の統一感を思わずにはいられないのです。
”ジュリー”と呼ばれることになった”greenboy”は、長い航海を経て、大切な仲間と一緒にここまでやってきた。そしてこれからも航海は続いていく。
「FRIENDSHIP」の詞を書くジュリーの脳裏に、数年前に書いた「greenboy」で投影した自分の少年時代は、よぎったのかなぁ。

長いジュリーファンの方々は、ジュリー少年の出発点を良く知っていらっしゃる。
だから「FRIENDSHIP」を聴いた時には無意識のうちにその出発点を思い描いたのでしょう。
僕には、それができていなかった。

今回「greenboy」を考察して、少しだけその感覚が分かったような気がするのは、例によって深読みし過ぎでしょうかねぇ・・・?
でも、ジュリーという歌い手が、聴き手が俯瞰して長い目でその歴史を辿った時に、見事に1本の線で生き様が繋がる・・・それが他でもない、歌を通して分かる、という類稀なる歌手であることは確かだと思います。

それを証明する歌詞が、もう1箇所(しつこくてごめんね)。
ブリッジ部です。

♪ きれいな大人      夢みてた ♪
    Fmaj7      Cmaj7   Fmaj7 Cmaj7

説明するまでもありませんね。
「きれいな大人」というフレーズ。
「greenboy」リリースから5年後、ジュリーが60歳にして
「僕らはきれいな大人になれたかな」
と歌ったあの曲は、ジュリーの歩む1本の線上に、一人の大切な仲間を呼び戻しました・・・。

それでは、楽曲構成についても少し語ってまいりましょう。
「greenboy」のメロディーの魅力は何と言ってもAメロとサビのギャップではないでしょうか。
ハードなAメロと、美しいサビ。

イントロからAメロにかけては、何か不穏な感じを音から受けませんか?
これは吉田光さんの計算ずくの構成だと思いますが、Aメロは延々とホ長調(=E)のドミナント和音(=B7)を軸に展開されています。

♪ 道理外れた大人ほど ♪
    B7   C       B7            C  D C  

コード表記末尾の「C→D→C」は、「ドドレドシ~♪」というギターリフの「ドドレド」の部分ね。
ギターのキメ部以外はB7で引っ張るメロディーがずっと続きますから、Aメロを譜面にするならロ長調(=B)表記になってしまいます。
しかしこれは、ホ長調のトニックであるEのコードに行きたい、行きたいとしながらいつまでもそこへ辿り着かない”不安定”な感じを吉田さんが敢えて構築しているものと考えられ、聴き手は吉田さんの掌に載せられている状態なのです。

そして、ようやく穏やかな和音へと着地を迎える、サビ部。

ところがここは、Aメロが進行している間あれほど行き着きたかったトニックコードのEではなく、Gに飛翔します。ト長調に転調しているのです。
とても美しい、大きな安心感をもたらす転調です。
さらに、maj7コードを使用したブリッジ部は、ハ長調への転調となっています。

白井さんのアレンジも見事です。
僕が特にいいなぁ、と思うのは、これほどハードに押し出したアレンジながらも、アコースティックギターのストロークで味つけを加えていること。
右サイドから聴こえる音です。
残念ながら、LIVEでは柴山さんも下山さんもエレキギターなんですけどね・・・。

そうそう、LIVEと言えば。
この曲、CD音源では伊豆田さんの透き通った職人芸のコーラスも大きな魅力なんですけど、LIVEでそれを再現しているのが、泰輝さんと下山さんのハーモニー。
GRACE姉さんも時々参加しているのかな?
柴山さんはこの部分、メロディアスな単音を弾くので忙しそう。コーラスには不参加です。

明星」のステージを観る限り、下山さんがコーラスをとる際には、一番音階の低いパートを担当しているのでしょう。
そう思ってDVD作品で「greenboy」を聴くと、結構目立ってますよ下山さん!
カメラはなかなかそこまで追いかけてくれませんけど・・・一応参考までに
「greenboy~(グリ~ン、ボ~イ)♪」
の追っかけコーラス部をキャプチャーしてみました。

Greenboyon

↑ 『greenboy』ツアー。分かり辛いですが下山さんはマイクに向かい首を倒すようにしてコーラスをとっています。

Greenboy

↑ 『ジュリー祭り』。今や恒例、猫背スタイルでコーラスをとる下山さん。

ちなみに柴山さんですが、「greenboy」ではAメロひと回し目にギターお休みタイムが あります。
『greenboy』ツアーでは、そのお休みの間に手拍子を煽っているのを今回改めて映像チェックした際に気がつきました。

そして・・・あの『ジュリー祭り』からもう2年以上経ちました。
近いうちにそろそろ、LIVEで「greenboy」、ガツンとカマしてくれるジュリーが観たいなぁ。

僕も40代半ばにさしかかり、ここから先は、”空から落ちるように”年をとっていくのでしょう。
年齢を重ねていけばいくほど、バイブルのように、心に留めておくジュリーナンバー。
老いていくほどに、力になってくれる名曲。
僕にとって「greenboy」は、そんな大切な曲になっていくような予感がしています。

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2011年4月13日 (水)

沢田研二 「涙」

from『JULIE Ⅳ~今 僕は倖せです』、1972

Julie4


1. 今 僕は倖せです
2. 被害妄想
3. 不良時代
4. 湯屋さん
5. 悲しくなると
6. 古い巣
7. 
8. 怒りの捨て場
9. 一人ベッドで
10. 誕生日
11. ラヴ・ソング
12. 気がかりな奴
13. お前なら

----------------------------

あの日から、もう1ケ月が経ちました・・・。
ここ数日、大きな余震が続発しています。
都心でもかなり揺れていて「もうやめてくれ!」と叫びたくなるのに・・・震源近くのみなさまの不安、いかばかりか・・・。

できるならあの日以前に戻りたい・・・でも時は戻せない。
先輩方とそんなやりとりをしている折、よくお邪魔しているじゅり風呂さんが
「以前の日本に戻ってはいけない」
と書かれていらっしゃるのを拝見し、ハッとしました。

そうだ、僕らは変わらなければならない。

それは決して大きな事柄ばかりではなく、日常の心構えの中で・・・。
例えば節電もそうでしょう。そして何よりも、普通に働いて、普通に生活できることへの感謝。
それを常に忘れず、これからずっと心に持ち続けるようにしなければ。
そう思いました。

今はとにかく。
大変な状況の中にありながらも拙ブログの更新を楽しみにしてくださっている方が、数人でもいらっしゃる・・・それを力にして、ベストを尽くして記事を書く!
僕が頑張ってできることを、やっていくしかありません。

今回から3曲ほど、『ジュリー祭り』のセットリストからお題を選んで執筆していきたいと考えています。
本当に宝物のようなセットリスト。僕をジュリーの世界に本格的に誘ってくれた曲たち。
ジュリー70越えまでに、その80曲すべてについて記事を書こうという、これは僕が拙ブログで初めて打ち立てた大きな目標です。
今ではまだ気の遠くなるような作業に思えますが、年に10曲ずつコツコツと書いていけば必ずそれは達成されるのです。
目の前のことから一歩ずつ・・・ジュリーも、50歳を越えた頃から、還暦の自分というものを見据えてコツコツと頑張ってきたのかなぁ、とも思います。
あやかりたいですね・・・。

それでは。
今回『ジュリー祭り』のセットリストから選んだのは、とても短い曲。だからこそ清清しくいとおしい、小さくとも美しい・・・ジュリーの魂の結晶のような曲。
これもまた、最近よくお邪魔しているじゅり風呂さんで
「人は一生のうちにどのくらいの量の涙を流すのだろう」
という言葉を目にした瞬間、すかさず脳裏に甦ってきた曲です。

アルバム『JULIEⅣ~今僕は倖せです』から。
「涙」、伝授!

もちろん僕はこの曲が大好きです。
でも、個人的に”やわらかな後悔”を抱えている曲だったりも、します。
というのはね・・・。

まず僕がアルバム『JULIEⅣ~今僕は倖せです』の中で「大好きな曲」を数えあげていくと。
まずはタイトルチューン、「今僕は倖せです」。そして「不良時代」「一人ベッドで」「湯屋さん」「お前なら」・・・と続いていきます。
「涙」はその次くらいでしょうか。
(余談ですが、『ジュリー祭り』参加の相方・YOKO君のこのアルバムのフェイバリットは、「古い巣」!これは珍しいんじゃあない?僕もドーム以降たくさんのジュリーファンの方々とお話させて頂いてきていますが、「古い巣」を熱く語りまくる人、というのはYOKO君以外出逢ったことがありません)

何度も書いているように、『ジュリー祭り』参加時の僕は、決定的にCO-CoLO期以降の楽曲知識が足りない状態でした。
かたよっていたなぁ、と今さらながら思うわけですが、ポリドール時代の楽曲については相当聴き込んでいて・・・ヒヨッコの僕はあの東京ドームで

ポリドール期のアルバム収録曲連発!

という、今考えるとちょっとあり得ないセットリストを期待していたのです。

第一部が終わり、休憩タイムになって。
YOKO君と二人で
「どうやら俺らはヒヨッコだったようだ」
と観念し、ポリドール期ナンバーのビッグサプライズはあきらめかけていました。
長蛇の列に長い時間かけて並び、ハンバーガーを買い求め、むさぼり食べていると「間もなく第二部開演」のアナウンス。
慌ててハンバーガーを流し込み、二人してトイレに向かおうとした時・・・耳なじみの深い、ペダルギターのイントロが場内から聴こえてきました。

「不良時代だ!」

それまで敢行されてきた2008年ツアーのセットリストもまったく知らなかった僕は、「ついにポリドール期のサプライズ楽曲が来た!」と大興奮。
トイレへダッシュするYOKO君を尻目に、尿意を堪えてくるりとユーターンした僕は、こちらもダッシュで会場内の席へと舞い戻っていったのでした。
だって・・・「不良時代」を見逃せますかいな!

そして。
次の「Long Good-bye」ではなんとか尿意を抑えた。
そのせいか、結構長い曲だな~、とか考えたりしてました・・・馬鹿馬鹿!

で、第二部の3曲目。
再び耳馴染みのあるイントロが・・・。

「涙」・・・?

へぇ、「涙」かぁ、渋いなぁ。
こりゃあこの後、「朝焼けへの道」とか来そうだな!(←どういう根拠なのかまったく不明)

「涙」・・・そうか、ここで演奏時間1分少々の曲が来た・・・これは、ちょうどトイレに入って戻ってこれるピッタリの時間を神様が俺に用意してくれたんだな!

・・・馬鹿馬鹿馬鹿!

そう、僕はここでトイレに立ってしまったのです。
つまり・・・僕は『ジュリー祭り』セットリストの中で、唯一「涙」だけ観ていないんですよ!
これを”後悔”と言わずして・・・。
参加していない過去のLIVEなら、あきらめもつきます。でも、僕はあの日、あの場にいた・・・それなのに「涙」を見逃しているのです~。

ただ救いなのは、どうやらジュリーは「涙」を気に入っていて、LIVEのセットリストとしてはさほど珍しくはないらしい、と後に知ったことですかね。
この先に、リベンジの機会は必ずあると思っています。

さて、アルバム『JULIEⅣ~今僕は倖せです』は、「許されない愛」の大ヒットのご褒美として、セルフプロデュースの許可を得たジュリーが、気の合う仲間・井上バンドと一緒に(この時期だとPYGと言った方がいいのかな?)自由に制作した作品だ、とYOKO君に聞いたことがあります。
今考えると、ジュリーはこの頃からすでに、身の回りのこと、日常のささいな歓びや戸惑いなどを歌にしたい、と志していたことが分かりますよね。
当時のジュリーにとって、それは「仲間」「歌」「家族」。中でも「仲間」に大きな比重を置いて”日常”としていたことが伺えます。

「涙」は、誰のことを歌ったものなのかなぁ・・・。

この1ケ月で、ジュリーの色々な曲が以前とは違ったように聴こえることが多くなりました。
例えばこの「涙」などは

♪ 悲しいなみ     だは 流しちゃだめ ♪
    G       Cmaj7  Bm7   Am7        D7

と歌うわけなんですけど、その「だめ」のニュアンスに改めて感動したりするのです。
これは、悲しみの涙を否定するものではなく、悲しみの涙を流している人(「友」なのでしょうか)に対峙したジュリーが、その人をなぐさめている、励ましている・・・そんなふうに僕には聴こえます。
だって、こんなに優しい曲がついているじゃないですか。
作詞も作曲もジュリー、という楽曲を紐解く魅力は、こんな解釈が素直にできるところにあるんですよね。

短い曲ながら、作曲構成はなかなか凝っています。と言うより、作曲を始めて間もないジュリーが、思いついたアイデアを天賦の才で自由に表現しているので、自然に斬新な構想になっているのでしょう。
いわゆるAメロ→Bメロ→サビという感じがしない・・・3つの異なる曲想を合体させたような印象。本当に自由な作風なんです。

堯之さんが「ジュリーは通常では考えられないようなコード進行をする」と言っていたのはこの時期でしょうか。
「涙」にはコード進行についてはそこまで変化球なアイデアは無く、最後の

♪ きっと甘い 味    がする ♪
    Cm     G     Am7 D7  G

に登場する「Cm」への移行部分が若干風変わりな感じかな、といった程度ではありますが、それでも全体的に、良い意味で変テコな曲ではあります。

それはコード進行に限らず、譜割りにも表れています。
最後の「味がする♪」の箇所。
ここでは譜面表記した際に、一瞬2拍子が挿入されるのです。
一番最後の「する♪」に辿り着くまでに若干タメを作って歌いたい、というヴォーカリストの立場からのジュリーのアイデアに違いありません。
普通に
「あじが~する~♪」
と続けるようにして歌えば4拍子は崩れないわけですが、ジュリーは
「あじが~、うん、うん
(←みなさまも、心の中でこう数えて歌ってみよう!)、する~♪」
と、タメて歌いたいのですね~。

さらに、素晴らしいのは、ジュリーの詞曲ばかりではありません。
独創的な小曲であればこそ、井上バンドの演奏も渋みを増します。
当時彼等はキング・クリムゾンなどプログレッシブ・ロックを聴き、バンドの音に反映させていたことは確かだと思うのですが、プログレバンドのアルバムには、超大作の間隙を縫うような短いナンバーで、しっとりとした渋い演奏を聴かせる優れた小曲が多くありました。
「涙」や、『JEWEL JULIE~追憶』収録の「衣装」などの演奏・アレンジには、そんな狙いを感じます。

まず、イントロとエンディングに登場する

ラソファ#レ、ミシ、ラ、レ、ファ#~♪

という音階が、すごくイイですね~。
ちょっとミステリアスでオリエンタルな感じが、逆に洋楽的というか・・・これは大野さんの考えたメロディーなのかな?

そして僕は、このアルバムを通してミックスバランスも大好きなのですが、「涙」は左サイドに配置されたストリングスがメチャメチャ効いていますよね!
これ、バイオリンだろうか、チェロだろうか?
オーケストラ弦楽器の素養の無い僕には、それが分からないのです。
バイオリンにしては低音のように思えますし、チェロにしては動きが激しいように感じますし・・・。
こういう時は箱さん(復活めでたや~!)、と思いまして、ずいぶん前の『JULIEⅣ~今僕は倖せです』のアルバムレビュー記事にお邪魔してみましたら、
「低音のストリングス」
とお書きになっていらっしゃいました~(まさに涙)。

右サイドにミックスされたギターも、渋いなぁ。
一番最後の「ぽろり~ん♪」と突き放す和音は、「G6」。1弦を開放で弾いて「ミ」の音を強調しています。
ちょっとフワッとした感じで曲が終わるのは、このギター和音による効果なんですよ~。
この「G6」というコード、『深夜放送ファン別冊・沢田研二のすばらしい世界』収載の「涙」の譜面には登場しませんから、是非この場で語っておきたかったのです。

あとは、毎度のことながら・・・ジュリーのこの声ですよね。
最近ジュリーの優しさを語りまくっている僕ですけど、この「涙」は誰が聴いても優しさの極みのようなヴォーカルなのではないでしょうか。
そう考えても、やっぱりこれは、涙を流している身近な人に向けて作った曲に違いないですよね・・・。

美しい結晶の甘い味を、あの若さで表現できるジュリーの才能。
その才能が、”日常”というヒントから溢れ出したものであったことを、1972年リリースの『JULIEⅣ~今僕は倖せです』というアルバムは教えてくれます。
「涙」が『ジュリー祭り』セットリストに選ばれたのは、必然だったかもしれませんね。

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2011年4月10日 (日)

沢田研二 「やわらかな後悔」

from『ROCK'N ROLL MARCH』、2008

Rocknrollmarch

1. ROCK'N ROLL MARCH
2. 風に押され僕は
3. 神々たちよ護れ
4. 海にむけて
5. Beloved
6. ロマンスブルー
7. やわらかな後悔
8. TOMO=DACHI
9. 我が窮状
10. Long Good-by
11. 護られている I love you

--------------------------

先日、次のお題は・・・と考えていてハタと気がついたことがあり、一瞬焦ってしまいました。
「自分、今年に入ってから『ジュリー祭り』のセットリスト曲を書いたっけ?」と・・・。

拙ブログでジュリーの歌全曲を記事にすることは、一生かけても無理。しかし、ささやかながらの現実的な目標として僕が掲げた

ジュリー70越えまでに、『ジュリー祭り』セットリストを全曲網羅する!

という計画を覚えていらっしゃる読者の方がどのくらいおられるのかは分かりませんけれど。
『ジュリー祭り』記事制覇・・・今の時点では途方もなく先の見えない話です。
でも、だいたい1年に10曲ずつ書いていけば間に合うという計算で、これは努力すれば実現可能な大目標。頑張ってやってみよう、と決めたのでした。

今年に入って、『Balld and Rock'n Roll』ネタバレ我慢とかやってる間に、すっかり忘れてた!

遡って確認してみると。
おぉ、まったくの偶然ながら『ジュリー祭り』セットリストから、「彼女はデリケート」と「美しき愛の掟」を今年すでに書いてるじゃないか!
今は4月・・・大丈夫だ、ペースは順調と言ってもいい。

しかし、よく考えますと『ジュリー祭り』を全曲網羅するということは、イコール『ROCK'N ROLL MARCH』を全曲網羅するってことなんですよね。
アルバムからも計画的に、1年に1、2曲の執筆ペースを持続させなければなりません。

そこで今日は。
アルバム『ROCK'N ROLL MARCH』の中で僕が最も好きなナンバーをお題に採り上げたいと思います。
「やわらかな後悔」、伝授!

『ROCK'N ROLL MARCH』・・・このアルバムは、僕がYOKO君と友に『ジュリー祭り』参加を決めた直後に購入した作品です。
とにかくベースレスってのに驚いてしまって、YOKO君に「あり得ん!」と電話したこともあったほど・・・アレンジフェチのヒヨッコDYNAMITEは、このアルバムを当初真剣に聴いていなかったのです。

僕がもしもジュリーのLIVEを体感していなかったら、後に正当な評価に至っていたかどうか。
おそらく全国各地にそういう人達が少なからずいるような気がします。たまたまジュリーのアルバムを聴いたけど、「ベース入ってないじゃん」とその後繰り返し聴くことを敬遠してしまっている人達が・・・。
一度LIVEを観てください、と大声で叫びたいなぁ。

つまり僕がこの『ROCK'N ROLL MARCH』収録曲について、個人的な考察を持つほどに聴きこんだのは、『ジュリー祭り』が終わってからのこと。
「Long Good-bye」や「我が窮状」といった、ハッキリした明確なコンセプトを持つナンバーですら、それを咀嚼できたのは2008年12月末という状況だったのです。
お恥ずかしい・・・。

『ROCK'N ROLL MARCH』はジュリーの歴史の中でも意義深い名盤。
僕のように遅れてでも良いですから、何とか多くの方に正当な評価をして欲しい作品ですね。

さて、アルバムの中で一番好きな曲でもあり、一番好きな、柴山さん作曲のジュリー・ナンバーでもあります、7曲目収録の「やわらかな後悔」。
いかにもロック畑の人が書いたバラード、という感じなのですが・・・実はこの曲、多くのみなさまがお気づきでないであろう大きな特色を持つナンバーなんですよ~。
だから今回の記事は、理屈っぽい内容になってしまうと思うんだ・・・。

何かと言いますと。
「やわらかな後悔」は間違いなく、すべてのジュリーナンバーの中で最も転調する回数が多い曲なのです!

この曲、譜面表記するならば「#4つのホ長調」に落ち着くかと思いますが、イントロとエンディングでそれぞれ一回ずつ展開される近親調への移行(この場合は嬰ハ短調との相互移行)を転調に含めて考えると、「やわらかな後悔」に登場する転調箇所は何と10回を超えてしまいます。

これがおそらく、最後のサビ繰り返し部で全体が半音上がる箇所以外、まったく計算ずくではない転調だと思うんですよ~。
何故なら、柴山さんはこの曲をギターで作曲しているはずだから。
「やわらかな後悔」に登場する転調は、理論的に構築されたものではなく、柴山さんが気持ちの良い進行と考えて移動させたギターコード・フォームの組み合わせが為せる技だと思います。
いかにもギタリストならでは、の作曲ですね。

まずイントロのホ長調部。

E→F#→F#m→E

と進行します。
この「F#」の箇所は”臨時記号による一時的な転調”と言えますが、さすがにそこまで厳密に数え上げるとキリのない曲ですから、まぁここはホ長調で通しましょう。

Aメロヴォーカル部は、近親調への転調。嬰ハ短調となり

♪ 呆れるほどに 空はからっぽで ♪
    C#m   F#        F#m    B

イントロの進行がそのまま哀しい感じに変化したような作り。
ここまではまぁ、よくある転調なのですが・・・。Bメロはちょっと異常!
出だしの

♪ 照り返す陽射しが ♪
    Bm7  E7         Amaj7

この部分はイ長調。
続いて

♪ 白く飛ばす影 ♪
    Dm7  G7  Cmaj7

ここが、ハ長調。
落ち着く間もなく

♪ 儚く  募る予 感     に
    Fm7 B♭7    E♭maj7  Cm 

  心を震わせ ♪
      A♭      G7

この部分は変ホ長調。
「照り返す陽射しが♪」の部分はBメロ3分節すべてに登場する進行で、これは3種の移調転調という理屈になりますが・・・半音上がるとか1音上がるとかそういうセオリックなものではなく、単純に押さえてるギターコードのポジション移動のヴァリエーションから編み出された転調に違いありません。
ギターで弾いてなぞっていけばそれが分かるのです。特に「白く飛ばす影♪」とDm7に移動する瞬間は、ギタリストならではの美しい作曲構成に、とてもシビれます。

で、話はこれで終わらず・・・。
「心を震わせ♪」の最後のG7は変ホ長調の近親調であるハ短調のドミナントになっているので、サビは

♪ やわらかな   後悔  を
           A♭maj7 B♭   Cm

  またひとつ      僕は負う ♪
           A♭maj7 B♭    E♭

と、ハ短調から入って再び変ホ長調→ハ短調とうねりのように転調が繰り返されます。
この進行が2番で1番と同じ調に戻っているのは一瞬信じ難いことですが、オルガンが「A7→C#7」と半音下降することで収拾がつけられています。このオルガン部については、白井良明さんのアイデアかもしれません。

2番も同様に進行し、最後のサビリフレインでハ短調→嬰ハ短調の半音上げ。それがそのまま近親移調となって、イントロとまったく同じホ長調に回帰するという・・・半音上げが偶然にしては出来過ぎの着地。
終わってみればおそろしく辻褄の合っているバラード、ということになっているんですよね~。
右サイドで終始鳴っているアコースティック・ギターのストロークは、曲全体を通しての整合性をアピールするにはピッタリ。さぞかしレコーディングしていて気持ちが良かったでしょう、白井さん。

柴山さんは、他作曲作品を見る限り、さほど転調にこだわって作曲するタイプではなさそうです。どちらかと言うと下山さんの方が凝った転調を好んでいるように思われます。
ですから「やわらかな後悔」は柴山作品としては異色なのでしょう。
その後が「Smash The Rock」→「若者よ」と続くわけですしね・・・。

また、アルバム『ROCKN'ROLL MARCH』には、「風に押されぼくは」「海に向けて」「Beloved」といった”幻想的な曲調・構成を擁したバラード”が居並んでいることも大きな特徴。
中でも、つかみどころがないほどの幻影性を持つのが「やわらかな後悔」だと思っています。これは、柴山さんの複雑な作曲、コード進行に加えて、GRACE姉さんの歌詞によるところでもありますね。

「Beloved」→「ロマンスブルー」→「やわらかな後悔」と続くGRACE姉さんの作詞作品。
僕は『ジュリー祭り』が終わってしばらくするまで、この”GRACE”という作詞クレジットが女性であることも、そしてジュリーのバンドのメンバーであることすらも知らなかったわけです。完全に、男性の職業作詞家さんだと思いこんでいました。
今考えると・・・聴きこみが足りないねぇ。
特に「やわらかな後悔」は、女性らしい詞ですから。
男性が思いつかないような、”男たるもの忘れてはならないこと”・・・それがこの「やわらかな後悔」というタイトルの中にはあるような気がします。

GRACE姉さんの紡ぎだすフレーズの多くは、抽象的なものが多いです。それゆえ、幻想的な曲、クールなメロディーとの相性が良いんですよね。
『忘却の天才』収録の「不死鳥の調べ」を初めて聴いた時は
「あぁ、『ROCK'N ROLL MARCH』に似たような感覚の歌詞の曲があったなぁ」
と思ったものでした。
それが「やわらかな後悔」だったのです。

抽象的であるがために、様々な受け取り方ができる・・・聴く時の状況によって感動が変わる・・・そんな詞です。
今改めて聴くと・・・「後悔」「からっぽ」「小さな嘘」「真夏の残像」といったフレーズが、何か新しい意味を持って自分の中に響き落ちていくようです。

「詞」を考えるならば、やはりそこで同時に、ジュリーの素晴らしいヴォーカルにも触れておきませんとね。

最近のジュリーのヴォーカルは「声が太い」と言われることが多いようです。声圧がある、ということなのでしょう。
僕はよくジュリーのヴォーカルの魅力を語る時、”歌に心ごと身体ごと入り込む能力”ということを書きますが、実はその対極とも言える魅力もあったりします。
クールに、自分と歌との距離を客観的に見つめて絶妙のバランスをとる能力・・・これまたジュリーの大きな才能ではないでしょうか。

このパターンは吉田建さんプロデュース期の楽曲に多く見られると僕は思っていますが、「やわらかな後悔」はこの時期突発的にそれが押し出されたように感じます。
ただ、2008年のジュリーに、かつて(それが逆に素晴らしい効果を発揮していたとはいえ)多くのナンバーで見受けられた「歌わされている」イメージというのは微塵もありません。ですからこの曲のヴォーカルに「突き放したクールな視点」を感じるのは、ひょっとしたら僕だけかもしれません。
いずれにしても、セルフ・プロデュース期としては珍しいタイプのヴォーカルニュアンスが聴ける楽曲のように思われるのですが・・・いかがでしょうか。

ベタベタとした感情を入れないジュリーのヴォーカルは、それ故に理知的な進行の「やわらかな後悔」という楽曲に様々な解釈を付加していきます。
「後悔」というフレーズ。
何に対しての後悔なのか。

そう考えた時、ジュリーのヴォーカルによって、2008年リリース時には誰も思いもしなかった感覚が浮かび上がってくるようです。
GRACE姉さんの詞には、感情があり、情景があり、迷いがあり、決意があり・・・しかしそれは人間を含めた「生きているもの」独自の感覚に特化しています。
人工的な要素、人造物の描写は、見当たりません。
だから逆に、ジュリーの声で「後悔」というフレーズを聴くと、制御不能になったあの巨大な人造物のことを考えてしまうんだ・・・。
今だから、の飛躍した解釈なんですけど。

人は、世界は、生きている間にどのくらいの後悔を負うものなんでしょうかね・・・。

さて。
今後のお題なんですけど、もう2、3曲くらいは続けて『ジュリー祭り』のセットリストからの記事執筆を済ませておくかな~、なんて思っているところです。
年の瀬になって慌てふためかないように。

とりあえず、アルバムで一番の曲じゃなくてもいいですよね?
「大好きな曲」でありさえすれば・・・。

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2011年4月 7日 (木)

沢田研二 「DIRTY WORK」

from『S/T/R/I/P/P/E/R』、1981

Stripper


1. オーバチュア
2. ストリッパー
3. BYE BYE HANDY LOVE
4. そばにいたい
5. DIRTY WORK
6. バイバイジェラシー
7. 想い出のアニー・ローリー
8. FOXY FOX
9. テーブル4の女
10. 渚のラブレター
11. テレフォン
12. シャワー
13. バタフライ・ムーン

--------------------------------

”アルバムの中で個人的に一番好きな曲を採り上げるシリーズ”・・・別名”反応の薄いシリーズ”(泣)、まだまだ続きます。
楽曲に対する純粋な愛情を持ってすれば、更新頻度を上げることもまた必然。
時代がいったりきたりしてますけどね。

今日は久しぶりに「とにかくウンチクがとまらないおじさん」と言われても仕方のないような大長文記事になるかと思っているのですが、まず本題に入る前に、僕がこれまで聴いてきた音楽経歴について紹介させて頂きたいと思います。
もちろん、お題のジュリー・ナンバーに関係のある話です。

「歌」には元々幼少より興味がありました。家にあった童謡のレコードを自分で繰り返し聴いたりしていたらしいですね。
物心ついて・・・まぁ僕はドンピシャのザ・ベストテン世代でして、いわゆる「流行歌」を聴くようになってから、あの番組で上位になっている曲が素晴らしい曲なのだ、と認識するようになりました。
ザ・ベストテンで初めて意識したジュリーの曲は「ヤマトより愛をこめて」だったかな?

でも、お小遣いを貯めてせっせとシングルレコードを買っていたのは、専らゴダイゴとツイスト。
ゴダイゴは相当好きで、高校生になっても隠れて聴いていました(何故隠れたかったのかは不明)。
ツイストは、何のB面だったか忘れましたが、「Cry」という曲が好きでした。

そして。
小学6年から中学1年にかけてでしょうか、まずインベーダーゲームの大流行と共にYMO、さらに友人の影響でビートルズに出逢い、ここから”自分はロックを聴いている”という自覚の元に、音楽につぎ込む人生が始まるのです。

以降は”別格”のビートルズを中心に本当に色々と聴いてまいりましたが、「まぁビートルズほどのめりこむバンドとはこの先出逢うことはないだろう」などと考えていました。
ところが。
高校3年から30代に至るまで、怒涛の”パブロック聴きまくり”期が訪れたのです。

「パブロック」というのは、70年代後半から80年代にかけて起こったロック・ムーヴメントであり、カテゴリーとしても語られます。
よく知られているのは、エルヴィス・コステロ、イアン・デューリー、ドクター・フィールグッドといった辺りでしょうか。
文字通りイギリスのパブで始まったムーヴメントですが、僕はちょっと嗜好が変わっていて。
パブロック人脈の中では究極のロックンロール畑で認知されているデイヴ・エドモンズなども、実は筋金入りの録音オタクだったりするワケで、僕はそういうファクターを好きになったのです。
上記3アーティスト(バンド)についても、そういう面は大いにありました。

そんなパブロック一味の、数あるバンドの中で僕がとりわけ大好きになったバンドが2つあります。
これこそ本物!と崇めたてまつり、しかもその気持ちが今でも持続している2つのバンド。それが

ROCKPILE”(ロックパイル)

”SQUEEZE”(スクイーズ)

・・・さぁ、ここまでが今回の記事の枕でございます。
それでは。
アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』の中で僕が一番好きな曲(気分によっては、時々「FOXY FOX」や「想い出のアニー・ローリー」に抜かれることもあるけどね)。
「DIRTY WORK」、伝授!

では、CD或いはレコードで、ダブルジャケットの裏面を開き、このアルバムのクレジットをご覧になってください。
ゲストプレイヤーの表記に、こうあります。

Billy Bremner
(Courtesy of ROCKPILE
     -Guitar Solo on 3,5,6,7
       Backin' Vocal on 5,7,8,11

Paul Carrack
(Courtesy of SQUEEZE
     -Backin' Vocal on 5,7,8,11


僕が『S/T/R/I/P/P/E/R』を購入したのは、『ジュリー祭り』の数年前。
何度も書いております”ポリドール時代大人買い期”・・・その最初期でございました。
ちょうど、「おお~、ジュリーってすげぇな!アルバムも聴いてみよう!」と勇んでいた頃ですね~。
なるべくロック的な評価をされているアルバムから手を出そうとしていて。ベスト以外で初めて聴いたアルバム『TOKIO』に感動して、その直後のまとめ買いの中の1枚でした。
購入前から、かなり期待していた作品でしたね。

期待は見事に的中したのですが・・・このクレジットにはとにかく驚きました。
僕が長年神と崇めてきた2つのバンドからそれぞれ一人ずつの名前が。まさかジュリーのアルバムでパブ・ロックの連中に出逢えるとは!
ある程度ジュリーの歴史を知った今となっては、このことはそれほど意外な話でもないのですが、当時は大興奮したものです。
このクレジットが、僕のジュリーへの評価を間接的に急上昇させる効果があったのは事実でした。

クレジットにある二人は、それぞれバンドの中では中心的人物ではなく渋い立ち位置ではあるのですが、いずれもソロ・アーティストとして、ソングライターとして、またプレイヤーとしてとても玄人受けする、職人タイプの人物です。

紹介してまいりましょう。
まずはロックパイルのギタリスト、ビリー・ブレムナー!

File0599


『ROCKPILE/SECOND OF PLEASURE』、1980

一番右が、ビリー・ブレムナーです。
身長の低さと動物系の顔立ちという点で、柴山さんにもひけをとりませんが、動物系の方向が少し間違っているような気がします・・・。

ロックンロールやロカビリーといった、跳ねる感覚のナンバーで本領を発揮するリード・ギタリスト。
作詞・作曲やヴォーカルの才能も素晴らしいのですが、このアルバムではギタリストに専念。収録曲では、「HEART」という名曲で
リードヴォーカルをとらせてもらってます(ニック・ロウ、デイヴ・エドモンズという凄まじいヴォーカリストがバンドに二人も揃ってますから、どうしてもビリー・ブレムナーのリード・ヴォーカルの出番は少なくなるのです)。
この「HEART」については後でおさらいしますから、ちょっとタイトル覚えておいて~。

ビリー・ブレムナーは同時期に『BUSH』というアルバムでソロデビューを果たします。その収録曲からシングルカットされた「LOVE GOES TO SLEEP」が、下記のスクイーズの主力メンバー、クリス・ディフォード&グレン・ティルブルックのペンによるナンバーでした。

続きまして。
スクイーズのキーボーディスト、ポール・キャラック!

File0598


『SQUEEZE/EAST SIDE STORY』、1981

これまた一番右の、今にも倒れそうな格好でギリギリ収まっているのがポール・キャラックです。
哲学マニアのような知性的な風貌は、西平さんにもひけをとりませんが、マニアの方向性が若干危ない方角を向いているような気がします・・・。

右手でキーボード、左手でピアノを弾きながらハスキーなヴォーカルで熱唱するタイプ。
このアルバムでは1曲しかリード・ヴォーカルをとっていませんけど、スクイーズ以前に”ACE(エース)”というバンドを束ねていて、ほとんどの曲を書き、自分で歌っています。「HOW LONG」という曲が、そこそこヒットしました。
ちなみにポール・キャラックはスクイーズを抜けた後に、ロックパイルのベーシストであるニック・ロウと、”カウボーイ・アウトフィット”というバンドで同籍しています。

このように、人脈があれこれと入り乱れるのが、パブ・ロックの面々の特徴なのですね。

で、アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』に、ビリー・ブレムナーとポール・キャラックが一番いい形で噛んでいる曲が、他ならぬ「DIRTY WORK」だと思うわけです。

と言うのもね・・・。
楽器での参加は無しに、バックコーラスだけのアルバム参加になっているポール・キャラックはいいとして、ビリー・ブレムナーの方は、何と4曲ものリード・ギター・パートを任されているのですよ。
で、「DIRTY WORK」以外の3曲がさ。
どうしちゃったん?
ってくらい、元気が無いのよ~(泣)。
いや、もちろんイイ演奏なんですよ。でも、どう見ても彼本来の出来じゃない。

リハ段階で、「こ、こんなはずでは・・・」と青くなる銀次兄さんの顔を想像してしまったりするわけですが。
ビリー・ブレムナーのこの演奏のテンション、僕の想像範囲で考えられる原因が2つあります。

①単純に、気を悪くしていた

先程、ロックパイルのアルバムでビリー・ブレムナーがリードヴォーカルをとった曲、「HEART」(作詞・作曲はベーシストのニック・ロウ)について語りましたが・・・。
ちょっと聴いてみて。

http://www.youtube.com/watch?v=YGkH4VlQi1g

up主さまありがとうございます~。
(註:じゅり風呂の先輩のお姉さま方が次々に動画貼り付けをマスターなさっているというのに、まだ会得できていないDYNAMITE泣恥)

以下妄想。
イカしたジャパニーズ・ロッカーのレコーディングに声がかかり、張り切ってスタジオに出かけたビリー・ブレムナーを待っていたのは、まず「バイバイジェラシー」のオケ・・・。
「いやいやちょっとこんな感じで・・・やっちゃったごめんね」
と何やら恐縮する、アレンジの銀次兄さんと、作曲者の加瀬さん。
早速聴いてみると・・・。

「あれ?俺この曲ちょっと前にギター弾いたような気がするんだけど・・・てか、歌った記憶もあるんですけど?」
なんて気持ちを抱えながら弾いたビリー・ブレムナーのギターがゴキゲンなはずもなく。
まぁ実際、どっちがどっちでも大部分で普通に入れ替えて歌えてしまうという・・・。

無論、当時「知る人ぞ知る」存在だったロックパイルに対するリスペクトがあって、「バイバイジェラシー」という曲が生まれているのだとは思います。
でもさすがにこの曲でビリー・ブレムナーにリードギター弾かせるのは、酷ではなかっただろうか・・・。
少なくとも「バイバイジェラシー」のリードギターについては、普通にエキゾティクスだけで演奏されているシングルB面ヴァージョンの方が良いような気がします・・・。

②エキゾティクスのあまりの上手さにビビった

「バイバイジェラシー」や「BYE BYE HANDY LOVE」で、ビリー・ブレムナーが彼本来のノリに今ひとつ近づけなかった要因、実は①よりもこの②の方が有力だったりして。
以下妄想。

「流行りのチャカポコ・サウンドはともかく、渋いロックを弾かせりゃ俺は相当なモンだぜ」
という自負を持って『S/T/R/I/P/P/E/R』レコーディングに勇み向かったビリー・ブレムナー。
東洋の若造に腕を見せつけてやるぜ、と乗り込んだ先でエキゾティクスのリハを見学・・・唖然。
「何だコイツら・・・メチャクチャ上手いじゃね~か!しかも若い!しかも全員、顔が俺よりカッコいい!」

さらに銀次兄さんから「オケはほとんど一発録りだよ」と聞かされるに及んで戦意喪失。
何とか無難に、恥をかかないように、録り直しにならないように慎重に弾く道を選んだ・・・。

・・・これはありえる話かもしれません。
エキゾティクスの演奏レベルというのは、洋楽をモチーフとした楽曲については本場を大きく凌いでしまうほど素晴らしいものです。
ビリー・ブレムナーは僕にとって世界で最も好きなギタリストの一人。その僕がこんなことを語らなければならないほど、エキゾティクスの実力は群を抜いています。

しかしそこは、パブロック界に名を轟かせたビリー・ブレムナー・・・大得意とする3連ブルース進行のナンバーでは最高のリードギター・テイクを残してくれました。
それこそが、「DIRTY WORK」。

ビリー・ブレムナーはどちらかと言うとロックパイル名義の『SECOND OF PLEASURE』よりも、ニック・ロウやデイヴ・エドモンズのソロ名義作品の方が名演が多くて、特にデイヴ・エドモンズのアルバムには必ず「DIRTY WORK」のようなタイプの楽曲があります。
「ずった、ずった、ずった、ずった・・・♪」というリズムの曲ですね。
「DIRTY WORK」のソロは本当に溜飲が下がると言うか・・・この曲についてはエキゾティクスのメンバーも「ほう!」と唸ったと思いますよ!

さて、ポール・キャラックも加わったコーラス・パートですが。
こちらはどの参加曲も文句なく素晴らしい!
僕はもう二人のヴォーカルとは20年以上の付き合いですから、それぞれの声がハッキリ聴き取れるのです。

♪ 18になったその日のことだぜ
       E7   
  (Dirty, dirty, dirty work) ♪
   
ある意味、マヌケな感じがするでしょ?
それが、パブロックのコーラスの醍醐味!
カッコいいヴォーカルにマヌケなコーラスが噛んだ渋いロック・ナンバー。ここでも「DIRTY WORK」の出来は圧勝してます(「FOXY FOX」も相当イイですけどね)。
サビ直後の「オンリー・ア・フ~ル♪」の箇所なんて、同じフレーズをジュリーと追いかけっこするじゃないですか。ジュリーがビシ~ッ!と最高にカッコ良くキメた後から、マヌケについてくる・・・この組み合わせ方が逆に最高なんですよ!

ちなみに「Only A Fool」というフレーズ、おそらく三浦徳子さんはスティーリー・ダンのナンバーからアイデアを借りているものと推測できます。
三浦さんも、かなりタイムリーな洋楽志向をお持ちだったようですね~。

さてそこで。
「DIRTY WORK」は作詞・三浦徳子さん=作曲・小田裕一郎さんという、これは1981年当時の日本レコード界では最強のコンビかもしれません。
松田聖子さんの「青い珊瑚礁」を知らない人はさすがにいないでしょう。
そんなコンビがジュリーに楽曲提供となったわけですが・・・。
ジュリーに「DIRTY WORK」のようなナンバーを用意した小田さんのセンスは素晴らしいですね~。

小田さんは、提供するアーティストそれぞれの個性を的確に捉えることのできる作曲家だと思います。
聖子ちゃんなら、究極にポップでツカミのサビからどど~ん!と導入する、「青い珊瑚礁」。
トシちゃんなら、ソウルフルでダンスミュージックなイメージの、「恋=Do!」。
そしてジュリーには、渋いブルース進行の洋楽直系のロック「DIRTY WORK」と、ロッカ・バラード「そ
ばにいたい」。
歌い手に合わせて縦横無尽。このヴァリエーションの豊かさは、間違いなく才能です。

当初、アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』からは、小田さんか佐野さんの曲をシングルに、という話もあったようですね。
とすれば、「DIRTY WORK」がシングルカットの可能性もあったのか・・・。まぁ最終的にタイトルチューンの「ストリッパー」が選ばれたのは正解だったとは思いますが、ザ・ベストテンに「DIRTY WORK」で登場するジュリーも、観たかったなぁ。

ちなみに小田裕一郎さん、僕と同郷です。
僕が生まれた頃には、10代半ばにしてもう既にプロのギタリストとして活躍されていたとか。
風貌からして日本人離れしていると言うか・・・才能の塊のような人ですね。

「DIRTY WORK」は、ずっと基本的にスリーコードのブルース・パターンで終わるのかと思わせておいて、サビで

♪ バカなことさ カッコだけをつけていた ♪
     A7                              E  G#  C#m

と、いかにも日本人好みの抑揚を味付けしているのがまた素晴らしい。
「G#→C#m」の和音進行が肝ですね。
一瞬だけ胸キュンな進行を挟みこむ技です。しつこく引きずらないのがポイントなのでしょう。

「DIRTY WORK」は、三浦さんの詞もまた素晴らしいですね。
これまた日本人離れしています。西洋の不良少年コンセプトは、ロックなジュリーにはピッタリ。
三浦さん作詞のすべてのジュリーナンバーの中で、僕は「DIRTY WORK」の詞が一番好きかなぁ。

そして最後に、またまた飽きずに同じことを書くわけです。
そんな、あらゆる意味で僕好み、大好きな素晴らしいナンバー「DIRTY WORK」も、最大の魅力はジュリーのヴォーカルにトドメを刺す、ということです!

先に述べた「オンリー・ア・フール♪」の「ふ~!」の吐き出し方なんてのは・・・神!
アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』の中では、「想い出のアニー・ローリー」の「ドレスの裾なんか♪」の「か」、そして「FOXY FOX」の「夜しか似合わぬ歩きかた♪」の「た」と並び、三大語尾ブッた斬りヴォーカルだ、と叫びたい気持ちです。

あとは

♪ 最後の仕上げ しくじったぜ ♪
      F#                C7          B7+9

の、がなり声。
ひれ伏すしかありません。ジュリー万歳!と。

余談ですが、手持ちの『ストリッパー/沢田研二楽譜集』ですと、「しくじったぜ♪」の箇所が”A7→B7”と表記されていますが、僕は”C7→B7+9”で弾いています。

長い間夢中になって聴いていたパブロックの面々と、ひょんなきっかけから手を出したジュリーのアルバムで、「DIRTY WORK」のようなナンバーと出逢えたことは、僕にとって何よりの衝撃、歓びでした。
ある意味、その後ジュリーにハマっていった大きなきっかけになった曲だと思っています。
大好きなものが、長い年月を経て、新たに聴き始めたジュリーの作品とシンクロしたわけですからね。

それにしても今回は特に大長文になってしまったなぁ。
ごめんなさいね、パブロックの話が延々と続いてしまって・・・いつにも増してナナメ読みする方が続出しているかと思います。
次回はもう少しサラッと行きますね~。

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・・・まだまだ、心の底から楽しく、という発信は辛いなぁ。
ですからこうして、記事とは別に少しでも思うことを書いて、自分の中でバランスをとらなければなりません。

ジュリー堕ち以来とてもお世話になっているJ先輩がお住まいの地域が、あの日以来ずっと断水が続いていると聞いていました。
今日のニュースで、その地域の水道が約5割復旧した、と言っていました。
まだ5割なのか・・・。
共通のJ友さんを介して、お元気だということは聞いているけれど、やっぱり心配です。

タイガース再結成が発表されれば、どんなに喜ばれることだろう・・・と、そんなことを考えています。
どうなっているのかな、タイガース・・・。

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2011年4月 4日 (月)

沢田研二 「Good good day」

from『新しい想い出2001』、2001

Atarasiiomoide


1. 大切な普通
2. 愛だけが世界基準
3. 心の宇宙(ソラ)
4. あの日は雨
5. 「C」
6. AZAYAKANI
7. ハートの青さなら 空にさえ負けない
8. バラード491
9. Good good day

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”アルバムで一番好きな曲を執筆していく期間”ということで、書きたい曲が鈴なり状態になってしまっているDYNAMITEです。

拙ブログを「やすらげる場所」と仰ってくださる方がいらっしゃる以上、矢継ぎ早の更新は、僕が頑張ってできる唯一のこと。
しばらくは、何とか週に2曲のペースを持続させたい。

なるべく、リリースされた時期が近い楽曲記事が2件続かないように、あっちこっちへ時代を飛び回りながら、書いていこうと思っています。

さて。
先日、『ミュージック・ステーション』にて「元気が出る120曲」という企画があり、ジュリーの「勝手にしやがれ」が流れたそうですね。
僕は観ることはできなかったのですが、比較的よくオンエアされる類の映像だったようです。

みなさま、一様に首をかしげていらっしゃいますねぇ。
果たして「勝手にしやがれ」は元気が出る歌なのだろうか、と。

僕としては、まぁそんなトコだろうな、と。
「ダーリング」でも「TOKIO」でも良かったのかもしれないけれど、要は”誰もが必ず知ってる三大スーパー・ヒット”「危険なふたり」「時の過ぎゆくままに」「勝手にしやがれ」の中から、聴くと自然に身体が動く、良き時代を回顧しつつやる気が漲る、といった感覚で選ばれたのではないでしょうか。
あくまでも、一般の方々の目線でね。
ジュリー堕ちする前の僕でしたら、素直に納得する選曲ではなかったかと思いました。

ただねぇ、ジュリーファンという立場から見てしまいますと・・・。
ジュリーナンバーって、「元気が出る」曲の宝庫なんですよね。だからどうしても「何でコレなの、他にいっぱいあるのに!」と思ってしまうのは仕方ないですか。

本当に、数え切れない・・・ジュリーの歌う、元気が出る曲。過去に記事を書いた曲で言うと、「Pleasure Pleasure」「愛しい勇気」「マンジャーレ!カンターレ!アモーレ!」「希望」・・・等々、心の底から好きな曲ばかりです。
そして今日は、そんな”元気が出るジュリー・ソング”で、まだ執筆していないナンバーをお題に採り上げたいと思います。

アルバム『新しい想い出2001』の中で一番好きな曲。
「Good good day」、伝授!

『新しい想い出2001』は大好きなアルバムで、全曲思い入れがあります。
『ジュリー祭り』以降の大人買い期では、大して期待せずに購入した感じでしたが、通勤BGMとして収録時間的にも相性が良かったせいか、このアルバムばかりを集中して聴いていた時期がありましたね~。ちょっと荒削りな作りがかえって新鮮で魅力を感じたものです。

そしてこのアルバムは、この先ジュリーのLIVEに通いつめていればいつかは収録曲すべて生で聴くことができるかもしれない、と期待している1枚でもあります。
『ジュリー祭り』セットリストではこのアルバムからの選曲はありませんでしたが、勉強が足りていなかった僕としては却ってラッキーだったのかな・・・。
その後『Pleasure Pleasure』で「AZAYAKANI」、『歌門来福』で「ハートの青さなら 空にさえ負けない」、そして『Ballad and Rock'n Roll』で「あの日は雨」。
順調だ~!

少なくとも「大切な普通」「C」「Good good day」の3曲は近いうちに実現しそうな気がしてます。
「大切な普通」はジュリーが生涯かけて歌いたいテーマだと思いますし、「C」はエロナンバー好きのジュリー、いかにも「そろそろ」と考えてそう。
そして「Good good day」。
歌も演奏も、さほどの気負いなく、それでもひたすらに楽しく、お客さんはもちろんのこと、ステージ側が無条件に盛り上がれるナンバーでもあるのです。

この曲、先輩方はもう何度も生で聴いていらっしゃいますね。LIVE率高いですものね~。
どうですか?特にギターのお二人が楽しそうに見えませんでしたか?

僕がこの先「Good good day」を生で体感することがあるとすれば、まずはベースレスの鉄人バンドスタイルで、ということになるでしょう。
ワイルドボアの平和』3曲目で歌われた時の演奏形態ですね。

この曲の演奏の肝は、柴山さんが弾いているリードギター。「長めのリフ」とも言える明快ではずむようなメロディーが、イントロからいきなり炸裂します。

バッキングの下山さん担当パートにも見せ場があって、ヴォーカル導入直前の2小節は他楽器が消え、コードをかき鳴らすギターの音だけが残ります。
この時弾いているコードは、「sus4」という変則和音。
メジャーコード(長三和音)限定の和音で、「一時的な4度」を意味する”suspended 4th”を略して”sus4”と表記します。
有名なのは、ビートルズの「A Hard Day's Night」のイントロで「ジャ~ン♪」と突き放される音が”Dsus4”。
「D」の根音と第3音の音程を、ノーマルの長3度ではなく「一時的に完全4度にする」という理屈です。
「Good good day」で登場するのは「E♭sus4」。
通常の「E♭」の音階は「ミ♭・ソ・シ♭」ですが、sus4になると「ミ♭・ラ♭・シ♭」。
ギターで「E♭susu4」を演奏する場合、1番高い音を出す1弦がsusu4独自の「ラ♭」の音になるようなフォームで弾くのが効果的で、CD音源同様に、下山さんもLIVEではそのフォームで弾いていますね。
ロックでは使用頻度の高いコードであるにもかかわらず語られることが少ないのは、細かいアレンジメント・コードとして扱われているからでしょう。「Good good day」や「Hard Day's Night」のように、sus4の和音がド~ン!とフィーチャーされた楽曲は、貴重です。


泰輝さんはCD音源には無いエレクトリック・ピアノを担当。
Aメロではピアノの低音を生かして細かい16ビートを奏で、ベースレスを見事にカバーしています。

それにしてもこの『ワイルドボアの平和』の際の「Good good day」演奏映像って、直前の挨拶シーンやら2番Aメロやら、客席が結構明るく照らされてバッチリ映ってるのね・・・。
なんだか、今にも見知ったお顔を見つけてしまいそうです。

さてさて、そんな明快なギター・アンサンブルのせいでしょうか・・・。僕は最近、この「Good good day」と、昨年リリースされた「若者よ」が表裏一体のナンバーのように思われてしまうのです。
「Good good day」の境地に辿り着いて年を重ね、老人となったジュリー(ファンからすると全然老人ではありませんけどね)が次世代に向けた歌が「若者よ」のように感じられます。
どちらの曲も、ジュリーが自然体な心構えからメッセージを発しているのが解ります。

そこで、ジュリーの歌詞です。

♪ 優しい気持ちで腹をくくって  試してみよう
     E♭       B♭    A♭      E♭  A♭         E♭

  まば ゆい  Good good day ♪
     B♭ A♭  G♭  B♭  E♭

「腹をくくる」というのは、どちらかと言うと激しい言葉なのだと僕は思っていました。
しかしジュリーは「優しい気持ちで」腹をくくる、と歌うのです。
こんなジュリーならではの素晴らしい矜持をロックを通じて伝えてもらえるのは、本当にファン冥利に尽きると思います。

このフレーズがあって初めて

♪ 温めたいんだよ こわれたハート ♪
     G          A♭     F                 B♭7

の意味が通じてくると思うのです。

また、「Good good day」は作曲もジュリー自身によるものです。
”作詞・作曲・沢田研二”のナンバーの中でも、この曲の完成度は相当高い方ではないでしょうか。

ブリッジの転調もとても面白い。変ホ長調の曲が、ガクンと1音下がって変ニ長調になります。
エメラルド・アイズ」の記事で、半音上げや1音上げはよくあるけど1音下げの転調ってのは珍しい、と書きましたが・・・何と10年前にジュリーがやってましたか!

♪ 朝陽を見に行こう 希望持ちたいだろう
     G♭              D♭    A♭             D♭

  使い果たしてない 蓄えておいた Lucky ♪
  G♭      D♭      F             A♭   B♭7

「蓄えておいた♪」のトコのFを起点にして元の変ホ長調に戻っていくのですが、ジュリーがギターで作曲しているなら、この曲はDかEで作ったんじゃないかなぁ。
そうでなければ、このコード進行の流れはなかなか出てこない。

先述した「sus4」がジュリーのアイデアで、作曲段階から存在したとすれば、この曲はDのキーで作曲されたに違いありません。
レコーディングの際に、単純に歌いやすさを優先して半音上げたのではないでしょうか。
そうすれば、最も音の高い箇所が
「君のころ意気♪」
の、「こ」で、これは「ソ」の音ですから、ジュリーが歌っていて一番突き抜けやすい音階、ということだったのでは・・・。

余談ですが、ジュリー作曲作品で言うと、「懲りないスクリプト」は作曲のキーよりも半音下げてレコーディングしたパターンなのではないか、と僕は考えています。

最後に、繰り返しになってしまいますけど・・・。

数あるジュリーの”元気ソング”にあって、ジュリー自身の作詞・作曲による「Good good day」はとりわけ意義が大きいと感じます。
ジュリーが詞を書いたり、歌を歌ったりする際に「腹をくくって」いるのは、少しでもジュリーの曲やステージに触れた人なら分かると思います。

その根底に「やさしい気持ち」があること。
それこそ、僕が今回の記事で一番書きたかったことです。

♪ 君の純粋が 不可欠    だ ♪
    A♭   E♭     B♭ A♭ B♭ E♭

こんな時だからこそ、常に心に留めておきたいフレーズ、様々な考え方を持つすべての人に伝えたいフレーズだと思っています・・・。

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2011年4月 1日 (金)

沢田研二 「エピソード」

from 『女たちよ』1983

Onnatatiyo


1. 藤いろの恋
2. 夕顔 はかないひと
3. おぼろ月夜だった
4. さすらって
5. 愛の旅人
6. エピソード
7. 水をへだてて
8. 二つの夜
9. ただよう小舟
10. 物語の終わりの朝は

-----------------------------

今回のお題は、アルバム『女たちよ』からです。

『ジュリー祭り』以降、600曲を超えるジュリー・ナンバーについて、少しずつではありますが楽曲考察を重ねてまいりました。
これまで記事にした曲数は、タイガースやPYGも合わせますと、いつの間にやら170曲。
ここまで来ると自分でも、LIVE盤や企画盤を除いて、すべてのジュリーのオリジナル・アルバムから最低1曲は既に書いているような気になってしまいますが・・・。実際は、まだ1曲も手をつけていない作品が5枚もあるんですよね~。

『THE FUGITIVE~愛の逃亡者』
『ミスキャスト』
『TRUE BLUE』
『A SAINT IN THE NIGHT』
そして・・・『女たちよ』。

『TRUE BLUE』はともかくとして
(←コラ)、他の4枚は積極的に好きなアルバムなのにね・・・。

理由として挙げられるのは、やっぱり僕自身の不勉強、知識不足ということ。

『ミスキャスト』は井上陽水さんについての考察も必要になるでしょうし、あのアルバムはアレンジがかなり高度でして、なかなか考察ハードルが高いのです。
『A SAINT IN THE NIGHT』は、原曲の知識がハッキリ足りません。
『THE FUGITIVE~愛の逃亡者』については、そのうち何か書こうという意識がありながらたまたまこれまで執筆機会を逸していたわけですが、昨年いわみ先輩の解説記事を拝見して、「軽い気持ちで書かなくて良かった・・・」と胸を撫で下ろしたものです。自分、全然知識が無かった!

でも、『THE FUGITIVE~愛の逃亡者』『ミスキャスト』の2枚は、今年中には何かのお題にて着手する予定です。

さぁ、『女たちよ』です。
今回初挑戦となるこの作品がまた、難しい・・・。

僕はこのアルバムが大好きです。
ベストテンに入るかどうかは微妙な位置ですが、聴けば聴くほどクセになる・・・「好き」のベクトルは、『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』に近いでしょうか。
アルバムを通して一気に、ということに重きを置いて聴いています。下手に編集盤とかに好きな曲を単独で入れられないタイプの名盤なんですよ・・・。特殊な一体感を持つ楽曲群といった趣です。

まずは自分の不勉強を露呈しておきますと。
僕は”ジュリーの『源氏物語』”をまったく知りません。古典の原作本『源氏物語』は20代までにひととおり読んでいますから、収録曲について「あぁ、これはあの登場人物に対応しているな」とか、「あの場面を引用しているな」というのは理解できる曲もあるのですが・・・それを、ジュリー=源氏の視点で噛みくだくことができません。
要は、リアルな映像がシンクロしてこないのです。勿体無い話だとは常々思っているんですけどねぇ。

ただ、今回お題として採り上げる、僕がアルバム『女たちよ』の中で一番好きなナンバー「エピソード」は、原作中のワンシーンに特化して呼応した楽曲ではなく、物語そのもの、つまりアルバム・コンセプト紹介したような内容と思われますから、ことさら”ジュリーの源氏”に精通していなくても何とか手管を尽くして考察できそうです。

MTV時代の申し子のようなアレンジに載せた艶やかな詞とメロディーが、ピタリとジュリーにマッチした奇跡の名曲、「エピソード」。
ちょっと脱線して個人的な思い出も書いたりしつつ、伝授・・・になれば良いのですが(汗)。
頑張ります!


このアルバムはまず『源氏物語』のコンセプトありきで制作されていることはハッキリしていますよね。
まごうことなきコンセプト・アルバム・・・そして、それはそのまま全作詞を担った高橋睦郎さんの世界とも言えるでしょう。
確証は無いのですが、収録曲はおおむね詞先で作られているんじゃないかと思うんですよ。
高橋さんの詞には、曲がつくという想定を逸脱するほどの自由度を感じさせます。こうなってくると、並のスタッフでは太刀打ちできない、ということなのかどうか、作曲も筒美京平さん、編曲が大村雅朗さんと、それぞれ”究極のプロ”である一人きりの制作に委ねられています。

歌詞カードにある高橋さんの序文が示すように、『女たちよ』もうジュリーのアルバムとしては異端というのか桁外れというのか・・・。
ジュリーの美しさを文学的に表現しようとした作家さん多しと言えど、高橋さんの詞にこめられた「美」は、それまでのジュリーのある種「清廉な妖美」とは趣を異にした、徹底的に「糜爛な退廃美」で。
しかも、それをしても飲み込んで作品世界に没頭できるジュリーのヴォーカル能力は、見事としか言いようがありません。

序文で、高橋さんが「名前は忘れた」と語っている詩人が誰なのかメッサ気になったりもしますが、まぁそれはこの際置いといて。
締めくくりに、高橋さんはこんなふうに書いていらっしゃいます。


女たちは男たちへの忍従の中でせめてもの権利として結婚の神聖を哀訴したが、自立を始めた今、皮肉にも離婚の自由を主張し始めた。そのうち、逆に男たちが女たちに対して結婚の神聖を哀訴するようにならないとも限らない

これが、1983年の言葉ですからねぇ・・・。
時が経つこと20年以上。そんな時代はかなり微妙な形で確かに到来しているように思われます。男がだらしなくしていると、容赦なくオミットされるような時代がね。
とすれば、源氏というのは実は気持ちが骨ばった「男」らしい男だったのかもしれない。美しい容姿の奥に潜む「男」の荒ぶる魂。
そう考えると、僕の中のジュリーのイメージと「源氏」がダブってきたりもしますが・・・。

そんな中、「エピソード」は糜爛な印象は他収録曲に比べて薄く、アルバム中最もとっかかりやすいナンバーでもあります。唯一「ポップチューン」と表現しても差し支えなさそうです。
ただ、それは限定つきで。究極の「80年代ロックにおけるポップチューン」である、という(笑)。

いわゆるMTV時代ね。
軽快なポップチューンには、ちょうど「エピソード」のようなアレンジがつきものでした。
ある意味能天気、そしてクール。
それを、「情念」に重きを置く日本人がやると、どうしてもマヌケな感じがしてしまうパターンが多かった中、ジュリーがこんな破天荒な方法論で名盤をリリースしていたとは・・・後追いの僕にとっては大きな驚きでした。

アルバムのコンセプトはそれこそ「情念」の塊りのような題材なわけで。
そこへもってきて、当時最先端のエイティーズ・ロックの手管を融合させるという・・・。「エピソード」はポップであるだけに、逆にに実験的な名曲とも言えるのですね。
ジュリーのヴォーカルもさることながら、筒美さん&大村さん、素晴らしい仕事ぶりです。
これこそプロの技、その神髄でしょうか。

さて、僕はまず「エピソード」から想起する80年代洋楽ロックとして、ポール・マッカートニーの「PRESS」をイメージしたのですが、これは『女たちよ』よりも数年後にリリースされている曲ですからオマージュ元ではありえません。
結局のところ僕は、「プレス」に重ねて、ヒュー・パジャム・サウンドを連想したということでしょう。
「エピソード」で言うと、イントロからひっきりなしに鳴っている「チャカポチャカ♪」というあの音ね。あれこそ、ヒュー・パジャム、ひいてはエイティーズ・ロックの象徴とも言うべき音ですから。

ただ、筒美さんが噛んでいるからには何か特定のオマージュ元がありそうだ
(←コラコラ)とは考えてしまうわけで、しかしCD購入当時には結論には至らず。
YOKO君は、「これはロバート・パーマーあたりじゃないか」と言っていましたけどね。僕はロバパーってあまり詳しくないんですよ~(泣)。
どちらかと言うとピーター・ガブリエルの「スレッジハンマー」とかそっちじゃないか、などと考えてみたり・・・。

そんな中、まさにこの曲の記事を書こうと決めた日、本当に偶然隣の部屋でカミさんがエイティーズのPVをつべで漁り聴きしていて、ふと流れてきた曲に僕は「ハッ!」と耳ダンボになりました。

トーマス・ドルビー「彼女はサイエンス」。
・・・いや凄まじい邦題だなぁ・・・ということは置いておいて・・・この曲はかなり「エピソード」のアプローチに近い。これは相当怪しいような気がする~。
特に、2番以降の雰囲気がね。

「彼女はサイエンス」にも登場するような、ちょっとオリエンタル・サイケみたいな音階の「テーマ」メロディー。
そう、「エピソード」の一番の肝は

シド#ミ~レ~ド#ミレ~ド#~♪

というシンセサイザーのリフレインです。
これが何とも効いていて、繰り返すごとにクセになるんだなぁ。
変化球っぽい作りの曲なので初見ではわかりにくいのですが、冒頭から「エピソ~♪」と歌いだすあの部分が、この曲のサビなのですね。頭からサビ炸裂、という配置の作曲なのです。

このサビ部、普通にギターで弾き語るとしたら、サビすべてE7でかき鳴らし続けておけば一応は合うわけです。でもここはひとつ、アレンジの肝であるシンセのテーマメロディーを加味して引き立たせるために

♪ エピソード 物語ではなく
     E7

  物語の裂かれた1ページ エピソード ♪
     E7

これを、「E7」ではなくノーマルの「E」のコードを押さえつつ、リフの音階のタイミングに合わせるように小指で2弦2フレット(E6=ド#の音)と3フレット(E7=レの音)を行き来させながら、細かく弾きたいところです。

Aメロではアクセントを変えて(半分のテンポで弾く)

♪ 女たちは かがやいていた ♪
     B                            C#m      A

と渋く引き継ぎ、続くBメロではメロディアスになりつつもエイトビートで歯切れ良く弾いて盛り上がる。
「F#m7→G#m7」を粘っこく繰り返すのが、Bメロ最後の和音「C#m」の突き放しを際立たせるのです。なかなか着地点に到達せずに、焦らしているわけですね。

いやぁ、さすが筒美さん!
複雑なアレンジ抜きにギター1本で表現すると、この曲の素晴らしいメロディーラインがヒシヒシと分かります。
アレンジの陰で、メロディーの方が隠し味になっているという凄味。「エピソード」はやっぱり、筒美さんのキャリアにおいても野心的大名曲だと思います。

そして、ジュリーのヴォーカルにも触れなければなりません。
『女たちよ』収録曲では、「夕顔 はかないひと」や、「さすらって」などのナンバーで、エロティックなジュリー・ヴォーカルを堪能できますよね。
一方で、この「エピソード」や、曲間無しにミックスされた次曲「水をへだてて」では、アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R」』を彷彿とさせる、いかにもエキゾティクス時代なロックヴォーカルをも披露。
それは、歌詞や曲調によって自在にヴォーカルニュアンスを変化させるジュリーの才能がそうさせているように思います。
コンセプトやアレンジが統一されている中、ジュリーは楽曲表現の幅を最大限に拡げ、すべてを融合させようとしているように感じられるのです・・・。

そんなジュリーのヴォーカルだけを採っても、『女たちよ』は80年代の傑出した名盤だと言えるのではないでしょうか。

それでは最後に、『源氏物語』に絡んで甦った個人的な思い出話など書きたいわけですが・・・。

僕には高校時代、恩師と呼べる先生がいました。
末増省吾先生といって、クラス担任ではありませんでしたが、3年間続けて現代文と古文を教えてもらいました。
結構怖い先生で、最近では考えられないことですが、授業には竹刀を持ち込んでいましたね・・・。まぁさすがにそのスタイルは、数年後にはおやめにならざるを得なかったでしょうけどね。

不精な僕は、卒業後1度だけ学校に挨拶に行ったきりその後連絡もとっていませんから、先生はもう僕のことなど覚えていらっしゃらないと思います。

で、何も知りもしないくせに『源氏物語』のことを
「あんなのはエロ本レベル」
と公言してしまっていた僕のような者の性根を、叩き直してくださったわけです。
今考えると、頑固で規律に厳格ながら、好きな文学のこととなると少年のような表情を見せる・・・そんな先生は、まるで今の僕が「男の手本」と仰いでいる人と、ずいぶんイメージが重なるではありませんか・・・。

とにかく末増先生の『源氏物語』への傾倒は半端なものではありませんでした。
3人の娘さんがいらして、そのお名前というのがね・・・上の娘さんから順に「あおい」さん、「むらさき」さん、「ゆうがお」さん・・・という気合の入りようですから。
ここまでくると「学校の先生」の域を超えていますね。

授業では特に『源氏物語』と『こころ』に激しい情熱を注いでいました。
最初はその熱さが暑苦しくもあり竹刀が怖くもあり、気のない感じで対峙していたのですが、1年生の時の夏休みの宿題を機に、一気に僕は末増先生を慕うようになりました。

どんな宿題だったと思います?
『羅生門』の続きの小説を書いてこい、という破天荒なお題だったんですよ!

さすがに他の生徒皆、退いていたのですが・・・僕は大層張り切り、指定の原稿用紙枚数の5倍くらいの大作を書いていきました。
下人が長屋の屋根裏で蝋人形を作ったり、何故か時代が錯乱して侍相手に立ち回ったりする、という支離滅裂な話で、最後の1行が

「下人の行方は、やっぱりわからない」

と、かなりふざけたものでした。
自分としては洒落たつもりでしたが、先生は怒ったかもしれません。
ただ、僕の気合だけは受け止めてくれたのか、それを機に随分と打ち解け(と言うか僕の方が一方的になついた感じでしたが)、その後も色々と面倒を見て頂きました。

僕の通っていた高校では、末増先生の他に久米先生という方がおり、さらにはその二人の先生の師にあたる脇本星浪先生も合わせ、田舎の高校にしてはあり得ないくらいの相当ハイレベルな俳句会も行っていました。
僕もずいぶん下手な句の添削を受けました・・・。
最終的にはまったくモノになりませんでしたが、僕が一時文学を志し、そういう進路に向かったのは間違いなく末増先生の影響です。

まぁそんな中で、末増先生の指導があって僕は『源氏物語』(本の方ね)に興味を持つようになった、という経緯があったのです。

で、本当に今思えば・・・なんですけど。
ちょうどアルバム『女たちよ』がリリースされた1983年に、僕は先生と出逢っているわけです。
その頃僕がジュリーを聴いていれば・・・と思うんですよねぇ。間違いなく『女たちよ』を先生に聴かせていたはずです。

そして、先生に尋ねたい。
歌詞カードの裏表紙に記載のある


女たちよ 美しい敵よ 俺を刺せ

これ、どういう意味だと思いますか?・・・と。

☆    ☆    ☆


P. S.

今回の記事を書くにあたって、アルバム『女たちよ』を何回か通して聴きました。
「さすらって」の詞が、これまでとはまったく違って聴こえました。

昨日TVで、被災地の早咲きの桜の花びらを鳥がついばんでいる映像を見て、胸がしめつけられるような思いがしました。

杜の都は
春になりましたか

遠い地に何気なく手紙を送るような気持ちで、普段どおりの記事を書きました・・・。

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