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2011年3月

2011年3月29日 (火)

沢田研二 「夜明けに溶けても」

fromREALLY LOVE YA!!、1993

Reallyloveya


1. Come On !! Come On !!
2. 憂鬱なパルス
3. そのキスが欲しい
4. DON'T SAY IT
5. 幻の恋
6. あなたを想う以外には
7. Child
8. F. S. M.
9. 勝利者
10. 夜明けに溶けても
11. AFTERMATH

-----------------------------

まだまだ大変な状況が続いています。
自分はこんなことをしてていいのか・・・自問自答にもならない焦りのような気持ちが時折襲ってきます。

そんな中、僕は本当に、被災地の方々に逆に勇気を貰っているのです・・・。
被災地に近い多くのじゅり風呂さん、そしてコメントを書いていらっしゃるみなさまからも。
azur様は、折れそうな心を鞭打ちながら、必死の発信を続けていらっしゃいます。
SONGE様は更新を再開され、変わらぬ爽やかな言葉を聞かせてくださいます。
コメントを書いていらっしゃるみなさまの言葉に、奮い立たされます。

実は、今回の「夜明けに溶けても」の記事は2日前にもう書き上げていました。
更新をためらっていたのは、「溶けても」というフレーズを今、発信してよいのだろうか、とクヨクヨと細かく考えてしまったからです。
しかし、僕はやはり、自分がジュリーナンバーの中で一番「やさしさ」を感じるこのナンバーの記事を発信したい、と思い直しました。

僕は無力。
できることは、ジュリーファンのみなさまに、変わらずジュリー・ナンバーの素晴らしさを発信することしかありません。
これからも、大好きな曲を、大好きな感情のままに書いてみようと思っています。

☆    ☆    ☆

「やさしさ」とは、平凡な日常を尊ぶ気持ちから生まれるものかもしれない・・・。
ジュリーを聴くようになって、なんとなく気づいていたことだけれど、この2週間、強くそう感じます。

僕が『ジュリー祭り』で決定的に堕ちてしまったのは、それまで僕の中で大きな偶像崇拝的なイメージ対象としてそそり立っていたジュリーが、実は途方もなく強い「人間」であり、その強さを持って「日常」を説き・・・「明日からはまた粛々と」と語ったMCから受けた衝撃。その「人間性」に他なりません。
その後、セルフ・プロデュース時代に突入して以降のジュリーのアルバムを次々と聴き、特にジュリー自作詞による収録曲を追い求めていくと、「日常」を尊ぶ気持ちがジュリー最大のやさしさであり、作品にとっての大きな武器となっていることが分かってきました。

その根幹となるスタイルは、元々はやはり覚和歌子さんの影響によってもたらされたかと思えますが、実は覚さんがジュリー作品に大きく噛んできたちょうど同じような時期にもう一人、ジュリーの「やさしさ」を詞に投影した素晴らしい女性作詞家がいらっしゃいます。

朝水彼方さん。
優しさの中に、歌の主人公の強い決意が雄伏しているのが分かる・・・そんな作風はジュリーにピッタリだと思っています。このことは以前、「
愛しい勇気」の記事を執筆した際にも書かせて頂きました。
今回はそんな朝水さん作詞作品の中で僕が最も「優しさ」を感じる、大好きなナンバーをお題に採り上げたいと思います。

アルバム『REALLY LOVE YA!!』から。
「夜明けに溶けても」、伝授!

このアルバム、僕が「一番好きな曲」を挙げようと考えますと、最終的に3曲で悩みまくることになります。「幻の恋」「F.S.M.」、そして「夜明けに溶けても」。
いずれも途方もなく好きなナンバーで、とても1曲には決められません~。

もちろん、「COME ON !! COME ON !!」「憂鬱なパルス」「そのキスが欲しい」・・・と続く他収録曲もすべて好きで、要は『REALLY LOVE YA!!』という作品が屈指の大名盤である、ということ。
実際、これまで頂いたコメントや、他のじゅり風呂さんの御記事などで多くのジュリーファンのみなさまが、この『REALLY LOVE YA!!』をイチオシなさっているのをよく見かけます。

しかし、「夜明けに溶けても」について熱く語っていらっしゃる方は、アルバムの人気に比すると少ないように思います。
ちょっと地味な印象を持たれているのかなぁ。
前回のお題「
ナイフをとれよ」に引き続き、いまひとつみなまの反応が薄い記事になってしまうのでしょうかねぇ・・・。

これまで何度も書きましたように、僕はポリドール時代のCDをすべて買い終えた段階で、一度ジュリー熱が少し落ち着いてしまっていました。
ポリドール期以降のCDには何故か手を出さず、YOKO君と二人で「次は、映像作品を少し観てみるか」ということになり、YOKO君と分担でDVD4枚を入手、交換作業をいたしました(YOKO君が『快傑ジュリーの冒険』『ジュリーマニア』、僕が『ZUZU SONGS』『REALLY LOVE YA!!』)。

その中で、さほど期待もせずに「ま、一応」という感じで購入した『REALLY LOVE YA!!』の、特にアルバム収録曲の素晴らしさに僕もYOKO君も揃って感動・・・すぐにCDの方も追って購入した、という次第。
それが2007年ですかね・・・この頃はまだ、吉田建さんプロデュース時代のアルバムも普通に売られていました。
ですから
「まぁ慌てずとも、いつでも買えるな・・・」
と、他アルバムに積極的に手を出さなかった・・・。『ジュリー祭り』直後にどれほど後悔したことか。

『REALLY LOVE YA!!』というのはジュリーの歴史においても興味深い位置づけの作品だと思っています。前作『BEAUTIFUL WORLD』で一度後方に押しやられた”ロックスターの孤独”という建さんプロデュース期独特のコンセプトが復活し、その結果非常にロック色が強まっていると同時に、ジュリーの自作詞ナンバーにも重きが置かれ、来たるセルフ・プロデュース時代への扉がしっかりと開かれているという、贅沢な作りになっています。
穿った見方をすれば、建さんの「これが最後!」という気合が満ちているような感じもしますね・・・。

改めて、僕はこの「夜明けに溶けても」については、まずは朝水さんの素晴らしい感性を手放しで絶賛したい・・・本当に大好きな詞なのです。

その「やさしさ」は、DVD『REALLY LOVE YA!!』を鑑賞した瞬間から強く感じていましたが、今まさにこんな時だからこそ、2番Aメロの詞がたまらなく愛おしい。

♪ 春が近づくみたいと 振り返って風の中
     F#m7                    E              Fdim C#7

  この距離を遠ざけずに 見つめていたい  よ ♪
     F#m7                        E                 C#  C#7

・・・今年ほど、春が待ち遠しい年はありません。
東北の地に、1日でも早く暖かい風が吹いて欲しい・・・今、すべての人の願いでしょう。

「夜明けに溶けても」の主人公は、限りなく優しい目で恋人を見つめています。朝水さんの描くその距離感は、何と絶妙なことでしょう。
これは、女性ならではの感覚なのでしょうね。
「日常の中で、ふとときめく瞬間」をずっとずっととっておきたい・・・そんな思いが手にとるように分かります。

さて、僕にとって「夜明けに溶けても」はこのように優しさ全開のナンバーなのですが、それは朝水さんの詞に留まらず、佐橋佳幸さんの作曲、建さんのアレンジ、ジュリーのヴォーカルすべてについて総合的に感じるところでもあります。

♪ 僕のジャケットの襟を そっと直してくれてる ♪
     F#m7                       E             Fdim  C#7

この出だしだけで、言いようもない暖かい気持ちになる・・・数あるジュリーの胸キュン系ナンバーの中でも屈指の大名曲だと思うんだけどなぁ。

作曲の佐橋さんは、ビッグネームのバッキングや編曲で、仕事絡みでもよく名前を見かけていた人でしたが、作曲クレジットはジュリーで初めて知りました。
素晴らしいメロディーメイカーでもあったのですね。
特にこの『REALLY LOVE YA!!』では、「憂鬱なパルス」「夜明けに溶けても」というまったくタイプの異なる2曲でその秀逸な作曲センスを世に知らしめたと言って良いでしょう。

ただ、僕はとにかくワキの知識に甘い!
この記事執筆のために改めて検索をかけて、佐橋さんが松た○子さん(あまり松さんの検索数が多いので一部伏字にしました滝汗)の旦那さんであることを初めて知りました~。
ビックリしましたよ・・・。今になってみると、以前先輩にそんなお話を伺ったような気も・・・デジャヴかな?
「夜明けに溶けても」は佐橋さんにとっても会心の1曲かと想像しています。ひょっとしたら、お家で奥さんにジュリーの音源を聴かせていたりするかもしれません。
なんだか爽やかな話ではありませんか(って、僕が今勝手に作った話ですけど汗)。

アレンジも爽快。
建さんにしては珍しいパターンでしょうかね。良質なポップスのお手本のような、のどかなアレンジです。
パーカッションがすごく効いていますし、何と言ってもこの曲はスライドギターが肝でしょう。
スライドギターについては、後の『サーモスタットな夏』収録、白井良明さんアレンジの「愛は痛い」と比較するのも面白いです。白井さんはジョージ・ハリスンの「マイ・スウィート・ロード」直系のブリティッシュ風味。対して建さんはアメリカン・カントリー・ロックの要素もとり混ぜ、より素朴な味わいに仕上げていますね。

せっかくですから、この機に「スライドギター」について簡単に解説しておきましょう。
最近のLIVEですと『秋の大運動会~涙色の空』での「世紀の片恋」や、『Ballad and Rock'n Roll』での「
君が嫁いだ景色」で、下山さんが何やら銀色の筒みたいな物体を指にはめて、ギターを弾いていましたよね。そのこと自体は、お気づきの方も多いでしょう。
あれが「スライドギター」。
ギターの種類ではなく、奏法の呼称なのです。

下山さんが持っていた銀の筒は、「ボトルネック」という名称の道具です(最近は「スライドバー」と呼ばれることも多いようです)。
そのボトルネックを使ってギターの弦をすべらせて演奏するのが「スライドギター奏法」。
1音ごとの移動ではなく、なめらかに音程を上げたり下げたりします。これは弦楽器特有の奏法で、ピアノや管楽器でこのような演奏表現は不可能です。

ちなみにとても貧乏だった20歳ちょっとの僕は、初めて自作曲でスライドギターのアイデアを導入した際、ボトルネックの代わりにライターでギターを弾いてレコーディングをしたことがあります。
さすがに音は悪く、ちょっとガシャガシャした雑音が入るんですよ。「これが逆に味だ」とうそぶいておりましたら、後に目上のギタリストにひどく怒られたものです・・・(恥)。

おっと、おかしな話をしてしまいました。

朝水さん作詞のジュリー・ナンバーは、きっと「そのキスが欲しい」が代表作ということになるのでしょう。
しかし僕は「夜明けに溶けても」こそが朝水さんの本質と見ます。派手ではないけれど、ジュリーの優しい一面を大きく引き出す魅力が、確かに朝永さんの詞の中にはあるのです。

そう、ジュリーは優しい。
そして強い。
強さを感じるのは、3度登場するサビメロの歌詞。ジュリーは「君」を見つめながら、自分の変わらぬ気持ちを確かめ、強靭な意志、決意を漲らせます。

♪ 何が変わっても      ふたりこうし  ていよう
        E    A       G#m7    G#7  C#m F#7   F#m7 B7

  夜明けに溶けたっ    て   いいと  言ってよ ♪
           E     A    G#m7  C#m F#m7 B7    E

でも・・・「夜明けに溶けたって♪」と歌うジュリーは、やっぱりどこか優しい表現を狙っていますよねぇ。
コーラスも、この曲はとても優しい・・・その効果もあるのかな(アルバムの他収録曲のコーラスは、結構とんがっています)。

僕は、「夜明けに溶けても」について、大好きなナンバーだけど、おそらく今後の生のLIVEで体感することは無いだろうと思っています。
そう考えると、『REALLY LOVE YA!!』の映像作品が残っていて、本当に良かったです・・・。
改めて、感謝。

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2011年3月25日 (金)

沢田研二 「ナイフをとれよ」

from『思いきり気障な人生』、1977

Omoikirikiza


1. 思いきり気障な人生
2. あなたに今夜はワインをふりかけ
3. 再会
4. さよならをいう気もない
5. ラム酒入りのオレンジ
6. 勝手にしやがれ
7. サムライ
8. ナイフをとれよ
9. 憎みきれないろくでなし
10. ママ・・・・・・

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前回は、多くのみなさまの後押しもあって、「無事でありますよう」の記事を執筆することができました。
なんとか「いつも通りの記事」を書こうとして苦しんでいた際に、特にmomo様より頂いた
「再スタートの最初の記事が、いつもと違う特殊な更新になってしまうのは当然。敢えてプレッシャーをかけます。勇気を出して書いてください」
というお言葉には本当に力を頂きました。ありがとうございました。

それから、「いつものスタイルの記事」(待ってくださっている方々が多くいらっしゃることに驚くばかりの日々でした。感謝しかありません)に向かうにあたって、色々と考えました。
やっぱりこんな時だから、楽しい記事を届けたい・・・でも、それが空回りしてしまったら、かえって多くの方々に不愉快な思いをさせてしまうかもしれません。
被災地から遠く離れ、何もできない自分に対する負い目。
その、言わば卑屈な感情が文章から伝わってしまったらと思うと・・・。

余震があるたびに、現地ではどのくらいの揺れなのだろうか、水戸にいる弟一家は無事なのだろうか、そして、幼少時代からまだ見ぬ土地として憧れ、上京してすぐに新幹線の売り子のアルバイトをしてまで毎日のように眺めた東北の山並・・・あの自然の中で暮らしていた人達の生活は今、どうなっているのだろう、と考えます。

そんな不安や逡巡を抱えたまま、「楽しく楽しく」と無理に書いた文章は、どう考えても良くはならない。
どうすればよいのだろう・・・。

そんなことを自問しながら過ごした1週間。
74年生まれ様に頂いたコメントとまったく同じことに、僕も思い至っていました。
ジュリーの最新CD『涙色の空』収録の1曲「若者よ」の楽曲解釈が大きく変わったのです。
特に
「生きてる人を生き生きとさせるのは
  すごく難しいけど」
から始まる、2番の詞が胸に響きます。
今、リリース後に執筆した「若者よ」の記事を読むと、その自らの考察の浅さに恥ずかしくなります。

僕はこの数日で、春の高校野球で選手宣誓の大役を担った創志学園の野山慎介主将、自らの危険を省みず、津波から母子を救った仙台ジュニアユースのDF・藤沢恭史朗選手という二人の若者のニュースに、心を洗われました。
決意に漲る表情、闘志宿る体力。
そして、言葉や行動の底にあるのは、若者らしいピュアな心・・・正にそこなのだと思いました。

それなら・・・僕も「楽しい」記事を書くにあたって、「心」を持てば良いのかもしれない。
でも僕の場合それは、「被災地を悼む」という心では通用しそうもありません。
そうしてしまったら、遠い土地から、しかも何の力も持たない、特別なこともしていない、まして若者のような純粋さを持たない僕の発信にはやはり無理が生じ、「現場も知らずに何を言ってるんだ!」と思われてしまうかもしれないのです。

では、どういう心を持てば良いのか。
考えました。

「ジュリーの楽曲を掘り下げる」
という、このようなスタイルでやっているなら、楽曲に対する真の愛情を吐露したとすれば、どうだろう・・・。

本当に好きで好きでたまらない曲を、「好き」という心に身を委ねて書いたなら、そこに嘘や無理は絶対にないですから、少なくとも愛情は伝えられるかもしれません。
愛情が伝われば、自然とみなさまが楽しめる記事になるんじゃないだろうか・・・。

できるかどうか分かりませんが、そんな思いを持って執筆することにしました。

そこで、これからしばらくの間は、数あるジュリーの名盤について、「僕がアルバムの中で一番好きなナンバー」をお題に採り上げていきたいと思っています。
途方もなく好きなジュリー・ナンバー、まだまだ記事にしていないものがたくさんあります。「一番好き」な曲が複数になってしまっているアルバムもありますしね。
「好き」という、単純だけど大きなプラスの心が、どうか読んでくださる方々に伝わりますように・・・。

それでは今回は、『思いきり気障な人生』から。
僕がこのアルバムの中でダントツに好きなナンバーであり、カラオケでJOY SOUNDに行くと必ず歌ってしまう名曲です。
「ナイフをとれよ」、伝授!

『思いきり気障な人生』・・・阿久=大野=ジュリーのトライアングル三部作の第1弾アルバムです。
タイガース時代の「王子」を凌ぐとも思われる、良い意味での虚像としてのジュリーを確立させた作品かと考えますが、それにしてもこの3人の組み合わせによるマジックは本当に凄まじい。
阿久さんがどんどん進化し挑戦的な詞作をする。大野さんがそれに応える。ジュリーはその壁を軽々と越えていく、という目眩めく図式。
後追いの僕ですら、信じられないほどの奇跡、エネルギーを感じます。

次作『今度は、華麗な宴にどうぞ』になると、阿久さんの使うフレーズや世界観がある意味とんでもないことになってきますが、この作品ではまださほどブッ飛んではいません。突飛なフレーズ乱舞が目立つのは、オープニングのタイトルチューン「思いきり気障な人生」と、大トリ収録の「ママ・・・・・・」くらいでしょうか。

さて、お題の「ナイフをとれよ」はどうでしょう。
この曲は、次作、次々作のアルバム収録曲に比べると、割と直球的と言うのか、一見普通の詞です。
それでも、当時の歌謡曲の中にあっては相当異端なのでしょうけどね・・・。

で、これはまぁ、男同士の歌なわけです。

ジュリーって、間違いなく「男を好きな男」です
いや、身をのりださないでくださいよ~。変な意味ではないのです。

男というのは、大げさに言えば「身命を賭して」という気持ちになれる友人がいるかどうかによって、随分雰囲気が違ってくると思います。ジュリーには、そんな友が何人もいるような気がするのです。そういう雰囲気があります。
ただ、そのジュリーのノン気な純粋さが逆に、本物を本気にさせる危険性はあるように思いますが(爆)。

そういった雰囲気に鈍感な方の僕がこれほど強烈に感じるくらいですから、ジュリーは相当濃い「男臭さ」を持っていると言えます。
ちなみに『ジュリー祭り』参加の相方であるYOKO君はソッチには敏感な方で、最近では、ジュリーwithザ・ワイルドワンズの加瀬さん作詞・作曲のナンバー「僕達ほとんどいいんじゃあない」を”男同士の歌”と即座に見切った眼力には畏れ入りました。
あんまり、その眼力自体が羨ましくはないですけどね・・・。

阿久さんが相当敏感なのは確かで、そんな雰囲気を持つジュリーという歌い手を得て、どんどんソレ系の詞に加速度をつけていくことになるのですが、『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』収録の「薔薇の門」や、シングル「カサブランカ・ダンディ」のB面曲「バタフライ革命」まで行くと、あまりに僕の想像する範疇、日常からかけ離れているせいなのか、歌詞の内容が実感を伴わないという(汗)。
大好きな楽曲ながら、架空の世界の出来事のように楽しむしかありません。そこは僕の才の無さでもありますね・・・。

ところが、「ナイフをとれよ」は違います。
実感が沸く・・・と言うより、世の多くの男性が、この歌と同じような体験に覚えがあるのではないでしょうか。
酔ってくだを巻く側なのか、相手をする方か、の違いはあるでしょうけど。
僕の場合は、相手をする方でした。
大学生の頃でしたね・・・。

「女の愛に傷つけられて、暗い目を」した友人のU君が夜中に部屋に転がりこんできまして、「さぁ、酔ってしまえ」とガンガン飲ませ、結果、畳にブチ撒けられたことがあります。あ、食事中の方、ごめんなさい(汗)。
最終的にはやっとのことで寝てくれて、翌朝(ま、世間的には昼でしたが)煙草の煙を残して消えていったという。
まさに、「ナイフをとれよ」そのままの体験です。
(U君というのは、「SCANDAL !!」の記事で少し触れた、寅さんファンの友人ですね。別名「ぶりゅ~君」と言えば、数人の先輩方におかれましては「あぁ、アイツか」と手を打って頂けるかと・・・)

まぁさすがに、シチュエーションはそっくりとは言え、「ナイフをとれよ」そのままの進行で

♪ 裸になれよ シャワーでも浴び
      Gm7     C         F            Dm

  さあ 洗い流せ ♪
     B♭      C    F

ってわけにはいきませんでしたよね。当時の僕の部屋には、風呂とかシャワーなんてものは無かったですから・・・。
でも

♪ 俺に何をしてほしい なぐさめてほしいのかい ♪
        Dm  C           F         Gm    A7           Dm F7

という、この状況は確かにありましたし、「とにかく気の済むまで飲め!」と真剣に思いながらも、当の僕はというと何故だか酔いもせず、友人がズブズブになっていく様をただただ見守ったものです。
自分をフった女には強がって、それからこの場所に来てるんだろうなぁ、というのが分かる・・・。

強がったその反動で、男の友人の前で醜態をさらす・・・これはとてもみっともないように見えるかもしれませんが、男のダンディズムの在り方なのです。
矜持を分かち合える友人がいなければ成立しない話とは言え、「ナイフをとれよ」は、ジュリーのようなカッコいい男だけが歌うことを許される架空の物語ではなく、ごくごく平凡な、しがない一般の男の身にもしばしば起こり得るシチュエーションだということを、ジュリーファンのお姉さま方にはこの機に伝授さしあげたいと考えます。

ただ、阿久さんが作詞してジュリーが歌うのですから、まったく平凡ということにもならない・・・それが「ナイフをとれよ」の二重構造的な魅力でもあります。
まず、詞について。
阿久さんほどの人なら余裕でできるのでしょうけど、詞全体の中に時間の流れがあるという、才気。
2番では夜が明けて朝になっているのはまぁ凡人でも思いつく構成かもしれませんが、ラスト2行で

♪ あれから うわささえ消えたけれど
              B♭     Am          Gm

  お前はどこにいるのか ♪
   C                      F

ポ~ンと、数年或いは数十年の歳月経過をいきなり投げかけるテクニックは、さすが阿久さんと言う他ありません。
この楽曲は文字・行などの秩序がしっかり整っていて、1番の「ごろりと寝ろ♪」が2番同箇所では「ケロリとしろ♪」になったり・・・全体的に王道作詞の作りになっている中でのテクニックですから、余計に光ります。

あとは、「ナイフをとれよ」の意味ですかね。
最後のサビだけに唐突に登場するタイトルフレーズ。

♪ 悲しいのなら ナイフをとれよ
       F          Dm      C        C7

  あぁ 泣き言はいうな ♪
     B♭        Am7      Gm7   C

直後に、主人公は「泣きながら眠る」友人を見て夜を明かしたことを語っていることも合わせて考えると
「お前の弱いトコを見知っているのは俺だけで充分」
という心情が込められているように思います。
今では消息さえ分からなくなってしまった友人への「強がれ!」というエール・・・それは、「傷ついて強がれなくなった時には、また俺のところに戻って来い」というメッセージに直結しているのではないでしょうか。
まさに、男限定の世界なのですよ・・・。

そして、そんな世界をジュリーが歌うと、さらに濃くなります。
「ナイフをとれよ」は、「ママ・・・・・・」などと比べると、過多に感情を入れずに歌うスタイルのヴォーカル。
この曲の場合は、それが良いんですよね。
先述した「あれからうわささえ♪」の「ら~♪」と伸び上がる箇所は、僕のジュリーヴォーカル・大好物パートのひとつです。

この、過度の感情移入が感じられないが故に、逆にジュリーのノン気な男のエロが炸裂してしまう、というヴォーカルスタイルは、10年以上後のリリースである「月の刃」などの楽曲に受け継がれているような気がしています。
「ナイフ」から「刃」を連想するからでしょうか・・・僕の個人的な感覚かもしれません。
また、この曲は長調のバラード。阿久=大野時代は短調のバラードが多いですから、長調という括りだけで簡潔に70年代後半のジュリーの歴史を追っていくこともできます。
王道の長調バラード作品として、「ナイフをとれよ」は楽曲・ヴォーカルともに、次作『今度は、華麗な宴にどうぞ』に収録された「探偵~哀しきチェイサー」や、「スピリット」といった超大作へと受け継がれていくことになります。


王道であればこそのジュリー・ナンバーの魅力。
「ナイフをとれよ」は、アレンジもまた王道中の王道バラードです。
演奏楽器構成は

・中央=ヴォーカル、ピアノ、ベース、ドラムス、そしてマラカス(サビ部に登場)
・右サイド=エレキギター(リードギター)、アコースティック・ギター
・左サイド=エレキギター(カッティング及び、右リードギターに対する裏メロも網羅)、ストリングス

以上9トラック。
他アルバム収録曲の多くで見られる女声コーラスも無く、最小限のパートがきっちりとそれぞれの役割を驚くほど精密にこなし(ストリングスのフレーズ・リズムとドラムスのオカズがピッタリと合っていたり)、ジュリーのヴォーカルにすべての音が収束するようにお膳立てされています。
精密過ぎる演奏は時に興ざめする場合もありますが、「ナイフをとれよ」他、この頃のジュリー・ナンバーには、「ヴォーカルをメインに」という明らかな狙いがある(つまり、良い意味で”歌謡曲”の手法ということです)ので、心地良いのです。
加えて、間奏のリードギターも渋過ぎますね。

最後になりますが、ここまで書いてきた事すべては、何と言っても大野さんの作曲の素晴らしさがもたらしたものでしょう。
澱みや迷いのないストレートなメロディー、突飛な転調もなく最後まで淡々と王道進行しつつ、起伏のある流れ・・・間違いなく70年代後期の阿久さんとのコンビによるナンバーの中で群を抜いて、完璧な詞曲同体を達成した楽曲です。
まぁ僕は(おそらくみなさまも)、お二人のコンビで詞と曲がまったく合ってないパターンも、それはそれで大好きですけど・・・。

今ジュリーはちょうど、音楽劇公演期間、真っ最中。
多くの方がジュリーの歌声に酔いしれていらっしゃるかと思いますが、「探偵~哀しきチェイサー」などのジュリー・ダンディズムに痺れる方々に、是非見直して頂きたい曲・・・それが「ナイフをとれよ」だと僕は思っています。
これは、「ナイフをとれよ」があまりジュリーファンの間でも採り上げられることのないナンバーですので、そう考えているのですが・・・。

みなさまのこの曲への評価は、いかがでしょうか?

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2011年3月19日 (土)

沢田研二 「無事でありますよう」

from『耒タルベキ素敵』、2000

Kitarubeki


disc-1
1. A・C・B
2. ねじれた祈り
3. 世紀の片恋
4. アルシオネ
5. ベンチャー・サーフ
6. ブルーバード・ブルーバード
7. 月からの秋波
8. 遠い夜明け
9. 猛毒の蜜
10. 確信
11. マッサラ
12. 無事でありますよう
disc-2
1. 君のキレイのために
2. everyday Joe
3. キューバな女
4. 凡庸がいいな
5. あなたでよかった
6. ゼロになれ
7. 孤高のピアニスト
8. 生きてる実感
9. この空を見てたら
10. 海に還る・べき・だろう
11. 耒タルベキ素敵

-----------------------------

呆然とし、焦燥感に駆られ、忙殺された一週間が過ぎました。

3月11日のあの時。

東京でも、立っていられないほどの揺れが襲ってきました。
ちょうどデスクについていた僕は「外に出て!」と社内アナウンスを流し、ガスの元栓をしめたところで本格的な縦揺れが始まり、社内の電気が消え、ブレーカーの制御盤から非常音が発せられました。

棚にあったDVD商品が落下しました。
机の下で揺れをやり過ごし外へ出ると、ほとんどの社員がすでに外に避難してきていました。

電気は2時間ほど止まっていました。
ちょうどこの日、カミさんは携帯を忘れて仕事に出かけていて、連絡のとりようがなく心配していましたが、ほどなく、地震直後に早退して帰宅している旨をmixiのメッセージで知りました(携帯はとうとうこの日はメールすら繋がらなかった)。

常務の運転する車で「これからしばらくどうなってしまうのか」と話をしながら、3時間半かけて、渋滞の中を帰宅しました。
すでに日付も変わろうかという時刻でしたが、後で聞くところによると、鎌倉まで会社の自転車で帰った社員もいたようです。

被害が拡大していくニュースが飛び込んできて、胸を痛めながらの日常が始まりました。

そして1週間。

いわき市に帰郷していた、友人のドラマーの行方がまだ分かっていません。
また、もう20年以上のつきあいになる親友の佐藤哲也君は、地元の両親の安否確認のため、この連休に故郷の福島に向かいました。何の宛てがあるとも聞いていません。とりあえず、自分の実家がどんな状況になっているかを確認することから始まるのでしょう。

どうしてこんなことが起こってしまったのか・・・。
亡くなった方々のご冥福をお祈りし、被災されて家を失い、今必死に生きている方々、福島第一原発の危機を回避すべく、現場の困難な作業に立ち向かっている方々の無事を祈る・・・そう、いずれにしても、祈ることしかできない自分。

そんな自分に、被災地の先輩方から
「いつものように記事を書いて欲しい」
と、幾つものメッセージが届く・・・。何と言葉をお返しすればよいのか。
感謝以外ありません。

明日になったらまた回線が繋がらなくなるかもしれない、ネットが見られなくなるかもしれない・・・そんな状況を抱えている方もいらっしゃるようです。

そんな方々がいらっしゃるのに、僕はいつまでもグズグズしてもいられません。
何より・・・今回のことで、僕のことを心配してくださる方がたくさんいらっしゃいますが・・・僕は全然大丈夫です!
本当にありがとうございます。でも僕は何ともありません。

ただ、少し日常の形が変わっただけ。

まず、電車が動いたり止まったりという状況ですから、20年ぶりくらいに自転車を購入。会社まで片道1時間をかけて通勤することにしました。

Bicycle

そして、18日水曜日の夜には、自宅エリアで計画停電が実施されました。
18時半から22時までということで、暗闇の中帰宅すると、アロマキャンドルの灯りを頼りに夕食をとりました。

Candle

確かに、以前よりは不便な日常かもしれない・・・でも、心の中から、不満や文句などの感情は一切沸いてきません。

普通に働けることに、感謝。
普通に食事ができることに、感謝。

これまで当たり前のように思っていたことすべてに、感謝しています。

♪ あたりまえじゃないことが 
     C                       G       G#dim

  あたりまえ    に思え
  Am       Am(onG)   Fmaj7

  あたりまえに  過ぎる時間を
  Em          Am    Em       D7   Dsus4  D

  短いと感じる ♪
  F     C  G7

泰輝さんのメロディー、ジュリーのヴォーカルそして詞が、今、どうしようもなく胸を打ちます。

アルバム『耒タルベキ素敵』の中では異色とすら言える、直球のアレンジ。
そして、この曲のピアノのフレーズは、明らかにビリー・ジョエルのオマージュです(アレンジ・オマージュはエルトン・ジョンの「僕の歌は君の歌」)。高校時代にビリー・ジョエルに相当入れ込んでいた僕にとって、この曲はそれだけで気持ちをかきたてられるナンバーだというのに・・・。
今、「無事でありますよう」を聴くと、これまでの何倍もの思いが押し寄せてきます。

左サイドのアコースティック・ギターと、右サイドのエレキギターは、これまで観てきたジュリーLIVEのギタリストお二人の立ち位置を連想させ、そのやり場のない思いを包みこんでくれます。
武骨で力強いベースとドラムスに、ハッとさせられます。この曲は「無事を祈る」側の歌・・・そんな曲が、バラードであるにもかかわらず、力強い演奏に仕上がっていることの意味を、考えさせられます。

自転車通勤で過ごした1週間。
停電で信号機や街明かりの消えた通りを、自転車を漕いで走る帰路。ペダルを踏む自分の足で灯した自転車のライト・・・そのか細い光を見ていると、何か言いようのない感情がこみあげてきました。

どうか、すべての人の日常が無事でありますよう。
強い祈りよ、届け・・・。

・・・今日はやはり、ちょっと特殊な感じの記事になってしまいました(momo様、背中を押してくださりありがとうございました)けど、次回からは、頑張っていつものようなスタイルで書かせて頂きます。
マニアックな個人的イチオシのお題、スーパーヒット・ナンバーの直球伝授、しばらくはそれらをとりまぜてやっていけたらと思っています。

これからも、拙ブログをどうぞよろしくお願い申し上げます。

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2011年3月10日 (木)

沢田研二 「SCANDAL !!」

from 『JULIE SONG CALENDAR』、1983

Juliesongcalender

1. 裏切り者と朝食を
2. ボンヴォワヤージュ
3. 目抜き通りの6月
4. ウィークエンド・サンバ
5. Sweet Surrender
6. CHI SEI(君は誰)
7. YOU'RE THE ONLY GIRL
8. ラスト・スパーク
9. 一人ぼっちのパーティー
10. SCANDAL !!
11. す・て・き・にかん違い
12. Free Free Night
13. BURNING SEXY SILENT NIGHT

-------------------------------

え~、このところ鬼のように記事執筆意欲が高まっております。
たぶん、禁断症状の一種ですねぇ・・・。「せめてLIVEスケジュールの告知があれば~!」という心の叫びといったところでしょうか。

くそ~、こうなったら
「それを書きますかい!」
という渋~い隠れた風変わりな名曲群を、ここぞとばかりに書きまくってやる~!

ということで、この先しばらくの間、遊びにいらしてくださるみなさまが「次は何の曲書く気だ?」と思ってくださるような、自由課題期間でやっていこうと思っております。
もちろん、僕の中で”今執筆することに意義がある”と考えたナンバーを採り上げていきますよ~。

ということで、今回の「SCANDAL !!」。
様々な分野で活躍する女性著名人の書いた詞にジュリーが曲をつける、というラジオ番組企画から生まれた、異色作ながらなかなかの好盤『JULIE SONG CALENDAR』より、伝授です~!

まずは、いきなりの懺悔からです(汗)。
僕は以前「BURNING SEXY SILENT NIGHT」の記事を書いた際、アルバム『JULIE SONG CALENDAR』をみなさまに「是非」とお勧めしました。
「地味ながら、意外と好きな曲が多い」という理由からです。

しかし実はこのアルバム、”DYNAMITE第1次ジュリー堕ち期”(ポリドール時代の全アルバムを大人買い。でもLIVEには参加せず、今のような激しい情熱は無し。『ジュリー祭り』以降が”第2次”で、突然このブログもじゅり風呂に変貌しました)に購入したものの、アルバム全曲通して聴いたのはほんの数回。
主に、初見で好きになったナンバー6曲(「裏切り者と朝食を」「ボンヴォワヤージュ」「ウィークエンド・サンバ」「Sweet Surrender」「ラストスパーク」「す・て・き・に・かん違い」「BURNING SEXY SILENT NIGHT」を、自分で編集したCDに収録させたりしてバラバラに聴いていたのです。

つまり、その6曲以外は記憶があやふやで、「はて、どんな曲だったっけ・・・」という状態ですっとここまで来てしまっていたわけで。
(後に『師走-ROMANTIX』のおかげで「CHI SEI」の素晴らしさには気がつきましたが)
ジュリーのアルバムならじっくり聴き返せば絶対再発見があるのは分かっていながら、なかなか手をつけずにいました。お恥ずかしい・・・。

で、ようやくつい先日、仕事の移動BGMにしてみたんですよ。

いやぁ、イイです!
やはり多くの名曲を見逃していました。
『JULIEⅣ~今僕は倖せです』とも『チャコールグレイの肖像』とも違う、ジュリーの作曲作品集。素晴らしい!

例えば、1曲目の「裏切り者と朝食を」は以前から好きで名曲と思っていましたが、やっぱりこれは「霊人」→「ロマンティックはご一緒に」の後を受け、「灰とダイヤモンド」へと繋がっていく、ハードなエイトビートのマイナーコード・ナンバーとして、ジュリーの作曲キャリアに
おいて重要な曲なのだと再確認しました。
途中、ワルツにリズムチェンジしたりするんだよねぇ。すごく凝ってます。

演奏やアレンジも、全曲イイですね・・・。
良い意味で、『NON POLICY』のプリプロみたいな印象を受けました。

で、「SCANDAL !!」です。
この曲、今回改めて聴くまでほとんど覚えていないという情けない状態でしたが・・・。
これは「ス・ト・リ・ッ・パ・-」「ジャンジャンロック」系!
ストレイ・キャッツのような、短調のイカしたロカビリー・ナンバーだったんですね~。これまたジュリーの作曲キャリアに燦然と輝く1曲ですよ!
見逃してたなぁ・・・。

ということで本題に入りますが、本当のことを言うと今回改めて『JULIE SONG CALENDAR』を聴き返してみたのは、まさにこの「SCANDAL !!」をじっくり聴きたいがため、その結果としての作業だったのです。
ここまで書けば「はは~ん」とピンと来る方もいらっしゃるでしょうが、きっかけを最初から説明させて頂きますとね・・・。

先日、僕はいつものように朝イチでじゅり風呂さん巡りをしておりまして、shamrock様のお家に伺ったところ、ちょうど『寅さんDVDマガジン』のことを採り上げていらっしゃいました。
僕は、寅さん映画を1本も観たことがありません。
もちろんジュリーが出演していたことは知っていましたが、その作品がどんな内容なのかほとんど知りませんでした。

で、ですよ。
shamrock様がそのジュリー出演作品の『花も嵐も寅次郎』のお話をされる中で

”冒頭でジュリーが「ダ、ダ、ダ、ダイナマイト♪」と歌っている”

と、書いていらっしゃるではありませんか。
『JULIE SONG CALENDAR』の把握が甘かった僕は、それが「SCANDAL !!」と結びつかずに、ジュリーが普通に役の格好で、適当な節回しで意味の無い鼻歌を歌っているものだと思ってしまいました(恥)。

これ、僕がDYNAMITEでなかったら(いや、そう言うてもハンドルネームですけどね)軽く流すところでしょうけど
「ナニ?ジュリーが”ダイナマイト♪”と歌っているって?」
と、一気に盛り上がり、興奮したのです。

まぁ、一種の妄想ですね。
僕はずっと前から
「ジュリーファンの中に”みつこさん”や”いづみさん”はどのくらいいらっしゃるのだろう。そして、ジュリーに自分の名前を歌われて、どんな気持ちがするんだろう」
と、いくら考えても自力で答の出しようもないことを真剣に想像していましたからね・・・。

ですから、意識過剰な僕は
「あぁ、shamrock様はきっと、誰もが見逃しがちな些細なワンシーンを、不肖DYNAMITEのためにサゼスチョンしてくださっているのだなぁ」
と、す・て・き・に勘違いをし、「これは一丁調べてみねば」と思って

”これこれこういう情報があるんですけど本当ですか?”

と、某mixiでつぶやいてしまいました~!
(全国に恥をさらしましたね・・・)

すぐに一人の先輩が「それ、”SCANDAL !!”ですよ」と教えてくださいました。

SCANDAL・・・?
あぁ、あったあった!『JULIE SONG CALENDAR』の曲か!
そう言えば「ダイナマイト♪」って歌ってた箇所があったような・・・。しかし、映画で自分の持ち歌を鼻歌で歌ったんか、ジュリー?

と、この時点でも尚、粗忽過ぎるDYNAMITE。
しばらくして、別のmixiの友人U君が(ジュリーファンではないが寅さんファン)、わざわざ僕のためにyou tubeで映像を探して貼り付けてくれました。

これです。
http://www.youtube.com/watch?v=4DN5NjJBvDU

♪ だ・だ・だ・ダイナマ~イ
     Em

  だ・だ・だ・ダイナマ~イ
     F#7

  だ・だ・だ・ダイナマ~イ、だ・だ・だ・ダイナマ~イ ♪
     G7                  A7                     B7+9

・・・これほどの連呼だったか!
しかも、鼻歌などとはとんでもない。PVと言ってもよいくらいのノリがあるではないですか~!

良い曲ですし映像のジュリーはとんでもなくカッコイイですが、普通これは「なんちゅう曲や~」と笑ってしまうところなのかもしれません。
しかし僕は・・・。
この映像を初めて観たその時の僕の気持ちを、正直に申しましょう。

て、照れる・・・

当然、何度も繰り返して観るわけです。さらには楽曲全体を把握したくなり、CD音源をも取り出して聴きこみにかかります。
すると次第に

♪ 爆破寸前 息を殺して
     D             Em

  行けよ ダ・ダ・ダイナマ~イ ♪
     D                  G       B7

と歌われると
「おう、何処へでも行くで~!」
とか

♪ 二度と消えない 既成の事実
     D                     Em

  イカす ダ・ダ・ダイナマ~イ ♪
     D                G        B7

では
「そう、俺はイカす!」
とか・・・(文字通り爆)。
つまり一言で申しますと「すっかりその気になる」という大変おめでたい現象が起こります。

これで長年の課題に結論が出ました。
世のジュリーファンの”みつこさん”や”いづみさん”は、「MITSUKO」や「いづみ」を聴いて、まずは大いに照れまくり、曲に慣れてくると完全にその気になっていらっしゃる、ということでよろしいですね?

さて、「SCANDAL !!」でのジュリーの作曲は先程書いたように、「ス・ト・リ・ッ・パ・-」「ジャンジャンロック」の流れを汲むロカビリー。しかも、挙げた2曲よりも徹底してロカビリー色は強いです。

痛快なシャッフル・リズム、必然的に高速3連符を擁するこの手のナンバーの演奏の肝は何と言ってもベースということになりましょう。
弾いているのはご存知エキゾティクス・吉田建さん。
「ジャンジャンロック」ほどのブッ飛んだプレイではありませんが、素人にはちょっと真似できない的確で躍動するフレーズの乱舞。
そして建さんの最大の特徴である「弾いていない(音を出していない)瞬間の空間にまでグルーヴがある」という魅力も堪能できます。

で。
出だしから普通にエレキベースの曲かと思って聴いていたら、何と1度目の間奏前半部で突然ウッドベースに切り替わる、という贅沢なアレンジ!
もちろん、編曲者を兼ねている建さんのアイデアでしょう。
ゲスト・クレジットにウッドベース奏者の明記が無いということは、これは建さんのプレイということですね。いやぁ、参りました。

そして、ベースの建さんを筆頭にするそんなエキゾティクスの素晴らしく渋~い演奏・アレンジに劣らずカッコイイのが、ジュリーのヴォーカルです。
(毎回言ってるような気がしますが、本当にそうなのだから仕方ない)

歌メロ部がカッコイイのは当然として。
僕が今回の記事で特にこだわって推しておきたいのは、イントロの

「シ~~~~ッ!」

これです。
いやいや改めて採り上げずとも、みなさまはとうにお気づきかもしれませんが、不肖DYNAMITE、「SCANDAL !!」の再評価で最も驚いたのが、この箇所でのジュリーの抜群のカッコ良さでございました。

「SHIT!」
という囁きはね、実はパブロックやロカビリーの連中はよくやるんです。デイヴ・エドモンズが「DON'T TALK ME」というナンバーのエンディングでやっているのが僕はとても好きなのですが、主に洋楽ナンバーでは、「シッ!」と短く吐き捨てるようにやるんです。
ところがジュリーの場合は、
「シ~~~~ッ!」
と長めに、必殺の吐息系で「オレの言うこと聞けよ」みたいなニュアンスを出しているんですよ。
これは相当エロティックだと思うのですが・・・お姉さま方はどのように聴いていらっしゃるのでしょうか。

最後に。
「SCANDAL !!」は、単に僕の思いつきの時期で記事を書いたら、名うてのファンのみなさまも
「どんな曲だったっけ?」
的な、いわゆる”隠れた名曲”に位置するかとは思いますが、今回はおそらく多くの方が、映像とともにこの曲をちょうど思い出されていらっしゃった、そんなタイミングで書くことができたと思います。
きっかけを与えてくださった寅さんに、感謝。

しかし・・・。
我ながら、一体どの辺がダイナマイトなんでしょうか。

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2011年3月 7日 (月)

ザ・タイガース 「美しき愛の掟」

from 『THE TIGERS SINGLE COLLECTION』
original released on 1969、single

Tigerssingle


disc-1
1. 僕のマリー
2. こっちを向いて
3. シーサイド・バウンド
4. 星のプリンス
5. モナリザの微笑
6. 真赤なジャケット
7. 君だけに愛を
8. 落葉の物語
9. 銀河のロマンス
10. 花の首飾り
11. シー・シー・シー
12. 白夜の騎士
13. 廃虚の鳩
14. 光ある世界
15. 青い鳥
16. ジンジン・バンバン
disc-2
1. 美しき愛の掟
2. 風は知らない
3. 嘆き
4. はだしで
5. スマイル・フォー・ミー
6. 淋しい雨
7. ラヴ・ラヴ・ラヴ
8. 君を許す
9. 都会
10. 怒りの鐘を鳴らせ
11. 素晴しい旅行
12. 散りゆく青春
13. 誓いの明日
14. 出発のほかに何がある

-----------------------------

今回はタイガースがお題です。
最近にしては素早い更新でしょ~。
実は「彼女はデリケート」と下書きがほぼ同時進行だったんですよ。

それにやっぱりね、ピーの復活→露出というのは後追いの僕のようなファンにとっても、大きなインパクトがありました。

『奇跡元年』の年の春くらいまでは、ジュリー以外のタイガース・メンバーの顔と名前、ニックネームが一致していなかったDYNAMITE。
その頃に執筆した「あのままだよ&Long Good-by」の記事では”岸部兄さん””森本さん”、そして”瞳さん”なんて風にメンバーのことを書いています。

その後猛勉強しまして、タイガースの現役時代および今の風貌と、ニックネームがピタリと一致するまでになりました。
ただ、今の風貌が、僕ならずとも先輩方でさえまったく分からないメンバーが一人だけ残っていました。
それがピーなんですよね。

ピーは突然ファンの前に姿を現し、今の姿、過去の出来事、将来の展望、すべてをさらけだしています。
メイ様が仰っておられたように、40年の歳月を一気に詰めてしまうようなそのバイタリティーに、タイムリーなタイガースファンの先輩方をしてもなかなかついていけない、という嬉しい悲鳴をあげているような状況ですね。

今回は、そんなピーの復活について、後追いファンである僕なりに思うことや、話題沸騰・品切続出となっている『ロング・グッバイのあとで』のちょっとした感想なども交えつつ、タイガースの楽曲を採り上げさせて頂きます。

お題に選んだのは、「美しき愛の掟」。
理由は、まずピーのドラムスについて語るにふさわしいナンバーということ。
そしてこれは、春のジュリーのトークショーのタイトル

ザ・タイガース君だけに愛をとはとわに、ああ花の首飾りとは

に組み込まれているタイガース・ナンバー3曲の中から選んだ、ということでもあります。
最初の「君だけに愛を」はね、この目で見て、ジュリーの指差しと会場の「キャ~!」を体感してから書くんだ~♪
それはきっと実現する、と信じています。
「花の首飾り」は・・・どうだろう。いつか書く日が来たりするのかなぁ、という感じ。
名曲ですけどね。有名過ぎるナンバーって、改めての考察が難しい・・・何か強烈なきっかけが無いと、書けないかもしれません。

で、残るのは「とはとわに」。
これは明らかに「永遠に君だけを~♪」とエンディングで繰り返されるナンバー「美しき愛の掟」からの引用でしょう。
ジュリーはこの3曲について、「美しき愛の掟」について、トークショーで何か語るのでしょうか・・・そんな期待、みなさまからのご報告を楽しみにお待ちする、というメッセージも込めて。
最もハードなタイガース・ナンバー「美しき愛の掟」、伝授です!

まずはいつものように、記事執筆にあたり、自分で一度は楽器を鳴らして音源と一緒に歌ってみる、という作業を始めてみました。
そういやこの曲は譜面があったっけ・・・と手にしましたるは

Tukinoyaiba1

↑ 深夜放送ファン・別冊、『沢田研二のすばらしい世界』。

貴重な一冊に深く感謝しつつ、「美しき愛の掟」のページを開き、ギターを構えますというと・・・。

は?
いきなり1コ目のコードから、誤植しとる~!

20110306

フラット2つのト短調。これで最初のコードがGなんてそんなトリッキーな明るい曲じゃあないでしょう、これは・・・。
ここは、「G」ではなく「Gm」ですね~。
お手持ちのみなさま、この機に修正しておいてくださいね。他箇所にも相当怪しい表記がありましたが、これほど明白な「誤植」ではなかったです・・・。

さて、僕がタイガースのオリジナル・レパートリーの中で「ハードな曲」と言えば、思い浮かべるのは「美しき愛の掟」「怒りの鐘を鳴らせ」の2曲。
ただ、「怒りの鐘を鳴らせ」はどちらかと言うとサイケデリック・ロックやプログレに近い。60年代終盤に急速にのし上がってきた、いわゆる”ハードな洋楽ロック”のエッセンスをハッキリとタイガースが主張したのは「美しき愛の掟」の方だと言ってよいでしょう。
クリームなどのハードな洋楽を彷彿とさせる曲調、アレンジです。

かと言って超絶テクなギタープレイがあるワケではありません。キメのギター・リフレイン
「ソレドレ、ソレドレ・・・♪」
の繰り返しはとても効果的で、歪んだ音も強く印象に残りますが、さほど忙しい演奏をしていないのです。

対して大変なのはドラムスとベース。
ギターリフが同じ音階を繰り返す中、ベースは2拍ごとに音程を「ソ→ファ→ミ→ファ」と移動させており、ゆったりと歌メロに入って・・・と1番の段階だと何だかとても楽そうなのですが、2番からいきなりブイブイ言わせて動き回ります。この部分のフレージングは、いかにも洋楽的です。

そしてドラムス。これは忙しい!
ピーのドラムスです。
タイガースについては色々と黒子の噂もあり、後追い、しかも僕などの耳では演奏者の特定はなかなか難しい。
でも、これはピーのドラムスです。

新たにジュリーファンとなり、タイガースを知った僕が最も驚いたこと。
それは、ジュリーについて、ピーについて、ファンの先輩方が歌を、ドラムスの技量を、「下手だ」と長年思わされてきたというとんでもない事実。
当時、どんな人がジュリーの歌を下手だと言ったか僕は知りません。しかしその人は激しい自責の念に駆られることになったのでしょうね。
ではドラムスは?
ピーのドラムスはどうなのかと言うと。

ピーのドラムスに、超絶テクニックはありません。機械のような正確さもありません。
あるのは、歌心と、独特のタッチ。
僕がピーのドラムスを「上手い」と表現するのは、その2つの要素が、僕の音楽的好みとピッタリ一致するからです。

ピーにはハッキリとした個性的なタッチがあります。

僕がピーのドラムスで最も好きなナンバーは「はだしで」と「怒りの鐘を鳴らせ」ですが、とにかく勢いがついてくると、ひっきりなしにスネアのロールが入ります。スタジオミュージシャンならば上品に3連符で纏め上げるであろう部分が、ピーの手にかかると、流麗なロールに覆われます。

そしてもうひとつの特徴は、ハイハットの鳴らし方。
時折「パシ~ン!」と振り下ろすようにして叩く際(これもすごく個性的)、ちょっと左足を緩めているのか、シンバルがオープン気味になるんですね。
僕は、曲中しばしば現れるそんなスネアロールやハイハットの、ピー独特のタッチが好きなのです。

ジャジーな捌きが持ち味として知られるチャーリー・ワッツと、カントリーのノリを常に持つリンゴ・スターを合わせたような味。
考えてみれば、ビートルズもストーンズも、タイムリーな演奏評価というのは、特にドラムスについてはロクなものではなかったらしい。今ではほとんど掌が返されているのですから、タイガースファンの先輩方、その点は全然気にすることはないですよ。

で、そのピーのタッチは、ロールについて言うと、「美しき愛の掟」にもたびたび登場します。
最初の登場シーンは、2番直前の0:48秒くらいですね。
「ドゥルルルルッ♪」という音です。注意して聴けばみなさまお分かりになるはずですよ。
そして、これがあるから「ピーのドラムスだ」と僕のような才の無い者でも判別できるのです。

ただそれ故に、「これはピーの演奏ではないのでは・・・」というタイガース・ナンバーにも敏感になるわけで。
あくまで推測でしかありませんが、「淋しい雨」のいかにも英国マージー・ビート直系のプレイなどは、耳慣れたピーの音とはかけ離れているような・・・。

まぁタイガースの場合、すべての楽器について”極上のテクニック”という表現はあてはまらず、だからこそ「この演奏は?」などと余計に色々と考えてしまうことも多くあります。
例えば「美しき愛の掟」のリードギター。
これも不器用な感じが逆に素晴らしいながら、同音チョーキング連発で攻め立てる間奏及びエンディングは、間違いなくタローのプレイでしょう。
しかし、間奏直後の「僕が死んだときは♪」から始まる3番歌メロで絡んでくるハードなファズ・ギターの演奏は・・・タローかもしれないし、ゲストプレイヤーかもしれない。僕に判別はつきません。

(後註:メイ様の御記事を拝見して気がつきました。この曲のレコーディング時にはまだトッポが在籍していたんですね。とすればリードギターは、タイガースメンバーの演奏とすれば、トッポということになるでしょう。
それにしても・・・CDの解説、コーラスパートはシローのテイクと入れ替えた、と書かれてあるのに、ギタートラックについてはスルーですかそうですかそうなんですね涙)

そして、ベースはギター以上に分からない。
「嘆き」のレコーディング音源のベースが、ジュリーのファーストシングル「君をのせて」のB面曲「恋から愛へ」のベースと同じ人の演奏かなぁ、というのが何となく想像できるくらいです。これはサリーではないように思えます。
あとは・・・本当に分からない~。
もっと聴き込み、勉強しなければいけませんね。

ですから、ギターやベースに比べ、ピーの音には強烈な個性があって、タイガースナンバーの多くで「これはピーだ!」と確信できるのがまた嬉しいんです。

いやぁ、それにしても。
僕もすっかりこのところの露出で、現在のピーの顔や立ち姿を覚えてしまいました。
たぶんこれで、現時点で僕が
”ひょっとしたら、すれ違っても気づかない”
そんな可能性があるタイガースのメンバーは、トッポだけでしょうか
(←早く豪快に露出して~、という願いを込めて書いています)

僕は、若い頃のピーの姿は写真や映画で見ていますが、さほど印象に残っていません。どちらかというと「音=ドラムス」の個性の方が頭に植えつけられています。
しかし、今のピーは・・・”今の音”がまだ届いていないせいもあるでしょうけど、まずルックスを強烈にインプットしてしまったのです。

と言いますか、何というカッコイイ還暦越えのおじさまでしょうか!

ピーのサイトに、『ロング・グッバイのあとで』出版記念パーティーの様子が写真でアップされていましたよね。
もちろんジュリー、サリー、タローと4人で映っているショットも素晴らしい。
しかし僕が好きなのは、加瀬さんに寄り添われて「気をつけ!」姿勢になっているピーの写真・・・とんでもなくカッコイイ!
憧れます。あんな”イケ還”になれたら素敵でしょうねぇ・・・。
決して”元アイドル”的なカッコ良さではなく、普通に道を行き来している普通のおじさんが、ふと気づくと途方もないオーラを放っているという、僕は今のピーにそういった印象を受けます。

そして、そんなイケ還・ピーが執筆した『ロング・グッバイのあとで』。
僕も読みました。
タイガースファンとしての年月が浅い僕は、後追いの同世代の男性ファン・・・例えばkeinatumeg様のような素晴らしいレビューを書くには予備知識が全然足りませんし、27年ロマンス様のように、思いが溢れてしまってなかなか簡単に記事で採り上げられない、というようなこともありません。

ただただ、タイガースに対して、そしてピーに対して深い思いを持つ方々が感動なさっているのが、我が事のように嬉しい・・・そんな状況です。

僕が、頼りないタイガースファンながら、この本を通して思ったこと・・・それを簡単に書かせて頂きますと。
ジュリーが、先の具体的な目標を定め、それに向かって努力していく過程でいくつものひらめきを加味していくタイプとすれば、一方ピーは、まずひらめきがあり、それを具現化するべく努力していくタイプ。
そんなふうに思いました。

言えることは、ジュリーもピーも類稀なる努力家ということです。
才能と努力の両立・・・長い時が経った今だからこそ、この二人がお互いをリスペクトしないはずはありません。

無事に再会を果たし、メンバー同士の気持ちは今、ひと段落といったところなのかもしれません。
この先は、別の道のりを歩んできた、例えばジュリーとピーの長年の努力・・・それを互いに確認し合える場として、自然とタイガース復活へと繋がっていけばいいなぁ、と僕は思っているところです。

あとね、細か~いことですけど。
『ロング・グッバイのあとで』に頻繁に登場する食べ物ネタで、蕎麦の話がありましたよね。
僕は関西人ではなく九州人ですが、上京して初めて蕎麦の美味しさに気づきハマってしまった、というのはピーとまったく同じです。
何だかそんな些細なことが嬉しかったりして。

・・・と、ここまで演奏や、ピーのことを中心に長々と語ってきましたけれど、僕などが言うまでもなく、「美しき愛の掟」はジュリーのヴォーカルやキャラクターを前面に押し出したナンバーです。
”騎士”のイメージを残しつつも、それが現実世界からかけ離れたキャラではなく、もっと人間臭く、肌や吐息が直に聴き手に伝わるようなコンセプトになっていますよね。

僕が最も惹かれる箇所は、2番のAメロです。

♪ ぼくはきみのために 人のそしり受けて
        Gm         F            E♭        Dm

  牢屋で死んでも かまいは  しな  い ♪
      Gm       Dm            Am7  Dm   Gm


(註: 表記コードは『沢田研二のすばらしい世界』とは結構違えて採譜していますよん。こっちの方が弾き語っていて気持ちいいと思います~。楽器弾く方は是非試してみて!

激情、捨身、自己犠牲。
「牢屋で~♪」のトコなどは、ジュリーのヴォーカルに若さ故のある意味向こう見ずな、鬼気迫る迫力を感じます。

「美しき愛の掟」でビタッとジュリーに当てはまったそんなキャラクターは、後に「許されない愛」「あなただけでいい」「死んでもいい」等のソロの楽曲へと引き継がれていきます。
その意味でも「美しき愛の掟」は、ジュリーの歴史において重要なタイガースナンバーのひとつと言えるのではないでしょうか。

そして、そんなコンセプトをジュリー自身がどのように受け止めていたのかはさておき、僕が考えるジュリー最大の魅力である

”歌に心ごと身体ごと入り込む能力”

それがジュリーの歴史において、洋楽カバー以外で初めて発揮されたナンバーが「美しき愛の掟」なのではなかったか、と、後追いファンながら僕はそんなふうに思っているのです。

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2011年3月 5日 (土)

沢田研二 「彼女はデリケート」

from 『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou


1. HEY!MR. MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID・・・・・・
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

------------------------------

え~、「待たせた分だけ大長文」のDYNAMITEです。

『Ballad and Rock'n Roll』セットリスト・おさらいシリーズ、いよいよ今回が大トリでございます。
このシリーズでは、何度も繰り返しますが以下の

① 「おおっ、この曲やってくれるとは!」
② 「うわ~、こんなにイイ曲だったのか!」
③ 「くぅ~、何度聴いても盛り上がる曲だ!」


という3つの観点から、それぞれ1曲ずつを採り上げ、①「君にだけの感情」、②「耒タルベキ素敵」と書いてまいりました。
今回は③です。
「ジュリーのLIVEに行くなら何度でも聴きたい」・・・みなさまそういう曲が多くあると思いますが、この曲はその支持率も相当に高いのでは。
アルバム『G. S. I LOVE YOU』から、問答無用の疾走ロックチューン「彼女はデリケート」、伝授!

『Ballad and Rock'n Roll』では、そのセットリストの特異性から、アンコールに進行した時点で、ジュリーと鉄人バンド、そして観客すべてのが体力があり余っているという事態が起こりました。
そんなタイミングで歌われた「彼女はデリケート」・・・これまで何度もツアー・セットリストに連ねられてきたナンバーかと思いますが、会場の盛り上がりは今回のツアー、結構突出していたのではないかなぁ。
そこにいる全員が、暴れたくて仕方ないという状況でしたよね。

そんな”LIVEでは全員ノリノリ、ハジけまくり”なロックチューン「彼女はデリケート」なのですが、意外やレコーレィング音源はサイケデリック!
いえ、曲がサイケなのではありません。サイケなのはミックス処理なのです。それはアルバム『G. S. I LOVE YOU』最大の特徴とも言えます。

これは明らかに、70年代後半から80年代にかけて洋楽ロック界を席巻した「ネオ・モッズ」の連中がレコード音源で採用した”擬似・擬似ステレオ”へのオマージュでしょう。
ステレオ技術が無かった時代の音源を、後に無理矢理ステレオ処理したのが”擬似ステレオ”。普通に美しく聴きやすいステレオ技術があるのに、敢えて変テコな無理矢理ステレオ処理を模倣したのが、”擬似・擬似ステレオ”というわけ。
YOKO君は、「HEY!MR. MONKEY」から「彼女はデリケート」の流れをヘッドホンで聴くと酔っ払う、って言ってたっけな・・・。

「彼女はデリケート」で各パートのミックスを追ってみますと

・最左=ドラムス、オルガン、コーラス
・中央=ヴォーカル
・最右=ギター、ベース、コーラス

となっていて、「ちょっと左寄り」、とか「ちょっと右寄り」などという”聴きやすい”配置は一切無し!
しかも、ヴォーカルとドラムスにはディレイがかかっていて、それぞれの残響音をわざわざ手間をかけて右側へ向けPAN操作している、という変態ミックスです。

加えてヴォーカルとコーラスに、リミッターかな・・・コンプレッサー系のエフェクトがかかっていて、音が跳ね上がったり潰されたりを繰り返すという。
歌ってるのは、天下のジュリーですよ!
ジュリーのヴォーカルをこんな風にいじりまくるミックスというのは・・・今ではちょっと考えられないですねぇ。

おそらく銀次兄さんの衝動がそうさせたんじゃないかなぁ。
ネオ・モッズやパブ・ロックは「シンプルなロックの回帰」というのが確かなコンセプトとしてあって、妙に芸術化してしまったロックの流れに逆らうものでした。実験的な部分もありますが、どこか良い意味で不器用な感じが残っていて。
「アートじゃなくてロックなんだよ!」という銀次兄さんの思いが『G. S. I LOVE YOU』に集約されているように僕には思えます。

オルガンの音とか、わざとチープな音色を採用しているのは銀次さんのアイデアだと思います。
これは次作アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』にも引き継がれていますね。

ジュリーのヴォーカルは、Aメロやサビのいかにもロックなニュアンスも素晴らしいながら、マイナーコードに移行するBメロがカッコ良過ぎ。

♪ so come on 夜のサキスフォン
                 Am        F

  ひとりじゃとてもやりきれない so come on ♪
     D7                  B♭            Am

ここですね。
ちょっと押さえ気味に、震えるように歌います。
佐野さん自身も近いニュアンスでレコーディングしていますが、ジュリーのヴァージョンはAメロのドスがより効いていますから、Bメロで表現が変わったのが伝わりやすいように思います。

ちなみに「ひとりじゃとても♪」の箇所、Dm表記の譜面を多々見かける・・・。でもここはD7だと思います。
僕はあまりいばれた採譜者ではありませんし才もありませんが、この曲についてはDmだと力が抜けちゃうと思う~。

さて、今回は。
ジュリーLIVEの定番である名曲「彼女はデリケート」の作曲者・佐野元春さんの音源についても書かせてください。

このブログでは以前に一度、『ジュリーをとりまくプロフェッショナル』のカテゴリーにて佐野さんの記事を書いたことがありました。
そこで僕は、「彼女はデリケート」と「BYE BYE HANDY LOVE」が聴ける『NO DAMEGE』というCDを紹介させて頂きました。
『NO DAMEGE』は佐野さんのキャリアの中で最初のベスト盤的意味合いを持つ作品で、非常に聴き応えのある重要な1枚なのですが、もしも「彼女はデリケート」を深く知りたいとお考えの方がいらっしゃいましたら、

『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』

Ca51zs43

この作品に収録されている、『NO DAMEGE』とは別ヴァージョンの「彼女はデリケート」を、僕はこの機に強烈に推しておきたい!

クレジットには、ジュリーファンお馴染みの名前も・・・。

20110305

この『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』は、大瀧詠一さん、佐野元春さん、杉真理さんからなるトライアングル・ユニット。
3人それぞれが未発表の楽曲、未発表のヴァージョンを持ち寄った豪華な企画盤です。シングルカットされた「A面で恋をして」はご存知の方も多いでしょう。
ちなみに『Vol.2』と言うからには『1』もあるわけで、そちらは大瀧さん以外のメンバーが違っていて、山下達郎さんと伊藤銀次さんという、これまた豪華なメンバーです。

さて、このナイアガラ・ヴァージョンの「彼女はデリケート」が素晴らしいのは、佐野さんのロックな”遊び心”が炸裂する、イントロとエンディングの変化球アイデアです。

まずイントロ。
空港(かな?)の喧騒のS.E.に載せて、佐野さんのキザ~なセリフが挿入されます。
今聴いてみると相当カッコしぃ、と言うか(いや、好きなんですよ)突拍子もないことを言っておられるわけですが・・・最初に聴いた時の衝撃は忘れられませんね~。このアプローチは、それまでの邦楽ロックには無かったですからね。
ただ、何故”彼女がサンフランシスコに行くのをやめる”理由が”デリケートな女だから”なのかさっぱり分からない、という謎も残ります。
敢えて意味を追求していないのだろう、と今では思います。それが佐野さんの遊び心なのでしょう。

そしてエンディング。
僕は『Ballad and Rock'n Roll』ファイナルのレポで、「彼女はデリケート」のジュリー・ヴォーカルについて
「微妙に声がかすれているのがカッコイイ!」
と書き、ビートルズ「ツイスト・アンド・シャウト」でのジョン・レノンのヴォーカルを引き合いに出しました。
その、「ツイスト・アンド・シャウト」が、いきなりこの佐野さんの「彼女はデリケート」ナイアガラ・ヴァージョンのエンディングにて、忽然と姿を現すのです!

She's so delicate♪(デリケイ、デリケイ♪)
                 C               F            G       F

と歌っていたのが、突然同じ演奏に載せて

Shake it, shake it up baby♪(しぇけなべいべ~♪)
                              C        F               G       F

と始まっちゃうんですよ~。

別に「彼女はデリケート」と「ツイスト・アンド・シャウト」のコード進行が同じというわけではありません。
おそらく、古き良き”追っかけコーラス・ロックナンバー”の代名詞として「ツイスト・アンド・シャウト」が佐野さんの頭にあり、同じく追っかけコーラスが楽曲構成の肝となる「彼女はデリケート」に重ね合わせる、という思いつきをナイアガラ・ヴァージョンで試してみたのでしょう。
これは、”ナイアガラ・トライアングル”という特殊なユニット故に佐野さんが遊び心を全開させた、奇跡のテイクだと思います。

「彼女はデリケート」・・・佐野さんの2つのヴァージョンはいずれもジュリーのレコーディングよりも後ということで、佐野さんとしても色々といじってみたい、試してみたい、という気持ちがあったのかもしれませんね。

ジュリーヴァージョンはとにかく、速い!
しかも『G.S. I LOVE YOU』収録順の前曲「NOISE」のサイケデリックに混沌としたエンディングを受けて、イントロにも意表をつく仕掛けがあったり、ジュリーヴァージョンこそ実はなかなか一筋縄ではいかない工夫が注入されているわけですが、佐野さんヴァージョンで言うと『NO DAMEGE』の方に近いです。全体の構成がさほど変わっていませんからね。
譜面比較してみますと

Delicate1


↑ 『ス・ト・リ・ッ・パ・ー/沢田研二楽譜集』
   (新興楽譜出版社・刊)

Delicate2

↑ 『佐野元春/ギター・ソング・ブック』
   (ドレミ楽譜出版社・刊)

キーはいずれもハ長調。
やはりテンポ以外に大きな違いは見られません。
もちろん、演奏やヴォーカルについては別の話ですが。

ですので、『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』収録の佐野さん別ヴァージョンのイントロ及びエンディングのアイデアが、今聴いてもかなり新鮮に感じられます。

ところで、僕は『ジュリー祭り』以降に佐野さんの作品を聴くと、「この曲をジュリーが歌ったら・・・」と想像してしまう曲が多いのですが、『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』に収録されている「Bye Bye C-Boy」もその中のひとつです。
女性視点の歌詞、特に「お家はどこなの?」というくだりなどをジュリーならどう表現するのか。
おそらく佐野さんのヴァージョンとは相当違った聴こえ方になるんじゃないかな・・・。

最後に。
「彼女はデリケート」とは直接関係ないのですが、もう2年前になる『Pleasure Pleasure』ツアーで、ちょっと佐野さんの思い出を彷彿とさせた出来事がありましたので書いておこうと思います。

6・6渋谷。ツアー2日目ですね。
ジュリーは「いくつかの場面」を歌い終わって宙を抱きしめるポーズをしたまま動かなくなり、次曲の「時の過ぎゆくままに」のイントロもそのままの格好、ヴォーカル部直前に「ハッ!」と目を開き歌いだす、という「寝てましたネタ」を炸裂させて会場の笑いを誘っていました。
ややもすると不謹慎な感じもしてしまうこのネタ、とうとうツアーを通じて(僕が観られたのは)、6・6の1回きりだったんですけど。

で、僕の記憶は高校生の頃へと飛びます。
『VISITORS』ツアーin鹿児島。初めて佐野元春さんのLIVEに行った日のことです。
後半だったでしょうか・・・佐野さんは、大名曲「Rock'n Roll Night」を歌ってくれました。
この曲、途中で
「Good night・・・sleep tight・・・」
と囁くように歌う箇所があって、そこから急速にハードな展開を見せる構成がメチャクチャにカッコイイのですが、何と佐野さん、
「sleep tight・・・」
の後、演奏を止めて
「くぅ~、くぅ~・・・」
と寝息をたて始めてしまいました。

会場には笑いが起こりましたが、DYNAMITE少年は
「この大名曲になんでそんなフェイクが必要なんだろう?」
と戸惑ったものでした。

今は、そんな佐野さんの遊び心を懐かしく思い出します。

ジュリーしかり、佐野さんしかり。
シリアスな楽曲の中に、ひょいと表れる遊び心。
そんな照れたようなヤンチャを持ち続けるロック・アーティストは、逆に素敵な大人なんだと思います。

その「Rock'n Roll Night」が収録された佐野さんのアルバム『SOMEDAY』・・・以前にも紹介しましたが、こちらでは「I'M IN BLUE」「VANITY FACTORY」の佐野さんヴァージョンを聴くことができます。

・ジュリー・ヴァージョンと比べると、ゆったりしたテンポで長尺のポップチューンへと変貌した「I'M IN BLIE」。
・テンポアップしてよりハードになり、「UNDER MY THUMB」の面影を完全に払拭した
(←コラコラコラ)「VANITY FACTORY」。

こちらも一聴の価値あり!
この機に是非どうぞ~。

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