沢田研二 「夜の河を渡る前に」
from『チャコール・グレイの肖像』、1976
1. ジョセフィーヌのために
2. 夜の河を渡る前に
3. 何を失くしてもかまわない
4. コバルトの季節の中で
5. 桃いろの旅行者
6. 片腕の賭博師
7. ヘヴィーだね
8. ロ・メロメロ
9. 影絵
10. あのままだよ
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まず、本題に入る前に少しだけタイムリーなネタを。
みなさま、ジュリーwithザ・ワイルドワンズのDVD『僕達ほとんどいいんじゃあない』はもう御覧になられましたか?
素晴らしかったですね・・・。
カメラ割り、コーラスや演奏楽器のミックスも極上の一枚でした。
ヘッドホンでじっくり鑑賞して一番驚いたのは、加瀬さんがコーラスで大活躍していたことです。本番よりは音量レベルを上げてミックスされているのかな?
「夕陽と共に」でちょっと素っ頓狂な音を出してしまったりしているのも、加瀬さんのにこやかながら真剣な表情を観ていると感動モノです。リードギター弾きながらの、コーラスですからね~。
あと、LIVE参加段階で絶対音感の無い僕は、コードフォームだけを見て「涙がこぼれちゃう」を半音下げ、「あなたへの愛」を1音下げ、「FRIENDSHIP」を半音上げの演奏と判断していたのですが・・・。
「涙がこぼれちゃう」「FRIENDSHIP」の2曲は、オリジナル音源と同じキーでの演奏だったようです。
それぞれ、嬰ハ長調(=変ニ長調)とロ長調。
鳥塚さんや植田さんが、例えばF#(=G♭)をローコードで弾いていたのを遠目でFだと誤認し、、いずれの曲もハ長調演奏である、と見なしてしまっていたようでした。
つくづく、絶対音感を会得していない自分が悔しいですね・・・。その場にいただけでは正しいことが解らないというのは。
でも、ジュリワンはこうしてノーカットのDVD作品が発売された。とても嬉しいことです。
ソロツアーも残してくれたらなぁ・・・。
一方、「あなたへの愛」については、見立て通り1音下げてヘ長調での演奏だったようです。
しかしこれはアレンジが原曲と全然違いますからね。声が出ないから下げた、という理由ではないでしょう。
とにかく、ジュリー達の歌唱はもちろん、ワイルドワンズ&鉄人バンドの演奏が、渾身のミックスによってそれぞれ鮮明に聴こえます。
まだ購入なさっていない方々、是非!
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それでは本題です。
お正月コンサート『BALLAD AND ROCK' N ROLL』に向けての、”恒例・全然当たらないセットリスト予想”シリーズ。
これが最終のお題曲となります。
僕は今回のお正月コンサート、1月16日の名古屋公演まで(15日の渋谷に落選して振替え遠征です)セットリストを知らずに過ごすことになります。
会場の誰もがセットリストを知らない初日の空気を味わえないのはとても残念ですが、鋼鉄の意志でネタバレを我慢したいと思っています。
名古屋で良いお席を頂いていますから、何とかビビッドな反応でもって名古屋のステージを見届けたい・・・そう自分に課しているのです。
我慢した分、素敵なサプライズがあるといいなぁ・・・というワケで、今日のお題はなかなか当たりにくいことを承知の上で、僕の中での「日替わり・一番好きなジュリー・ナンバー」10数曲のうち、最高にロックでカッコ良いこの曲を・・・。
アルバム『チャコール・グレイの肖像』から。
「夜の河を渡る前に」、伝授!
ポリドール時代大人買い期間・・・まずはエキゾティクス、オールウェイズ期を買い揃えた後、阿久=大野期と共に一気に踏み込んだ、”翳りある、美しきジュリー70年代”の名作群にあって。
後追いファンである僕を本当に驚愕させたナンバーこそ、「夜の河を渡る前に」でございました。
海の向こうは、”狂乱の70年代”。
演奏技術やコンセプト面で、真にロック・ミュージックの革命期です。
プログレッシヴ・ロックやハード・ロックと共に台頭してきた、グラム・ロックの大きな波。それが洋楽のみならず、日本にも完璧な形で存在していたことを知らされた・・・しかも、ジュリーのナンバーで。
そしてさらに追い撃ち・・・ジュリー自身のペンによるナンバーで!
それが、「夜の河を渡る前に」。
ヒヨッコは驚き、畏れひれ伏す以外ありませんでした。
少し、アルバムのお話からさせてください。
「夜の河を渡る前に」に限らず、アルバム『チャコール・グレイの肖像』からのLIVEセットリストは、シングルヒット「コバルトの季節の中で」以外の曲についてはなかなか可能性は低いかもしれません。
ただ、この先一生聴けないのかと問われると、そうでもないような気がしているのです。
実はお題の「夜の河を渡る前に」以外で、「片腕の賭博師」あたりがいきなり来るかも・・・と楽しく想像してはいるんですけどね。
ビリー・ジョエル好きの泰輝さんのピアノがバッチリ合いそう、と思ったり。
そう、『チャコール・グレイの肖像』は数あるジュリーのレコーディング作品の中で、抜群に演奏完成度が高い曲が詰まっているアルバムのひとつだと僕は考えているのです。
鉄人バンドの演奏で、実際生で聴いたらどんな感じになるんだろう、とワクワクさせる曲がいっぱいです。
アルバムには、1976年リリースというのが信じられないほど、特に傑出した演奏が繰り広げられているナンバーが3曲ある、と思っています。
「桃いろの旅行者」「影絵」・・・そして今回のお題「夜の河を渡る前に」の3曲です。
そしてもうひとつ僕がこのアルバムから感じること(僕だけかもしれませんが)・・・それはジョン・レノンの匂いだったりします。
以前に「あのままだよ」の記事で書かせて頂いた、ストイックなアレンジがその最たる例なんですけど、それ以外にも共通点を感じます。
それは、ジュリーの作曲手法なのです。
みなさまご承知の通り、『チャコール・グレイの肖像』は、収録曲すべてがジュリー自身による作曲作品です。
ジュリーの紡ぎ出すコード進行は斬新そのもので、ほとんどの曲に、細部にまでじっくりと構想を練っているな、と思わせるものがあります。それが謹慎期間と無関係でないならば、僕はむしろジュリーにそういう時期があったことを、ロック・アーティストとして重要な成長期間と位置づけたいところです。
僕が時折ジュリー作曲作品に見出すジョン・レノンとの共通点は、良い意味でキーが曖昧、という天性の作曲センス。
例えばジョンの曲で言うと、そういったパターンの作曲作品はアルバム『ヌートピア宣言』に多く見られ、「マインド・ゲームス」や「インチューイション」、「アウト・ザ・ブルー」といったところが挙げられます。
いつの間にか、ドミナント・コードやサブ・ドミナント・コードがそのまま楽曲の流れを支配し、螺旋のようにトニックが入れ替わり、いくつもの着地点を求めて彷徨い出すのです。
「夜の河を渡る前に」は正にそういった構成を持つ楽曲です。
堯之さんが、ジュリーは普通では考えられないようなコード進行の曲を作る、と言っていたことを以前拙ブログのコメントにて教えて頂きました。僕がその時すぐに想起したナンバーが、「夜の河を渡る前に」でした。
最先端かつ完成度の高い演奏、そして天性のセンスによる作曲。
『チャコール・グレイの肖像』から僕が受ける2つの重要な要素は、そのまま「夜の河を渡る前に」に収束するのです。
大名曲。
一般認知度は低いながら、これは邦楽ロックの歴史に残る偉大なナンバーだと、僕は初めてこの曲を聴いた時から、ずっとそう考えています。
それでは、演奏面から考察してみましょう。
編成は、CD音源ミックス左から順に、リードギター、オルガン、ドラムス、ベース、リズムギター。
楽曲を通して、すべての楽器に見せ場があります。
まずはイントロで炸裂するのが、最右にミックスされたリズムギターのカッティング・リフ。
みなさまLIVEでお馴染みの「TOKIO」同様、このカッティングが”テーマ”となり、楽曲全編を引き締めているのですね。
5小節目から、ドラムスがキックだけで噛みこんできます。
僕はこのキックの音質が最高に好きなのです。針の穴を通すような、硬い音です。
そうかと思うとフィル・インから参加のスネアドラムは柔らかめのチューニングになっていて、こちらはGSから脈々と受け継がれている昔懐かしい音質といった感じでしょうか。
そしていよいよリード・ギターとベースが一気に暴れ始めるのですが・・・。
「夜の河を渡る前に」は、イントロ他”演奏部”と呼べる箇所がいくつかあるんですけどね。
そのいずれも、ソロをとる楽器はベースなのです!このアレンジがあってこそ、このナンバーを”グラム・ロックの真髄”と呼べるわけです。
これは佐々木さんか、後藤さんか・・・。
とにかく凄まじい演奏です!
遥か後に、かのイカ天に初出場し、吉田建さんをも唸らせた邦楽グラム・ロックの雄、マルコシアス・バンプの佐藤研二さんのベースがこんな雰囲気だったんですよね。佐藤さんはジュリー・フォロワーを自認していらっしゃいましたから、「夜の河を渡る前に」は当然聴き込んでいたんじゃないかなぁ。
ちなみに僕には、ジュリー・ナンバーの中で”ベースに圧倒される曲ベスト5”というのがありまして。
「酔いどれ関係」「FOXY FOX」「ジャンジャンロック」「ダメ」、そして「夜の河を渡る前に」がその5曲です(「ダメ」が入ってるのが渋いでしょ?)。
さて、そんな狂乱のベースを引き立てるように、”演奏部”のリードギターは複音突き放しでクールにキメてくれます。
ところがこのリード・ギター、ヴォーカル部に突入するやいなや派手に暴れ出してます。その徹底したハードなスタイルで、ジュリーのヴォーカルの合間をすべて埋め尽くしてしまうのです。
オルガンはミックスバランスがさほど強くなく目立ちませんが、楽曲後半の手数はかなり凄いことになっています。これは・・・ドアーズあたりを意識したのかな?
とまぁ語るところが多過ぎる「夜の河を渡る前に」の素晴らしい演奏をバックに、ジュリーのヴォーカルも炸裂しまくりですけど、本当に気持ち良さそうに歌っているのが伝わってきます。
シャウトにまったく無理がない、と言いますか・・・あぁ、ジュリーはこういう曲が好きなんだなぁ、と。
しかも、自作曲ですからね!
そこでいよいよ、この斬新なジュリー・天性の作曲手法について話を進めて参ります。
「夜の河を渡る前に」を譜面表記するなら、#4つのホ長調となります。
特に転調表記せずに最後まで起こすのが自然とは言え、だからといってこの曲のキーが全編「E」かと言うとそうではありません。
まず
「ん?何か感じ変わった?」
と、多くの方が気づくであろう箇所は、サビだと思います。
♪ 夜の河を渡る前に 愛が寝返りを打った ♪
C B7 E C B7 E
という、この「C」が曲者。しかしこのパターンはロックではまま見かける進行で、とりたてて斬新、というわけではなく、細かい転調の解り易い箇所として最初に挙げてみたものです。
堯之さんが「考えられない」と感じたであろう斬新な進行は、もっと気づきにくい部分に潜んでいます。
スバリ、Aメロです。
♪ 時を見過ごす夜の流れの
E A
淵に立てばおまえの寝顔 蒼ざめて浮かぶよ ♪
D A B A
「夜の流れの♪」のコード「A」は、冒頭のトニック・コード「E」のサブ・ドミナント。ごく普通にスリーコードパターンと思わせておいて「D」に寄り道したら、何と次の「おまえの寝顔♪」の「A」は瞬時にトニック・コードに変貌しているのです。
Aメロ直後、ジュリーの「AH~!」という吐息シャウト部は参加楽器がドラムスとリード・ギターのみで和音が休みになっていますが、ここには「B7+9」というコードが隠れています。
これで自然にホ長調へと着地させるのです。
う~ん、たぶん全然伝わってないなぁ・・・(汗)。
本当は、曲が好きならば理屈つける必要なんてまるで無いのですが・・・要するに「夜の河を渡る前に」は、ホ長調とイ長調が交互に入り乱れる構成になっているんですよね。
ジュリーは普通にコードを繋ぎながら自然に作曲したのでしょうが、型にはまった作曲手法では、なかなかこうは行きません。シンプルな和音の積み立てに載っているメロディーが独創的なため、紐解いていくと複雑怪奇な理屈が後からついてくる・・・やはりこれは、天性のものと言うしかないです。
先述した通りこの曲はベースが最大の骨格ですから、今の鉄人バンドが演奏するとなれば、なかなかアレンジに苦心するところでしょう。
でも、同じように「ベースレスだとキツいなぁ・・・」と考えていた「忘却の天才」を『歌門来福』でやってくれたことを思うと、今後のLIVEで歌われる可能性を僕はあきらめていません。
まぁ、”全然当たらないセットリスト予想”シリーズの名にふさわしい、しめくくりのお題であるとは思いますが・・・。
本年の記事はこれで最後となります。
1年間、本当に多くのみなさまに読んで頂けました。ありがとうございました。
多くの方はお気づきの通り、楽曲を採り上げてしょうもないウンチクを語るスタイルは隠れ蓑で、実は単純にジュリーLOVEな、結構ミーハーな心意気で執筆しているブログです。
来年もどうか叱咤・激励のほどを。
元旦には、おめでたいジュリーの画像でご挨拶させて頂く予定です。
貼る画像は決めてあります。1972年のショットなんですけど・・・珍しいものなのか、あちこちに出回っているありきたりのものなのかは、後追いの僕には解りません。
よろしくお願い申しあげます。
それではみなさま、よいお年を~。
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