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2010年6月29日 (火)

ザ・タイガース 「出発のほかに何がある」

from『自由と憧れと友情』、1970

Jiyuutoakogaretoyuujou

1. 出発のほかに何がある
2. 友情
3. 処女航海
4. もっと人生を
5. つみ木の城
6. 青春
7. 世界はまわる
8. 誰れかがいるはず
9. 脱走列車
10. 人は・・・
11. 海の広さを知った時
12. 誓いの明日

 

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それでは、今回はタイガースです。
昨年に引き続き、いてまえ映画部門さんが大阪・シネ・ヌーヴォさんに持ち込んだ企画、「ジュリー映画特集in大阪」が今年も開催決定!

 

2010julies_movies

本日のジュリワン大阪LIVEから、本格的に有志により広報活動も展開されるみたいです。
今年は映画上映の初日が何とジュリーのソロツアー『秋の大運動会~涙色の空』大阪公演の翌日ということでございまして・・・大阪遠征のみなさまは、こりゃもう1泊していくしかありませんよ~。
ちなみに初日はタイガース3本立ての上映でございます。

 

今度のソロツアーでタイガースの楽曲はどのくらい歌ってくれますかね~。
『歌門来福』並みのサプライズ選曲があると良いのですが・・・。

 

そのタイガースですが、ここへ来て再結成の噂が現実味を帯びてきました。
具体的な正式発表こそありませんが、タローの発言、ドーム以降の最近のジュリーの活動指針、ピーの定年などいくつもの要素がとても良い感じで絡み合っているのではないでしょうか。

 

ただ一人、心配なのがシローです
もちろん御自身のブログで語っておられるように、シローもタイガース再結成には大賛成。「沢田さんが言っているんだから現実味はあるんじゃないかな」と書いていらっしゃいます。でも、自分が出られるかどうかが問題・・・なのだそうです。
なにせ、身体のことですからね。

でも、ここまで来たらやっぱりフルメンバーのタイガースが見たい。
僕がまったくタイムリーで知ることのなかった伝説のバンドを、今の自分のアンテナで、すべてのメンバーについて感じてみたいのです。

今日は、闘病中のシローにエールを送る意味もこめて、記事を書きます。
美しく、押しつけのないピュアーなシローのリードヴォーカルがピッタリの野心作です。
「出発のほかに何がある」、伝授!

 

トッポの後を受けてタイガースに加入したシロー。その当時はギターも弾けず、「高音域のヴォーカル」というトッポの役割をそのまま引き継ぐ、というただそれだけの存在意義を与えられ、とまどいながらのスターダム参入だったことでしょう。

同じ「高音域のヴォーカル」担当とは言え、トッポとシローではかなりスタンスが違います。
トッポの声には主張があり、世界観があります。
しかしシローには逆に何の主張も世界観も無いがゆえ、「虚無」の魅力を追求したサイケデリック・ムーブメントにはズバリ嵌ったのでした。これはまったくの偶然ながら、アルバム『自由と憧れと友情』を語る上で欠かせない最も重要な要素にまでなっているのです。

 

例えば、それまでエモーショナルなヴォーカルで「Girl」などを歌い女性を虜にしてきたジョン・レノンが、突如次作で「I'm Only Sleeping」のような無機質な声で、まったく新たなファンの獲得に成功した・・・それがサイケデリック・ムーブメントのロック界の好例とすれば、タイガースはメンバー交代によって偶然にもそれを為し得ていたのですね。

それが出来たのはもちろん、シローの声質そのものが、美しいだけでなくどこか醒めていて、誤解を怖れずに言えば若干変態的であったことが、「ロック」の枠組にすんなり入ってこれた要因でしょう。
いやいや、ちょうどこの時代は、変態=ロックだったのですよ。みなさま。

 

「出発のほかに何がある」では冒頭にジュリーのセリフがあり、それがまたシローの声の「美しさ」とは異質の対比を見せますが、ジュリーがそのままリードヴォーカルをとっていたら、この曲はもっと明るい、希望に満ちたイメージを持ったはずなのです。
ところがシローがヴォーカルを担当することにより、「出発」=「別れ」であることが強調され、「希望」は「過去の否定」を意味し、「何がある(いや、ない)」という反語表現に、せっぱつまった選択の余地のない運命=「解散」をも喚起させる切ない楽曲となってしまったのです。
しかも、アルバムの1曲目。

 

初めてアルバムを聴いたYOKO君が
「これが1曲目かよ!」
と仰け反ってしまったことが、『自由と憧れと友情』の素晴らしさを僕に再確認させてくれました。
本当に、何と言う刺激的な構成でしょうか。「出発のほかに何がある」が冒頭に収録されているというのは・・・。

 

解散間際のタイガースというのは、個々の主張が違うベクトルを向いているような雰囲気が漂っていることも確かです。
特にサリーのベース。
スキルアップしたこの頃のサリーは、高いレベルのスーパーバンド志向を持っているように感じられます。

そしてもうひとつ。
タロー、ジュリーの作曲スタンス。

素晴しい旅行」「処女航海」などに見受けられるジュリーの作曲は、どこまでもタイガースを自分達の大切なバンドとして見つめ、LIVEでメンバーが「ロックできる」よう配慮されて作られています。
それはちょうど、解散直前のビートルズでポール・マッカートニーが「バンドスタイル回帰」のコンセプトを打ち出し、再度メンバーの結束を模索していた手法と重なります。
「タイガースは永遠に続いていくと思っていた」
そんな発言を裏打ちするようなジュリーの曲作りに対して、一方の
タローの作曲についてはどうでしょうか。

 

こちらはジョージ・ハリスンのスタンスに近いです。
それまでメンバーの中でさほど目立っていなかった才能が一気に開花し、バンドの内情やセールスの問題とは一切関係なく
「とにかく良い曲を書き、形にする」
という非常にストイックな創作であるように思います。

 

お題の「出発のほかに何がある」も、タローの作曲作品。
志が高く、細かい部分まで丁寧に練りこまれた名曲です。

♪ 許してほしい ぼくは行くんだ ♪
        G         D        Em      Bm

 

この導入部から始まるAメロはト長調(=G)バラードの黄金進行で、素直な美しさを持つ和音構成になっているのですが

♪ こころの涙ふき 笑ってさよならするんだ ♪
     Bm      F#m      Bm         C         A7     D7

 

このBメロ部冒頭、Bm→F#mの部分は、ひそかに嬰ヘ短調(F#m)に転調しています。
「ひそかに」と書いたのは、Bmを起点として異なった着地点へと繰り返される和音移動が自然過ぎて、転調しているとは気づきにくいためです。

おそらくタローは転調の意識は持たず、純粋にメロディーの変化を求めて「涙ふき♪」の部分をF#mに着地させて作曲したのだと思います。
この一瞬転調の手法は「青い鳥」のサビにも見られ、”タロー・オリジナル”とも言うべき独特のコード進行。
無論、後に作曲された「出発のほかに何がある」の方がより洗練されていることは言うまでもありません。

そんな不思議な進行の楽曲と、シローの起伏の無い、感情を制御したようなリードヴォーカルがマッチし、『自由と憧れと友情』は実にサイケデリックな幕開きを楽しませてくれます。

この「出発のほかに何がある」、僕は『The Tigers Single Collection』で聴いた際にはさほど引っかからなかったのですが、アルバムで聴くとこうもイメージが違うものか、と驚いたものです。
自分自身が、タイガースというバンドの音源制作背景に詳しくなってきていたことも、影響しているのだとは思いますが・・・。

 

ただ、これだけは言えます。
アルバム『自由と憧れと友情』に収録されているシローのリード・ヴォーカル3曲は、いずれもレベルの高い前衛的な野心作だということ。
この3曲が無ければ、僕がここまで『自由と憧れと友情』に惹かれたかどうかは分かりません。
変テコな楽曲になればなるほど威力を発揮するシローのハイトーン・ヴォーカルは、タイガースファンの間で、もっともっと評価されても良いはずだと思っています。

 

もしも・・・もしもタイガースの歴史が”狂乱の70年代”(世界的に変テコな楽曲がノシていた時代)中盤まで継続していたとすれば。
シローには更に輝かしい光が当たっていたのかもしれません。
メガネに切れ長の目、という風貌も、実は70年代ロックにはドンピシャだったはずなんですよね・・・。

 

とりあえず今、それを言っても仕方がありません。
タイガース解散後のそれぞれのメンバーが辿った道筋は、新規ファンにとってはあまりに重厚で時に難解ですらありますが、新しいファンだからこそ自然に受け止められる部分というのも、ひょっとしたらあるのかもしれない。
すべてのメンバーが揃っての再結成を、夢物語でなく、楽しみに待っていたいと思います。

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タイガース復活祈願草の根伝授!」カテゴリの記事

コメント

DYさん、お邪魔します。私、今回は、本当に邪魔になってしまうことを申し上げます。
サリーさんが、重要な役で出演している某刑事ドラマの劇場版第2弾が年末年始の目玉作品として、公開されることが決まりまして…で、TVドラマの方も、映画と連動する形で、冬期連ドラとして新作を放送するとか(翌年の春期も含めた2クールの予定です)。ジュリーも忙しいけど、サリーさんもかなり忙しいので、まず、このお2方のスケジュールが合うことが、タイガース再結成の第1歩になると思います。
要らん書き込みをして、本当に失礼しました。

投稿: 74年生まれ | 2010年6月29日 (火) 19時04分

シローが加入したタイミング=『自由と憧れと友情』レコーディング期は、サイケじゃなく、フラワー・ムーブメントの時期だと思うんだけど。

バッファロー・スプリング・フィールドあたりからのアメリカン・ロックのイギリス系への逆襲期のサウンドと重なる部分があるよなないよな・・・

サリー&シローや、シロー&ブレバタのサウンドを聞いてると、そう感じるのです。

投稿: いわみ | 2010年6月29日 (火) 22時00分

歌詞の内容があの頃の状況そのままで当時は聞くと胸がチクチクしました。
今聞くとこの曲は確かにトッポよりシローの声のほうがしっくりきますね。
あのひょうひょうとしたキャラクターも得難い味があってぜひ復活して完全なタイガースを見せていただきたいです。
それと今聞きながら思ったのですが、この曲のナレーションでジュリーが自分達を「若者たち」と表現してますよね?もしかしたら新CDの「若者よ」ってこの頃の自分たちに向けて歌った未来からの応援歌なのかな・・・なんて。

投稿: nekomodoki | 2010年6月29日 (火) 22時11分

74年生まれ様

そうですか・・・。
サリーが重要な役で出演しているドラマと言うと・・・う~ん確かにアレはデカいプロモとかもありそうですし、サリーは大忙しでしょうね。
ベースの練習まではできないかなぁ・・・。

完全ジュリー仕切りならプロモにがんじがらめってことはないでしょうが、その場合は会場がCCレモンとかになってしまいそうな気が・・・。

いわみ様

おぉ~!
いやいやここ数日は本当にお疲れさまでございました、いわみ先輩!

仰る通り、リリース時代背景はフラワームーブメント期、コンセプトはアメリカンロック的な「自由と憧れと友情」ですが・・・。
僕は、ビートルズの「リボルバー」が好きだと言う人にこのアルバムを薦めたいのです。
まぁ、日本が遅れていたと言えばそれまでなのですが・・・。

実はごく最近、「サリーとシロー」聴きました。
いやいやスゴイ、ということでシローの事を書いた、というのもあるのですよ~。

あ、ちなみに「ビースト」なんですけど。

いくらダイナマイトをぶつけて爆発させてもビクともしない大怪獣!
ということで、切り口こそ共通する部分はあれど、僕などより全然スケールが大きく、格上

というリスペクトの気持ちで、リンクを貼らせて頂いております!

nekomodoki様

「若者よ」についての考察、大いに有力かと思います。
あいら様や74年生まれ様、他じゅり風呂の先輩方何人かのお方が、似たような予想をしていらっしゃいます。

何より

過去の自分たちへ未来からのエール

これは今のジュリーにとって魅力的なテーマでしょう。
歌いたい内容のひとつではないでしょうか。

でも。
Qさまがきっかけになって、自らの若い時代を思い出した説も捨てがたいのです・・・。

投稿: DYNAMITE | 2010年6月30日 (水) 21時16分

今日はフリーズすることなくコメント欄まで開きましたw

初めてシローが参加した歌を聴いた時は、トッポとの落差にがっくりしましたが
今聞くと、トッポの声は確かに主張が強すぎて
どの曲も全部同じ歌い方に聞こえます
ジュリーはTG時代からいろんな声を使ってますよね

シローの声はジュリーとは違った透明感があって、何を歌っても気持ちよく聞けます
主張がないからリードボーカルがダメというわけでもなく
タイガースメモリアルクラブバンドのCDで歌っている
「白い珊瑚礁」なんかも全然違和感がありませんわ~

投稿: メイ | 2010年7月 1日 (木) 00時30分

こんにちは

このアルバムは特別の感覚がよみがえります。自分を無理やり納得させる為にこの曲は何度も聞きました。

また会えるんですね~6人が生きていてくれてる事に感謝!
やはりタイガースは武道館で再会したいです。
あの頃のようにハンカチを振るのは
やめますけどキャ~は必須!!声出るかな?

投稿: キミちゃん | 2010年7月 1日 (木) 08時31分

瀬戸口さま

ちょっと、すごいお言葉に、う~んとなりました。

>シローには逆に何の主張も世界観も無いがゆえ、「虚無」の魅力

シローの歌声の主張のなさの魅力は両面性があって、当時はそのことが分からなくてきれいな声だけど、物足りないような気がしました。
でも、あの時、シロー以外の人がメンバーに加わっていたら、あっという間にタイガースは空中分解していたことでしょう。

ともかく、あの事件後解散に至るまでをつなぎとめていた力の一つがシローという新メンバーの主張のない存在感だったことはやさしい皮肉です。
そして、その声を「虚無」とおっしゃった伝授者に震え上がりましたわ。

投稿: momo | 2010年7月 1日 (木) 10時55分

メイ様

ありがとうございます!
PC奮闘していらっしゃいますね~。
いやぁ今回の記事はいつもの楽曲記事よりは若干短めでは、ございました。

やはり当初は多くの方がトッポとの差を感じたのでしょう・・・それは想像できますね。
メイ様仰るようにシローの透明感あふれる歌声は、どんな曲でも気持ちよく聞けるのですが、トッポのようにジュリーとツインリード、というわけにはいかない・・・その点がタイガースファンにとっては痛かったのではないでしょうか。

例えば、ジュリーとシローで「忘れられた子守歌」は、さすがに違和感がありますよねぇ・・・。

キミちゃん様

> 自分を無理やり納得させる為にこの曲は何度も聞きました

泣けますね・・・。
このアルバムがリリースされた頃はファンのみなさまも「解散」を意識していたのでしょうから・・・なおさらですよね。
「出発」という言葉が胸に突き刺さったのでは、と想像いたします。

もしも再結成コンサートがあったら、先輩方には当時のままのファンの姿を見せて頂きたいです!
僕は本当に何も知らないですから、それも楽しみなのです!

momo様

あわわ・・・決して戦慄などさせるつもりでは・・・。誤解を招いたようでしたらすみません~。
「ラバー・ソウル」から「リボルバー」へ移行した際のジョン・レノンのヴォーカルスタイル急変に対する僕の思いをそのままシローに重ね合わせて「虚無」などと書いてしまいました。褒め言葉なんですって!
でも、「無機質」くらいに留めておくべきでしたか・・・。

シロー以外の誰が加入してもタイガース解散が早まっていただろう、というお話は、後追いの僕にも何となくわかります。
でも、なぜか切ない気持ちになりますね・・・。

投稿: DYNAMITE | 2010年7月 1日 (木) 19時55分

瀬戸口さま

違うのです~
こちらこそ誤解を招くような書き方でした。
わたしも伝授者の鋭さに対する褒め言葉でしたの。

シローの雰囲気の中にただのひょうひょうとしたものだけではないものをわたしも感じていたのです。
タイガースの後期にジュリーやピーが明らかに張りつめた感じ(ふたりとも、決してそんな風に見せてはいませんでしたけど)を感じていた中でシローは不思議に普通でした。
タイガースに対する思い入れが他のメンバーとは違うのは当たり前とは思っていましたが、この人はなんだかブラックホールみたいだなと感じたことがあったのを思い出したのです。
それで「虚無」と書かれたのを見て、ウワァーと思ったのです。
当時を知らないはずなのに、歌声でわかるなんて、スゴイわって。

タイガースのラストアルバムの彼らの歌声の中にひっそりと「虚無」が隠れていたとしたら、それはそれで「戦慄的」ですね。
それではあまりにも文学的になってしまいますが(笑)
ほんとに語りつくせないバンドです。

投稿: momo | 2010年7月 1日 (木) 22時16分

こんばんわ。TGの曲だから書き込みということではなく、純粋にシローのリードボーカル曲ということでのコメントです。
僕も自分のブログの中でTGのオリジナルアルバム特集記事を書いております。DY様に先を越されてしまった感はありますが、名曲をチョイスするあたり流石です。
シローは解散間際の後期にはタンバリンだけでなく、ギブソンE-335も弾き、トッポ以上の存在感を示していました。
6人目のタイガースとして、車椅子に座ってでもステージに立って欲しい人であると思っております。

投稿: 27年ロマンス | 2010年7月 2日 (金) 22時01分

momo様

わざわざありがとうございます~!
うぅ・・・良かったです。

タイガース後期、ジュリーとピーはやはりテンパっていましたか・・・。
確かにそんな中に飄々とシローが加わっているのは不思議な感じだったのでしょうね・・・。

しかし、”ブラックホール”って!
シローにピッタリの表現です!

27年ロマンス様

ありがとうございます。
27年ロマンス様のタイガース全曲解説は、僕も楽しみに拝見しております。
ヒューマン・ルネッサンスも、もうすぐ完結ですね!

後期にはシローもリズムギターを弾けるようになり、サウンド面での貢献も果たしていたそうですね。
もちろん再結成のステージに立つべき人物ですよね!
シローには、無理ない形で何とか身体と相談しながら、再結成LIVEでは、1曲だけでもリードヴォーカルを聴かせてほしいです・・・。

投稿: DYNAMITE | 2010年7月 3日 (土) 14時22分

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