沢田研二 「I'LL BE ON MY WAY」
from『G. S. I LOVE YOU』、1980
1. HEY!MR.MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID.....
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU
--------------------
予定より早く、日曜日に見参いたします。
今日はスタジオだったのですが、予約が混んでいたため朝イチで入り。おかげで早く帰ってこれたのです。
今日も渋~いナンバーで行きますよ~!
てなことで。
思えば、中高生時代の僕は基本、ビートルズやストーンズを中心に洋楽ロックばかりを聴いていたのですが、日本人アーティストをまったく無視していたワケでもありません。
当時は邦楽ロック界で佐野元春さんが頭角を現してきた時期でもあり、洋楽ロックを聴く友人達は、大体並行して佐野さんも聴いていました。
もちろん僕も。
その佐野さんがまさにその時期、ジュリーに楽曲提供していた事を約20年後に知ることになろうとは、夢にも思わなかったですが。
その時は残念ながらジュリーには辿り着かなかったものの、佐野さんに関連して杉真理さんや大瀧詠一さんなどの楽曲を知りましたし、そして・・・銀次兄さんのアルバムも聴いたっけなぁ。
今日は、その伊藤銀次さん作曲のナンバーがお題です。
公約通り、三浦徳子さん作詞の「謎のフレーズ問題」(僕が一人で謎に思っているだけ説・有力)に迫りたいと思います。
アルバム『G. S. I LOVE YOU』から、良質なロック・ポップスのお手本のようなナンバー。「I'LL BE ON MY WAY」、伝授!
まずはこのナンバーの意義について。
軽やかながらどこか甘やかなアレンジ、しかもキャッチーな進行ですのでとても気づきにくい事ですが、この曲は、いわゆる「アイドル歌謡曲」では有り得ないパターンのナンバーなのです。
例えば当時、ビートルズやキンクスを崇拝する連中が掲げた”ネオ・モッズ”という旗印。
その中にふと差し込まれる、スウィートなメロディーを持つミディアムテンポの隠れた名曲。
シングルにはなり得ない地味な作りながら、アルバムの片隅でオイシイ位置をしめる小品。
これすなわち、完全な60年代洋楽直系のポップ・ロックの解釈ということ。
しかも、その曲は決してアーティストの作品の中でメインではない、というのが肝です。
頼れる脇役。「I'LL BE ON MY WAY」こそが”隠れた名曲”と呼ぶにふさわしい。
最初から、アルバムの中の地味ながらキラリと光る小品、というスタンスを目指して作られているという、これはさすが銀次兄さん。
『G. S. I LOVE YOU』全収録曲をアレンジするにあたり、自らの作曲ナンバーで仕上げに一味加えたというワケです。
ポップス王道の進行にちょっと「アレッ?」という和音を挿入するのが、銀次兄さんの計算された作曲手法で、ただ「いい曲」というのではなく、引っかかりを残そうとしているのですね。
例えば
♪やっぱりいつものキャフェに陣どる♪
Dm7 Fm G7
このドミナント(G7)直前のFmの和音、少し変な感じのタメ効果があります(通常パターンだとこの位置にはFを使用するのが常道)。
であるとか
♪でももういいさ I'll be on my way~♪
F G7 C E7 Am Ammaj7 Am7 Am6
のクリシェから、F→Cと以降するのは、実は「もういいさ♪」の「いいさ」の部分のコード、Cから順に、
ド→シ(E7の3番目の構成音)→ラ→ソ#→ソ→ファ#→ファ→ミ(Cの2番目の構成音)
という、1音と半音の2段クリシェの合わせ技。
和音の中の1つの音が徐々に下がっていく進行は世界共通の胸キュン進行ですが、それを敢えて目立たないスタンスの楽曲にスッと差し込むのが、ビートルズ流のロックセンスと言えます。
実は銀次兄さんは、ジュリーというアーティストを素材に、徹底したビートルズライクなアルバム制作に成功した、唯一のアレンジャーなのですね。これは、加瀬さん一人では為しえなかったことなのです。
銀次さんならば、この「I'LL BE ON MY WAY」の収録位置が”レコードB面の真ん中あたり”という事まで計算していた可能性すらありますね・・・。
Aメロの
♪朝目覚めたならぁ~あぁぁ♪
と、語尾の着地までにメロディーがブルブルと旋回するのは、杉真理さんの「NOBODY」などの楽曲を彷彿させます。
このパターンを”音感の不確かな人が作曲した際のクセのあるメロディー”という頭の堅い評価基準が日本歌謡界にはありましたが、まぁそういう方々は洋楽ロックを聴いてらっしゃらないワケだから仕方がない。
ジュリーがキチンと、銀次兄さんの作ったメロディー通りに歌っている事が何よりの答えです。
それではいよいよ、僕が「三浦徳子さんの詞の中で、これだけは意味不明」と首をひねった、「I'LL BE ON MY WAY」詞の世界について語ってまいりましょう。
文句なくカッコいいですし、ロック独特の詞です。銀次兄さんの作曲コンセプトにも合致しています。
♪悪くはないさ 俺の恋人♪
それまでには無かった新しいジュリー像(街に住む俗っぽいが何かに秀でたお兄さん)をも作り出していますよね。
この三浦さんの新路線は、アルバム「S/T/R/I/P/P/E/R」で結実することになります。
過ぎゆく時を、皆と同じように共有するジュリー。
日常に苛立ちながらも、些細な満足に身を預けるジュリー。
そんな都市物語が真骨頂の、銀次兄さんのメロディーと相性のよい詞なのですが、僕が「ん?」と引っかかってしまったのは、2番サビの最後の方。ある意味、ココがキメのフレーズ!という箇所なのですが・・・。
♪沈黙が金だぜ I'LL BE ON MY WAY♪
これは・・・何だろう。
二人の仲は周りには秘密だから、黙ってろ!ってことですかねぇ?
確かに沈黙は金なり、とは言うけど・・・なんか、歌詞の流れからすると、とても突飛なタイミングで出てくるように思えるのですが・・・。
ジュリーの詞ならね、不思議系で片付けちゃうのですが、三浦さんですからねぇ。何か意味が込められているのでしょうが、僕には解読できません(泣)。
1番の同じ箇所が
「レールのない世界へ~♪」
と、やたらカッコ良いもんですから、最後のキメ部にこの諺フレーズが出てじゅるのがどうにも違和感があるという・・・。
う~ん、どなたかが完璧にこのフレーズを解読してくださったら、「I'LL BE ON MY WAY」は晴れて僕のフェイバリット・ジュリーソングの先頭集団に仲間入りなのですが。
ジュリーのヴォーカルは、良い意味で余裕が感じられます。
以前記事に書きました「MAYBE TONIGHT」などについても言えますが、アルバム『G. S. I LOVE YOU』はそういったヴォーカルの楽曲が多く、それ故に「おまえがパラダイス」「THE VANITY FACTORY」という渾身系の2曲がとてつもなく光っているのではないでしょうか。
「Hey, Mr.Monkey」からラストの「G. S. I LOVE YOU」まで、このアルバムには楽曲間の隙間(無音時間)というものがありません。これは、ビートルズが「サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」で初めて世に送り込んだミックス手法です。
アレンジの連続性、曲順の練りこみが問われるこのミックス手法の中、加瀬さん、佐野さん、かまやつさん、鈴木キサブローさんなど名うての作家陣を嫌味なく推し立てつつ、自身の得意技を盛り込んだ「I' LL BE ON MY WAY」をオイシイ位置に組み込んだ銀次兄さんは、してやったり!の手ごたえをこのアルバムに感じたでしょうし、併せてジュリーの信頼をも勝ち取ったことでしょう。
どちらかと言うとストーンズ寄りだったジュリーが放った、ビートルズ流のコンセプト・アルバム。ネオ・モッズ、サイケデリック・ロック、メリーゴーラウンド・ロックと幅を広げ、ジュリーが本格的にロックアーティストへとシフトしたこのアルバムに、伊藤銀次さんの存在は欠かせません。
そんな銀次さんがさりげなく見せた、品の良い主張。
「I' LL BE ON MY WAY」はやはり、”キング・オブ・隠れた名曲”に違いないですね。
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コメント
当時聞いていてなんの疑問も持たなかったんですけど…(笑)
ま、確かにことわざは唐突という気もしますがw
私はこれは彼女と別れる詞だと思っていたので
(「すべての思いやり」をもういいさ、と言ってるので)
別れる理由とか未練とかごちゃごちゃ言わんとキレイに別れようぜ!
みたいな意味じゃないんですか~?
モーニングショーを見ながらほかほかミルクを飲むような
生ぬるい生活をやめて、on my wayを行くって
ちょっとサムライみたいな粋がりも感じるから
古くさい「沈黙は金」という言葉が出たのかも^^
投稿: メイ | 2010年3月14日 (日) 23時15分
DYさん、お邪魔します。
これは、私が大好きな作品の1つです。この作品でジュリーが歌う「I 'll be on my way」のフレーズは全て好きです。伊藤銀次さんが、微妙に違うメロディーをあてはめてくれて、それをしっかり歌い分けているジュリーのボーカルが大好きです!曲も、伝授に書かれているとおり、歌謡曲とは違うカッコよさがあるところも好きです。
問題の「沈黙は金だぜ」という箇所は、“愚痴を言わない男がカッコイイ”と受け取って、今まで聴いてきたのですが…どうでしょう?
投稿: 74年生まれ | 2010年3月14日 (日) 23時21分
メイ様~。
早速のご解説、畏れ入ります。
納得しましたぁ!
これは別れの曲でしたか…あぁ、確かにそうです!僕は今まで何を聴いていたのでしょう…。
悪くはないさ♪
とか、ちょっとビリー・ジョエルの脳天気ソングを連想することがあったりして…迂闊でございました。
なるほど、彼女と別れてもいつものカフェでいつもの連中とタムロしている、と。
個人的な悲しい別れについては、沈黙と。
あ~、イイですねぇ。
やっぱり名曲でした。さすが三浦さん。
他のみなさまもメイ様同様に解釈なさっている…のでしょうね。
お恥ずかしい次第でしたが、記事に書いて良かったです。
ありがとうございました~!
投稿: DYNAMITE | 2010年3月14日 (日) 23時24分
74年生まれ様
いや~名曲ですよね!
歌謡曲にありがちな、いわゆる過剰なコンセプトがこの曲にはまるで無いんですよ。
サラッと、バタくさいながらいい曲。
本当に良質なポップ・ロック・ナンバーです。
歌詞については、メイ様の考察がズバリかと思います。
なるほど~!
と、感じ入っておりますところです!
ますます好きになりましたよ~。
投稿: DYNAMITE | 2010年3月14日 (日) 23時27分
こんにちは
大好きの曲ありがとう!
このアルバムに一番60年代洋楽の霧囲気に近く曲と思います。
投稿: 04 | 2010年3月15日 (月) 13時25分
DY様
皆様のまっとうな解釈を読んで出る幕がなくなってしましましたが。
この曲を聴きながら私が考えてた妄想ストーリーも一応お聞き流しくださいませ。
それなりに満たされているはずの日常だったけど、仕事上のつまらないことでむしゃくしゃしてつい上司に「辞めてやる!!」と言ったら「あ、そ。辞めれば?」
引くに引けず辞めちゃった。
ウチに帰ってちょっと愚痴ったら、逆に「これからどーすんの?」となじられ、「うるさい、出てけ!」と言ったらホントに出てっちゃった。
レールからはずれてすっきりしたはずなのに気がつくといつものカフェにいつもの席にいる。
で、これまたいつものメンツがいつもどおりに挨拶してくる。
でもこっちのいつもどおりで無い様子に興味深々。
何だかカッコ悪くて説明する気になれず
「沈黙は金だぜ!」とうそぶくJ氏でありました。おしまい。
ごめんなさーい!!
投稿: nekomodoki | 2010年3月15日 (月) 20時14分
04様
毎度毎度、大長文の記事ですみません~。
クドい箇所はどうか読み飛ばして頂いて…。
「G.S.I LOVE YOU」は、あまりの徹底した洋楽オマージュに僕も初めて聴いた時は驚きました。
一時、僕のジュリーアルバムベスト1に君臨していたこともあります。
「I'LL BE ON MY WAY」は中でも良質な洋楽の作りで、ジュリーだからこそ銀次さんもこのアレンジにしたのだと思います。
☆
nekomodoki様
いやいや~、その妄想もアリですよ~。
重要なのは、この歌の主人公ジュリーは、普通の社会人、という点です。僕もその通りだと思うのです。
うまく記事で説明しきれていませんが、三浦さんの詞は男視線であるが故に、すごく当たり前の生活を送っている”普通のイイ男”としてジュリーを表現している点が新しかったのではないでしょうか。
それが、「渚でシャララ」にも引き継がれています。
嬉しいですね!
投稿: DYNAMITE | 2010年3月15日 (月) 20時43分
G. S. I LOVE YOUはいつ、どんな状況で聴いても安心できて、好きだと言えるアルバムです。大好きだから、気持よくなるに決まってるから、もったいなくてなかなか聴けないというか・・・。
私の精神安定剤のようなアルバムですね。
後追い時、色々な時代のアルバムをランダムに怒涛のように聴きました。それぞれ真剣勝負(大げさですね)で、噛み砕いて好きになるまでの(結局は好きになるんですけどね)葛藤があるのですが、G.S~にはそれがなかった。昔から何度も聴いてたお気に入りのアルバムを久しぶりに聴いたような何の違和感もない感じ。
たぶん、私の青春DNA(ビートルズ育ちの耳)に刷り込まれてるタイプの音なんでしょうね。
投稿: ひいきゃん | 2010年3月16日 (火) 09時17分
DYさま
興味ある部分のみ読むのは悪い癖だね、ごめんなさい~(゚ー゚;
GSILOVEYOUは過去映像を見た後好きになったアルバムです。そのなかこの曲は大好きです、UPしたいけど彼がとても気に入らなくてみたい・・・涙
投稿: 04 | 2010年3月16日 (火) 11時01分
ただいまです。
今日は…あ、暑かった~。
明日はまた寒いらしいです。気をつけましょう。
☆
ひいきゃん様
それ、わかります!
僕もそうでした。じっくり派なんですかねぇ。
ジュリーは、どのアルバムも何度か繰り返し聴いてから好きになっていくパターンで。
そんな中、最初から「大好き!」という感覚が持てたのは「G.S.I LOVE YOU」でした。
ひいきゃん様も、という事は、これはやはりビートルズのDNAなのでしょうか。
まさかSFのDNAではあるまい…。
☆
04様
いえいえ~、いいんですよ、お好きなように読んで頂ければ~。
こちらこそ、昔より長文率がアップして申し訳ないのです。
「I'LL BE ON MY WAY」の映像はまったく知りません…そんなモノがあるとは!
是非カレを洗脳してください~!
投稿: DYNAMITE | 2010年3月16日 (火) 21時45分
DYNAMITEさま 出遅れました
今週の通勤ヨンヨンカーはまさに「G.S.I LOVE YOU」でございます。
年度末は仕事が立て込んで、気分を変えるために、このCDで通っています。
私、この曲は「人妻を慕う青年」ととらえておりました。
家族のために朝食を用意する女性をおもう。
この女性は母親でしょうか、ミルクですもの。
で、青年は二人で行ったカフェで一人、彼女を思っている。
「沈黙は金」は青年も女性も。
妄想で深読みしすぎでしょうか?
投稿: みゆきママ | 2010年3月17日 (水) 23時06分
みゆきママ様
ひ、人妻…ですか?
それは考えもしなかったです。
しかし言われてみますと、三浦さんの詞はそのパターンを匂わせる作品が多いし…。
妄想が膨らむのも、いい曲の証。
「G.S.I LOVE YOU」は車のBGMに向いています。
電車通勤には向いていないのです。
ヘッドホンで聴くと脳がヤラれるミックスの楽曲が多い~。
投稿: DYNAMITE | 2010年3月18日 (木) 20時48分