沢田研二 「砂丘でダイヤ」
from『忘却の天才』、2002
1. 忘却の天才
2. 1989
3. 砂丘でダイヤ
4. Espresso Cappuccino
5. 糸車のレチタティーボ
6. 感じすぎビンビン
7. 不死鳥の調べ
8. 一枚の写真
9. 我が心のラ・セーヌ
10. 終わりの始まり
11. つづくシアワセ
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「ブルース」と言いますと、多くのみなさまが短調のコブシの効いた切ない曲を想像なさるでしょうが、いわゆるロック界で「ブルース」(ピーター・バラカンさんは頑なに「ブルーズ」と濁ります)と言えば、1小節に8分音符の3連符4つ並びの武骨な7th・コードスケールのナンバーを指します。
リズムのニュアンスは”ロッカ・バラード”と近いものがありますので、「おまえがパラダイス」の記事も参照して頂ければ。
ブルース・ロックの楽曲は、ハッキリ言って歌い手を選びます。生半可な歌唱表現力では、どんなに優れた詞曲のブルースであっても、無残なゴミ曲と化してしまうんです。
ズバリ、僕では無理です。
じゃあジュリーはどうか、と言いますと・・・これがもう、ブルースを歌うべくして生まれたのではないか、というくらいの適性があるんですね~。
しかし若い頃のジュリーは、そのあまりに美しい声に多くの人が耳を奪われ、泥臭いブルースナンバーのヴォーカルにジュリーを起用する事は、なかなか発想し辛かったのでしょう。
例えばですね。タイガースのアルバム「自由と憧れと友情」収録の「世界はまわる」というブルースロック・ナンバー。
派手なリードギターをフューチャーし、サリーのトボケたヴォーカルもあって愉快な佳曲ですね。これはこれで相当良いですが、もしジュリーが歌っていたら・・・と考えてみてください。
ヴォーカルが、楽曲のすべてを支配してしまったでしょう。リードギターはとてつもなくハードに聴こえるでしょうし、ベースはアグレッシブな生き物のように耳に残ったはず。
優れたヴォーカリストにはバックの演奏を昇華させる力がありますが、それが最も形に現れやすいのが「ブルース」というジャンルなのです。
今日は、ヴォーカリストとして円熟期に入ったジュリーの、ド迫力なブルース・ナンバーを採り上げたいと思います。
先日「ス・ト・リ・ッ・パ・ー」楽譜付写真集を譲ってくださったnekomodoki様より、「姉のリクエストです」とご依頼を頂きました。
「送料はこのリクエストで」と仰られては、何を置いても速やかに書かねばなりません。語り甲斐のある楽曲を指定して下さり、僕も大変嬉しく思っております。
アルバム「忘却の天才」より、「砂丘でダイヤ」・伝授!
作詞・覚和歌子、作曲・沢田研二
・・・これはある意味黄金コンビなんじゃないですか?
ちょっと言葉の意味は違いますけど、相思相愛のお二人。
♪ いいんだ笑って、思いっきり
煤けたジャケット、虚ろな目
ふられた男は、こうでなけりゃ ♪
ジュリーが”フラれた直後のダメ男”を歌うと、何故こうもカッコイイのか!
「どうして朝」とかもそうだよねぇ。
もちろん覚さんの詞(「どうして朝」は岡田冨美子さん)の豪快な作詞表現も要因としてありますけど、ジュリーの潔いヴォーカルのなせる業でしょう、このカッコ良さというのは。
こんなにガツンと歌っているにも関わらず、まったく押しつけがましくないんです。
LIVEで聴いたら卒倒モノでしょう。「歌門来福」・・・微々たる可能性ながら、期待しちゃうなぁ。
この曲は詞先のような気がします。
他の作曲家さんなら、メロ作って覚さんに依頼という流れでしょうけど、このナンバーはまず詞があって、ジュリーが「俺が自分で曲つける!」と意気込んだパターンなのでは?
根拠は、ブリッジ部の譜割りです。
♪ ひとつダメな時は
何もかもがすべる~~ a-ha ha ha ha♪
ココ!
分かるかなぁ?
通常、ロックやポップスってのは、小節4つ(あるいは2つ)の偶数でひとくくりに作曲するのが自然です。
ところがこの部分は「3小節+4小節」。奇数なんですよ。
歌詞に合わせた曲作りだと思われます。
これがもし曲先だと
♪ ひとつダメな時は~~ あ、はぁ、あんあ、あぁ
何もかもがすべる~~ あ、はぁ、あんあ、あぁ♪
てな風に歌メロが載っていた可能性が高いワケで、いきなりマヌケな曲になります。そりゃフラれるわ!みたいな感じ。
あと、このブリッジ部分はブルース進行ではなく、ちょっと泣き系のコードで展開されています。
この曲はイ長調なので原則として「ド」「ファ」「ソ」の音に#がつきますが、1箇所だけジュリー作曲ならではの面白い箇所があって
ド#・ミ・ソ#(ひとつ♪)→レ・ファ#・ラ(だめな♪)→ド#・ミ・ソ#(ときは♪)→ファ#・ラ・ド#(なにも♪)ファ#・ラ・ド#・ミ(かもが♪)→ソ[ナチュラル]・シ・レ(すべる~♪)→ミ・ソ#・シ
この「ソ」の音がナチュラルするソ・シ・レの和音(G)を経てから、ドミナントのミ・ソ#・シ(E)へと辿り着くのが、なんともルーズな雰囲気を醸し出していて良いんですよ~。
直球のブルース進行ではなく、こうした仕かけを入れることで曲が刺激的に聴こえますし、伊豆田さんの甘いコーラスも自然に溶けこんでいけるのですね。
ヴォーカルがスゴいと、その分演奏も盛り上がるのがブルースナンバーの醍醐味。
「爛漫甲申独唱会」DVDの記事でご紹介したように、LIVEでGRACE姉さんの「ぬお~」が出たり、ブルースのリズムは、腕に覚えのあるドラマーさんの大好物なんですよ。
洋楽の例ですと、レッド・ツェッペリンのファーストアルバムとか、全9曲のうち4曲までもが強いブルース色を持っているのは、明らかに演奏してて気持ちが良かったからだと思います。特に、ボンゾさんがね。
さて、ジュリーはこの「砂丘でダイヤ」以降、ここまで明確なブルースナンバーはずっとリリースしていません。
そろそろ来るんじゃないかなぁ、と思っておる次第なのです。
今の声でブルース歌ったら、スゴイ事になるよきっと!
来年も新譜が出ることを期待しましょ~。
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コメント
DYさん、お邪魔します。
「砂丘でダイヤ」はもちろん好きな曲ですが、ブルース・ロックという音楽様式があることを今初めて知りました!日本のロックってブラックの要素を重要視する風潮がありますよね。私が生まれる前から。それはそれで嫌いじゃないですけど、(いい意味で)クセのないジュリーのボーカルは、その風潮ゆえにかなり過小評価されてきた部分があると思います。
私が「砂丘でダイヤ」で好きなところはジュリーのボーカルに色気があるところですね色気があるから失恋ソングでもカッコいい
で、書きながら思ったんですけど、「許されない愛」以降のジュリーの音楽活動を振り返ると、ずっとジュリーは日本のブルース・ロックを模索していたのでは?
投稿: 74年生まれ | 2009年11月12日 (木) 00時04分
再び失礼します。
私が、書きながら思いついた部分は、DYさんが「おまえがパラダイス」の伝授ですでに書いていたことだったんですね。予習不足でした。失礼しました!
投稿: 74年生まれ | 2009年11月12日 (木) 00時20分
Dynam殿の御本分は、今回のような綴りかたで御記事を載せていくこと,だと存じ且つ望む次第です。
感覚的主観性による切くち,及び歴史的記憶、は女子先輩陣にお任せするのが最善ですからねぇ。
≪伝授≫を標榜するに沿うのは,客観的に音楽面を解説くださる行為でしょうし、未だまだ題材になる曲は山積み,でしょう。。
例えば「ホーンセクションとジュリーの相性は如何に」等
お得意分野も有りましょう?
拙は21世紀のアルバム全てを所有してはおりません。
忘却の天才・明日は晴れる
・greenboy・生きてればシアワセ、はCDのサウンドに抵抗感が有って買う気が起きなかった。けれど今回の御記事を拝読すると,興味も沸きます。。
ブログ効果、ありますよ〜!
投稿: 鉛筆 | 2009年11月12日 (木) 02時32分
早速ありがとうございます。昨日、鬼のなんとやらで10年ぶりくらいに熱を出し、ぐたーっと寝込んでたんですが、夜中に目を覚まして伝授を読み、熱もふっとびました。
JULIEのかっこいいブルース・ロックの失恋ソング、ライブで聞きたいです。「砂丘でダイヤ」も新しい曲も。それにしてもDY様の伝授を読んだあとに聞くと同じ曲が違って聞こえるのが不思議です。
投稿: nekomodoki | 2009年11月12日 (木) 04時36分
みなさま!
またかとお思いでしょうが、風邪ひきました~。
今のところ仕事に差し障りはありませんが、堪えます。みなさまもどうかお気をつけて。
☆
74年生まれ様
若かりし頃のジュリーが、「自分はどういう風に歌いたい」というテーマを模索していた事は間違いないと思います。
その頃は「自分で作った曲なら上手く表現できるんじゃないか」という思いと、レコード戦略との間でずいぶん葛藤があったように思えますが、結局どちらも素敵なんですよね。
それに気づいていなかったのが、評論家さん達と、そしてジュリー自身!
「若い頃は下手だった」とジュリーが言うのは、「分からないことが多かった」という意味だと思いますよ。
☆
鉛筆様
「来たるベキ」CDはもう購入なさったのでしょうか?
なんとなく鉛筆様の嗜好がわかったような気がいたしておりますこの頃…まずはそこから入るのが無難かと思います。
いきなりキーボードレスはキツいかもしれませんよ~。
でも、「忘却の天才」収録曲だと、「砂丘でダイヤ」「不死鳥の調べ」の2曲は気に入って頂けるんじゃないかなぁ…。
アルバムで言いますと、列挙なさっている未聴作品の中で、僕なりに、比較的鉛筆様の嗜好と合うのでは、と思う1枚は「生きてたらシアワセ」ですよ!
☆
nekomodoki様
いや~本当にこのたびはお世話にまりました!
早速、「I'll be own my way」など弾いております。
> 同じ曲が違って聞こえるのが不思議です
そう仰って頂けると本当に嬉しいです。
「砂丘でダイヤ」は是非LIVEで聴きたい1曲でしたので、執筆に気合も入りました。
お姉様にも、よろしくお伝えくださいね。
投稿: DYNAMITE | 2009年11月12日 (木) 22時20分
振込み確認しました。ありがとうございます。
昔引越しの時に1冊処分しようかと思って表紙を見たとたんJULIEに
「われ、なにさらすねん!!」
とにらまれて、ダンボールにそっともどしたのはこの日のためだったのかも。(笑)
ところで、そろそろ20万が近づいてきたような。万が一うまくヒットしたらもう1曲伝授をお願いしたいのがあります。
投稿: nekomodoki | 2009年11月12日 (木) 23時58分
偶然?某所でもこの曲のレビューを読みまして
あらためて爛漫甲申を見てきました。
柴山さんもブルースはお好きですよね。
イントロ&間奏のシブイリードギターはもちろん
あの、甘いお声の字ハモも素敵です。
感覚的な見方聞き方しか出来ない私ですが
ブルース・ジュリーはカッコイイです。
奇跡元年のヘイ・デイヴもよかったですよね。
ところでDYさん、来年はGSジュリーだそうですよ。
ニュース聞きました?
投稿: しょあ | 2009年11月13日 (金) 11時15分
nekomodoki様
大丈夫、ニアピンOKですよ~。
狙ってくださいね。
> JULIEに
「われ、なにさらすねん!!」
とにらまれて
分かります!
にらんでますもんねぇ、あの表紙。
ジュリー関連のグッズは、不要になってもなかなか捨てられない、という先輩方が多いですね。
今回僕は本当にラッキーでした。
ありがとうございました!
☆
しょあ様
そうそう、「奇跡元年」の「ヘイ、デイヴ」がありましたね!
鉄人バンドのブルース、良かったです。
ニュースには驚きました。加瀬さん、やるなぁ。
しょあ様やazur様は、鉄人バンドの動向が気になるでしょうねぇ。
この企画で一番参加の可能性が高いのは泰輝さん、次が柴山さんでしょうか。
でも、この企画は特殊な例と考えた方がよいでしょうね。
ジュリーが鉄人バンドを手放すとは思えませんし。
ジュリー70超えまでの、道程のひとつかと思っております。
投稿: DYNAMITE | 2009年11月13日 (金) 23時08分