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2009年8月13日 (木)

沢田研二 「人待ち顔」

from『いくつかの場面』、1975

Ikutuka

1. 時の過ぎゆくままに
2. 外は吹雪
3. 燃えつきた二人
4. 人待ち顔
5. 遥かなるラグタイム
6. U.F.O.
7. めぐり逢う日のために
8. 黄昏のなかで
9. あの娘に御用心
10. 流転
11. いくつかの場面

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お暑うございます。
こんな日には、軽快で、風のように涼やかな、朴訥なナンバーを聴きたいですね。

というワケで今日はこの曲。
全体的に良い意味で荒涼としたイメージがあるアルバム「いくつかの場面」ですが、その中を一陣の風のように爽快に駆け抜けていく隠れた名曲。
「人待ち顔」、伝授です!

以前、「影-ルーマニアン・ナイト」の記事でダブル・トラックというヴォーカル処理について書いたんですけど、今日はその関連のお話でもあります。今回もまた、マニアックなワケのわからない大長文になりますよ~。

偶然ですが、どちらも作曲が大野さんなんですね。録音技術についても、ちょうど10年分の差があるワケか~。
「ルーマニアン・ナイト」のダブルトラックについては、1度録ったヴォーカルテイクをコピー増殖して、「コンマ数秒ずらす」とか「エフェクト処理して声質を変える」という手管を尽くした手法である事を書きました。
対する「人待ち顔」の方は手法としては至極明快で、単純に「ジュリーが同じリードヴォーカルのメロを2回歌ってる」という事なんです。

これは、60年代初期の洋楽で「音に厚みを作る」という理由により使われ始めた手法なのですが、ビートルズのジョン・レノンが「自分の声が変わるのが面白い」と考えて多用した事から、ダブルトラックはあっという間にポピュラー音楽ヴォーカル処理の代名詞となり、大流行しました。
同じヴォーカリストが2回同じメロを歌うと言っても、そこは人間のやる事です。全く同じニュアンスにはならず、自然にズレるわけですね。声質が同じなだけに、その聴こえ方は独特の味があります。
70年代にさしかかる頃には、この手法がどのような楽曲に合っているのか、という結論らしきモノもでてきて、主に軽いタッチのミディアムテンポ・ナンバーや、フォーク系アップテンポ・ナンバーで頻繁に利用されるようになってきます。

「人待ち顔」でのダブルトラック導入は、まさに当時としては正統なヴォーカル処理と言えるのです。

しかしこの曲では、ちょっと珍しいミックスのハプニングがあります。
2分10秒を経過したあたりの、3番のAメロ部。「喫茶店と僕の心に♪」と歌われる箇所で、それまで2つのトラックで順調に進んできたヴォーカルテイクのうち、片方が忽然と姿を消すのです!
Aメロを歌っている途中でブツッ、と消えるワケですから、これは計算されたミックスではありませんね。何らかの理由により、マスタートラックのヴォーカルテイクが削除されてしまっています。

このようなハプニングはテープレコーディング時代独特のもので、演奏や歌のやり直し時や、トラック編集の際に普通に起こり得ます(現在のデジタル録音では、トラック数が無限に近いので、あり得ない話なのですが)。
好奇心から、ちょっと原因を推測してみました。

まず「人待ち顔」で録音された総テイク数を確認してみましょう。
まずドラムス、ベース各1テイク。サイドギターが2テイク、リードギターも2テイクです。

左サイドに振られたオルガン、右サイドのハイハット(ドラムセットの二重シンバル)がそれぞれ1テイク。
で、リードヴォーカルがジュリーのダブルで2テイク。コーラスは中央やや左右に振られる2テイク(2人ずつかな?)。

これで全部です。
この曲は比較的薄い音作りに聴こえるかもしれませんが、このように計12種類の音が入っているんですよ。

この中で、ジュリーの2つのリードヴォーカルテイクより後に重ねて足された音は・・・と考えますと、

・コーラス・パート2テイク(コーラスはヴォーカルより後に重ねるのが常道)
・左サイドのハイハット(他テイクに比べて音色が鮮明。ピンポンなどのトラック編集がまったく為されていない事は明白)
・要所で重ねられる追加のリードギター(リフでユニゾン、サビ「誰もやってはきませんよ♪」部では新たなフレーズを追加)

この中で、リードギターの追加テイクがどうも怪しい。1番と2番で違うフレーズを弾いていますし、途中でコーラスエフェクターをかけたり切ったりしています。曲を流しながら一気に録ったのではなく、部分部分で別録りしたのではないでしょうか。
そして、何度目かの本番テイク(おそらく最後のサビ部)の際、ジュリーのいずれかのヴォーカルトラックの上から重ねてしまったものと思われます。
もちろんエンジニアはすぐに気がついてSTOPをかけ、サビ部は無事にダブルトラックが残りましたが、数秒間の空白トラックが作られてしまったと推測できるのです。

こういう事は、音数が多くなればなるほど、「ピンポン」とか「パンチイン」といった作業を必要とした、アナログレコーディングならではの微笑ましいハプニングで、正規音源にそれが残されているのは本当に珍しい。
これがシングル曲だったら、ジュリーはおそらくもう1回改めて歌わされて、新たなテイクが作られたでしょうね。

レコーディング機材を扱った経験のある方々はそうそういらっしゃらないと思いますが・・・少しは伝わったでしょうか?・・・全然わからない?・・・う~ん、無理もない。
でも、途中でジュリーの片方の声が突然消えるのは、誰が聴いても分かると思います。みなさまが今の今までその事に気づいていらっしゃらなかったとしたら、それだけで伝授の甲斐があったというものです。
だって、2人から1人にとって変わった部分のジュリーのヴォーカル、偶然とは言えすごくカッコいいですからね!

「人待ち顔」は、学生運動世代の閉塞した日常美を描いた及川恒平さんの詞が大変素晴らしく大好きな曲ですが、詞についての考察はまた次回。
同じアルバムに収録されている及川さんのもう1篇の作詞作品であり、先輩方には何故かイマイチ不評ながら僕はアルバムの中で一番好き!という「UFO」の記事を書かせていただく機会に、「外は吹雪」と共に併せて語ってみたいと考えています。

と言いつつ、思うのですが。
「いつかこの曲についても書きます」と宣言した曲がずいぶん溜まってきた~。大体、「人待ち顔」もその中のひとつだったんだし。

ジュリーがこの先も元気にアルバムを作り続けていくならば(いや、そうでなくとも)、僕の伝授記事がジュリー全楽曲に追いつく見込みは全くありません。
まさに嬉しい悲鳴であり、もはやライフワークの域ですね、これは。

今後も粛々と、気長にやってまいります~。

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ジュリー・ヴォーカル徹底分析!」カテゴリの記事

コメント

お暑ぅ~ございます。
DYちゃん、お元気ですか?
東京砂漠で干からびていませんか??

本日のお題は、私の得意分野の時代のアルバム♪♪(嬉嬉)
レコードが聴けないからと、去年最初に
CDに買い替えたのは「いくつかの場面」と
「ジュエルジュリ-」と「今僕は倖せ…」でした。

「人待ち顔」のタイトルを見て、マイナーな歌なのに(失礼!!)
すぐにサビの部分が鼻歌♪♪で出てきました。
軽くてすーーっと通り過ぎてしまう感じの曲調。
でも、DYちゃんの解説を読んだら
こんなに奥深いレコーディングをしているのだと
始めて知りました(結局、意味不…ですがね。)

>2人から1人にとって変わった部分のジュリーのヴォーカル、偶然とは言えすごくカッコいい…
この箇所をしっかり、是非ヘッドフォンを通して聴いてみたいです。

熱い苦しい夏の夜に、爽やかな御伝授を有難うございます。

投稿: のん | 2009年8月13日 (木) 20時23分

DY兄様、こんばんは。
「人待ち顔」、好きな曲で何度も聴いてるはずなのに、そんな、ボーカルが2重になってるなんて全然気が付きませんでした。
詳しいことは判らないけど、そういわれてみればちょっとモヤがかかったような浮遊感のある声ですね。
注意して聴いてみたら「喫茶店と」と「僕の心に~」のところで変わったの、解りました~。(なんか嬉しい)
こうやって教えて頂いてみると、他の曲でも日頃ボーッと歌声に聴き入ってばかりで、気が付いて無いことって、まだまだ沢山ありそうです。

ところで、UFOがお好きなんですか・・・確かに、珍しいかも?

投稿: あいら | 2009年8月13日 (木) 21時04分

DYNAMITEさん こんばんは~♪

またまた私の好きな一曲ですhappy02

といっても、哀しいかな音楽的素養の無い身、折角のご伝授が・・・・。ごめんなさい。

ただこの曲、初めて聴いた時から、ジュリーの声が、ハモっているとか、
モワッとしているというか、いつもの声とは違っているとは思ってました。
エコーをかけたみたいな感じね。

歌詞はまさに及川恒平という感じですよね。

「いくつかの場面」も大好きなアルバムです。

で、私は「U.F.O」も!好きですよ~up

♪ 見よ! あの空 U.F.Oの隊列
 見よ! あの空 夢の反乱だ
♪ 飛べ! おまえも U.F.Oの隊列
 飛べ! おまえも 夢の革命だ
   ↑
最後のここの所、
あのお声でわあ~っと伸びて、
ワクワクしてきます。 
さすがミッキー吉野さんです。
  


投稿: みゆきママ | 2009年8月13日 (木) 21時47分

みなさま~。
早速のコメント、ありがとうございます!

のん様

さすがに干からびてはいませんが、今日も東京は暑いです…。
地球が怒っているんじゃなきゃいいのですが。

のん様も、「ドーム以降CD大人買い組」ですね!
ハナかた3枚まとめ買いでしたか。
3枚とも、美しい時代のジュリーですねぇ。さすがはジュリーフィルター保持者!

DYちゃん、なんて若いキャラで呼んで頂いておりますが、実は僕も寄る年波に勝てず、今回「人待ち顔」の歌詞カードがハッキリ読めない、という試練に直面しましたよ…。

あいら様

二重ヴォーカルと言えばあいら様、アルバム「愛の逃亡者」ですがな~。
あいら様のレビューでも、数曲ダブルトラックヴォーカルに(無意識にでしょうが)触れられていますよ!
あのアルバムは「Walking In The City」以外すべてダブルトラックです。

「UFO」、惚れてます。
何で「変な曲」扱いする方が多いのかな…。

大名曲伝授をば、近々…。

みゆきママ様

おぉぉ!
「日本が誇る最高のサイケロック!UFOと言えば沢田研二だ!教」
を布教しようと決意した矢先に、心強いお味方が!

通常サビメロって言うのはトニックにキレイに着地するモノですが、「UFO」の場合は遥か上空へと飛んでいくメロディーなのです(いや、コメントで解説しなくていいから、自分)。
さすがミッキー吉野!
でも、今こんな曲作ったらまた捕まると思う(おいおい)…。

「人待ち顔」に限らず、モコッとしてエコーがかかってるような感じを受ける曲は、ほぼダブルトラック処理と考えてOKですよ!

投稿: DYNAMITE | 2009年8月13日 (木) 23時44分

DYちゃん様、こんにちはsun

「U.F.O]好き、嫌い問題ですが、私もみゆきママさんと同じで、見よ~!からのところ、特に好きです。
「どどーん」って音、あれタイコ?

すいません、あまりにも初歩的質問で。

投稿: みかん | 2009年8月17日 (月) 12時40分

みかん様、いらっしゃいませ~。

おぉ、またしてもお一人「UFO」好きの先輩が!
頼もしいですね~。

♪見よ→ドカ~ン!

の部分。
あれはですね、ドラムセットの「タム」を思いっきり叩いてます。
ピーのセットで説明しますと、向かって右から

ハイハットシンバル→スネア→クラッシュシンバル→タム→クラッシュシンバル→フロアタム

というのがドラムセットの各呼称で、「タム」はちょうど真ん中にある小さめの太鼓ですよ。
ピーはビートルズモデルですからタムは1個だったりしますが、今ではタムは2個、が常道のセッティングです。
「UFO」はその2個を「ダダン、ダダン」とやって、ミックス段階でエコーをかけてますね~。

みかん様、地元にもかかわらず神奈川に参加できない、とお聞きし、「お忙しいんだなぁ」と思うと同時に、今年の自分はどれだけ贅沢なんだろう、とあらためて噛みしめております。

ココだけの話ですが。
もう渋谷最終にも強引に行っちゃおうかと…。
そんな決意の日々です~。

投稿: DYNAMITE | 2009年8月17日 (月) 23時27分

そうです!

ここまで運がいいんだから
行っちゃっていいです。
行っちゃって下さい!!
うらやましいの通り越して
もうさわやかな次元になってますから。

そして、レポお願いします!

投稿: シロップ。 | 2009年8月17日 (月) 23時38分

シロップ。様

「さわやか」とおっしゃいましたね?!
僕と「さわやか」はかなりかけ離れていますが。

YOKO君が聞いたら、
「アンタ、遠い世界に行っちゃったねぇ。なんだかなぁ」
とか、ワケのわからない事を言うでしょう。

いや、渋谷最終日は、一番後ろとかでも、いいんです。
「ジュリー祭りから今回のツアーまで、本当にありがとう」
と、ジュリーに遠くからお礼が言いたいんですよ。
「おかげさまで、さわやかとまで言われる男に成長しましたわ~」
とも、言ってこようかな…。

まぁ、今年の僕の神席率の高さは仰る通り異常でした。
来年のお正月に、後ろのスミッコ(たぶん)でお会いしましょう!

投稿: DYNAMITE | 2009年8月18日 (火) 00時30分

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