沢田研二 「幻の恋」
~from「REALLY LOVE YA!!」、1993
さて。
今日はまず、シンセサイザーという楽器のお話から。
楽器や音楽機材は世に数あれど、その性能に関して、プロとアマチュアの所持品にはいかほどの差があるのでしょうか。
これはすなわち、(あくまで基本的に、ということですが)お値段の問題と考えてもよいでしょう。
やっぱり、プロの演奏者が格安の楽器を使用する事はなかなかありませんで。なんと言っても、それで食べてるワケですからね。
反してアマチュアの人々は、あくまで趣味の範囲内として楽器を嗜むワケで、そうそう大奮発して大枚ハタくまでにはいきません。
80年代前半までの楽器性能について、プロとアマチュアの格差が最も大きかった楽器は、シンセサイザーでした。
プロの所持品は数百万円、アマチュアは数万円。
当然、出てくる音も全然違いましたね。
60年代末期にビートルズが初めてシンセサイザーを導入した時、この楽器は通称「ムーグ」と呼ばれていました。
ズバリ、ムーグ博士が開発した楽器なんです。以来、長いこと「プロのみが高性能版を扱える特殊な楽器」だったのです。
ところが、80年代後半に、デジタル革命が起こります。
一般家庭にも、どんどんデジタル製品が普及していき、コストは急降下。
90年代には、とうとうシンセサイザー単体の上限価格は10万円台にまで下がります。
ちなみに現在僕が所持しているシンセサイザーでメイン使用しているモノは、KORGというメーカーの中でも最高レベルの性能を擁しますが、お値段は15万円。
本当にお安くなったものです。なんと、ミッキー吉野さんが同じモノを使用しておられます。
管弦楽器・或いはピアノと違い、シンセサイザーというのは誰が弾いても同じ音が出る、というのがミソでして、それ故に一部のクラシック畑の演奏家からは嫌われていたりもするのですが、僕のように技量に劣り、趣味で音楽をやっている者にとっては、こんなに有り難い楽器はありません。
あぁ、またしても前置きだけで大長文になってますね(汗)。
今日は、吉田建さんプロデュース期・最後のアルバムとなります「REALLY LOVE YA!!」から、至高のバラード「幻の恋」を伝授です!
作詞・作曲を担当した高野寛さんは、”日本のトッド・ラングレン”と呼ぶにふさわしい、コアな才能を持ったプロデューサータイプのアーティストです。
トッド・ラングレンというのは、アメリカを代表するレコーディングオタク・アーティスト。音に対する偏執度と、顔の長さにおいてロック史上右に出る者はいない、と言われておりまして。
本職はギターですが、ヴォーカル、ピアノ、ベース、ドラムスなどすべての楽器をこなし、自宅をスタジオに改造してたった一人でソロアルバムを作り続けたという。
当然彼の作品においても、80年代からはシンセサイザーが大活躍。
ドラムス、ベースまでシンセ使用、と言うと眉をしかめる方もいらっしゃるでしょうが、特に「HEALING」というアルバムは、シンセロックの最高峰だと僕は考えています。
そんなトッド・スタイルそのままに、時代の寵児よろしく出現した日本の才能・代表が高野寛さん。トッド・ラングレンと一緒にお仕事もしておられますね。
ジュリーへの楽曲提供は、僕の知る限りこの「幻の恋」1曲のみ。
言ってみれば、シンセ・ロックのスペシャリストとジュリーの融合なのですが、高野さんはトッド・ラングレンと同じく、録音オタク故の「ズレフェチ」でもあって、完全に機械機械した仕上がりの楽曲を嫌い、どこか生の、わざとズレたような感触を味付けする方で。
「幻の恋」では楽曲途中からストリングスが絡んだりしますが、おそらく作曲段階での肝は、イントロ、間奏でのシンセサイザーのオルガン音色です。
高性能のシンセサイザーが数百万した時代。この音色はアマチュアにはなかなか出せなかった。
時代は変わり現在では、例えば僕の持っているシンセだと、「CHURCH」という音色をボタン選択するだけで、全く同じ音が出ます。そう、いわゆる教会オルガンの音なんです。
間奏のオルガンソロ部、とても刺激的で美しいメロディーですが、弾く分にはすごく易しい。バイエル程度の技量で弾けるんです。
もし僕が、「幻の恋」をお好きなジュリーファンの方の前で、この部分をシンセサイザーで演奏したら、「うわぁ~♪」なんて言われるでしょう。それが、シンセサイザーという楽器の魔力。
何ひとつ難しいことをせずとも、プロと同じ音の世界が再現できてしまうんですよね。
この手法はさすがに21世紀に入ると少数派になりますけどね。
「幻の恋」では、そのような音作りだけでなく、これも高野さんのペンによる詞についても触れなければいけません。
高野さんのようなタイプのアーティストは、概ね作詞の才能は今ひとつ、というパターンですけど、これは名作です。
♪手を伸ばせば、遠ざかる
辿り着けば、もういない
だけど僕には見えてる
こんなに近く、あなただけ♪
相手は、川の向こう岸にいます。
距離的には近い。でも触れようとすると果てしなく遠い。
そんな感覚を、過剰な言葉を使わずに、クールに描いています。
詞が良い、という事は、それだけジュリーの入魂度が増すワケで。
DVDで観た「REALLY LOVE YA!」ツアー、この「幻の恋」が本割のトリなんですが、美しい表情で、魂をこめて歌うジュリーのヴォーカルには誰もがヤラレるはず。
アルバム「REALLY LOVE YA!!」には、他にも記事にしたい曲がいくつかあります。一番好きなのは「夜明けに溶けても」なんですけど。
ドーム参戦時、ポリドール時代以外で持っていた貴重なCD数枚の内のひとつでして、大好きなアルバムです。
ホント、「そのキスが欲しい」を知ってるのと知らないのとでは、エライ違いだったと思います、ジュリー祭りって。
また、僕のジュリーリスニングの中で唯一、CDよりもDVDの方が先だった、という1枚でもあります。
DVDがあまりにも良かったので、すぐにアルバムまで買ってしまったという。
2006年だったかなぁ。あの頃はまだ、EMI時代のCDも普通に定価で買えてました。今や大変な貴重盤となってしまいましたね~。
あ、最後に、些細な事なんですが。
「幻の恋」は短調の曲ですが、最後の最後、たった1小節の1音だけ、長調に化けます(トニックはそのまま)。
♪幻の恋は続く 消えることもなく♪
の、最後の「く♪」の部分。
本当に、ココだけ。1音だけ転調して、突き放したような余韻で終わるんですよね。
僕は、こういう作曲をする人が大好きなんです~。
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コメント
僕にとってのシンセサイザーは、富田勲さんだったり、あるいは、ウォルターカーロスさんだったりするわけです。
本当に、新鮮な響きの楽器でしたが、あまりにも高価な楽器?だったので、LPを聴くぐらいしかできませんでした。
ELPやELOをへて、というのか、同じ頃、大野克夫さんに接する訳です。
ミッキー吉野さんだったりです。
今の機械は本当にコンパクトになりましたが、あの頃の機械はひと部屋全部シンセサイザーって感じでしたね。
今の沢田さんのバンドについては、よく知らないのですが、僕は一度ガラポンして欲しいですね…。
お金もかかるでしょうが、もっと深く、コンピューター?に頼らず、アナログに重い重厚感ある、といったところです。
まあ、無理でしょうね……。
投稿: 船越誠 | 2009年7月15日 (水) 22時56分
「転調」ってよく出てきますよね。
そっか~と思って聴いてみるんですが
悲しいことにいつもよくわかりません。
もう、転調って見ただけで身構えたりして。。
わかるようになりたいなぁ。。
>>「そのキスが欲しい」を知ってるのと知らないのとでは、
エライ違いだったと思います、ジュリー祭りって。
深く、傷ついております。。
投稿: シロップ。 | 2009年7月15日 (水) 23時36分
>最後の「く♪」の部分。
本当に、ココだけ。1音だけ転調して、突き放したような余韻で終わるんですよね。
あの一音 そしてジュリーの手
そのまま 広がっていく世界を感じますね。
今のツアーの
♪いい風よ吹け の最後も。。。
高野寛さんの♪幻の恋 聴いたことありますが
ジュリーが歌うとこんな風に世界が広がるんだ とびっくりしたのを思い出します。
投稿: くれーぷ | 2009年7月16日 (木) 00時11分
イントロの荘厳なオルガンはバロックな音ですね。
パイプオルガン奏者の知人がおりますが、シンセザイサーの類は好きじゃないみたいです。
クラシックの人間はエレクトリックな音にアレルギー反応を示すヤツが多くてこまりものです。
鍵盤やギターのことは判りませんが、この曲のストリングスはチェロのほうがおいしいですね。
しかし、バイオリンの高音がこういう風に使われてるときって、たいていおまけ扱いな気がします・・・
にぎやかしかよ・・・ちぇ~~・・・・・って失礼しました。
過去ログ、しっかり読ませて頂こうと思ったのですが、文章、長い・・。(人のことは言えませんが)
お若いのに博識で恐れ入ります。わからない用語もあって難しいけど毎日少しずつ取組みたいと思います。私の頭で大丈夫かな~
ところで、「近い旅」のところをクリックしたら、拙宅が出てくるんですけど、コレはどうゆう仕組みなんでしょうか・・・
私、何かしたんでしょうか・・・心配。
投稿: あいら | 2009年7月16日 (木) 00時53分
みなさま~。
素早いコメント、どうもありがとうございます!
☆
船越様
確かに昔は、部屋全体がシンセサイザー、といった按配でしたね~。
僕は、YMOのファーストアルバムの内写真がすごく印象に残っています。
何やら素人が手を触れられないような巨大な機械がドド~ンと。
時代ですねぇ。
ジュリーの今のバンドでは、シンセサイザーは音色の使い分けを中心としたスタイルです。
演奏楽曲のほぼ半分くらいで、泰輝さんは右手と左手で別の音色を担当し、大活躍しています。
ギターのお二人も、ベースレスにも関わらず、あの演奏・構成力はタダ事ではありません。
今のジュリーが求める、最高のスタイルだと思いますよ。
☆
シロップ。様
単純に言えば、短調は「悲しい感じ」、長調は「楽しい感じ」なんですが、う~ん、言葉だけではなかなか…。
それにしても。
「そのキスが欲しい」知らずのドーム参戦でしたか…。
いや、僕の場合、それも自分に対する気休めですから。
大体、シロップ。様と同じような感覚で、6時間半を過ごしたと思いますよ。
ただ、「そのキス」は1曲目ですからねぇ…って、うわ~すみません!
どうかお気をしっかりお持ちになって…。
☆
くれーぷ様
本当に同感です!
僕はDVDでしか知らないのが残念なんですけど、ツアーで「幻の恋」を歌うジュリーが、いつにも増して格別なジュリーである事は、解ります~。
そして。
なるほど…言われてみますと、今ツアーの「いい風よ吹け」には、93年ツアーの「幻の恋」に共通するたたずまいがありますね。
大宮が一層楽しみになってきました~!
☆
あいら様
うわ~、タッチの差で読まれてしまったようですね。
実は、チェロの部分をヴァイオリンと記憶違いして記述し、1度アップしたんです、この記事。
あいら様、ソコを読まれたのでしょう。
書き終えてから改めてCD聴いて
「うわ~!これ、ヴァイオリンじゃない、チェロやん!」
と、現在は書き直したモノがアップされておる次第です…。
トランペットをやるので、管は解るんですが、弦は普通に記憶違いがあったりするんです。
そんな理由もあって、あいら様のファンなのです。
で、例のページですけど。
僕も、理屈はまったく解りません。フィードを辿って気がつきました。
おそらく、「ジュリー」という検索フレーズで引っかかる、ある程度以上のアクセス数を持つブログをまとめたサービスなのでしょうが…。
で、更に、一定時間内でのアクセス数順に並び変えられているようです。
あいら様のおウチは、いつも上位にいらっしゃいますので、ここから遊びにいらっしゃっているお客様が多いはずですよ!
僕も、知らない間にこんなトコに自分のブログが載っかってて、驚きました。
あ、ご迷惑でしたらリンクは外しますので、遠慮なくおっしゃってくださいませ~。
投稿: DYNAMITE | 2009年7月16日 (木) 01時42分
あいらさんDYNAMITEさんご心配おかけしまして
犯人は私ですσ(^^;
ブラウザの負担を軽くするために、webお気に入りにしちゃいました
ここに入ってないところがお気に入らないわけではなくて
別ルートでこっそりお邪魔しているところもあります
公開しても罪はないかと思ったんですが
まずかったら削除しますのでご一報くださいませm(_ _)m
投稿: 匿名希望のメイ | 2009年7月16日 (木) 22時08分
って、アドレスも入れてなかった。追記します
こんなリンクがここに貼られていることに気が付きませんでした
投稿: 匿名希望のメイ再び | 2009年7月16日 (木) 22時10分
メイ様、いらっしゃいませ~。
メイ様の巡回ルートでしたか~!
それなら、あいら様も安心、安心。
僕も、最近はコチラから巡回させて頂いております。
いえね、「おっかし~なぁ」とは思ったんです、実は。
だって、「ジュリー」と「阪神」が合体してましたから。
リンク貼る際には「まぁ、ジュリーに絞っとくか~」と、細工をしましたが…。
「うわ~!阪神カットしてしもた!メイ様に怒られる~!」
と、一瞬ビビったのは言う間でもありません。
是非、遊びに来てくださる皆様にも活用して頂きたいです~。
投稿: DYNAMITE | 2009年7月16日 (木) 22時19分
メイ様
追伸です。
アンテナのシステム、ようやく理解しました。
メイ様が個人的に使用していらっしゃった巡回ルート、知らぬ事とは言え勝手にリンクしてしまって申し訳ありません~。
これから、僕も自力で作成しようと思ってますが、いつになることやら。
もしご迷惑でなければ、その日まで、このままリンクさせて頂いていてもよろしいでしょうか?
僕も、それまで知らなかった素敵なブログ様とコチラで見つけることができましたし、遊びにきてくださる皆様にもお役立てして頂きたいなぁ、と思っているのです。
たつのは、どうでしたか~?
湿度、高かったでしょうが、ジュリーの体調はどんな感じだったのでしょう…。
投稿: DYNAMITE | 2009年7月17日 (金) 21時00分
私も自分ちのリファラからはてなアンテナを知り、便利だなと思って
最近作りました
「おとなりアンテナ」で、同じ趣味?の人のリストが見られるみたいです
「勝手に登録して!」と不愉快な方もいらっしゃるかもしれませんが
そういう方はブログのrssとかピングー送信とか(私もよくわからないけど)の
設定を変えれば防げます。たぶん
DYNAMITEさんも作成されたようなので
できればリンクはそっちに貼り替えていただけた方が。
meylinのLINはもちろん可愛いリンちゃんのリンです
投稿: メイ | 2009年7月19日 (日) 22時47分
メイ様~
数日間、お借し頂けまして、ありがとうございました。
自分のアンテナ作成して、リンクを入れ替えたところです。
あのシステムって、登録サイトさんの重複が多ければ多いほど、ネット上のお席が近いのですね。
不肖DYNAMITE、バリバリにメイ様のお隣席にやって参りました。
今後ともよろしくお願いいたします~。
投稿: DYNAMITE | 2009年7月20日 (月) 00時05分
1989年〜1993年,吉田建さんプロデュース時期。その頃に発表された楽曲,から好みを選びますれば、
『坂道』『単純な永遠』
『幻の恋』
…三曲を挙げてみました。
「沢田研二の私生活」「歌手と大衆が共に生きる現実」
「幻影に潜む実像」
〜そういう順に並べました。
この選びかたで、性格やら,ジュリー把握度、とかが判明しちゃいますかねぇ。。
投稿: 鉛筆 | 2009年11月13日 (金) 03時59分
鉛筆様。
神出鬼没に、いらっしゃいませ~。
結構意外な選曲です。「幻の恋」は鉛筆様はさほどでもないかと思っておりました。
「坂道」はイメージドンピシャですね。
その選曲方法で2000年代の楽曲を鉛筆様にご推薦するならば…。
「無事でありますよう」
「カリスマ」
「黒いピエロと黒いマリア」
といった感じでしょうか。
とにかく、「来タルベキ素敵」をまず聴いて頂きたいです~。
投稿: DYNAMITE | 2009年11月13日 (金) 23時26分