沢田研二 「FOXY FOX」
from『S/T/R/I/P/P/E/R』、1981
1. オーバチュア
2. ス・ト・リ・ッ・パ・-
3. BYE BYE HANDY LOVE
4. そばにいたい
5. DIRTY WORK
6. バイバイジェラシー
7. 想い出のアニー・ローリー
8. FOXY FOX
9. テーブル4の女
10. 渚のラブレター
11. テレフォン
12. シャワー
13. バタフライ・ムーン
----------------------
今日は、「若き日の手紙」記事に続きまして、再びヴォーカルスタイルという観点からジュリーナンバーの特性に迫ります。
前回、ジュリーのヴォーカル適性は徹底的に洋楽系である、と書きましたが、ではその適性が本格的に反映した最初のアルバムは何であろうか、と。
実は『JULIEⅡ』から『チャコール・グレイの肖像』までの70年代作品は相当洋楽的なニュアンスのヴォーカルを聴くことができます。
ただ、メロディーやアレンジはもとより、ジュリー自身の楽曲解釈も、その頃はまだ模索の段階でした。
『TOKIO』でひとまず歌謡曲とロックを融合させ、『BAD TUNING』でバンドアンサンブルを一新、『G.S. I LOVE YOU』で洋楽ロックフェチ・銀次兄さんや佐野元春さんが絡み・・・と、アリバムリリースごとに徐々に仕込まれてまいりましたこのテーマ。
歌唱するジュリー、制作スタッフ、演奏者・・・すべての関係者が、「カッコいい洋楽たれ」と完全に意思統一して作り込まれたアルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』にて、ジュリーヴォーカルの洋楽適性はようやく結実を見るのです。
私事ですが、数年前、ジュリ友・YOKO君と競い合うようにして聴いていたポリドール時代の再発CD。
僕が初めて『S/T/R/I/P/P/E/R』を聴き、大興奮して書いた彼宛のメールが今も残っています。曰く
~「♪夜しか似合わぬ歩きかた♪」の「た」が神!~
なんのこっちゃ。
という事で、邦楽的要素を徹底排除した吉田建さん渾身作曲のブリティッシュ系ロックナンバー「FOXY FOX」、伝授です!
いえね、前回に引き続いて、ヴォーカル語尾の話なんです。
語尾を伸ばすのではなく、叩ッ斬る!というのは(主に60年代イギリス産の)洋楽ロックの特性でして、その際なるべく母音をカットするように作詞して、歌うわけです。
日本人の多くが無理矢理英語詞を歌う際、一番ダサイのは、発音記号の無い部分に勝手に母音をくっつけてしまう事です。
例えば「rock」という単語なら「ck」の部分を「KU」と発音してしまう。これは日本語独特の感覚で、英語本来の発音では「K」のみ。「U」という母音ニュアンスは無いんです。
「FOXY FOX」で先に例を挙げた箇所。
「歩きかた♪」というのはまぁ日本語なわけですから、発音としては「ARUKIKATA」となります。
ただ、楽曲が完全に洋楽を意識して作られているため、ジュリーもそれっぽく歌わねばなりません。そこで、「母音をギリギリまで短めに発音する」というジュリー独自の(当時ね)歌唱法が編み出されます。
「歩きかた」の「た」(TA)の「T」の部分を強く、母音の「A」は空中に放り出すような感じで歌うという。
すると、ソリッドでカッコ良い洋楽的なニュアンスがヴォーカルに注入されるのです。
洋楽的なヴォーカルニュアンスを表現する場合、最も重要な日本語は「たちつてと」「かきくけこ」だと僕は思っています。
「らりるれろ」を巻き舌にすれば洋楽っぽい、というのは誰でも思いつく事で、それはかえって日本的解釈のような気がして、味が悪いケースが多々。
「た」行と「か」行の子音・母音をいかに工夫してメロディーに乗せるか、そこを是非注目して頂きたいと。
ジュリーはその点、ほぼ無敵の表現力を発揮します。それは、アルバム「S/T/R/I/P/P/E/R」で初めて本格化したスタイルなのです。
そんなヴォーカルスタイルが聴けるのも、楽曲がそれを引き出しているから。
先にも述べましたが、「FOXY FOX」には邦楽的要素が全くありません。この当時の吉田建さんだからこそ、ここまで徹底した作曲ができたのだと思います。
東芝EMI時代のプロデュース期になると、全体の音を纏めるまでに大成長してしまう建さんですが、さすがに「FOXY FOX」作った時はまだまだ若い。「俺のベースを聴けい!」とばかりに16分音符で飛び跳ね炸裂するフレーズの自己主張が、微笑ましかったり。
これ、後のアルバム『彼は眠れない』収録の「噂のモニター」と比較するととても興味深い。
どちらも徹底的に邦楽要素を排した楽曲ですが、建さんの視点が演奏面からアレンジ面へと変化していってるのがよく分かります。
アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』はヴォーカルのみならず全体ロック漲る大変な名盤です。ロンドンレコーディングということで、現地のパブロッカーがゲスト参加していたり(「バイバイジェラシー」記事参照)するのも、一部のリスナーには嬉しいオマケ。
でもやっぱり、ヴォーカルを聴いて、その上でロッケンだと感じてほしいのです。
ヴォーカルスタイルの話・・・「か行」の例で言えば、「想い出のアニー・ローリー」。
「ドレスの裾なんか」の「か」が神なんです!(分かりにくいな俺)
で、蛇足ではありますが、管理者しばらくお留守にします。コメント即レスできませんがどうかご容赦を。お返事は、必ずいたします。
ジュリーヴォーカル分析カテゴリーの記事につきましては、次回「ダブルトラック」という特殊なミックスによる歌唱スタイルについて書こうと思っています。
課題曲は「人待ち顔」か「影~ルーマニアン・ナイト」のどちらか。
どっちが良いですか?
先輩方のみなさまの御希望など、お聞かせくださいませ~。
| 固定リンク
「『S/T/R/I/P/P/E/R』」カテゴリの記事
- 沢田研二 「オーバチュア」「バタフライ・ムーン」(2017.12.30)
- 沢田研二 「バイバイジェラシー」(2015.09.26)
- 沢田研二 「テレフォン」(2015.05.23)
- 沢田研二 「想い出のアニー・ローリー」(2014.04.14)
- 沢田研二 「渚のラブレター」(2014.12.08)
コメント
>「ドレスの裾なんか」の「か」が神なんです!
分かりますわかります!そこ!私大好きなんです
でもなんでぞくっとくるのかわからなかったけど、そういうことなのか~
母音を切ってるんですね
このアルバムは大のお気に入りですが
ロックっぽいのはロンドン録音のせいかと思ってました(^^ゞ
ジュリーは自分のボーカル技のことは言わないから
(あるいは企業秘密にしてるのかも)
最近気がついたんですけど、ストリッパーの♪ヒールを脱ぎ捨て♪の「て」が
レコードと音が違うんですね
もしかしたらテレビで歌ってた時からそうだった?
レコードの語尾上げの方がカッコイイのになあ
投稿: メイ | 2009年5月 3日 (日) 01時16分
メイ様~
コメントありがとうございます~。
レス遅れて申し訳ありませんでした。
「ドレスの裾なんか♪」の「か」にヤラレた先輩がいらしたのを知り、しかもそれがメイ様とあっては、「やっぱりな~」と嬉しく思います~。
「ストリッパー」の頃のジュリーのロックな歌唱法は、本当に神だと思ってます。
語尾だけでなく、「回るレコードは♪」の「レコード」もかなりイイですよね~。「ド」の発音が「ダ」と「ド」の中間くらいで(細かい)。
しかし。
「ヒールを脱ぎ捨て♪」の「て」は初めて教わりましたぁ!
勉強させていただきます。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年5月 5日 (火) 23時02分
こんばんは~
佐野さん作の曲とストリッパーが入ってると、
単純な理由で買ったアルバムにそんな
奥深いことが隠されてたとは。
....隠されてたわけじゃないですね、
私が気づかなかっただけで。
またひとつ、勉強できました~
「て」は私も気になってました。
でも、ファンの方の間では周知の事かと。。。
YouTubeで見た TV初披露とされてるのも
すでにアルバム(シングルも?)とは「て」が違ってると...
あぁ耳に自信がありません!
是非、DVD等とガン聴きで比較していただき
こちらもプチ伝授としてお願いしたいです。。
次回「ダブルトラック」ということですが
その用語についても説明希望です~
そして、後輩の分際ですが「影」の方で
伝授していただけるとうれしいです(*v.v)。
投稿: シロップ。 | 2009年5月 6日 (水) 00時39分
シロップ。様、いらっしゃいませ~。
恥ずかしい事に「て」の話についていけません(汗)
シングルレコードと違う、という事でよろしいんでしょうか?
そういえば僕は子供時分、ベストテンで観ていた頃に
「麗人」の「たったひとつあ~いするだけ~♪」
直後の
「あぁぁ!」
っていう軽めなシャウトがすごくカッコイイ!と思っていたんですが、今色々観てみると、映像によって歌い方がマチマチですねぇ。
「影~ルーマニアン・ナイト」。
近日中にイカせていただきます!
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年5月 6日 (水) 23時17分
「て」で引っぱってすみません。。
瀬戸口さんが「ついていけない」とおっしゃるとは!!
あのですね、
レコーディングしたものと、
テレビ、ライブで歌った時の「て」が違うということだと。。
シングルとアルバムが違うかどうかはわからないんですが...
すみません、私相当気になってるらしいです、「て」の件が。
投稿: シロップ。 | 2009年5月 7日 (木) 18時25分
シロップ。様
分かりました!
「て」問題ではなく「ぎすて」問題だったのですね。
「ヒールを脱ぎ捨て♪」の部分
レコードの音階は
「ミ~ミミ、ミシミソ♪」
LIVEとかだと
「ミ~ミミ、ミミミミ♪」
確かに、語尾の「て」はソの方がカッコいいですねぇ。
次の「ルージュを脱ぎ捨て♪」がソで始まりますから。
音階にオーガズムが感じられるのではないかと。
でも、今までLIVEの歌、僕は普通に聴いちゃってました(汗)。
頭で考えるより感性が問われるメロの違いなのでしょう。
この辺りは、みなさんさすがに女性ファンだなぁ、と。
って、ひょっとして今さら気づいてるのって、僕だけ…?(汗汗)
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年5月 8日 (金) 00時14分
「歌声を伸ばしたあとビブラートせず切る」〜だから氏に好感を持ったんです。
子供の頃観ていた歌謡番組に出演していた面々で,その歌唱法をしていたのは彼だけだったでしょうからねぇ、思うに。
更に言うと、自分が唄う場合,演歌を選ぶ技量は無いし。。
だから、この唱法は都合よかったんです。
「て♪」問題浮上していますね。
当時、氏のラジオ番組を聴いていた方々は御存じのおはなしを挙げます。
TVで[ストリッパー]を披露し始めの時期に、彼が平尾昌晃さんに遭遇。
「いい曲だねぇ。テレビでは重たく唄ってるでしょ、レコードと同じように軽い感じで歯切れよく唄うほうがいいんじゃない?」と言われて、
彼は「重たかったかなぁて思って,軽く弾んで唄うようにしてますよ」と語っておりました。
さすがロカビリーシンガー経験者の先生。そして当時は素直だったんですねぇ沢田さん。。
投稿者が考えるに、「て♪」の唄いかたが,やはり近年、ご記述のようになってしまったのは…
楽だから癖になっているか、或いは「て」の後に控えている「裸にならなきゃ」の
[きゃ♪]を際立たせなければならぬという無意識が働いているのではないか、
ということです。。
(分析にはエネルギーが要りますね)
投稿: 鉛筆 | 2009年5月 8日 (金) 19時51分
鉛筆様、いらっしゃいませ~。
実は、レコードヴァージョン通りに歌っている映像を探している最中なのですが、まだ見つからないのですよ~。
今日たまたま、新しい記事に関連して「快傑ジュリーの冒険」を観返してみたのですが、「て」の部分はやっぱりミ音階で歌っていらっしゃいました。
もし、ソ音階で歌っている映像を御存知でしたら、何卒御伝授願います~。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年5月 9日 (土) 01時09分
瀬戸口さまへ
そのDVD『怪傑〜』での歌唱は、重たく唄っている時期です。昌晃先生の指南どおりに唄うようになったのは、[薄紫色の衣装で同系色の鉢巻きをし髪を立たせた扮装]で番組出演した時期です。
「ザ・ベストテン」とか「その年の紅白歌合戦」とか,では、
E音かG音かは判りかねますが,「てぇぅ」と重く篭らずに「て♪!」と放つように歌ってました。
YouTubeとか誰かの録音録画とかを,探してみてはどうでしょうか。。
投稿: 鉛筆 | 2009年5月 9日 (土) 14時03分
鉛筆様
ありがとうございます。
ベストテン映像を探してみますね~。
それにしても、ファン歴が長い方々はみなさんそうですけど、すごい記憶力ですね~。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年5月10日 (日) 00時24分