沢田研二「感情ドライブ」
from『CROQUEMADAME & HOTCAKES』、2004
1. オーガニック オーガズム
2. whisper
3. カリスマ
4. 届かない花々
5. しあわせの悲しみ
6. G
7. 夢の日常
8. 感情ドライブ
9. 彼方の空へ
10. PinpointでLove
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ジュリーの90年以降最近のアルバムをほとんど知らずに2008年を迎えてしまった、と、当ブログに散々書き、先輩方にひたすら頭を下げてきたのですが、逆にそれは僕にとってすごく贅沢な日々を与えてくれました。
次のコンサートのため、勉強!と思い買ったアルバム、傑作。すぐに他のアルバムも聴いてみると、傑作。更にまとめて買う、またこれが傑作揃い。
先輩の皆様が長い年月をかけ、1年ごとに味わってきた感覚およそ10数年分を、1ケ月で体験してしまうという絶頂。こんな贅沢がありますかいな。
その課程で、覚和歌子さんという素晴らしい女流作詞家を知ったり、ジュリーのセルフプロデュースという形態がすごく醍醐味にあふれている事を肌で感じたり(これは、1年ごとのリリースでは解りにくかったのでは?一気に聴いた身としてはそこが一番ラッキーだったかもしれません)と、それはもう、素晴らしい毎日でした。
そうして、最近のジュリーが以前にも増して1にも2にもロックであり、作詞・作曲がこのコンビなら間違いナシ!と自然に頭に叩きこまれてしまったのが、GRACEさんと白井良明さん。
ジュリーのアルバムがロックである、というその証明のような曲ばかりを書き続けているお二人。
僕よりもさらに若い世代にジュリーを伝え広めていく中で、確実に鍵(手がかり)となるのが、このコンビが書いたロックナンバーなのです。
そんな中から今回は、いてまえ隊・しゃん様(御本人の自覚がどれほどかは不明ですが、ジュリーマニアの間ではハッキリ言って今や超有名人。冗談ではなく、近い将来のマスコミ取材対応、心の準備などなさっておく事をお勧めします。決め今2daysで最もブレイクするのは、いてまえグッズである、と僕は確信していますから)より光栄にもリクエストを頂いた、最高にブッ飛んでるナンバーを。
アルバム「CROQUEMADAME & HOTCAKES」より、「感情ドライブ」、伝授!
まず、恐る恐るGRACE姉さんの詞に触れますと、ジュリーナンバーでここまでモロな詞は、他に無いです!敢えて言えば「オリーブ・オイル」くらいでしょうか。
(3月2日註:すみません、ありました。シングル「おまえがパラダイス」のB面曲「クライマックス」!作詞は糸井重里さんです。)
そう言えば、「オリーブ・オイル」は覚和歌子さんの詞ですが、タイトルや内容について、ジュリー自身のリクエストがあり、あまりのキワドさに、覚さんが手綱を締めてこのタイトルに落ち着いた、という話があります。
ジュリー、セルフ・プロデュースの醍醐味は、こんな逸話からも窺えるわけです。
そう考えると、今一番ジュリーの身近にいる作詞家さんと言えば、GRACEさん。ツアーメンバーでもあるのですから、ジュリーと直接話す機会も多いでしょう。
「良明さんがものすごいブッ飛んだ曲を作ったから、ここは是非、全開でブッ飛んだ詞を書いて」
ジュリーからそんなサジェスチョンが、あったのかどうか。
「感情ドライブ」ですよ。この語感をナメてはいけません。野暮な事言いますが、通常ロックで「ドライブ」と言えば9割方アノ方面です。
詳しい内容は、まぁ実際聴いて頂いた方が早いでしょう。と言うより、これ以上は公の場では書けません、残念ながら。
ただ、GRACEさんも、この曲でなかったらここまでは書かなかったでしょう。「感情ドライブ」での白井さんの曲作りとアレンジは、明らかにトランス、倒錯といったイメージを狙っています。
この曲に限らず、白井さんの作曲には独特の個性があって、ガツ~ンと次々に落下していくような転調を得意としています。そしてその特徴故に、楽曲構成をして、Aメロ・Bメロ・サビ、と言うよりは、全く異なった楽曲のヴァースを繋ぎ合わせた2部構成・3部構成と表現したくなります。こう言うと尺の長い楽曲を想像されるかもしれませんが、白井さんの曲は比較的短めのものが多く、その中で構成変化が目まぐるしく現れる、という、まぁこれは失礼ながら一種の変態路線です。
「感情ドライブ」に話を戻し、GRACEさんの詞を合わせて解釈しながら白井さんの狙いを紐解いていきますと、まずAメロ(第1部)、ハードなギターコードリフで押します。ここでは徐々に昂ぶる感情を表現しているものと思われます。この部分では主人公は一人暴走です。
Bメロ(第2部)は、接続を表現。ハードに叩きつける第1部から一転、流麗なメロディーにより、ドライブ相手とのやりとりが見えてきます。
サビ(第3部)では、融合。純粋3部構成のコムズカしい楽曲なら、理屈としてここで曲は終わりですが、これはロックミュージックですので、ここまででようやく1番終了。
すぐに2番に突入するのはナンなので、当然間奏が入るのですが、白井さんはここに官能タイムを導入します。
しゃん様が「この間奏は一体何がどうなっているんですか?」とおっしゃっていた部分ですね。
本当は理屈なんて必要ないのです。間奏でリスナーをトランスさせる、という狙いがハッキリしているのですから、「何だ何だワケ解らん!」と圧倒されながら聴く、というのが正解で。
まぁ、せっかくですので分析しますと、ここはギターリフに合わせて4分の11拍子になってます。
譜面だと「4分の4」+「4分の4」+「4分の3」という書き方になるでしょう。最後の「4分の3」の部分は、いわゆる♪ブンチャッチャッ♪というワルツの4分の3ではなく、4分の4の最後の1拍が、強引に削ぎ取られている、という感覚です。
変拍子で有名な洋楽の例を挙げますと、ピンクフロイドの「MONEY」という曲があります。御存知の方も多いでしょう。これは「4分の4」+「4分の3」の7拍子なのですが、最初から最後までカッチリしたギターリフが継続しますので、ギターを追いかけてさえいれば、道に迷うことはありません。
ところが、我等が「感情ドライブ」の間奏はちょっとタチが悪い。
2回し目までは、渋いリムショットに合わせて淡々と進むワケですが、3回し目で他の楽器が噛みこんできたと思ったら、ギターリフがちょっとヤンチャを始めます。
リフの最初の1音が、前のリフの最後の1音と繋がって、1拍前のめりに演奏されるのです。これはシンコペーションと言う技術。
僕は中学時代ブラスバンドをやってましたが、吹奏楽の課題曲は難易度別のランクがあって、シンコペーションの頻度が高い曲ほど、ランクが上がります。中には、主旋律など皆無で、各楽器が至るところでシンコペーションし、その組み合わせで楽曲が成立しているという、ほとんど技術を磨くためだけに作曲されたような課題曲もありました。僕は正直ギブでした。
これ要するに、「感情ドライブ」の間奏は演奏が難しい、という事なのです。ギターリフ弾いてる白井さんではなく、周りで合わせている皆様の方が、です。
そんなわけですので、聴く人は無理に理解などする必要はありません。ひたすら圧倒され、たじろぐよろし!
間奏後の2番は1番と同じ構成ですが、サビのダメ押し後、最後の最後に、オーガズムで終了。
各楽器、ちゃんと「トビタッ」っております。
で、続く曲が「彼方の空へ」・・・って、一体何を考えているんでしょうかこのアルバムの曲順は!
このナンバーの伝授だけで伝わったかな、とは思いますが、「CROQUEMADAME & HOTCAKES」は、完璧にロック一色のアルバムです。「忘却の天才」よりもハードさでは上だと思います。
冒頭の「オーガニック・オーガズム」は白井さんらしい非常にカッコ良いナンバーで、これがシングル。
ドームで演奏された「届かない花々」は収録曲で最も僕が気に入っているナンバーで、一見バラードなのですが、その実サイケデリック期の洋楽へのオマージュがあったり、ロン・セクスミスやアリスタ時代のキンクスが混ざっていたりと、非常に完成度の高い曲。
「カリスマ」「PinpointでLove」では土屋昌巳さんが作曲を手がけ、ジュリーの世界に新たな一面が加わりました。
先に少し触れました「彼方の空へ」は、GRACEさんの詞が先立つ人へ向けたレクイエムなのですが、曲は演奏時間3分にも満たないスッキリした潔いロックで(作曲はジュリー自身)大変好感が持てます。
あと、「G」の覚和歌子さんの歌詞が最高に好きで、「不自由選ぶ、それも自由だ」はもはや僕の座右の銘となっております。
以上、色々ウンチクは並べましたが、一番スゴイのはとにかくヴォーカル!
どれだけ理屈をコネても、最後はジュリーのヴォーカルが、全てを凌駕するのです。
ゴタク並べてる暇があったらもっと聴けぃ!と自分を戒めまして、今日のところは。
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コメント
こんばんは~。
「CROQUEMADAME & HOTCAKES」
はい!あります、部長!
この頃になってようやく、
CDが揃ったわけじゃないんですが
伝授の曲が「あーあるある!」と
取り出せるようになってきました。
でも、まだ聴いてません。
「あんじょうやりや」は
「な?な?」があまりにも気になって
DVD見てみました。
「あんじょうやりや」のDVD...
。。違いました、「2001運動会」でした..
私にはまだ早かったかも。。。
(いや、そんなぶりっこする年じゃないんですが)
だから
「感情ドライブ」は歌詞を読んだだけに留めておきました。
決して、こういうジュリーが嫌いなんじゃなくて、
私にとってはほとんどすべてが新曲なんですね。
だから
「愛の出帆」いいわぁ 泣ける。。。
え!? 1977!?
「LOVELOVELOVE」いいわぁ 泣ける。。
え!? タイガース!?
なんて階級なわけで。。。
ジュリ勉(て言うんだそうですねぇ)するなら、
最初から始めなさいってことなんでしょうか。
(そんなヒヨッコにも及ばない私には
感情ドライブ、まだまだ手が出せません。)
CDじゃなくて、DVDの音声でばかり
聴いてるから こういうことになるんですが。。
今後は 伝授をジュリ勉にきっちり役立てる為に
CDもちゃんと聴こうと思いました。
(聴いてます)
そこでお願いがあります。
タイトルのあとにリリースした年とアルバム名を入れていただけないでしょうか?
もしくは、伝授本文の冒頭に。
伝授の数もだんだん増えてきたことですし。。
よろしくお願いします。
投稿: シロップ。 | 2009年2月 4日 (水) 23時00分
瀬戸口さま。
この曲同様 がつんときましたわ。
なんでしょう 読んでいて わからない専門語が並んでいるというのに、高揚感があります。最高です。にーさん、ホレていいですか
ちょっと 感動して・・・・・つい・・・
つい・・・
いてまえTOPでご紹介しちゃいました。
いっぱいの お勉強中の同志の方々に読んで欲しいですねーー。
投稿: しゃん | 2009年2月 4日 (水) 23時12分
シロップ。様、いらっしゃいませ。
おっしゃっている事、すごくよく解りますよ。
僕は、特に近年のアルバムについて言える事ですが、最初1回聴いた段階では、「なかなかイイじゃん」って程度の感想なんですよ。
でも、5,6回と聴いていくと、「スゴイ!名盤だ!」となってしまうのです。
ですから、シロップ。様のように、慌てずじっくり聴く方々の方が、よりゾクゾク感があると思いますよ。
それから。
僕等の年代は、得です。
何故なら、多くの先輩方から見ると、「若い」からです!
遠慮なくぶりっこして下さい!
「勘弁して、君は若い♪」とか言われましょう、お互いに。
ジュリーファンで良かった~。
という事で、またのお越しをお待ちしております~。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年2月 5日 (木) 00時56分
しゃん様、大胆なコメント、ありがとうございます。
頭の中で、「きめてやる今夜」がかかりました。
ただし、2番の。
「見せかけだけだぜ、俺は♪」って。
合同ジュリカラ実現の暁には、しゃん様のために歌わせていただきたいと思います。
デカデカのリンク、いつもながら大変光栄に感じておりますです。ありがとうございます。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年2月 5日 (木) 01時00分
いやーさすがデス。すばらしい。
やはりプレーヤーの方ならではの視点の鋭さ&深さで大変勉強になります。
自分は楽器はだめで、ただただ聴くだけの身ですので…。
しかもロックはなぜか避けて、R&BとかJAZZとか黒い方面ばかり聞いてきた
ものですから、瀬戸口サマの解説は新たな発見ばかりです。
ついついここ数年のアルバムは後回しで聞いてしまいがちなんですけど、
今日さっそく、クロックマダム聞きなおします。
投稿: canna | 2009年2月 5日 (木) 13時57分
canna様、いらっしゃいませ。
僕の方こそ、メイ様のところでコメントを書いていらっしゃる皆様には、日々勉強させて頂いております。
皆様、現体験でいらっしゃいますからね~。
初めて知るお話ばかりで。
特に、今の自分と同じくらいの年齢だった頃のジュリーの行動にすごく興味があります。
ちょうど吉田建さんのプロデュース期あたりなのですが。
また色々と教えて頂きたいと思っております。
よろしくお願いいたします~。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年2月 6日 (金) 00時19分
目玉焼きCDはあまり聞いていなかったので、教材?だ、とかけてみました。
わ、クール。
ライブで聞きたい!DEEP PURPLEみたい。
ロックでドライブだとそういう意味合いなんですね。初めて知りました。
ドライヴィングナンバーとは、キッズが車を飛ばす時のBGMになるよう、ハードロックアルバムに1曲は入るものだと思っていました。はー、ここに来るととても勉強になります。
男らしいけれど、男臭くない
ハイソじゃないけど、下世話にはならない
色っぽいけれど、崩れない
上手く形容できないジュリーワールド。覚和歌子さんみたいにボキャブラリーがあればなあ、とつくづく思います。
投稿: morie | 2009年2月 6日 (金) 00時49分
morie様、いらっしゃいませ。
男らしいけれど、男臭くない
ハイソじゃないけど、下世話にはならない
色っぽいけれど、崩れない
って…トテツもない名言です!
その通りです、本当に。
今後、ライブでやる日は来るのでしょうかねぇ。
すごく体力使いそうだ…。
楽しみに待ちましょ~。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年2月 6日 (金) 01時00分
瀬戸口さま
じっくり解説読みながら聞こうと、通勤電車で
受験生のごとく没頭してお勉強。
読んでいて・・・
うかつにこの曲がスキだー・・しかも死ぬほどスキだー と言って良かったのだろうか。 と思いました。ポッ
でも、とにかく LOVE
ロッケン
。ということで今後も大好き宣言は続けます。
サイコー
感情ドライブ
投稿: しゃん | 2009年2月 6日 (金) 19時26分
しゃん様
僕も「スゴイ曲のリクエストが来たな~」とは、思いましたよ。
しかしですね。
この曲に惚れたしゃん様の耳は素晴らしい。
伝授記事の後に、何人かの方がこの曲を聴き直して下さっているみたいだし、とても嬉しい事です。
本日、いてまえトップページの自分のリンクんとこにある
買いな!な!な!→「クロックマダム」
を、何気なしにポチッとしてみましたところ、
「あっ、このレビュー、しゃんさんかぁ!」
と、初めて気づきましたです。
僕も数年前の「ジュリー堕ち第一期」(ポリドール再発CDを聴きまくっていた頃)には、AMAZONにたくさんレビュー書いたものです。
探してみてね~。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年2月 6日 (金) 22時09分
瀬戸口さま!
大変です!!!!!
今、「感情ドライブ」みたさに買った、クロックマダムのDVD(2004年ツアー)観ているのですが・・
これは観なくてはなりません。
かなり ロッケンです。やばいです。
ジュリーは何に反抗しているのでしょうか。どんなメッセージを発しているのでしょう。
しかも、お着替えタイムで、鉄人バンドたちは、クリムゾンやらはるんですよ。アー驚いた涙。
ぜひ ご覧ください
投稿: しゃん | 2009年2月 7日 (土) 14時22分
しゃん様、いらっしゃいませ。
ブツのお手配、ありがとうございました。
さて、
「クロックマダム」DVDですか…。
そんな事言われたら、今にもポチッと…ポチッと…あぁ、してしまった。
1週間でDVD3枚購入は、さすがにヤバイなぁ…。
「ワイルドボア」を観て思ったのですが、音質と映像が、90年代のDVDに比べて明らかに向上してるんですよね。
「クロックマダム」もスゴイんだろうなぁ。
楽しみです~。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年2月 7日 (土) 20時17分