沢田研二 「美しい予感」
from『JULIEⅡ』、1971
1. 霧笛
2. 港の日々
3. 俺たちは船乗りだ
4. 男の友情
5. 美しい予感
6. 揺れるこころ
7. 純白の夜明け
8. 二人の生活
9. 愛に死す
10. 許されない愛
11. 嘆きの人生
12. 船出の朝
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井上堯之さんが引退するという。
僕は昨夜、YOKO君から電話で聞いて初めて知ったのだが、やはりあちこちのジュリー関連サイトで多くの方々が心配していらっしゃる様子。引退の理由が、肺の難病による体調不良、という事だからだ。
身体の事は本人にしか解らない。考えた末での決断だと思うし、体力を酷使するギタリストとしての引退は仕方ないと思う。ファンとしては体調の回復を願うばかりだ。ただ、せめて曲作りだけでも続けてくれたら・・・と思ってしまう。
僕には、井上さん作曲のジュリーナンバーで、極上に、圧倒的に、日替わりに交代する「ジュリーナンバーで1番好きな曲」の常連さんにもなっている、とてつもなく好きな曲がある。『JULIEⅡ』収録の「美しい予感」が、それである。伝授!
『JULIEⅡ』は、いわゆる、コンセプトアルバムというヤツである。60年代後半から70年代にかけて、イギリスのロックを中心に大流行したLPの作り方で、全体にストーリーがあり、収録曲すべてに共通のコンセプトを持たせたアルバムを指して言う。
父親を知らずに育った少年が、母の面影を引きずりながら放浪の旅に立ち、名もない港町に辿り着いたところから、『JULIEⅡ』の物語は始まる。
小さな店で雇われ仕事を始め、そこで少年は、逞しい海の男達に出会い、成長していく。その中でも抜きん出て男臭い一人の船乗りに特に可愛がられ、少年はその船乗りに自分の中に描いていた理想の父親像を重ねていく。
そして迎えたアルバム5曲目。長い出航へと旅立つその船乗りを港で見送る、若く美しい彼の夫人に、少年は一目惚れしてしまう・・・という、その一目惚れの瞬間を描いた楽曲が、「美しい予感」である。
コンセプトアルバムだから、作詞については全曲山上路夫さんが担当。作曲は名うての方々の豪華な競作となっていて、加瀬さんも大野さんもいるし、すぎやまこういち、筒美京平、かまやつひろし、東海林修・・・と凄まじいメンツが揃い、まさに1曲入魂で作曲している。
そんな中、井上さん入魂の作品は、アルバムのストーリーにおいて、最も瑞々しく、最も清らかな場面の楽曲に割り当てられた。
とにかく、極上に美しいメロディーである。Aメロとサビが同じ和音進行なのに、メロの起伏が全く違う。Bメロ部は、当時のプログレの洗礼をタイムリーで受けた人でないと書けない、鋭い展開を見せてくれる。ラストのサビリフレイン部での転調は、何とハ長調からホ長調まで跳ね上がっている。歌うのがジュリーでなかったら、とても太刀打ちできない音域なのだ。
このアルバムのジュリーの歌唱は、声に厚みが増して安定した80年代のそれとは違った意味で素晴らしく、僕などはまるで歌の神のように思っているが、「美しい予感」はその中でも1、2を争うヴォーカルの出来映えである。よくぞ井上さんがこのメロディーを作ってくれたものだ、と思う。奇跡の組み合わせである。
アルバムのストーリーはこの曲以降、歓びの絶頂を経て、次第になにやら暗雲が垂れ込め、美しくも悲劇的な結末を迎えるのだが、これは実際聴いて頂かないと伝わりにくい。
僕は、一番好きなジュリーのアルバムは、ダントツでこの『JULIEⅡ』である。2番目に好きなアルバム、というのは日替わりなのだが、トップだけは常に変わらない。収録曲で最も有名な「許されない愛」も、シングルとして1曲単独で聴くのと、このアルバムの流れの中で、ストーリーのワンシーンとして聴くのとでは、全く印象が違うのだ。事実僕は、「許されない愛」を普通に知っていたけれど、このアルバムを聴くまでは、決して特別に好きな楽曲ではなかったのである。
井上さんに話を戻すと、彼が作曲を手がけたジュリーナンバーで、例えばアルバム『TOKIO』収録の「DEAR」も相当に好きな楽曲。僕の中で井上さんは、寡作だが素晴らしい作曲家として、不動の地位を占めている。
今回、療養に専念、という結論を出した井上さんの一刻も早い回復を祈りつつ、またいつかジュリーに楽曲提供してくれるのを首を長くして待っていたい、と思う。
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コメント
はじめまして。
8日にこちらのブログを知り、これはただ事ではないと驚愕しました!
流し読みなどでなく、きちんと読まねばと12月と1月の記事をプリントアウトしました。
そうです、ジュリーファンです、俄仕立ての。瀬戸口さんは何度も「勉強します」とおっしゃっていますが、それは私のこと。
好きだ好きだ言いながら、何にも知らない。
昨日、渋谷の初日に縁あって行くことができましたが、知らない曲もいくつもありました。
そうそう、その上京する車中で プリントアウトした記事を まるで会議の資料でも読むようなふりで ラインマーカー片手に読ませていただきました。
太ったの痩せたの、金髪だ衣装だという前に まずはこういうお話が聞きたかったんだなぁとつくづく思いました。
そしてこんな男性ファンのことをジュリーが知ったらすごく喜ぶんじゃ。。。
11日のライブまでに このコメントを読んでいただけるかわかりませんが
どうかひとつ、ライブレポをUPするつもりで見てきてほしいです!
41年生まれじゃ同じだわと勝手に親近感を持ってしまってますが、どうかレポお願いします!
投稿: シロップ。 | 2009年1月11日 (日) 01時09分
コメントありがとうございます!
同い年ですかぁ、それはすごく嬉しいですね、やはり自分達の世代にも、ジュリーファンは数多くいるのですね。
我々の世代の弱点であり、特性は、「タイガースを知らない」という事なんですよね。
さらに言うと、どんな音楽を聴き出すか、に興味を持つ年齢(一般的にそれは中学生くらいですよね)になった頃、すでにTVの中のジュリーは大人のロッカーであり、横にはもう柴山さんがいたわけです。
それはそれで誇れる事だと思いますが、やはりジュリーと同世代のファンの方々のエネルギーや知識、愛情は凄いですよ。そこは心底羨ましい…ドームではそれを痛切に感じたのです。
我々としては、勉強して、レベルアップしていくしかありませんね。
僕はこれから渋谷に向かいますが、今日のライブも、知らない曲にたくさんぶつかる覚悟でいます。
レポは、勿論やりますよ~。UPは、CCレモンの最終日が終わってからにします。最終日や、大阪のチケットしか持っていない先輩方に、ネタバレさせては失礼ですからね。
また支離滅裂な文章になるかとは思いますが、どうかよろしくおつきあい下さい。お待ちしてますよ~。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年1月11日 (日) 11時48分
美しい予感、とっても美しい曲です。この頃のジュリーの声は、初々しく繊細で歌い方も素直ですね。
ジュリーは、タイガースの初期は確かに上手くなかったですが、すぐにめきめきと上手になりました。でも、紹介されるビデオはタイガース初期の大ヒットの時代ばかりで、ヘタだヘタだと言われていました。1975年前後の20代の頃、四天王と言う感じでビッグショ-+のような特集で森進一、五木ひろし、布施明とジュリーが出ていました。布施明は声量があり音程も確かで高らかに歌い上げる方。ジュリーは"ヘタだヘタだという声”が悔しかったんではないかと思うのですが、非常に頑張って歌っている感じでした。でも、初期の素直な歌い方のほうが心に届くという事もありますよね。独断では、布施明さんは歌はとってもとっても御上手ですが、歌詞の伝えたい情景や心情は二の次という感じで、例えば「シクラメンのかほり」では小椋佳の歌の方が数段素晴らしいと私は思うのです。 美しい予感の頃のジュリー、とっても好きです!!
ところで、3月末で退職した私は、これまで部分的に拝見しただけであった瀬戸口様のブログをじっくり拝読する事ができました。1万曲の伝授を志す(志しうる)なんて、瀬戸口様、凄い方だったんですね、御見それしました!!! 今後も、どうぞ宜しくご教授願います。
さて、仕事とプライベートで様々な曲を聴いて来られた瀬戸口様が、"どうしてジュリーにハマッテイッタノカ" とっても知りたいです。
ジュリーが簡単そうに歌っているように聞こえた曲も、他の人が歌うと平板な魅力のない歌になってしまう事が多々あり、そんな時は改めて実は凄い事なんだ…と安心するのですが、ジュリーは音程に危うい所があるでしょう。急に何音も上がる時、上がりきれずに音を延ばしているうちにやっと着地する事が少なからずあるでしょう(たまに最後まで着地できなかったり)。リズム感もプロの歌い手の中ではそれ程いい方ではないか…と思います。ジュリーファンとしては、どうもそこの所が切ない時もあるのです。そこんところ、いかがなもんでしょうか。勝手な身内意識で勝手に切ないのですが。
投稿: mukumuku888 | 2009年4月13日 (月) 02時56分
mukumuku888様、いらっしゃいませ~。
退職なされてから過ごされる楽しい時間…それを僕のブログ閲覧に費やして頂けるとは。
感激です(泣)。
僕は、ポリドールCD再発時期に、一度ジュリーに堕ちているのですが、その時はLIVEに行かなかったのですね。
ですから今ほど熱くはなかったのです。
「東京ドーム」「奇跡元年」と続けて参戦し、完全に堕ちてしまった一番のジュリーの魅力は何かと申しますと、これは何度か記事にも書きましたが
歌に心ごと、身体ごと入り込む
というジュリーの特性です。これは、LIVEで痛感した事です。
ですから僕の場合、ジュリーの歌は「上手さ」ではなく「表現力」であると捉えています。
「LOVE~愛とは不幸を怖れないこと」で顕著ですが、ジュリーのヴォーカルは確かに語尾がフラットする癖があります。
僕はそこも含め、好きになりました。
あと、ヴォーカルスタイルについては、ジュリーの特性もあわせて、個人的解釈ですが、常々考えている事もありますので、近々1曲採り上げて、その点について掘り下げた記事を書こうと思います。
また遊びにいらして下さいね。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年4月14日 (火) 01時12分
お忙しい中、早々に返信いただき、ありがとうございます。
小学5・6年でジュリーを知り染め、中学時代にザ・タイガース解散、PYG、ソロデビュー…。 そして、高3では「悪魔のようなあいつ」「炎の肖像」。
'69「ラヴ・ラブ・ラヴ」、'71「自由に歩いて愛して」。 瀬戸口様伝授の「美しい予感」や「君をのせて」が1971年、'73年に「あなたへの愛」「危険なふたり」「魅せられた夜」。 これまた伝授の「遠い旅」が'74年。 '75年「時の過ぎゆくままに」…。 麗しすぎます。
で、'72年「今僕は倖せです」の中の「ラブ・ソング」。 有名ではなく非常にシンプルな曲なのですが、ジュリーの作詞作曲で、等身大のジュリーが甘くささやきかけるというが当時密かにツボでした。 (YouTubeにて、リクエストしたらアップロードして下さいました、御礼!!)
その上、19歳から付き合った7歳年上の女性と27歳で結婚し、野外LIVEでお披露目するって、 素敵すぎません?!!!
多感な時期に美しすぎるジュリーと麗しいジュリーの歌に出会ってしまいました。
話が大きく逸れてしまいました、すみません。
瀬戸口様の「ヴォーカルスタイルについての掘り下げた記事」とっても楽しみにしています。 お仕事の合間、お忙しいのに本当に恐縮です。 心待ちにしています、ありがとうございます。(長々と申し訳ありません、返信ご遠慮します)
投稿: mukumuku888 | 2009年4月15日 (水) 01時51分
mukumuku888様~
どうかお気を遣わず~。
ブログ管理者というのは、コメントを頂いた方にはレスを書かずにいられない人種なのです。
他のジュリーファンブログの先輩方なんて、僕より全然丁寧ですよ。
各コメントごとに、きちんと分けてレスしていらっしゃいます。
メイ様も、keinatumeg様も、そう。
見習わねばイカンのです。
是非また遊びにいらして下さいね。
コメントも、ガンガン書いちゃってください~。
投稿: 瀬戸口雅資 | 2009年4月15日 (水) 21時39分
こんばんは!初めてお便りさせていただいています。僕も沢田研二のファンなんですが、最近FBで沢田研二の特集やってまして、僕が書く下手なコメントより、瀬戸口様の素晴らしいコメントをシェアさせていただきたいと思いました。宜しくお願い致します。
投稿: heguri | 2017年6月 9日 (金) 00時55分
heguri様
はじめまして。
コメントどうもありがとうございます!
大変光栄なことです。どんどんシェアしてくださいませ。
僕はジュリーファンとしてのキャリアが浅く、この「美しい予感」の記事もそうなのですが知識も乏しくまだまだ勉強中の身。
みなさまからのコメントで色々と教えて頂くことでなんとか考察記事の体裁を保っているという状態です。これから一層励まねばなりませんね。
heguri様はおそらく僕などよりずっとキャリアの長い先輩でいらっしゃるでしょう。
と言うのは、年齢問わず長くジュリーファンを続けていらっしゃる男性の方は、リスペクト故でしょうが「ジュリー」ではなく「沢田さん」「沢田研二」と呼ぶ方が多い、というイメージが僕にはあるものですから。
これからも末永く、どうぞよろしくお願い申し上げます。
投稿: DYNAMITE | 2017年6月 9日 (金) 12時20分